サカナの行動学~File.11
行動を律するものPart2~魚群の秘密

馴染みの慣れた東京湾、この風景は千葉~横浜では殆ど同じですよね。
しかし、伊豆や静岡まで行くと海が違います。どこでも釣れる感じで。
更に南へ行くと名古屋港があり東京湾より酷い状態になり、大阪で馴染みに戻る。
それより南では、広島であれ、九州であれ、沖縄であれ素晴らしい海があります。

ところが、更に南へ行きますと、ニュージーランドのような夢の国が出現します。
孤立した生態系であるそこでは、鳥が生態系の頂点に立っていて、
ここにしかいない約60種を超える鳥種、更には飛べない代表ニュージーランドの国鳥・キゥイ。
テ・ワヒポウナムという最も寒いジャングルにはフィヨルド・ペンギンという貴重な種がいて、
産卵のため南極から移動してくるという。森にペンギンが生息しているという変わった画です。

毎年1cm隆起しているクック山(キャプテン・クックが名づけたのか?)は有名で、
もし氷河による浸食がなかったら現在はなんと18,000mを超えると算出されたり、
そして、いまだウェストランド国立公園一帯は氷河に覆われています。

非常に想像がしにくいほど、日本とかけ離れた存在、
そのニュージーランドの南にあるタスマニア、そこの飛び抜けた特殊環境である「赤い海」。
前回でテーマにした明暗の刺激は魚にとっては水圧よりも優勢であるという事実が
初めて認識できた貴重な事例でした。

深海魚が5~10メートルという浅瀬に入って生活圏を作っている場所。
しかし、その特別な海域に入ってこなかった深海魚もいるという疑問に最後に触れ、
今回へ引っ張ってしまった訳ですが、それは誌面上の都合で簡単には説明できなかったからです。

 

200m~2000mの皆さんがたった水深5~10mに集う。
表層4mは赤い淡水、それ以下は海水で透明。前回の復習ですね。

なぜ「赤い海」に入らなかった深海魚がいるのか

新種の深海魚は20数種類も発見されているのに、どうしてリュウグウノツカイが見つかっていないのか?
その理由は種としての魚群に関連していると考察した次第です。

=体長4.8mのリュウグウノツカイ

↑としぞをさん撮影・提供/サンシャイン水族館

その魚群を考える前に、明暗と水圧について日本にある水族館はどう考えているのか?
ひとまず身近な研究・専門機関である水族館をチェックします。

水族館によっては水圧の作れる特殊な設備を持つところや、
そのまま部屋を暗くしているだけのところがあります。あれれ?明暗だけじゃなかったのでしょうか。

最新設備を持つ新江ノ島水族館では、写真のようなもので展示しています。

=としぞをさん撮影提供/新江ノ島水族館

新水族館の目玉、男のロマン深海コーナー。
これが2,000mの深海と同等の状態を作るという加圧水槽。海水循環、給餌もできます。

=としぞをさん撮影提供/新江ノ島水族館

加圧水槽の窓から深海生物を見れます。

水族館の深海魚の展示苦労

まずは深海魚の飼育はどうなっているのか、これにヒントが隠されていないか考察します。
昔は…圧力のほうが重要という事で深海魚の飼育は完全にスルーされていました。
もっとも、網で引き上げられた深海魚は直ぐに死んでしまいますし、
誰もが水圧優先の先入観が強かったため、生かすなんて考えもなかったのが正直な事実でした。

過去の採集方法では網に掛かった魚たちを弱らせる前にガンガン素早く引き上げ、
生け簀に入れて直ぐに水族館まで運んでいましたが、深海魚系だけは残念、
読者のみなさんが周知の通り浮き袋の減圧により胃が逆流し、口から風船状態です。

深海魚を展示水槽まで生かし続けるには実は大変な労力が必要でして、
漁船をチャーターし、口から風船にさせない=浮き袋の空気抜けをさせる為、
網の引き上げ速度をもゆっくりしつつ、弱る前に上げなければならない微妙な調整が必要でした。
もちろん、それでも死なせてしまう事もしょっちゅうだそう。剥製で使います。

