釣りに役立つ魚類学その2
魚の感覚

輝く太陽、白い砂浜、青い海。ふと周りを見れば恋人達が青春を謳歌し、
家族が連れだってバーベキューをしています。

しかし私の頭脳は防波堤で釣り糸を垂らす釣り師をチェックし、
気持はひとつ、早く自分も参戦しなくては!!!という焦り、
砂浜で投げ釣りをする人のクーラーボックスが気になります。
トッテモ不健康な精神状態、重症ですねえ。

脳裏から離れないのは、底のポイント形状であり、
どういう風に根が張り出しているかなどの海底環境推測。
これこそ、まさに釣り人の鏡といえるでしょう。
フフッ、仲間からは多少嫌われますけどね。

そして、TV番組などで海が出てきたら、つい「釣れそうな場所だ」とか
「どんな種類の魚が潜んでいるか」などと考える釣り症候群な方々に
「魚になって考えてみようぜ」という主旨で記事をお送りしようと思います。

もっとも学術的な話をしてもツマラナイので(磯投げ情報・編集長談)、
しまった1本取られたと、あくまで釣りに役立ちそうな近海の事例に
焦点を絞った内容でまいります。

=魚の体を再確認だ(マアジ)。

魚の気持、どんな時に安心してエサを飽食するのか、
どんなキッカケで恐れを抱き逃げだそうとするのか。
このような事が分かりさえすれば、我々釣り人にとって最高の釣果を得れるはず。

しかし空気中とは違う水中、”真実の姿”をイメージするのは非常に大変です。
今回のテーマは魚の感覚、側線で水中の振動を感じ取り、
エサの匂いを嗅ぎ取る能力について。

魚の感覚を司っている元中の元、そう、脳味噌です。

まず最初に魚の頭部を開いてみると、前方から嗅葉、視葉、小脳と大きく3つに分かれます。
多くの方が初めて聞くのは「嗅葉」と「視葉」でしょうか。
覚えましょうということではなく、こんなものがあるんだという程度でどうぞ。
で、機能を紹介してみますと、嗅葉…匂いを嗅ぐ/視葉…見る/小脳…姿勢や運動。

つまり、魚の主要な感覚は3つ。
何ソレ?と思うことなかれ、重要なのは、これらの発達具合を
魚の種類別に調べることによって、色々と推測できることです。

=A=嗅葉、B=視葉、C=小脳

▲一昔前の本では「大脳・中脳・小脳」と記述されているが誤解を招きそう。

=上のイラストの実写版

▲自分で開けてみると先人科学者の苦労に涙する!!!

スゴイでしょう?

えっ、凄さが分からないって?

水族館で芸をするイシダイは視葉や小脳が発達しているとかが分かるんですよ!!!
すごいんです。他の釣魚と比較してみると、クロダイは平均的、イシダイは高発達、
メジナはイマイチ
…のようです。

この事を調べ上げた先人科学者に感謝してください。

=芸達者なイシダイ。

▲大分生態水族館(現在はマリーンパレス)、25年前ぐらいの写真。

また、嗅葉ってヤツの発達具合を色々と比較して調べると、
どうやら魚というのはイヌ並と言えます。
これ、さりげなく破壊力満点です。
警察犬が代表選手ですが、イヌの匂いを嗅ぐ能力といえば
人間の数万倍と言われているほど非常に敏感です。

魚も同様に嗅覚細胞がぎっしりでして、いわば泳ぐ嗅覚マシーンとネーミングしたいほど。
とすると同じエサを使っていても手の匂い次第で釣れたり釣れなかったりするレベルです。
仲間で釣果を競っている時、同じ条件なのに差がつく理由の一つが
「その人の手の匂い」…しっかり手を洗っている人、お菓子を食べながらの人、
汚いタオルで手を拭う人、こんな些細な差が釣果に出ているとしたらどうでしょうか。

北海道のサケは上流で手を入れるだけで遡上する数が変化するほどだそうで、
河口のマルタウグイは釣り上げられると「仲間が逃げる」匂いを発するそうです。
そ、そうか、そうだったんだ、手を洗おう!!!

ビアーなどの酒を堪能しながら釣り糸を垂らして自分の感覚はマヒしていても、
魚は敏感ですからね。単純だけど必須の作戦といえるでしょう。

なんにせよ人間が魚なみの嗅覚力を持っていたら、
常にイライラしてしまうことでしょう(知能が発達していると悪影響ですな)。

=ジャムシと青虫

▲エサにつく手の匂いも影響するほどなのかもしれない。

しかし、ちょっと待てよ。そもそも匂いなんてエサが発する量は少なく、
水中を伝播するのに時間も掛かるでしょう。
釣り糸を垂らしている場所に魚が居なければ、手を洗おうが関係ないじゃないですか。

では、魚を自分のポイントにいさせる、いや、逃がさないコツは何だろう?
そう、騒音です。誰もが知っている「釣り場でドタバタする」のは大変嫌われますよね?
やかましく騒げば、魚が逃げて行くというのは周知のとおり。

読者さんは思った
「そんなこと知ってるよ、たいしたことない話を凄そうに話さないでくれるかなぁ」。

…甘い、アマイ、そして青いぞ!!!

