サカナの行動学~File.14 | 行動を律するもの~走性その1 | 友人のカズオ君が主な写真撮影・提供です。
走性への道 今年も発見された貝に毒が含まれている通称「貝毒」。 発生の報道は大概潮干狩りのシーズンにあり、今年は関西で起き、例年の100倍の濃さ、 15個食べれば人間ですら死に至るという強力なものでした。 そのメカニズムは、貝が特定のプランクトンを食べて体に毒素が蓄積されるのですが、 どのプランクトンを食べて消化してできるのか、プランクトンに元々含まれているのか、 その都度、管轄にしている水産試験場なりの研究員が科学的に調べます。 「毒素が出来ている」という現実に加え死亡者が出れば一生懸命調査され、 報道で大々的に周知されるならまだしも、死亡者がいなければ、 なかなかメカニズムまで知られることは無いです。 現時点では「まだ良く分かっていません」という状況です。 このように、生物を調べたり理屈を科学的に解明するのは、資金の問題や世間の興味、 利害関係の調整、研究者の意欲などが微妙に絡んでいて難しいです。 その年の説と来年の説では異なるケースもあります。 そういえば、ガンなんかは日本人の死亡原因トップで注目を集める疾病ですが、 治療法が出来ては消え、出来ては消えます。 ←海は未知なのだ。 現代人の中において、自然に接する率の多い釣り人は環境変化にも敏感で、 頭より肌で感じ取り、自覚があるかないかに関わらず、毒魚などの知識を補充しています。 これらは受身でありまして、率先して自然をどうこうするとまでは少なく、 魚群を人工的に発生させることが出来るのか?どんな場所に魚群が発生するのか、 それが前もって判るのか?これらが前もって判るのなら漁業も安泰ってなことまでは行き着きません。 さて、このサカナの行動学は12回で終了する予定でした。 テーマは釣りを通して経験する、魚に備わっている本能とは違った行動を大きく律する"学習"、 生物学的用語で「獲得的行動」といいますが、釣り人の経験や科学的な机上の理論と、 これから読者さんが遭遇する出来事に対して、推測・考察する基本材料を選んで紹介しました。 ←学習能力が高いのは根魚だった。 周囲・仲間から聞く話と科学的な常識との差があれば目からウロコとなりますし、 逆に聞いた事が無く信じられない話も沢山有ったことでしょう。 有名な釣り漫画を出された先生も、多くの磯投げ情報誌(の連載)を読まれたそうで、 感想を頂いた時には、私自身、大変喜んだものです。 「サカナの行動学・単行本キボンヌ」というネット用語が書かれていて、少々ビビリましたが。 ここで、連載12回(それ以前のキャッチ&リリースを入れれば13回)を振り返り、 時々触れていたものの、詳しく説明しなかったものを、これからの連載展開に入れて、 総合的な釣魚のお話をしていきたいと思います。 まず最初は、連載テーマの重鎮を担っていた”学習”の反対に位置するもの、 元々生き物には「生得的行動」というものがあり、それを詳しく取り上げてみたいと思います。 ←自然のままの魚は生得的行動がメイン 人気の釣り場では学習する魚も珍しくはなく、大物イシダイが魚影は濃くとも幻ですし、 逆に船釣りであれば、イシダイといえども学習度合いが少ないため意外と釣れるし、 かけても磯のように強引の代名詞がなく、強いファイトをせずにスルっとあがってくることが多いです。 メジナやイシダイを蹴散らしてエサにありつくクロダイなんて、慎重というイメージが変わってしまうほど。 自然界では堤防や磯で釣り人に出会うことがない魚も多いことから、多くは学習より走性が優勢です。 イメージを湧きやすくするため、解説を詳しくしてみましょう。以下の4つ「走性」がそれです。 走流性・・・流れに対して向かう(正の走性)とか避ける(負)とかの反応。 魚は口から水を入れ、エラに通し、鰓蓋から出すという構造から、必ず流れに向かっています。 流れが無いところでは泳いでいればいいのですが、酸素が少なくなったエリアでは、 半狂乱になったかのような走り回り行動を起こします。鰓病の場合も同じ症状です。 それぞれの魚には魚体の大きさ、個性による適水流速があるようですが、 魚種による差より、大きさや育った環境による各々の運動機能の影響が大きいようです。 ←スプリンターは自ら走流(性)を作り出す。 