サカナの行動学~File.9 | ウキ袋の性能が警戒心と関連してるって!? | コイなどを飼っていて水槽内の酸素が無くなってくるとアップアップ(鼻あげ)をします。 しかし、海水魚はアップアップをしません。何故でしょうか? 海には豊富な酸素があるために、アップアップをして酸素を補給する習性が無いのですね。 ↑海の科学冒頭より 前回は走流性(生得的行動というもののひとつ)を専門用語を使わず、 最先端の研究と私の考えを簡単に取り込みながらお話致しました。 他にも寄せ餌を撒くと寄ってくる行動を走化性と言ったり、 角を立てて障害物に引っかかって休むカハワギなどの行動は走触性であり、 多くの方がご存知の光によってくる走光性も水温によって反応が違うなど、 専門用語を使っていないだけで普通に見える解説に さりげなく取り入れていますので実は苦労していたりします。 生物の走性とは? 生き物には「生得的行動」というものがあります。以下の4つがソレ。 走流性・・・流れに対して向かう(正の走性)とか避ける(負)とかの反応。 走化性・・・科学物質に反応する、寄せ餌をまくと寄ってくる行動とか逃げるとか。 走触性・・・障害物に引っかかって休むとかの反応。 走光性・・・光によってきたり逃げたりする。水温によって反応が違ったり(魚)。 一方"学習"は生物学的用語で「獲得的行動」といいます。 たまには専門用語を使わないとね。 コンビニなんかで夏、バチバチ言ってるのは世間に1番知られている走光性。 光りに寄る昆虫の習性を利用したもの。一方、走化性は一般には全く知られてないですネ。 女の娘に寄ってばかりのキミ、走性のジャンルを変え給え(走触性はチカンだったりして)。 | 当連載のテーマ「サカナの行動学」は学習にスポットライトを当てていますが、 学習は生物学的用語で獲得的行動といいます。 走性を学習で乗り越えているのを研究するのはタンパク資源確保に重要。 それにしても寒くなってきましたね。 海の季節・水温は陸上より1ヶ月遅れとはいうものの、いよいよ冬将軍の到来です。 釣り人の休日はコタツでミカンを食いながら昔の爆釣写真を取りだし思い出を懐古したり、 雑誌のバックナンバーを出してきて読みなおしたり、図鑑で対象魚を紐解いたり …と同時に、秘蔵のビデオを繰り返し観賞する方もいらっしゃる事でしょう。 アクアリウムで釣魚を飼育している方はエサをやりながら、 釣った時の”水中でギラッと輝く”を思い出して悦に浸ったりするかもしれませんね。 天変地異!? 2006年11月18日から北海道・知床半島に何万匹ものサンマが押し寄せ砂浜へ打上げられたり、 又は漁港防波堤内へ殺到、釣り人が「釣れ過ぎて困っちゃうな」というニュースがありました。 68年間住んでいて初めて見たという住人筆頭に珍しい現象だったようで22日以降全国ニュース化。 最初、一般意見としてカマイルカ、シャチや巨大サメなどに追われて浜へ殺到したと解釈されましたが、 後に水産試験場などの専門家が「急に発達した寒流によって追いやられたと考えられる」と。 「何ソレ、そんな事でこんな異常な事が……納得出来ないよ。天変地異の予兆じゃ?」と、 私へも同僚から質問が来ていました。 北海道知床といえば11月下旬より数℃に近い水温となりますから、 それよりやや温度の高い水を好むサンマが南部へ移動する前に、 周りを激しく冷たい水に囲まれてしまったので逃げ場がなくなったというのが、もっぱらの解説。 サンマ以外が打上げられたりしていない所に注目しますと、 生物は”より住み易い場所へ移動する”お約束ですから、その専門家の解説は正しいです。 