4-1、規制緩和《規制改革》突破口としての役割は成功している
規制というものは、実際に事業を行うとか行動を起こすかしないとぶつからないものである。何かをしようとした時、はじめて規制というものに遭遇することになる。そういう意味で、規制緩和は現場で考えてはじめてそのもつ意味と不合理性を知ることができる。
今回の国家戦略特区制度は、国・地方自治体・民間が従来の距離を置いた関係から脱して、現場主義(特定事業)を貫いたことに大きな成果がある。特定事業として具体的な事業があるからこそ、関連する規制が浮かび上がってくるのであり、改革の方向が見えてくるものである。まだ挑戦は始まったばかりであるが、一つの事業という最もミクロな観点から障害となる規制条項を突き止め、その問題点を取り上げているため、抽象論、普遍論に陥るという弊害に陥っていない。往々にして、「それはそうだが、こういうことも考えなければ」という普遍論の前に行き詰まることなるのだが、具体的な事業の中で考えるという前提の中では、普遍論・全体論に陥らなくても済む。そのため、地域だけの特殊解を導くことができればいい。その解が普遍性をもつのであれば、全国の規制緩和につなげればいいのである。
第二にこの制度を成功に導いていると思うのは、従来の国(政府)、地方公共団体、民間事業者の関係から脱して、区域会議をミニ政府として機能させようとしていることである。「お上と下々」の関係をふり捨てて、三者が一つになって区域の未来を考えていくというスタンスを築いていることである。まだ、議事録を読むと従来の関係の意識がぬぐい切れていない面があるが、三者の共通目標は同じである。この地域の未来を創るという情熱である。この情熱が、短期間の間に国家戦略制度の進展の原動力となっている。
しかし、特区制度は始まったばかりであり、規制改革の方法に光が見えて来たという段階である。今後も試行錯誤が続くことになるはずである。これからも多くの規制や反対論にぶつかることになるだろう。新たな事業も始まるであろう。地域の住民間に対立が生まれるかもしれない。しかし、今回光を見出した規制改革の方法は、大きな力になるはずである。構造改革は実現できるといいたい。
ただ地域づくりには長い道のりが待ち受けていることを考えた場合、次の段階に向けての課題も明確にしておくことが重要であろう。
4-2、特区制度の次の段階に向けての視点
国家戦略特区制度は、6か所の特区において第1回目の特別区域会議を終え、いよいよ動き出すことになる。特別区域計画も3か所においては認定されており、具体的に目に見える形になる。事の成否が多くの人に見える形になるだけに、反面強い反対も出てきやすい。規制緩和の揺れ戻しという現象が起きかねない。
竹中平蔵慶応大学教授(国家戦略特別区域諮問会議有識者議員)は、成長戦略の肝は、規制緩和と法人税減税であると述べられているが、規制緩和という方針を一方的に進めるだけでは無用な敵を作ることになりかねない。会議の議論の中で、坂村議員が言われているように、「時代に合った合理的な規制に改革している」というスタンスに立ち、改革に伴う軋轢を如何に少なくするかが重要になってくる。
このため、二つの視点を明確にしておくことが大切であるように思う。
① 世界一ビジネスのしやすい国を目指すのではなく、世界一生活しやすい国を目指す。
国家戦略特区制度は、世界で一番ビジネスがしやすい環境を創出することを目的とすることをうたっている。しかし、経済が重要であることは論を待たないが、ビジネスだけではなく生活全体が世界一しやすい国を目指すということに拡大すべきではないか。一地域の国家戦略特区の中には、ビジネスでの関わり合いがない人もかなりいる筈である。しかし、その人々もその地域に生活している特区の関係者である。このような地域の人々の理解を得ることなくして、この制度の進展は望めない。
私は、かつてのブログで、大英帝国が勃興し始める18世紀初頭アダム・スミスが活躍し始める前、フランス人のヴォルテールがイギリスに旅行して、商業精神の発達及びそれに伴う商人階級に対する社会的認識に感銘を受けていたことを記述した。この商人精神こそが近代国家としてのイギリス・大英帝国を築いていった。今、日本は世界中から清潔でやさしい国であると評価を受けるようになった。大英帝国勃興の頃を念頭に置いて、「世界一生活しやすい国」を目指すことに拡大すべきではないか。
ヴォルテール「取引所に入ってみたまえ、そこであなたの眼に映るものは人々の利益のために集まっているすべての国の代表者たちである。そこではユダヤ人、回教徒、キリスト教徒たちがまるで同一宗教の信者のようにお互いに取り引きしている。破産する者以外は、『不信者』の名前をあたえられない。(中略)イギリスには、30もの宗教があってみなが平和で幸福に生活している。」
(上田辰之助著作集4「蜂の寓話-自由主義経済の根底にあるもの」みすず書房1987)
② 規制緩和に反対する人は、抵抗勢力ではない。