幸い網をあげ生きて捕獲できたものは急いで港へ戻り、魚病などのチェック水槽へ。
その後、慣れた魚たちを展示水槽へ移動させます。

当然、赤い海の事例(の知識)が学会などで報告され広がるにつれて、
大型設備を持たない水族館側も「これは飼育できるのじゃないだろうか?」と考え始め、
設置された水槽の”部屋ごと暗くする”ことによって飼育するところが増えたようです。

ただ、赤い海の存在を知らなかった水族館&学芸員さんのところでは、
先に出したような加圧水槽を特別に設計、設置して来館のお客さんに展示しています。
いや、知らなかったわけではないかもしれません。
「水圧は凄いんだよ」と客に説明するため、知っていて敢えて加圧しているかもしれません。
捕獲を潜水艇で行い、そのままの圧力で飼育水槽まで持ってきているかもしれませんし。

まぁ、深海魚に必要なのが明暗だけという「赤い海」が知れ渡っては、
この事が広まってはいけない!!!と真剣に心配しているのは設備投資を誘導した側かも。
この巨額な設備をした後で、明暗だけだよと教えられたら、何て恐ろしい結果に……。

一応、「水圧も本来のものにし、自然な環境を心がけます」と主張すればOKでしょうし、
学芸員さんへ聞き取り取材はしていないですから本音は聞いていませんが、
関係者さんがこの連載を読まれていたらスルーくださいね。気づいて心配してしまいました。
波紋を呼びそうですね。

しかし早合点してはいけません。明暗よりも水圧を優先させる深海魚がいないとも限りませんから。
すぐに「これだ」と決め付けることをしてはいけないのが学術に携わるものの姿勢でしょう。
・・・と気づいてしまった言い訳。

種としての行動を考えてみる。

人間の”群れ”を想像してみましょう。どんな時に人は群れて行動するのか。
ひとつは交差点、新宿なんかで信号が変わったときの人々の動き。
歩く方向は仕事先であったり、馴染みの店であったり、彼らの目的はさておき、
第三者が交差点を観察すれば群れにしっかりなっています。

地域では仕事先が大企業だったら、そこへ向かう人間が多くなるので”群れ”の原因は
大企業という事になります。アンケートや道路移動調査のデータでも分かります。
女性が多く集まる店があれば、そこの近所へ男性が集まったりする行動も出てきますよね。

つまり人間であれば、その都度取材して理由を聞けば群れも方向も発生原因も分かりますが、
こと、お魚となると群れていてもアンケートを取れないので難しいです。
魚がしゃべれればなぁと考えるのもギャグではなく研究者にとっては真剣です。

キャッチアンドリリースのようにF1エンジンのような鰓の性能からゆっくりはダメなのに、
見た目のゆっくり優しいリリースを好むことから、人間はどうしても擬人化して動物を考えがちです。
「大物には空気を吸わせろ」という弱らせるための的を得ている知識があるのに、
リリースは見事に多くの人たちがユックリしてしまう不思議。

真空の宇宙空間に人間を出せば「早く空気のあるとこに戻してくれ」と叫ばない人はいないでしょう。
科学的思考の場合は「擬人化」は避けること。おっと、1年前の記事の繰り返しで失礼しました。

さて、言葉がしゃべれない魚ですが、深海魚は変動しない水温に支配されているのが一番と思われます。
実際、深海の水温は1~3℃で非常に安定していますし、種としての傾向(適正水温)は要因大、
浅いところに棲むクロダイやカサゴなどと違って、水温変化にはより敏感と思われますので、
変化に耐性のある深海魚から順に赤い海に入っていっているのでしょう。

数年後には赤い海でリュウグウノツカイが漁獲されても可笑しくないと考えています。
温度変化によって体調を崩した深海魚も、食うことさえすれば数ヶ月で環境に適応しますし、
尾腐れ病や白点病をはじめ、エラ病など軽い病気から死亡率の高いマツカサ病、転覆病などの
合併症にならないことが前提ですから、病気にも強くならないといけません。
病気は自然界では殆ど治癒しませんからね。

個体差を考え、走性も考慮に入れる、こんな段取りで考察しますと、
あの赤い海で馴染んでいる深海魚たちが奇跡的な行程を経て棲むようになったと感動を禁じ得ません。

解明できない魚群の秘密、理由とは?

