釣りに役立つ魚類行動学その3
魚の視覚

魚は釣り人が見えるのか?

 =エイとサバ!!!

ロング ロング アゴー。防波堤の下を覗きこむ少年。
海に透明さがあり、少しの深さまで観察することが出来た。

「お父さん、カニさんが居るよ。ほら、小魚もいっぱい。あれ釣ろうよ!!!」。
父親は「フフフ…父さんの小さい頃と一緒だな。見える魚は釣れないぞ」と
微笑みながら何もしなかったので、少年は竿を置き、ミチ糸を直接手で持ち、
魚のそばにエサを垂らしてみた。

小魚はパクっと食いつき釣れてしまった。

プルプルと上げれたので釣趣も何もなかったが、
魚は意外にも見えていた時より若干大きかった。
「お父さん、見えてたのに釣れちゃったよ!!!」

ことに父親は言った。
「見えているけど、小魚だと成長期だから腹が減って時々食いつくんだ。
弱る前に逃がしてあげなさい」

…ホノボノした光景です。

さて、初めて海の防波堤へ行き、下を覗いた人は多くの共通な感想を覚えます。
その一つに「防波堤の上に立っているボク達は見られてるのかなぁ」というもの。
ある程度腕の立った釣り人なら必ず口にした事があるはずの
俗に言う”見える魚は釣れない”は、実際、どういう意味なのでしょう。
本当に人を確認してエサを避けるのでしょうか。
今回は視覚、見る能力に焦点を絞って解説します。

(前号は聴覚と嗅覚について書きましたが)
ある感覚は超能力クラスなのに、ある感覚は貧相。
例えば魚の痛みの感覚は豊富な感覚細胞や器官などが
見つかっていませんから貧相です。
針にかかった時などに痛みは感じないみたいです。

この人間から見るとアンバランスな魚の感覚、
今回「魚の見え方」をマスターした貴方は、まさに釣り場は全てが貴方の世界、
海が貴方を中心に回っているようなモンです。

なんてね。

まず最初に、陸上で獲物を仕留める肉食動物は目が前についています。
これは獲物との距離感を掴めるように進化した結果で人間しかり。
一時期流行った3D映画のように立体的に見る感覚に必須のものです。

しかし多くの魚は両側に跨(またが)って開いていますよね。
片方の目だけでは平面的に見えるだけで距離感がイマイチです。
メリットがないじゃないか?と思う事なかれ、距離感の代わり、
体の後方まで幅広く見渡せるのが大きなメリットです。

イラストで見ると解り易いのですが、人間と比べて見える範囲が全然違います
これは食うか食われるかの弱肉強食の水中において、
左右移動、後進しにくい魚ならではといえます。
直進はスムーズなのですからね。
敵が背後から来たらダッシュして逃げるという誠に解りやすい目の作りです。

=見える範囲のイラスト

魚の頭上は約100度の範囲(サケは97度)。

光が水面から空気中へ出ると、
屈折のおかげで広がって、ほぼ水平になります
(視野=ほぼ水平)

正直、釣り人が姿勢を低くしても、
存在を感じ取る事が出来るでしょう。

結局、見つかるのだから敵と思わせない工夫が必要。
当然お気づきの「雨日は結構イケル」というのは、
「水面が波立って見えない」に近いかも…といえます。


  =魚は330度も視野があります。

距離感が掴めるエリア(複視)は30度、
片目エリア(単視)で150度です。

=人間は前方のみ複視・約80度

関係ないけど上方50度、下方70度、
内方60度、外方100度というデータ。

人間の目は視野は狭いですが、
性能はかなり好いです。


=目の解剖イラスト
(人間は左。魚は右)

人の目は丸いです。
魚の目は全体として楕円形。

人間はピント合わせをする際、
筋肉で容易くレンズを変形させる。

魚はレンズが丸いので、
ピント筋肉調節が難しいです。

そういえば、両目のつぶれた魚を釣って生かして持って帰った事があります。
水槽で慣らし、エサを与えると上手に食うようになりました。
まぁ、元々釣りバリに掛かってきたのですから目が見えなくとも食っていたのですけども。

エサをどうやって食っているか観察していると、どうやら匂いで追っています
目の見える魚はハズしませんが、目の見えない魚は何回も食いつきに失敗します。

私はクロダイなど身近な海水魚、
サツキマス(陸封はアマゴ)・サクラマス(陸封はヤマメ)など降海・遡上型冷水魚、
ワシントン条約制限魚アジアアロワナなど熱帯魚を
現在計4つの水槽で飼育しているのですが、エサをやる時は楽しみです。

釣る時には苦労したクロダイやサツキマスもパカパカ餌を食いますし、
それを観賞しながら釣った時の”合わせた瞬間、
底でギラっ輝くトキメキ感”を思いだし悦に入るわけですが、
時々釣りに役立つしぐさも目にしてハッとします。