規制緩和に反対する人を抵抗勢力として排除しかねない風潮がある。この風潮は大変危険なものである。反対する人にもそれぞれ理由がある。一番の理由は、新しい規制(新時代の合理的な規制)に移るには不安がある、というものである。その中でも生計に関わることが一番大きいだろう。社会の変革期には、どうしてもこのような将来不安が生じる。この不安をいかに解消するかが重要となる。このためにさまざまな方策を講じることが大切である。
坂根議員が規制緩和を実現するためには、マクロアプローチとミクロアプローチの両方が必要であると語られているように、どのように人々の不安を解消していくか、まず敵視することをやめることが大切である。反対しているどんな人も、できる範囲では地域のために役に立ちたいと思っておられるはずである。反対している人の意見に耳を傾け、その意見に応える努力をしてはじめて真の解決策を見いだせるのではないだろうか。
≪竹中平蔵慶応大学教授の見解≫
私は、2001年から2005年まで4年半、経済財政政策担当をやらせていただきましたが、その間、成長戦略なるものを1回も作っていません。その後から、成長戦略を毎年政府が作るようになり、政府が成長戦略を作るようになって、日本の成長率は見事に下がりました。成長戦略といっても、そんな打ち出の小槌のようなものはないということです。成長戦略とは、付加価値を見出す企業・民間部門ができるだけ活動しやすいように規制を緩和すること、そして、法人税や公共料金など負担をできるだけ軽くすること。それしか、王道の成長戦略はありません。規制緩和と法人税減税が、成長戦略の胆です。・・・
(2014年4月19日シンポジウム「養父市の挑戦、国家戦略特区で日本の農業はどう変わるか?」より)
4-3、計画ビジョンの提示が重要となる
どんな民間企業でも新規事業が明確になると、目標を立てて事業に取り組むことになる。目標を立てることによって、関係者の意識をまとめて取り組む姿勢を一つにすることができる。その目標も、具体的な目に見えるものであればあるほど、客観的な指標として共有しやすい。また、事業の進展状況を把握しやすく事業の評価をしやすい。
国家戦略特区の区域計画も、事業が決定したのちは、計画ビジョンを提示することが必要になる。それは、事業に直接携わる人・団体の内部向けにだけではなく、対外的にも計画ビジョンを示すことが重要になってくる。地域の人にどのように地域が変革されていくのかを知ってもらうことによって、人々の不安を軽減するだけでなく希望を抱いてもらい、計画の協力者・推進者になってもらう意味で重要である。計画ビジョンは、地域の人々の将来に対する意識を取りまとめて、地域づくりの大きな力とするために重要なのである。
この計画ビジョンは、従来型の目標を立てて強引に引っ張るものではない。事業から導き出されたボトムアップ型の計画ビジョンである。このビジョンをどのように示すことができるかで、その後の展開が違ってくるはずである。
計画ビジョンは、次のような特徴を備えることが重要である。
① 事業の直接効果(影響)と波及効果(影響)の部分に分けて示すこと
② 地域の全体像を示すこと
③ 数値目標を示すこと
④ ロードマップ(年次計画・進捗状況)を示すこと、など
国家戦略特区制度においても、区域計画の評価について言及している。今後は、計画策定と評価が重要になってくると思われる。
国家戦略特区の評価
・区域計画の実施が及ぼす経済的社会的効果を、数値化等も含めできる限り具体的に設定。
・評価項目は、次の項目。
ア)特定事業の進捗状況、イ)経済的社会的効果、ウ)目標の達成状況、
エ)規制の特例措置の活用状況・効果(弊害も含む。) 等
・地方公共団体及び事業者が評価を行った上で区域会議が評価を実施し、内閣総理
大臣へ報告。
・内閣総理大臣は、評価結果について、公表するとともに、諮問会議から意見を聴取。
・諮問会議は、関係府省庁の意見聴取を行い、規制の特例措置の全国展開も含め、調査審議。
・評価結果を踏まえ、区域計画の変更、認定の取消、指定の解除等適切に措置。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/kihon_gaiyo.pdf
4-4、特区から全国へ【全国活性化原則】
国家戦略特区には特区の効果をいずれは我が国全体の経済活性化に繋げるという【全国活性化原則】がある。この目的なくして日本を再生することはできない。この目的を達成するためには、各特区の成果及びビジョンを適宜情報発信することが重要である。また、全国各地で特区ではないが同じような地域づくりの運動が盛り上がることが重要である。
最後に、できるだけ多くの人が地元の地域づくりに参加することを願っています。
国家戦略特区制度に携わっておられる関係者各位のご尽力に敬意を表します。内容に誤り等がございましたら、すべて私の不徳の致すところでございます。