深海魚の魚群もクロダイやスズキなどの魚群も基本的には同じと考えられています。
しかし何故か、その理屈を考えると気が遠くなります。単純にはいかない永遠のテーマ。
基本的な魚群と今現在解明されている科学的論理を説明いたします。

下の魚群のイラストを見てください。少々雑ですがお許しを。

←V字型魚群(発生のメカニズムは謎に包まれている)

出来る大きさは20~30m。矢印型の先端をトップに同じ方向へ進む大きな群れ現象です。
30cmに満たない魚達が群泳しています。くどいようですが魚群の絵です。
これを海や湖で見かけますと、本当に一種の巨大生物に見えるほどです。

”V字形の波を発生させる身をくねらせた怪物”、”V字型に波を発生させながら泳ぐ怪物”

これらの怪物目撃ケースが有りますが、本当に怪物の背中や胴体に見えるほどで、
やや大きい魚達が表層群泳で発生させる波も見事…時に100mにもなります。
昔の船乗りの怪物目撃談はホラ話もあるでしょうけど、魚群を誤認したケースも多々含まれています。

魚群とは、普段は好き勝手にバラバラに生息している魚が、いきなり集団行動を起こす現象です。
春に発生する事が多いため、産卵行動の一種と説明されてきました。
しかし、産卵期とは関係無い他の季節にも魚群を作る事と、
先頭を中心とした集団行動(社会的な行動だ!)をとる事から区別され、
発生の理屈は実を言いますと良く分かっていません。

どうして勝手バラバラな魚達が集まって群れ形態を作るのか?
水面を跳ねる魚たちなどは基本的にバラバラな行動です。大きな群れの形を取りません。
産卵期もそれ以外も、現実に起きています。

環境の悪化から「より良い生活環境を目指して」イナゴやネズミのように、
また、理由が分からず座礁するクジラやイルカの集団行動をとるケースに似ています。
一生懸命助けて沖へやっても、また戻ってきたりします。不思議ふしぎ。

なぜこれの発生理由が述べられないかといいますと、特に魚類は人間のように目や口、
肺…と専門に分けられず、”耳”は側線まで含まれ、えらは呼吸器でもあり排泄器でもある…
といった具合に個別に分けて魚体から調べられないからです。原因特定がしにくいのです。

個体差にも相当な開きがありまして、ある場所に毒液が流れ込んで
大量の魚が死んで浮いたとしても、相当数の魚が生き残ることもあり、
ひとくくりに簡単に包括的に調査するのが難しいのが研究者泣かせのネックです。

海や湖の”魚群”には下記4つに分かれています。表層魚群(表層群泳)と呼びます。

・生息条件が厳しくなった場合
アップアップのように鼻あげや表層の遊泳をしています。
集団行動はとる余裕がありませんので、勝手バラバラです。

・浮遊えさの摂取の場合
カゲロウのように、水面をフラフラと舞う昆虫が発生した場合、
魚の一斉ジャンプが起き、また、約束をしているかのように終わるのも一斉に終わります。
わりと面白い現象のひとつです。えさの動きに支配されています。

・産卵期の場合
これはどんな種類でも集団になりますが、自分の子孫をより残そうと魚達が集まるので
多くのケースが勝手バラバラの抜け出し行動です。強い魚が優位になります。

・V字型くねり行動
先頭を中心とした集団行動を示すため、理由は良く判っていませんが、
生息水域の環境悪化、産卵期、遺伝子の命令等の諸説があります。まだ分かってないのです。

↓は川に現れた20mもの怪物ウナギ(魚群)の例。掲載不可ですが参考まで。

←兵庫県の尾崎さん撮影(かずまさん提供)