例えば目の後方で素早く動くエサに鋭く反応します
(又はサッと流れに巻き込まれた餌に飛びつく)。これ多くの魚の共通点です。
釣行時、根がかりしてフッと外れた時、魚が突然掛かった!!!
というケースを何回か経験していますが、
誘いの動作もこれを元に経験則から導き出されたのでしょう。

誰でもアクアリウムをやれば確認できるし、水族館でも観察できるでしょう。
大概ディープな釣り人なら更なる釣果を求めて飼育した経験があられるのでは?と思いますが、
この事から、私は魚は普段、後方を注意している…と考えています。

特に泳ぎまわる魚ではなく潮の流れに向かって定位している魚。
イラストでいうと潮の流れがぶつかる岩の表側にいるものですね。
もし見える大きな魚が居て定位していたら、
自分が後方でも見られている可能性が高いということ。
姿勢を低くして注意しても難しいほどです。

=体の横を”素早く動く”エサには脊髄反射で飛びつく。

これには理由がありまして、目の構造からです。

池のブラックバスは岸の狭いエリアへ小魚を追い込み、
狙って食いつくことが出来ますが、広大な海ではやれません。

距離感がない単視で見る事が多いのに、
エサの小魚は上下左右前後へ逃げまくります。
シーバスやマグロなどは、反転食らいつき…をします。

サツキマスなども海で育つからでしょうね。

こういう反応を示す魚は大変多いです。


=潮表に定位している大物狙いは誘いに一工夫を。

定位している魚は多いです。
大きいものから優先的に好い位置を陣取るのは
弱肉強食の世界では普通のこと。

好いポイントに仕掛けを投入できたら、
根掛りを恐れずに動かすと効果的かもしれない。

ところで、風などで安定しない竿で苦労した経験はありませんか?
水の流れで糸は流れ、風でたるみ、釣りになりません。
「いつもだ」という方は釣果はイマイチじゃないでしょうか。

ところが、糸をピンと張って安定している釣り竿を同じ釣り場で見かけ
不思議に思った事はありませんか?
それのように安定させようと、重い大きなオモリにしても中々ダメで、
あの釣り人はどうやっているんだろう?と。

あれの差はオモリではなく細い糸を使うだけです。
竿仕掛けが自然になる=細いミチ糸を使用する。
太い糸では潮の流れで不自然。あっという間にアウト。
これは渓流を経験すれば当たり前で簡単に理解出来るのですが、
あの激流の中、0.4号で太いかどうか悩み、
0.6号なら40cmのイワナやマスをいけるか…という繊細な世界。
海で使う1.5号とか、初心者さんは3号とか、恐るべき太さ(知人の渓流師・談)。

どうしてこんな話をしたかと言いますと、魚は釣り糸が見えるのか?に繋がるからです。
釣ってきたばかり、本来は「人間は危険」と感じたばかりの魚達
クロダイやイワナなんかは水槽に入れたその日に餌を食い始めるものが多いです。

遡上のサツキマスだけは(サケと同様そもそも産卵が目的で遡上したので)
1ヶ月程度かかります。
遡上サケ科は水族館でも餌付けが難しく冬を越せれなかったとはいえ
(あるテクニックで)エサを食わせる事は可能です。
水槽での慣れって何?ふと思う…この魚の記憶・学習能力で危険を回避しているのだろうか。

魚は釣り糸をどこまで認識しているのか、認識できるのか、
色々な釣具メーカーが資金を投入し大学や研究所と協力、釣り好きの学者が趣味でも研究し、
その結果、魚達はどうやら釣り糸とは認識していないようです。

いわゆるエサにくっついている紐みたいなものなのでしょう。
エサを食ったら、その紐が急に引っ張るものだからビックリし、
本能で暴れまくる…、知恵勝負でもなんでも…あ、ろ、ロマンを壊してしまいそう…(スミマセン)。
只、糸の太さは水・風の影響、自然な状態にエサを持って行く事に大きく関係しています。

これは事実。

では糸の色はどうでしょう?一部メーカーさんから販売されていた
”水に馴染む”という色付きの糸は、自然さを出すというのに貢献はしているでしょうけど、
太さより影響はないと思えます。

色彩感覚は魚によってまちまちで、進化的に進んでいる淡水の魚(コイなど)、
シーバスやボラの汽水域魚、色鮮やかな熱帯性魚類には色彩感覚があり、
反面、クロダイやカワハギ、カツオなどは色彩感覚が無いようです。

ところで、定位している魚は後方を注意していると推測していますが、
泳いでいる魚はどうでしょう。
回遊時は、目も使用しますが、主に側線/上生体などの聴覚、
エサの匂いをかぎ分ける嗅覚を使っていると考えています。
目で確認したりするのはエサなどが近づいてから
(前号で詳しく書きましたので興味のある方はバックナンバーを取り寄せて下さい)。

泳いでいた魚たちがエサを採る時は、多くがスピードを落とし、
目でエサをシッカリ追い始めて食いつきます。
先に書きましたが、定位したものは横か後方で素早く動くものに瞬間的に脊髄反射します。
違いがあるんですね。

