ホグワーツ魔法魔術学校行きの汽車の中で、ハリー・ポッターはひどく落ち着かないときを過ごした。
早めに漏れ鍋を出発したお陰で、車内では苦もせず空いているコンパートメントを見つけることができた。
引きずるようにして運んできたトランクをなんとか荷台に上げると、ハリーは疲労と緊張も相まって崩れるように席についた。
さて、とハリーは思う。見送りに来てくれるかと思ったピーターは、生憎と仕事のためにハリーより先に宿から出ていってしまった。
ロンドンへ行くことも、全く知らない世界に行くこともハリーにとっては不安でたまらない出来事ではあったが、昨晩からずっと申し訳なさそうな顔をして何度も謝るピーターにわがままは言えなかった。
ピーターはハリーの父親の友人だったらしい。
常におどおどしていて、気弱な小男だったが、忍耐力と優しさを持っていた。
頼りがいがあるとはお世辞にも言えなかったが、彼は子供であるハリーにもフェアに接してくれる唯一の大人だった。
ハリーはふと窓に目を向けると、両親に連れられたハリーと同じ背丈の男の子が見えた。
丸顔でポッチャリとしていて、輝くような笑顔を両親に向けていた。
ノックをしていたのは、ハリーの膝丈くらいの大きさの、小さな小さな小男だった。
小男はハリーを見つけると、どこからか出した杖を振った。
途端にハリーのポケットから手紙が飛び出して、空中にプカプカと浮きながら封が開けられた。
そして、一枚の羊皮紙がハリーと叔父の目の前にふわふわと浮かんできた。
おめでとう、小男は甲高いキーキー声で言った。
「おめでとう、ハリー・ポッター。君はホグワーツ魔法魔術学校に入学することが決まった。君は今日から魔法使いだ」
言い終わると小男は悪戯っぽいウィンクをハリーに送った。
あまりのことにハリーは呆然と小男を見つめることしかできなかった。
性質の悪い悪戯か、それとも夢の続きなのだろうか。
しかし、目の前の叔父もハリーと同じように固まったまま、口をパクパクとさせていた。
えーっと、ミスタ。躊躇いがちにハリーは言った。
「何かの間違えじゃありませんか。だって魔法なんて有り得ない。」
「なんと! あのポッターの子供の割には謙虚な性格なのですね。しかし、心配は要りません。君はちゃんと素質を見せたのだから!」
小男は大袈裟な身ぶりで驚きを表現して見せた。
しかし、ハリーには素質を見せた覚えなどなかった。
やはり何かの間違えではないかという気がしたが、何をいっても目の前の小男は信じてくれそうにない。
ハリーは曖昧に頷いて見せると、小男は嬉しそうに跳び跳ねた。