より良い生息圏を求めて移動する事が基本の”生き物”にとって極めつけは
貧酸素状態の生息条件が極めて厳しい場所へも群れを成して好んで向かうのは不思議です。

嵐の海域~何処にいるの?魚たち。

堤防から透き通った水中を観察すると、多くの魚群が走っているのが分かると思います。
冬であれば温排水のエリアへ行けば容易に「水族館級の群れ」に出会えます。
TVの自然番組でも好い画になりますので、率先して撮影されていますよね。

小魚の群れ、それを追う魚食魚(ぎょしょくぎょ)の群れ。
スズキが場所を離れると代わりにハマチが入れ替わったりしますが、きっかけは何でしょう。
去って行った種類は何処へ潜んでいるのでしょうか。謎は沢山降りかかります。

海よりもイメージが湧きやすいので河川の洪水を例に出しますが、
台風、大雨などが引き起こす見事に茶色になった濁流。すさまじい流れで川をかき回します。
こんな時、魚は何処に潜んでいるのでしょうか。

濁流の河川では流されるどころかサツキ・サクラマスは増水を利用して遡上し、
一方、多くの放流アユは押し流されたりします。残っているのは地魚ばかりとも言います。
魚種によっても様々な反応があるのですねえ。

現実、全滅するものが出てくるわけでもなく、何事も無かったように元の状態に戻る…。

魚群には海水と淡水の違いはない!?

魚群には海も湖、池、沼…関係無しに共通です。本来、これの時点で不思議な状況です。
進化論でも少々解明できていないものがあり、
瞬膜というマブタに似たものをサメやペンギン、ワニは持っているけど、
サメよりも進化しているはずの硬骨魚系は持っていなかったりします。
脂瞼(しけん)と呼ばれる透明な膜が代わりにあります。

こんなレベルですら謎がありますので、少々記事にするには無理があったかもしれません。
でも、数十年後には今とは全く違う別の理論が、磯投げ情報誌で語られているかもしれませんね。
無理な展開、テーマを選択してしまい、すみませんでした。

魚群を形成する「生きてこそ」の様々な器官

ただ、少しだけ解明に繋がりそうな研究が進んでいます。
人間の周りに潜む動植物は殆どのものが何らかの知恵を使って生き延びていまして、
小さなものではウイルスで、他の生き物の細胞を利用して自分の遺伝子(DNA)をコピーし、
増殖していきます。植物は飛び交い移動する昆虫を使って遺伝子を手足にくっつけ、
離れた場所へ子孫を飛ばし、広がった世界に満遍なく影響を及ぼせるようにしています。

(前回に紹介した)カニの中には産卵を何故か大潮の時にするものがいます。
どうやって大潮の日を選ぶのか、選べるのでしょうか。潮見表でも持ってるのでしょうか。
彼らは月と太陽の動きの差を把握し、行動に移るらしいことが最近の研究で分かってきました。
目と目の間に正体不明の特殊器官があります。それで月太陽の差ズレを感知しているらしい。

恐竜時代に哺乳類が躍進した理由の中には裸子から種子への”植物の進化”があり、
葉っぱが枯れたらお仕舞いの裸子植物から、枯れても種が残る種子植物への変化は大きくて、
特に環境変化(隕石落下の火災など)で枯れあがった場所でも生き残れる連中、
つまり小形動物の哺乳類(人間の祖先)は落ちている種を食べて生きていけたと考えれます。
画期的な変化でした。これがなければ我々は今存在してないのですから。

ご存知の方も多いでしょうがウミウシ、イカ、タコのような軟体動物は多くが貝の進化したもので、
体の中に貝質の残りを持ち、特にタコは超進化エリートで体に血管のような組織まで持っています。
そのため海水からあげても移動できる体力があるほどで知的な感じも受けるし人へも慣れます。
カニやエビなどは水槽で飼育すれば「餌ちょうだい」とねだるようになるので可愛いと評判、
このクラスの生き物の段階でも相当な不思議な能力が備わっていると感じることが出来ます。

さらに上の位に位置する魚たちは、総合的な能力も飛躍的に上昇、
自らが工夫したりと、広大な水環境の中で生き抜いています。
最近の驚くべき映像で、観た方も多いと思いますが、
お手をしそうなカレイまで登場(TVニュースで報道されました)。

