文字によるカバラと書かれざるカバラ
カバラは、大きく分けて以下の4つに分類されるという。
・魔術カバラ
・文字によるカバラ
・教義的カバラ
・書かれざるカバラ
ここでは、文字によるカバラと書かれざるカバラについて、簡単に触れたい。
まずは文字によるカバラである。
これらの技術それ自体は比較的古くから存在したが、今我々が目にしているゲマトリアなどの方法が整理・統合され、完成をみたのは、16世紀以降のことのようである。
・ゲマトリア
ヘブライ文字には、いわゆる数字がない。そこで22文字からなる普通のアルファベットを数字代わりに用いる。
アルファベット22文字の最初の10文字が1~10をあらわし、11から19番目の文字が20~100、20番目から22番目の文字は200~400をあらわす。
こう考えると、あらゆる単語は数字に置き換えることが出来るであろう。
カバラでは、同数値を有する言葉同士が密接な関係を持つ、という思想があり、これに基ずいた解釈法である。
例えば、秘儀参入の儀式において、「蛇」は「救世主」の象徴として用いられる。この2つにどんな関係が?
ヘブライ語では、「蛇」は、「NChSh」とつづる。上に書いた通り、ヘブライ語では数字の50はNが用いられ、8はCh、300はShが用いられる。これらの3つの数字は合計すると、358になる。
一方、救世主を意味する「MShYCh」も同様に、Mは40、Shは300、Yは10、Chは8であり、これら4つの数の合計は358となる。
したがって、この「蛇」と「救世主」は358という同じ数値を持つ言葉であるがゆえに、密接な関連を持つと考えられるのである。
後に、このゲマトリアは、いわゆる「名前占い」にも用いられるようになった(私は、こうした名前占いを否定する気は全く無い。しかし、実践カバリスト達の多くは、あくまでカバラの秘儀の探索に限るべきであって、こうした占いをナンセンス視する人が多いようである)。
・ノタリコン
省略法である。2種の形態がある。
一つは、ある一文から頭文字と最後尾の文字を取り出してつなぎ合わせる方法である。
もう一つは、ある言葉を、一つの文章中の語の頭文字あるいは最後尾の文字の集合体と見る方法である。
例えば、「エデンの園」の「エデン(GNEDN)」は、肉体(Guph)、霊魂(Nephesch)、骨(Ezem)、知識(Daath)、永遠(Nezach)の頭文字の集合体であり、エデンとは「人間が置かれた死すべき肉体と不滅の霊魂からなるこの世の本質を象徴している」と考える。
・テムラー
文字の置換方法である。
様々な方法がある。
よく知られている方法にジルフと呼ばれる方法がある。ある一つの単語の全部、あるいは文字の一部を他と交換することである。この交換方法にも規則があり、よく使われるのにアトバシュ法とよばれるものがある。1番目のアルファベットのAを最後の22番目のTと交換、2番目のアルファベットのBを21番目のアルファベットのShと交換、といった具合に対照的に交換してゆく方法である。下の表にそれを示した。上下をそれぞれ交換するわけである。
A B G D H V Z Ch T Y K
T Sh R K Tz P O S N M L
次に、書かれざるカバラである。
これはまさにその通りのことである。
カバラを極めるには、理屈だけではなく瞑想などの実践を伴わなければ意味は無いとされた。
実際に瞑想を行い、幻視などの実体験が無ければ決して理解できない知識もある、と考えれている。
さらに、こうした実践者のみに、口から口へと秘密裏に伝授されてきた奥義が存在し、これは決して紙に書かれることは無かったという。
カバラを学ぶものは、机上の研究だけでは、極めることは不可能である、という伝統なわけである。
「石榴の園」 イスラエル・リガルディ 国書刊行会
「カバラ」 箱崎総一 青土社
「カバラー」 チャールズ・ポンセ 創樹社
「カバラ Q&A」 エーリッヒ・ビショップ 三交社
「カバラーの世界」 パール・エプスタイン 青土社