湖沼でも低温の層(躍層=やくそう)が張り出してきたら湖岸で爆釣しますからネ。 ところで知床漁協ではサンマを取り扱っていないので漁協としては回収しないそうで、 死骸は満潮⇒干潮で海へ再度帰り、フィッシュイーター達に消費されそうです (陸水=湖沼河川=で起きる魚大量死と違って回収しなくてもいいのだ)。  | 前紹介した海や湖の冷水塊(躍層)。 ↑湖の科学より これの動きによって釣果も変わるよ。 躍層を挟んで対流が上と下で起きてますが、 水の交流が少ない為、温度の安定度も違う。 泳いでいる時、上昇してきた冷水塊に足が触れ、 「うわっ!!!めちゃ冷たい」という時のイメージ!? ◎夏は水深7-8mにあるケースも多い。 上部は貧酸素になりがちなので、 岸辺の魚や貝に影響を与えます。 また、海水浴・湖での遊泳中に遭遇し、 足の筋肉のマヒで溺れたり、心臓マヒになって、 最悪のパターンを迎えることも。 特に湖の方が温度差がキツイようですから、 遊泳は気をつけるように強く指導されます。 | しかし地震や地球温暖化が原因にせよ滅多に起きない事が最近はよく起きますねぇ、心配です。 ウキ袋の重要性 さて、釣り人と同様に魚も冬支度です。 魚達は対流があり温度変化・降下の激しい上層部を嫌って深い海へ移動して行きますが、 ふと思えば、我々は潜っても直ぐに水面上へ押し上げられます。 子供の頃、夏、水中へ潜った記憶は誰にも有る事でしょう。嗚呼、懐かしい幼少の想い出。 何を勿体つけて当たり前の話をしているかといいますと、生物のウキ袋の話です。 人間が浮くのは肺に空気が一杯入っているからで、体自身に浮力があるわけではありません。 ”水を飲んで溺れる”というのは肺に水を入れてしまうことですから体は沈んでしまいます。 魚が深い海に移動できて平気なのは、ウキ袋を調整し、 海の深さと微妙に吊り合わせて浮いているからですが、ここまでは周知の知識です。 ここはコタツに入りながら磯投げ情報を読むというイメージで話をしましょう。 ウキ袋は2種ある ウキ袋って何から出来ているのかといいますと、簡単にいえば胃からです。 胃は消化するだけ、栄養吸収は腸とその入口に陣取る幽門垂(ゆうもんすい)です。 コイの仲間、サケ、ニシンなどの種目では有気管ウキ袋、スズキ目では無気管ウキ袋。 食道(のど)と繋がっているのが有気管、繋がっていないのが無気管ウキ袋です。 いや、この辺りの専門用語は覚える必要はありません。へぇって程度で。  | ←有気管ウキ袋 どうして違いがあるのか? それは本文を参照下さい。 | ←無気管ウキ袋 取り囲む毛細血管から 気体を滲ませ溜める。 | シマイサキやカサゴなどは釣ると音を出しますが、それはウキ袋を動かして出します。 トレビアとしては淡水のコイ・ナマズ類のウキ袋はウェーバー器官(これも覚えなくても可)という 聴覚を司るものと連動し、振動のキャッチを更に良くしている事。外敵を感知する為に進化しています。 ▲ウェーバー器官(Weberian apparatus): 真骨魚類ネズミギス目と骨ぴょう上目の浮き袋と内耳を関連させる受容増幅器官。 この器官を持つ魚類は聴機能に優れていると推測されるが、扱い説明が難しいので省略。 ウキ袋の横にある脊椎骨の最前部の4個が変形。ウェーバーの小骨とも言ったりする。 ←浮き袋 ←イシダイ失敗 以前の記事で書きましたが「コイ(などの賢い魚)は飼主を覚える」と言いまして、 この飛びぬけた聴覚能力のおかげです。 手を叩いたり、呼んだりするのに反応するわけではなく、 飼主=餌をくれる=に慣れ、微妙な足音で学習し飼主を判別しているのです。 