この画を観たお茶の間の皆さんの驚きようを想像しますと、非常に微笑ましいです。
そのカレイ、驚くべきことに、もう少しで鰓が水面を割るほど(手を差し伸べると)高く顔を持ち上げるのです。
エラの重要性から思い起こせば凄いことです。

なるほど、釣りは奥が深いために趣味として長続きするんだなぁ

長続きする趣味とは、バックボーンが広く、一朝一夕にはマスターできないものが多いです。
釣りが古今東西、末永く人々に受け入れられている理由に、料理したり、学術を楽しみ知識を得たり、
どのようなテクニックがあれば他人より釣れるのかを工夫したり、タックルの選抜に神経を使うなどと、
果ては環境に至るまで触れる要素が多岐に渡り奥が大変深いです。

エサの生態にまで拘るマニアックな人までいるし!!!

釣り=釣果だけを求めるならば、合わせのテクニックを究極に高めれば良いと思うけど、
実際、それだけのことであれば長く続かない嗜好のものと思います。
一方、情報化社会の昨今において、廃れる趣味というのも大変多く存在します。
趣味として選ぶジャンルが増えていて、競合も多々あり、その中で切磋琢磨になれば好ましいけど
足の引っ張り合いになる趣味は長く好評を得ないもの。

釣りも昔の”釣り熱・フィーバー”が冷め、その波を受けているような気がしますが、
それでも他の趣味の流行り廃れに比べれば小さいと感じています。
釣技テクを極めれば料理へ入ったり、学術へ入ったり、幅広いエリアが控えていますから。

最近、テレビ東京から「魚の目について、視覚はどのような範囲か?」と質問を受けました。
番組は「所さんの学校では教えてくれないそこのトコロ!」というもので、
過去原稿の「魚の視覚」をアドバイスをしておきました。
このようなTV局からの質問は最近特に多くなり、水木しげるの妖怪に対しての医学的知見とか(NHK)、
これもネットの発達により、番組製作スタッフにとっては情報収集がしやすくなったのと、
より学術系のネタを番組に絡ませることが重要になっているんでしょう。「受けたい授業」系番組も多いし。

逆に、現代の方々は昔の人よりも魚の種類も知らないのではないか?と愕然とした事があります。
サンマが河川に生息している、とかコイとナマズを間違えたりを国立大学卒の女性たちが言っていました。
釣りを趣味にすれば良いのにと考えるけど、それ以前に相当な壁があるのだろうなと思う。

=としぞをさん撮影・提供(サンシャイン)

上なんかは知らなくてもいいけど(ウツボの仲間)、下ぐらい印象が深くてやっと判別できるみたい(笑)。
下は驚くべき”使い捨てカメラ”で撮影の海がめ。えみちーさんがインドネシアにて撮影。
人に近づかない海がめが2-3mまで近くに来て撮影まで出来たのは珍しいと現地でも評判になったという。

←えみちーさん撮影・提供

人間は危険なものはよく覚えるけど、そうでないものは中々区別できないようで、
サメは誰もが判るけど、タヌキとアライグマを区別できる人はほとんどいません。
情報が多すぎて、重要なことを知らなくても生活できてしまう現実からでしょうかね。

群れが近場に集うと…ボラ殺到ニュースから学ぶ

上に関連しているのが、以前、東京の川にボラが殺到し、驚きを持って人々に受け入られたくだん。
地震でも来るのじゃないだろうか?とパニックになり、TV報道でも繰り返し流されました。

主にワイドショーでしたが、どうもTV局には釣りをする人や生物学系の社員は少ないようで、
よく「普通のこと」でもニュースになったりします。わざとやってる場合はダメですけどね。

 ←雨のように見えるけど全てボラの”うねり”碧南海釣り公園にて撮影

←釣り糸を垂らせばハリに引っかかってくるほど。一匹25cm。安藤氏撮影提供

温排水の釣り場で冬季にクロダイでも狙っている釣り人には馴染みのボラの殺到、
20cm超の大きさのものが海を埋め尽くしていますよね。釣りが出来ないほどの密集地帯になります。
ミチイトにボラが触りまくって、アタリも取れず、温水が入っていると直ぐに判断できるのですが、
これって、かなりの長期間報道されていました。