ところで、プランクトン食のものは泳ぎながらでありながらスパスパと口を動かしノンビリしたものです。

そしてまたLONG LONG AGO。二人が堤防に釣りに来ていた。
少年は初心者に毛が生えたぐらいに成長していた。

「今日はクロダイの刺身だね、イシダイも釣ろう」、
「いや、父さんならマグロだ」、
「そう来るならボクはネッシーさ」…などという楽しくもある、ありきたりの会話を車中でこなし、
現場で釣り道具のセッティングにいそしむ。
「あ、大きな魚が跳ねた!!!あれ釣りたいなぁ」。

父親は応える。「ボラだよ、フフフ」、
「ボラかぁ、すげぇ大きいな。絶対に釣る!!!ジャンプして人を確認してるのかな?」。

父親は「見ているかもしれん。どちらにしても針に掛かったら魚雷のような破壊力だから、
お前には難しいぞ」と追加して説明した為、少年の心からクロダイのことはスッカリ吹っ飛んでしまった。

このボラが跳ねている時に人間を見ているか?という答えを。
魚が見ている世界と、人が見ている世界は違いまして、理由は光の屈折率。
我々はプールで(水中で)目を開けると、ぼやけますが、
それは空気中に適した目のピント合わせ筋肉だからです。

目の構造イラストでもお分かりの通り、魚のピント合わせは水中に適したもの。
人間は水中メガネというアイテムを発明し空気の層を間に挟んで水世界を観察できますが、
魚は空気中ではボヤボヤでしょう。
ジャンプしても残念ながら余り見てません。

ただ水中から見るぶんには堤防にいる釣り人を明瞭に見ているかもです。
察した方も多いでしょうけど少年は筆者です。優しかった父はもういないです。

水中に適したもの、陸上に適したもの、
それぞれの生物は進化して環境に合っている。

=魚のレンズって丸々の白いヤツです。

料理の際に気を付けてみてみましょう。
そう、硬くて丸いアレですね。

食べてみたら意外と硬くて噛めない。
何だろうと思ったら白くて丸いボールが。

ソレです。

魚類は、なにか珍現象・怪奇現象が起きても個体差に相当な開きがあり、
ある水域に毒液が流れ込んで大量の魚が死んで浮いたとしても、
相当数の魚が生き残ります。

原因追求をしていく際に、人間のように目や口、肺…と専門器官に分けられず、
ひとくくりに簡単に包括的に調査するのが難しいのがネックです。
”耳”は側線まで含まれ、えらは呼吸器でもあり排泄器でもある…といった具合に
分けて調べられない事情があります。
この点で「~かもしれない」、「~らしい」を多用せざるを得なくて申し訳ありません。

釣りに応用するには、どこを注目すべきでしょう
。それは…今回の記事から何かを掴んで頂ければ幸いです。
次号は環境に慣れる(月の影響が無くなる!?)をお送りします。乞うご期待!!!


テレビ東京から魚類学系アドバイスを乞う依頼がきた。

番組名を見れば所ジョージの名が。ふむ、えっ、ところ・じょーじ……!!!真面目な番組の方だな。
所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!

連載原稿の完成前なのに今後の為にもアレコレしていました。大変、たいへん~。

・魚の視野角度(単眼・両方)
瞬膜等はついているのか
・カラーで見えている魚、見えていない魚の違い
・魚が認識出来る範囲(見える範囲)
・ホタテの目は見えているのか

うむ、サイト記事にしてるものが多いのでアドバイスは速攻で出来そうです。「目」についてだね。
瞬膜ってものだけ書いてないけど、瞬き(まばたき)の出来ないのに多い。
鳥類=ペンギンは水の中で目の組織を防御するためにあるし、爬虫類には標準装備、
半透明の第三のマブタです。人間のマブタのように開いたり閉じたりします。
その辺の動物園に行ってアップで観察すれば容易に判別できるので知らない方はゴー。

一方、サメにも瞬膜がありますが、一般的な魚には無いです。
進化的に考えるとサメ(軟骨魚)⇒一般魚(硬骨魚)なのに硬骨魚にないのが興味深いところ。
硬骨魚の中には浸透圧や水質の違いで目の組織が荒れやすい汽水を好むボラなどは、
瞬膜の代わりに脂瞼(しけん)と呼ばれる透明な膜があります。
特に脂肪の膜で分厚くなったボラもいてメナダと呼びます。

後はこのページに書いてるなぁ。カラー視覚の魚や白黒(色盲)の魚も紹介してます。
視覚の範囲も私の汚い絵で描いてるし、あ、汚いから読み取れなかったのだったらゴメンだけど。

ただ、ホタテの目って、貝類の目だよね。私は貝類が苦手です。
魚ですら視覚は滅多に使わないので貝類は殆ど見てないんじゃないかなぁ。
貝類から進化したウミウシ、イカ、超進化エリートのタコの視覚はそこそこあるようなので、
ホタテはせいぜい近視といった感じと思われます。
進化途中で有名な貝だし正確さを喫するというならば
貝類だけはキングオブ地味学者と異名をとる専門とする博士に尋ねることをオススメします。



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