ハリー・ポッターは昨日と同じ朝を過ごした。
狭い階段下の物置で目覚め、朝食を作る叔母の手伝いをしたあとに、叔父の命令でポストを覗きに行った。
ポストには新聞と、叔父宛の手紙が何通か入っていた。
それだけならば昨日と何一つ変わらない朝だった。
しかし、今朝はひとつだけ違うことがあった。
ハリー宛の手紙がポストに入っていたのである。
宛名は丁寧な手書きでサレー州から始まり、階段下の物置まで書いてあった。
おかしな手紙だ、とハリーは思った。
生まれてはじめて自分宛の手紙を貰ったことで少なからず興奮はしていたが、それにしてもこの手紙の胡散臭さは見過ごすことはできなかった。
ハリーはもちろん、従兄弟のダドリーでさえも、ハリーの寝室が階段下の小さな物置であるということを他言することは禁じられていた。昨今の世において、仮にも甥っ子を育てるのに物置が適切であるなどとは誰も考えないからだ。外面を異常なまでに気にかける叔母夫婦はもちろん誰にも言うはすがなかった。
だとすると、ハリーは思った。
この手紙の送り主は、非常に身近な人物か、あるいは家の様子をこっそりと見張っているような人物に他ならない。
わからないが、とにかく怪しげな手紙であることは間違いはなかった。しかし、どんなに怪しげであろうが、この手紙はハリーが初めてもらった手紙には違いない。
ハリーはズボンのポケットにこっそりと手紙を入れて、何食わぬ顔で新聞と手紙の束を叔父に渡しに行った。
手紙を渡すと、叔父は嫌なものを見たと言うようにハリーを見た。以前は小言を二、三口にしていたが、ある日を境に何も言わなくなった。
叔父の視線がハリーから手元の手紙に移ると、ハリーの朝の仕事は終わる。早く物置に帰って手紙をみたい、ハリーは叔父の視線が過ぎ去るのを今か今かと待っていた。
しかし、その日の叔父はなかなかハリーから視線を離さなかった。何か言いたげに口元を震わせて、口を開いたかと思えば閉じる、ということを繰り返していた。
それはひどく非日常的な出来事であった。ハリーは叔父のこんな様子を今までに見たことがなかった。
やがて、叔父の葛藤に決着が着いたようだった。何も言わないことに決めたらしく、口を真一文字に固く閉めて、視線を手元に移した。
しかし、その直後に家の扉が叩かれた。
ひどく強い力で叩いていることは音だけでも明らかであった。部屋全体に響き渡るその音は、何か不吉な予感をハリーに感じさせた。