=としぞをさん撮影提供「ゾウアザラシ」新江ノ島水族館

アザラシのタマちゃんなども河口堰(かこうぜき)の無い大きな河川にとっては、
日本全国で普通に迷って遡上していましたので珍しくはないです。

海獣類は冬に南の海でエサをあさり、春⇒夏の際に冷水を求めて海を北上中、
海よりやや水温の低い河川に(南は九州エリアまで)ウッカリ上ってきます。
夏を越して水温の下がる秋冬まで生きていれば海に戻ります。

冬になって海へ帰らせないテクは、周りで騒いでいれば特有の知的好奇心で居ついてくれます。

過去の常識が覆っていく昨今

サンマが河川に棲むという知識が普通になっている昨今にも関わらず、
世間に流れる”応用の情報”は益々広がっていっています。
深海魚が浅瀬に棲んでいたお話なんて超上級者向けじゃないだろうか!?

例えば小枝を使って木の幹から昆虫の幼虫を穿り(ほじくり)返す小鳥たちがいますよね。
学習の賜物か、遺伝子の賜物かよく分かってないですがメジャーで周知されています。
最新の生態学研究者を驚かせた発見といえば大きな石を使って椰子の実を潰すサル。
石はなんと体重の3分の1もあります。飼育の群れの話ではなく野生のものたちです。
どうやって使うようになったのか、NHKが放送する前に原稿を書いているけど不思議です。
(もし前後して放送されたら、すみません)。

野生でなければ、施設ゲージでサルがパンなどを使って魚を捕るケースもありました。
本来サルの餌だったパンを自ら利用し、飼育ゲージ内の水浴び用池に浸し、
パンに寄ってきた魚を捕獲するというものです。
もともと池にいた魚は、お客さんが側面から魚もついでに見えるように放たれていました。
偶然の出来事だったとはいえ、サルはそれから”釣り”を続け、観客を喜ばし続けました。
残念ながら2006年末に天に召されまして、一部ファンの涙を誘いましたが報道されました。

う~む、僅かな違い、些細な疑問などを、これからも解明して行きたいと思いますが、
脱線した場合、”研究⇒工夫⇒実践”の流れで書いていますので、
時々の脱線はお許しいただいて、色々な方向で見る手応えを得てくださると幸いです。

深海つながりの余談・人間を深海から急に引き上げる危険

人間でも水圧に気をつけないといけないのは昔から分かっていまして、
空気のヘルメットをかぶり、ホースでつないだだけでは水深5mでも自力では呼吸できなくて、
とてもとても海中散歩とは行かなかった苦しい現実。
それで船上ではシュポシュポと空気をポンプで送る船乗り達が居ました。
機械文明のなせるワザでした。

しかし、その知恵でも50mを超える深さでは、どう頑張っても呼吸が出来なかったらしいです。
空気中に含まれている窒素が、30mを超える深さでは精神をゆるがせる”窒素酔い”を起すので
他の気体(ヘリウム)を混ぜなければいけませんでした。

魚を網で引き上げる通常の速度で、潜水中の人間を深海から引き上げますと、
血液中に溶け込んでいたヘリウムが気体へと変化し、体内で広がり最後には破裂させます。
潜水病は注意が行き届いているので、ダイバー始め滅多に起こすことはなくなりましたが、
それでも海底で驚くことに遭遇したら海面へ急いでしまい、患ってしまうことがよくあります。

←自力で呼吸できない深さが潜水病を作った。

この件は映画始め、小説の題材にもしやすいために読者さんも聞いた事があったと思います。

以前、魚の視覚で書きましたが、魚の目は水中で見えるように出来ており、
人間は空気中で見えるように出来ています。空気と水の光の屈折率の違いから来ています。
水中メガネという空気の層を通して補正し海底を見ることが出来るようになったのは、
人類の素晴らしいアイデアと工夫の賜物です。