実はこの理由、結構誤解されているフシがアリマス。

手をパチパチしたり大声を出したりするのは大丈夫。
ほとんどの音波は水面で反射してしまい、まぁ、科学的に書けば、
水中へ影響するのはたった900~1000分の1程度(音波測定機のデータを分析)。

手を叩くとコイが寄って来るのは単純に「パチパチ」が聞こえるのではなく、
飼主の姿や地面から直で伝わる足音が理由なので、
これは結構知られていない話です。

飼主の足音、こんな微妙な振動までキッチリ感知する魚は、
まさに振動に対する全身感覚野郎
堤防で愛を語り合う恋人達はスルーできても、走り回る子供達がいたらアウト。
家族連れの楽しむ釣り場では、魚が逃げるじゃないか!!!と怒るのではなく、
最初から大物は狙わないで行きましょう。

魚の耳として該当するのは側線や内耳、
意外な所で「浮き袋」さえも耳として機能しています。

浮き袋って耳なの?と素朴な疑問ですが、
魚を水槽で飼育すると壁にぶつかる前に反転するようになります。
慣れれば真っ暗であってもOK。

これは浮き袋を振動させて反射してくるソナーと同じ原理を使っている為と考えられています。
頭からレーダーを発しているのではないですよ。
目に見えなくてもエサが捕食できる理由がコレでもあります。

=側線はエラブタ上部から

▲あまりにも知られている側線だが、奥が深い。

=一応学術的に。

▲上から、側線管、クプラ、側線神経。水の出入が非常にスムーズ(構造)

=今度観察してみよう(マサバ)

ふ~ん、そうなんだ…と学問的で頭が多少痛くなってきたとこで、
更にワケワカラナイ器官を紹介しましょう。それは上生体

上生体とは、魚頭の上にある器官のことですが、
どうやら側線では受けられない水中振動(微弱な短波など)を感知するものだろうと
考えられています
(←側線が受けれる水中振動は75ヘルツ前後あたりだろうから短波は無理だとする説がある)。

海水魚ではデータが取り難いのですが、
湖沼では電線の下部がよく釣れる”絶好のポイント”なようで、
電線が発する熱線を上生体が拾っているのだろうと考えられてます。

ゆえに海水魚なら、コタツ(赤外線放射)を船で用意して
水面下に放射すれば魚が集まってくる!!!・・・強引にポイントを作れるかもしれません。
試す価値があるかも!!!

いや、釣りの為にそこまでするか?という気持ち的問題はありますが。
つまり魚は側線より性能の良い器官をも持っているのだ!!!
これは覚えておいて損はないよね。

=側線アップ

▲側線より性能の良い器官(上生体)まであることに驚きと感動が。

ところで人間には出っぱっている耳たぶがあり、鼓膜までを外耳といいます。
その中を中耳、奥のグルグル巻きの三半規管が内耳。

3構成で出来てますが、魚には外耳も中耳もありません。
後頭部に三半規管みたいなグルグル巻き状のものが在り、内耳だけがあります。
この耳、どうやら振動を感知する=人間のように音を聞き分けるのと、
魚体の姿勢・平衡感覚を司っているんじゃないかと思われます。

これとともに側線がフル稼動し、ピューっと物凄いスピードで泳いでも岩を避けることができます。
こういう状態の魚は、どうやら目を使っていないようです。

話は変わって雑談ですが、誰もが胸をときめかすのは男女の出会い。
心が弾む素晴らしい出会いが人生をも潤わせてくれます。
で…魚の世界では広大な海ですからオスとメスが出会うのは稀、
そのため出会う手段としてフェロモンという物質を分泌すると言われています。

一時期フェロモンの入った香水とか売られていましたが、
彼女居ない暦XX年の男性がこぞって購入したという…。
コレ、魚の様なスゴイ器官を持たない人間では効果は(あったとしても)半減なんじゃないかなぁ、
感じ取れないし、と夢の砕けることを書きました。失礼。

すごい話をもう1件。イシダイは居付く場所が結構決まっています。
自然界の荒磯で大物ヌシが居ついているポイントをイメージしてください。
ある実験でイシダイは遊泳距離10km/日以上というデータがあります。
これは水族館で生態調査されたものですが、
10kmも泳いで元の場所にどうやって戻れるのか?不思議です。

=鼻栓すると?A=前鼻孔、B=後鼻孔

▲人間と違って口と繋がっていないので呼吸は出来ない。4対あります。
水はAから入ってBから出る。中には「嗅房」っていう器官があり匂いを感じ取ります。

まず鼻栓をしてやると元の場所に戻れなくなります(笑)、これ匂いですな。
しかし、じっくり考え直すと「オヤッ?」と疑問に思うことが。
そんなに広く匂いって分散しているのでしょうかね?
サケなんかは3-4年も生まれた河川の匂いを記憶している素晴らしさだけど、
外洋に出てカナダとの往復約8,000Km…故郷の匂いなんてカナダの海には無いでしょう?
ということで大きな方向を知るのは地磁気とか海流、太陽の角度とか色々説が出ています。

未だ分かっていないんですね。
現代科学をもってしても解明されていない魚の感覚もあるわけです。

=「釣りは奥が深いですね」と浅井氏

▲顔出しOKと了解済み

魚は成長するにつれエサや自然そのものの振動や匂いを学習し、
人の出す異質な物に対しては警戒していくのでしょう。

仕掛けを投入する際のオモリや根掛りの糸切り「ブチッ!!!」、
エサについた別の匂い、地面の足音振動など様々なファクターを区別できるのは
生き延びた長寿の大物であり、
大物には縁が無いとか偶然釣れないだけと解釈していた釣り人には、
釣り人自身に何らかの原因があると考えた方が良さそうです。

釣り関係書籍、魚類図鑑やTV番組などで、
さりげなく触れている「魚のアレコレ」の中には、
強調しないだけで大変重要なことも含まれています。
「鋭敏な感覚」は知っていても、どう鋭敏なのか突っ込んで調べてみてください。
貴方だけの新しい発見があるかもしれません。

=良い釣りも腕の良し悪し?(キンカワ)

▲キンカワ=コノシロ

次は「見る」能力をお送りします。乞うご期待!!!



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