【中国トンデモ事件簿】他人の迷惑顧みず ~中国は巨大赤ん坊の国?~
- 続々現れる大迷惑巨大赤ん坊
- なぜ巨大赤ん坊が生まれる?
- 巨大赤ん坊は国民性?
わがまま放題 巨大赤ん坊が流行語に
中国の「2018年流行語トップ10」の一つに“巨大児”=巨大赤ん坊、という言葉が選ばれた。わがまま放題の巨大赤ん坊たちは、確かに今年、社会問題となった。
巨大赤ん坊は、体は大人だが精神的には赤ちゃんのままで、自己中心的で思うようにならないと極端な行動に出て、ルールも無視してわがまま放題にふるまう大人だ。人が助けてくれるのは当然で、感謝の心もない、という。これまでに様々な問題が起きている。
12月、香港空港を出発直前の大韓航空の機内。韓国のアイドルグループが乗り込むと、すでに乗っていた20歳ぐらいの中国人ファン4人が、彼らの席に駆け寄った。ところが、目当てのイケメンに会い満足すると、「降りてチケットを払い戻したい」と言い出す始末。テロ対策の規定で、いったん搭乗した人が降りると、既に搭乗した人が全員降りて安全検査を受け直す必要がある。このため乗務員が降りないように説得したが、4人は聞かなかったという。
結局、他の乗客360人が再び安全検査を受ける羽目になり、出発が1時間以上遅れた。女性らは、ファーストやビジネスクラスなどのチケットを買っており、高いチケットの払い戻し手数料が安い規則を悪用したという。中国のSNSでは、「巨大赤ん坊達にお手本を示したな。航空会社の方々、準備は良いですか」「捕まえろ」「また中国人か」「外国人に私達中国人がどうみられるか・・」など批判があふれた。
今年はこの他、高速鉄道で、他人の指定席に座り動かない“座席占領”する人が問題になったり、出発直前に駆け込み乗車し、家族もすぐに来ると言って乗務員の説得に耳を貸さずドアが閉まるのを止めて出発を大幅に遅らせた女性も問題になった。いずれも乗務員が強制的に排除しないため「ごね得」のように駄々をこね続ける巨大赤ん坊だった。
バスでは悲劇が起きた。重慶市で起きた公共バスが橋から川に転落した事件は、目的のバス停で降りられなかった女性が、運転手をスマホで殴るなどして執拗に止めるように求めたことが原因だった。事故の後も各地で些細な理由から“運転手に暴行”、“ハンドルを奪う“などしてバスを停めようとする危険なわがままが後を絶たない。
母親に甘やかされて育つ巨大赤ん坊
わがまま放題の巨大赤ん坊が育ってしまう背景、ともいえる例がある。
黒竜江省の22歳の男子大学生は高校時代に海外留学し、母親は2年間でなんと200万元(約3400万円)を費やしたが、本人は勉強せず卒業も出来ずに帰国。家で毎日、ネットゲームばかりして、食事は祖母が運び、時には食べさせてやるという。まさに巨大な赤ん坊そのものだが、母親に甘え、欲しがればなんでも与えられる環境で育ち、その感覚が当たり前になる大人も少なくないという。中国メディアは「家庭教育の失敗が背景」と指摘した。
母親との関係では、今年8月、上海で、男が母親につかみかかって投げ飛ばし、殴り、引きずりまわす映像が衝撃を与えた。男は、70歳を超えた母に銀行ローン支払いのために2万元(約34万円)が欲しいと言ったが、金がないと言われ、親戚から借りることも拒否されたため、殴りかかったという。母親は、夫が亡くなって以来、20年以上息子と2人暮らしで、母親の3000元(約5万円)の年金で暮らしている。母親は毎日、息子の仕事を探しているという。男は警備員に取り押さえられ、母親は「私はケガもしていない」と、息子の行為を責めないと話した。
母親との関係が大きな影響を与える面はあるのだろう。長く続いた一人っ子政策で、甘やかされて育った“小皇帝”と呼ばれるわがままな子供が生まれたことは良く知られる。ただ、巨大赤ん坊現象では高齢者も少なくなく、世代は幅広い。
“中国は巨大赤ん坊の国“と書いた本は販売中止
背景を分析した人もいる。2016年には、ある心理学者が「巨大赤ん坊の国」というタイトルの本を出版した。この学者は、巨大赤ん坊を生む背景について「中国は、西洋と違い人間関係のけじめがない。けじめを尊重すると関係が壊れるからだ。巨大赤ん坊の重要な点は、“世話を求める”ことだ」と指摘した。
そして「多くの大人の心理水準は赤ちゃんで、この国は巨大赤ん坊の国だ」と国民性を分析した。巨大赤ん坊の特徴として「赤ちゃんの基本的な反応は、母親に助けを求めることで、自分は世界の中心で全てのことは自分のためにある、というような考えを持つ」としている。しかし、この本は、当局から内容に問題があるとされ、販売中止になった。
「子供が席を譲り、大人は座席占領」する国
様々な巨大赤ん坊の大人が問題になる中、中国メディアで、ある論評記事が登場した。「子供は席を譲り、大人は座席を占領する」というタイトルだ。
11月、浙江省寧波市の公共バスの車内で、高齢者などに次々と席を譲る小学生の男の子の映像がネット上で反響を呼んだ。本人は「学校で先生から言われています。譲らないと気分が良くないですから」と話した。ネット上では、「私も15年、20年前はこうだった。」「このような気持ちが今、私達にあるだろうか」と自らを省みるコメントがみられた。
記事は、「私達の生活には数多くの“道徳の逆成長”が見られる」と指摘。「子供は列に並ぶのに大人は割り込む、展覧会で子供はルールを守り真面目に鑑賞するが大人は騒ぐ、子供は信号を守るが大人は守らない。大人になると守らなくなるのはなぜだ?と」問いかけた。そして、「大人は何が道徳的でないかを知らないわけではないが、社会秩序を捨てて自分の考えを選んでいる。逆成長を止めるためには利己主義を減らさないといけない」と結論付けた。
ごく当たり前の子供の行為に学ぼう、と言わざるを得ない状況が、巨大赤ん坊が後を絶たない現状を表している。来年もこの大流行が続く、ということがなければ良いのだが。
(執筆:FNN上海支局 城戸隆宏)