走化性・・・科学物質に反応する、寄せ餌をまくと寄ってくる行動とか逃げるとか。 これはエサに含まれる化学物質、添加物、配管のペンキ、船の塗料など、物質の出す塵や、 化学反応に対して通常は避ける行動ですが、エサの匂いを形成する物質には向かっていきます。 人工的に匂いをつけるのはシジミやアサリの味なら合成できますが、牛肉のようなものは、 合成するよりも、元の牛肉エキスを混じらせて作ります。 ←止水になると走化性は厳しそうだ。 走触性・・・障害物に引っかかって休むとかの反応。 睡眠する魚の場合は、例えばカワハギは藻や海草のしげった場所を探し、角を立ててヒッカケ、 安定させてから眠るようです。キュウセンベラでは砂に潜る砂触、ウナギでは管・穴に潜り、 岩と岩の間に入ってじっとしている根魚なんかは分かりやすいですね。 体に常に何かが触れていないと落ち着かないのが正の走触性です。 手の甲ではなく掌(てのひら)にし、動かしてしまうのは満員電車のチカンさまですが、 これは理性で欲望を押さえれないだけですから走触性ではありません。念の為。 (いや、男の本能といえないこともないけど) ←底性魚は分かりやすい。砂に触れていないとネ。 ←説明不要の走触性。 走光性・・・光によってきたり逃げたりする。「光移動」と一般的には呼ばれてます。 コンビニなんかで夏、「飛んで火に入る夏の虫」のごとく、そのまんまバチバチ言ってるのは、 世間に1番知られている走光性。夜間、光に寄る昆虫の習性を利用したものです。 小魚も光に寄りますし、イカも同じく、しかしアユは逃げまくり。魚種により正負は決まっています。 特に凶暴な動物の場合、多くは正の走光性が強いです。 山でのキャンプでは、近場で猛獣の生息する注意書きがあれば身の危険があるので光を消すこと。 また、聞けば当たり前のことなのですが、釣りでは走性を応用するタイミングがあります。 ・エサ食いが高まる時は? 走化性を応用。寄せ餌を打ち出す。お約束過ぎてダメと思うなかれ。 普段はエサ食いが低い時に寄せ餌を打つ人も多いのです。 ・エサ食いが悪くなった時は? 走化性を応用パート2。ムシ餌は傷つけると良いわけですね。 生きの良いエサばかりの場所では、逆に学習して死んだエサの方を食うようになったりも。 肉食生物にはハンタータイプと死肉を食べるタイプがいることを覚えておきましょう。 結構、分かれているもので、生物分類上でも重要だったりします。 「ティラノサウルスは死肉をむさぼる」という説を聞いた人もいると思いますが、ガッカリしませんでしたか? あの論争が起きるほど、死肉を食うタイプとハンタータイプは分けられています。 ティラノの最近の説は両方の性質を持っているとなっていますので、再起不能の方は復活してください。 そして、これが重要なのですが、魚は水温によって反応が違ったりします。 適正水温より高い場合、低い場合。詳細に調査しようとすると無限にも項目が出来て、 科学者泣かせの調査になってしまうのが、この水温と走性の関係図。 私は、走化性は一般には全く知られてないですから、これを何かに利用しようと考えています。 上の4つはこれからも色々と使いますから、是非とも覚えてください。テストには出ませんが。 ←ゴンズイの群れが固まるのは? 生物系ジャンルのものは、下手を打ってしまうと、様々な噂が跋扈する怪しい世界にもなります。 専門学部を卒業したりの科学者でもない人が、科学者のように話をすることもあるし、 オッペケペーの学者がトンデモ説を述べることすら出てきます。我々は困っちゃいますよね。 多くの”説”というのは、あくまで経験則=噂なので科学と混同しないように注意下さい。 大物は空気を吸わせろ、警戒心が強い魚、など多々あるけど本当のところは違っているかもしれません。 夜、明るい場所に寄って来る魚は、きらきら輝く”泡”が好きだという推測もあります。 ←キラキラが好きなのか、酸素なのか、どっちだろうね。 日本にある魚類学系の説の多くは、元の欧米論文を誰かが翻訳ミスでもしたのか? などのケースも多いです。 タカとワシ、クジラとイルカのように、サーモンとトラウトの和訳で和名をつけた混乱という、 本来、サケとマスは同じであるのに名をつけた方の「やっちゃってゴメンナサイ」と同じ可能性も、 現在なら笑い話でも、当時は画期的な分類だったわけです。 