余談ですが、ダイバーが濁った海水中に潜って何らかの不具合部分を撮影する時は、
空気を詰めたビニール袋を対象物とカメラの間に挟んで撮影します。凄いテクですね。

魚群を応用

漁師さんたちはこれを大きく利用しています。定置網が典型的です。
どういう群れの移動が季節によってあるか、どういう移動をするのか、
岸よりなのか、沖合いか、この方向から風が吹くと漁獲が減るなど、
漁業を生業とする方々の経験則行動を律する何たるかを科学的に考察していきます。



今月の一手:ストーブ・リーグ中のアイデアです。

古い初期釣り本と現代との違いを探してみよう

そんなこんなで魚の行動学を調べていたりするのですが、
先日、古本コレクターが友人にいるので古い釣り本を見せてもらうと、
ページをめくる度に壊れそう。

いや、内容には驚きました!!!余りにも面白かったのでご紹介。

ベテランダイバーでもある彼(当連載に時々出た釣友・弟子カズオが古本コレクター)は、
私が滅多に教えない魚類裏話をする磯・投げ情報も押さえており、
後進への指導のため魚類に詳しくなろうと色んな勉強をしています。良い姿勢ですね。

その本達は右から左へ読むスタイルで、漢字はご存知のように難しいし表現も古文みたいです。
大体昭和20年前後に発行されたものが多く、磯釣りであれば「釣物小物大釣磯」という題名となる。
左右の読み方は混乱した時代で「鉤針釣教」、「釣魚列譜」など
普通のものも見かけるけど違和感が見事。

字を前後させただけのよく似た題名本が多々あり、
言葉のバリエーションが微妙だったのだなと、変に感心しました。
この時代、釣り執筆者の走りの方々は何を参考にしたのかと思えば、
やはり欧米のフィッシング・テク本。

当時外国語が流暢な人は国費で海外留学した貴族たち?だけであり、
一般人は殆どが出来ません。

◎そういえばサカナ君って実力の程は?と思っていましたが、
あつテレビ番組を見ていてフグ禁止令が張られていた明治維新の頃の日本で、
その禁止令を解除させたのが伊藤博文という話をしていました。

その時、ああ凄い知識だと感心し尊敬の念をもちました。
伊藤博文の裏の専門は公にはそんなに知られていないのですが、
生物学・海洋学。1868年、大英帝国ロンドン大学に海・船の技術を学ぶための留学生が居て、
その名は伊藤俊輔(しゅんすけ)。お札の表紙になった後の伊藤博文その人でした。
彼は当時の日本において、贅沢な魚類学の知識も持っていた一人だったのです。
ココは人によって相当驚かれます。

古書を見ていくと洋書を手に取り、タックル図を見ながらあーだ、こーだと想像を働かせて、
四苦八苦されて書き上げたノウハウが多く、苦労が偲ばれます。
タックルは当然「ノベ竿」だけであり、リールも振り出し竿も継ぎ竿も登場せず、
太い糸(大物を狙う場合は主にワイヤー)でガンガンと力比べで対戦するノウハウが詰まっています。

餌は現在と変わっていないのですが、兎にも角にもシンプル&豪快。
繊細な現代の釣りとは違ってます。
しかし読み込んでみると、強烈な引きと感動、大物を釣り上げた際の震え、
達成感、昂揚感など、共通するインパクトの部分が丁寧に描写され「こうすれば良いぞ!!!」
という部分は今と変わっていなかったです。

そして魚の生態についての洞察に多くのページが割かれていました。
生物学系の学者がアドバイスの為に携わることなんてなかった時代なので、
学術ちっくなものではないですが、経験則とはいえ一生懸命に見抜こうと頑張られていました。
ウキも相当でかい手作りです。

図解も作り方も詳細にされてたので、当時の市販ウキは充分じゃなかったんですねぇ。
今の時代の我々は本当に恵まれています。感謝しなきゃ。

↓磯釣りではノベ竿に頑丈な糸、麦わら帽子に徒歩という豪快さ。

 =ノベ竿かついで磯には歩いていく!!!

毛鉤は今と変わってない。右の図は巨大なメジナ用ウキの作り方↓

 =私の下手な手書きイラスト並!?



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