つまりウキ袋の発達具合でも、各魚の警戒レベルが推測できるのですが、 体重や筋肉量以外に、勢い良く深場へ潜ったりの締め込みの強さも、 ウキ袋のシッカリした調整能力が関わっています。 トーナメントで優勝を狙っているような方々や特にディープな釣り人、 はたまたメーカーのフィールドテスターさんなら、 より対象魚の釣果を求めて大学図書館(水産科学に強い)大学などで 解剖学の本を詳しく紐解いてみるのも大いに役立つと思います。面倒ですが(おっと) 餌付けのスピードは聴覚に連動するウキ袋の差? 12月号を是非、思い出して頂きたいのですが、さりげな~く触れた「淡水魚より警戒心が薄い海水魚」。 あのエサ取り君たちを釣ってからその日に入れた水槽で1日で餌付け出来るというくだり。 ヤマメやイワナでは中々餌付けが難しいというのは、 個人的にこれらが好きだから比較材料で原稿に入れたわけではありません。 今回の解説通り、エサ取り達は聴覚に連動したウキ袋を持っていません。 一方のヤマメの降海型サクラマスやサケに至っては水族館でも餌付け不可。 展示室の遡上魚達は冬には死んでしまうほどでした。 これらは聴覚に連動したウキ袋を持っています。 警戒心とウキ袋が関連していると考えても差し支えないと思っています。 北半球の淡水世界を制したコイ目、重要なタンパク資源のサケ目、海を制したスズキ目。 淡水魚・海水魚と分けるのではなく、魚って奥が深いですよね。 ウキ袋の無い魚など この広い世界にはウキ袋の無い魚がいまして、といっても誰もが知ってる代表魚・サメ。 ウキ袋の代わりに浮き沈みは肝臓を使っています。 サメの肝臓は大変でかくて体の3分の1ほどを占める巨大さでして、 TVのコマーシャルなどで見たことがあると思いますが、そこから採取される肝油は健康食品 (本当に万人に効果があるかわかりませんが)空気の代わりを肝油がしています。 その特別な肝油を専門用語でいうとスクアラン。 うむ、たまには専門用語を入れないとイメージ的に 工夫してない手抜き雑文に見られてしまう事がありますからね(←お~い)。 サメといえば水の流れのない所では泳ぎを止めると沈んで死んでしまいます。 エラに発達した蓋がなく、自ら呼吸が強く出来ないんですよね。 全長4mを超えると主な食性が魚からアザラシなどの哺乳類に変わるようです (もちジンベイザメのようなプランクトン食のサメは10mになっても哺乳類食わない)。 白血病や悪性腫瘍(ガン)にならないらしいのも特徴的。謎多き魚がサメです。 低生性の魚や無顎類(ヤツメウナギなど)にもウキ袋は有りません。 一方、ウキ袋の変わっているものの筆頭は生きた化石の代名詞であるシーラカンス。 1997年に亜種?がインドネシアで発見されました。 この魚、ウキ袋に空気はなくて脂肪で満たされています。 進化的には 軟骨魚類(サメ・エイ)⇒硬骨魚類(海水魚)⇒硬骨魚類(淡水魚)⇒両生類⇒爬虫類ですから、 サメは恐竜よりも前に出現してます。そう、意外にもトッテモ古い魚なのです。 その辺の他称”生きた化石”であるアマゾン川のアロワナなんかは、 実はクロダイあたりより新いとも言えます。 淡水魚は海から淡水に入る為に浸透圧をカバーする臓器=腎臓が発達してますから。 冒頭の「アップアップをする淡水魚しない海水魚」の意味も、 酸素の豊富な海から夏になって酸素の減る湖沼へ進出した魚が、 無気管ウキ袋から有気管のものに進化して獲得した成果といえるわけ。 まぁ幻の生きた化石の王様といえば、昨晩も何処かで誰かに叩き潰されているゴキブリ君ですが。  | シュモクサメの頭。 