魚類学どころか、生物分類の多くが、もう一度、検討し始められています。 その中で同時進行の名前の変更は読者さんも聞いた事が有ると思う。 改名されるのは名前の中にメクラ、バカ、テナシ、アシナシ、セムシ、セッパリ、ミツクチという 差別用語を含む魚たちでセムシダルマガレイ がオオクチヤリガレイになったりしています。 チョット待て、オオクチって差別じゃないのか?と質問してきた友人がいましたが、私に聞くな(笑 すみません。話を戻します。「走性」の概念が出来たキッカケをお話しましょう。 それはフロイト的「走性」であり、潜在意識なのだそうです。 精神科学、いや心理学の古典的理論にフロイトの作品があります。 アメリカのFBIの心理捜査官やヨーロッパでも定番として読まれていますし、 そこから大学などでも学問として心理学修士論文レベルで”歴史”として必須科目になっています。 そのフロイトでは、精神は3つに分けられ、潜在意識、意識、超意識に分類されます。 生物の走性をこの中に当てはめると潜在意識に相当します。 人間に例えたとたんに非常に解り易くなりますが、そもそも「走性」を考えたのも、 生物学者がフロイトからヒントを得て、生物研究の合間に取り入れると解釈がスムーズになる、 そんなキッカケだったそうです。 知っていそうで知らない、今回のお魚の行動のメインである走性(生得的的行動)の中に、 走化性・走光性・走流性・走触性があり、獲得的行動へのシフトが微妙に絡んでいること、 専門家でなければホンの少ししか知られてなかったかと思います。 走性=潜在意識として、この項目を読み返してみてください。 何か別の印象や考えが持てるかもしれません。 ←本能=走性って説明し難いなぁと思った。 人間は擬人化して魚を考える面白い生き物。 魚は産卵する時に口を大きく開けます。体に力を込めるわけですが人間の食いしばるのとは逆。 生き物を考える時、人は自分と照らし合わせて頭を巡らしますけど、 実際は人間が考えるのとは違うケースが多いです。キャッチアンドリリースもそうでした。 やり取り中に磯の根に潜られてしまったクロダイやメジナへは、寄せ餌を打ち直し、 誘導しようとする人(ベテラン)も多い。食い意地が張って直ぐに出てくる…のだろうか? その割に普段警戒心が強いイメージで、慎重に防波堤や磯へ降りたり、 他人へは「ヤツラは慎重な魚」と平気で言ったりする所が人間心理のややこしい所です 見た目のゆっくり優しいリリースと、F1エンジンのような鰓の性能からゆっくりは逆にダメという風に。 「大物は水面をわり空気を吸わせれば弱る」という正確ではないけど的を得ている知識があるのに、 リリースはゆっくりしてしまう不思議。人間とは面白い動物なので、まぁOKですが。 これ、普通に釣り人が個人でする分にはいいのですが、このやり方を周りに強いるのなら別。 「この優しさがリリースの基本・理屈だ」と声高らかにTV等や議会・協会などで言われると、 それが正しい認識として芸能人始め文化人が先入観で進めてしまいます。 「鰓はF1エンジンで…」と説明する人が出てこず、違う知識を皆で学習してしまった例です。 人間が間違った知識で走っちゃったのは、魔女裁判しかり人類の歴史に多々ありますが、 ペストなんて悪魔が攻めて来たって、剣と魔法の時代には真剣に信じられていました。 知能が発達しているのは良いのですが、支配者層に悪用されたり使われ方も重要ですね。 ←軟体動物だって自分で考えている!!! 人が間違えを鵜呑みにして正解としてしまうのは、ひとえに知能が発達しているため伝聞で納得、 自らの想像体験と重ね合わせることが出来るからで、自分で経験し判断していく普通の動物とは、 成り立ちが変わってしまっているからと思われます。 視聴率1%が100万人のTV全国ネットでは、その先入観を与えるので影響力が怖いほどです。 逆に考えてみよう、ひょっとして正直な番組を作るより、あえて捏造番組を流して、 視聴者に考えるように導いているのかもしれない(って、ないない)。 我々釣り人としてはテクニックやコマセの混合比率、餌の種類、時期などの知識は豊富でも、 それより重要なことが、たくさん伏されてあるのかもしれない。 貝毒は報道されるけどマグロ毒とかアオリイカ毒とかあったりしたら?いやぁ、どうしましょ。 多少、耳が痛かったですがお許しいただいて、そんな観点で初心へ立ち返ると、 面白い発見が出来るのでは…と連載に私を起用くださったのは 磯投げ情報誌の編集部さんの心の底に潜んでいた何らかの不安からかもしれませんね。 次回、走性を更に深くご案内します。 私が魚類を研究したキッカケは、幼少の頃に同じ場所で釣った魚を水槽内で飼育すると、 早く死ぬもの、丈夫なものの差があることに疑問をもち、その差の原因を調べた記憶からです。 それがどうして今に繋がってくるのか、いや、結構な絡みが後に出てきたのです。 魚屋でも並べられた魚を見て、サバいても生きているウナギ、カレイ、ドジョウらがいて、 何で生きていられるのだろう、弱そうなものに水質・水温など環境を合わせたりよりも、 もっと重要なものがあるのじゃないか?という疑問から顕微鏡でエラ等の観察などをし (今思えば、恐ろしい小学生でしたね)、直ぐに死ぬもの、死なないもの、そして遊泳力の差、 生息場所の想像から夢が広がっていました。 とはいえ、心の中では魚なんかは只の生物であり、釣り場があって楽しければ良かったのが、 知人の紹介から、ある企業にて海水の水質を安定させるシステム開発で、 装置や材料を使って、クロダイを大量に大掛かりな水槽設備で流れを作ったりしてしたのを見せられ、 相談を持ちかけられ、走性など魚類全般に触れることになりました。 その装置のある部分を使ってメディアに登場させたのはなんとこの写真。今ならバラしてもいい? ←さりげなく水槽に「その装置のひとつ」を設置して自分の他ネタで掲載。1998.10 今ではメジャーとなった循環設備で、まさかこんなに定番になるとは、当時は思いもよらず。 次回、そんな私がアレコレと工夫した走性研究の面白おかしい部分を紹介します。 ←見詰め合えるのも人間を知らないから。本当? ←エサ取りフグは普段ギリギリを行く。 今回は走性の基本編、次回は発展編です。乞うご期待。 最近の事故を取り上げる 5月6日午前11時45分ごろ、福岡市東区奈多の奈多漁港で、ドライブ中の普通乗用車が、 岸壁を歩いていた同区三苫(みとま)の釣りをしていたファミリーの次男をはね、 その子は頭の骨を折って死亡した。 福岡県警東署によると、その子は、お父さんと長男の3人で釣りに来ていた。 乗用車の運転手はドライブ中だった。同署は、運転手から任意で事情聴取している。 ・・・寝不足で事故を起こす釣り人が多い状況で、想定外の事故だったといえます。 読者の皆さんもあらゆる点で注意してください。楽しい釣行が散々にならないためにも。 今月の一手:釣魚を飼育してみよう。その1 釣りを通してハマる趣味の一つにアクアリウムがあります。 多分、読者さんの中にも多くの割合でいらっしゃるはず。 釣った魚を自宅で飼ってみると、意外と発見することが多いですよね。水質の重要さとか。 水質の重要さに気がつくと、釣り場でゴミを捨てるのは当然しなくなるどころか、 他のゴミまで持って帰ることを自然と始めたり(本誌が音頭を取らなくても始めるのだ)。 エサの選別眼も鋭くなるし、処理にも気を使ったりするメリットがいっぱい。 そこで、今回はオススメしようと思ったわけですが、金魚ならまだしも海水魚なんてと思った方、 設備も60cm水槽に人工海水でOKです。お金も1万円ちょっとぐらいしか(マジで)かかりません。 エサ代や綿などの消耗部品の交換でも大した事ないです。 水換え時の人工海水代が若干高いぐらい。 水を巡回させる濾過装置の電気代とか、想像以上に安いです。 仕事や学業に疲れて帰って、自宅に精神的な穏やかさを求めて得られるものに比べれば、 本当にやってみられては?とお勧めしたくなります。 そういえば、連載中に釣って飼育した「エサ取り君」たちですが、昨年の夏の話。 今でも元気にいますよ。若干、大きくなって慣れっぷりも半端でなくなりましたが。 =昨年File.6で登場した時の写真。 ↓時は流れた。水槽の雰囲気は変わり……。 ←エサ取り達はFile.13の現在も健在です。 ←60cm水槽程度でも海水魚は長期飼えます。 次回、その2として飼育の際のコツなんかを講釈たれてみたいと思います。 今月の一手で続編にするとは、お笑いコーナーのネタが枯渇中とは思わないで頂きたい!!! 私はアクアリストだよという読者さんは、何か発見したことがありましら、ご一報ください。 戻る← 表紙 ⇒走性その2 |