この形って視覚についてどう優位なんでしょ? 進化の謎です。 | トンカチ頭のシュモクザメ(ハンマーヘッドシャーク)の異様な頭は進化的に良く分かりませんし、 先に出した悪性腫瘍系にかからないサメの秘密を探る研究など、 古い魚には医学的に有用な余地がたくさん残ってます。 しかし、こういったことを研究している多くの所が規模的に小さいのですが、 もっとお金がいけばいいのにと個人的に思っています。 税金無駄使いのように変な所ばかりにお金が行きまくっているからでしょうか。 う~む。まぁローマ帝国時代から同じようなものなのかもしれませんけど。 ←人間と同様、腹部は複雑です。 イカの浮遊 ところでイカも釣りでは人気の獲物ですが、イカ君はウキ袋のような複雑組織はなく、 体液に比重の軽いもの、重いものを配して海水と吊り合っています。 超巨大で有名なダイオウイカは1,000m~2,000mの深海エリアに潜み、 体内のアンモニアでバランスを取って浮遊していますが、 その為に臭くて食べるとマズイそうです。 生物の絶滅要因の大きなものに美味しいかどうかがあげられます。 シーラカンスも不味いので絶滅を免れたと言っても過言ではないでしょう!!! そして生物を考えるのに重要な要素が3つあります。食性・睡眠・生殖=生物の3大欲。 釣り人は魚の食性については非常に勉強していると思います。 エサの種類、食い始める時間=潮止まり、上げ3分、大潮…など。 しかし睡眠や生殖はどうでしょう? 例えば堤防や海岸にクラゲがやたら多く浮遊していたら、 いずれある魚が大漁に出現する可能性が高いです。 ある魚とはアジやカワハギなどで、特に日本海の迷惑クラゲであるエチゼンとアジは 共存共栄どころかアジの成長までエチゼンが助けているとの最近の研究があります。 食物連鎖は生物を取り扱う時には必須ですし、結構役立ちますので、 当連載では多く取り入れて解説しています。みなさん、気づいてくださってました? ところで何故かウキ袋の記事に力を入れてしまいましたが、 それは私がウキ袋の不治の病”転覆病”の治療法確立をした研究者の一人だったから(驚?) では皆さん、ここで合言葉を覚えましょう。 ハイ!!! 「食う・寝る・エッチ」 (←食性・睡眠・生殖)削除対象真っ先候補(笑 そういえば、運営しているサイトを通じて、今まで様々なメールや書き込みを頂いてますが、 自分の書く記事に対して大きな反響があっても、少々鈍感になってしまっていました。 ところが本誌12月号”おまつり倶楽部”で高山さんの当連載への感想投稿を拝見しました所、 目頭が熱く!!!(私信にて失礼しました) 臓器繋がりでひとつ。胆のうは潰さない事!!! 料理をした時、不味くて食べられたものじゃない!!!という結果に終わる事ってありませんか? 特に料理にからきし弱いお父さん釣り師たち。実は私も釣友もよく失敗していました。 エラブタから少し胸鰭へ行った所の内蔵に有る胆嚢(たんのう)を潰しているのです。 黒くて苦玉とも云う恐るべき生臭さを発揮する臓器です。 臭いの弱い魚もいますが、多くは結構キツイですから、 3枚に卸すなどハラワタを取り出す際、くれぐれも潰さないようお気を付けを。  | ←胆のう。苦玉。黒い玉がソレです。 3枚に卸し中、失敗して潰すと涙が。 生臭さで美味しい鮮度も台無し。 (写真画素数そのままです。) | 次回は深海魚がなんと数メートルの深さに棲んでいるという海域を中心に紹介します。 魚達の学習能力の賜物、究極の慣れなのか、不思議ですよね、乞うご期待。 戻る← 表紙 ⇒その10(深海魚が浅瀬に住む不思議な生活圏) |