教えられるのはす瞬間で終わる。
しかし、それを導き出すまでの先人・研究者の苦労を感じてください。

湖と海を勘違いするサケマスやアユ。そのキッカケとは?アレだった。

「淡水と海水の世界の違い」の続き。海と湖を勘違いする生物がいる。
そのキッカケは意外なもの。例えば降湖型のサクラマスやキングサーモンからアユまで。
塩分を感知して浸透圧差を克服する塩類細胞の働きとは全く別に、
純淡水湖なのにもかかわらず、体まで作り変えてしまうキッカケがあった!!!

これぞ人間の知恵と工夫、当時の科学者から現代まで続いている養殖技術の超基本、
まさに純粋な気持ちから発想された王道の実験をご紹介。

序章

暖かい陽気に導かれ、私は何時の間にか寝ていた。”私”とはここを今読んでる読者さん、貴方。
ふと私は自分が何処にいるか分からなかった。どうやら暫く気絶していたらしい。

輝く太陽、白い砂浜、蒼く透き通った水に水平線が見える、そこが今居る場所だった。
周りを見渡せば、船が係留されている港と防波堤で、仲良く釣り糸を垂らすファミリーがいる。
頭を回し逆方面を見ると、そこは岩場になっており、絶好の磯のようだった。
当然、そこかしこに釣り人たちが竿を出しているのが見える。

エサ釣り師はベテランの服装で、防波堤や砂浜でルアーを投げてる女の子の服もバッチリだ。
沖を見れば漁師が操る小船や、釣り人やレジャーのモーターボート、大きな観光船も見え、
遠く沖合いから近い場所で、いつものように魚が跳ねている。
中には大物が跳ねているのかドボンという重量感まで響いてくるようだった。

穏やかな波が打ち寄せ、横たわっていた砂浜から手をポンポンと叩き砂を払って立ち上がる。
好い感じで自然の尊さを直に感じるシチュエーションであった。私は気分が良くなり呟いた。

「ウキフカセでもやるか」…防波堤ではサビキをしている人が大多数で、ルアーを投げる人もメイン。
サビキとルアーの釣り人達を見ると、服装はバッチリなのにヘチ攻めする人がおらず、
オキアミを敷いてクロダイや巨メジナ、あわよくばイシダイがザックザクと夢見た。
防波堤の波打ち際にはフナムシがビッシリついてるほど、エサが豊富なので大物がいけるはず。

車からコマセと喰わせエサ、タックル一式を取り出し、早速防波堤でやり始めた。
しかし、ウキはピクリともせず、なんだかコマセを敷くたびに魚が逃げてるような気がする。
「おかしいな」と呟いた時、大きな締め込みとともに引っ張られた。ボラかと思ったが、重量感が違う。

浮いてきた魚はコイっ!!!ポイントの近くで魚が跳ねた。それはフナっ!!!そう、ここは湖だった。
しかも、防波堤の波打ち際にフナムシがビッシリついてたのは、あろうことかゴキブリだった(失礼)。

=海と思うことなかれ

海と湖を勘違い

このように、海と湖を勘違いしてしまうことはありえます。
水を舐めれば塩っ辛くないので直ぐ分かる、しかしながら、塩分という浸透圧を大きく異ならせる、
淡水と海水を分ける重要ファクターを抜かせば、これほど似ているのも凄い世界です。

人間ですらこうなのに、魚にとっては勘違いするのも出てくるのが普通、今回はそのお話です。

海と勘違いしている代表的なのは、例えば降湖型のヤマメがいます。
海に降りたサクラマスのように、銀色の大きな体躯となり、幼魚班(パーマーク)も消えます。
同じようにベニザケからキングサーモンまで幅広く世界中の湖で勘違いが行われていまして、
日本最大の湖として有名な琵琶湖ではアユまで勘違いしております。

全般的に湖に降りるとサケ科はデカくなる、と思って頂いて差し支えないのですが、
アユは違ってキュウリウオ科なので、趣が違ってきます。
彼等は海では小さく、河川に入ってコケを飽食し大きくなるので、湖では小さいまま産卵してます。
通称「コアユ」と言って、新聞で出てると「子アユ」と勘違いしますが、区別されています。

小さいままのアユ、巨大化するヤマメ。まさに海に棲んでいるときの体。

さて、そんな風に湖が海の役割をして、魚界では擬似降海型を生む異質世界になっております。
海と川を行き来する塩分を感知して浸透圧差を克服する塩類細胞の働き(3月号参照)とは別に、
純淡水湖なのにもかかわらず、海用に体まで作り変えてしまうキッカケとは一体全体なんでしょうか。

ヤマメ 降海型 降湖型 陸封型
大きさ 50cm~サクラマス 30cm~サクラマス 20cm~産卵可
身肉 橙~赤 白~橙
水質 海水 淡水 淡水
体色 白銀 白銀 パーマークあり

知らない人向けに、サケ科の魚であるヤマメを例にします。降湖型は、擬似降海型とも言います。
表が出てくると、急に難しそうに思えるのは欠点ですね。スミマセン。

海と湖の共通点を探せ!!!

海と湖、この二つは序章で書いた通り、風景は良く似ていて、主な違いは、水が塩辛いかどうか。
人間ですら、湖には船が係留されてる港はあるし、防波堤に磯みたいな岩場もあり勘違いする、
では、魚も風景で勘違いしてるのでしょうか?いや、それは否であります。

魚の目は水中でピントが合わせれるように出来ていまして、煮魚料理の時にあるコロンとした白い球、
それがレンズであり、水面から飛び跳ねたって空気中ではピントが合わず、釣り人も判別できません。
逆に人間では、水中ではボヤボヤ、これらは光の屈折率のせいで起きます。
人間は、水中メガネと云う発明品で初めて見れますが、魚は発明品が無いので無理。

ここで、頭を悩まします。風景が海湖の違いを出していないのなら、何がそうさせているのか。
魚はどうして湖を海と勘違いするのか?どうして勘違いしなければならないのか?神のおぼしめしか?

まず研究者は、海と湖の違いの筆頭である塩分を研究施設で再現し、水槽で飼育しました。
当時、まだ海と川を行き来する為に必要な塩類細胞が発見されておらず、それでも飼育は可能でした。
淡水で陸封型のヤマメを飼育し、海水でも降海型のヤマメが飼育できるようになりました。
しかし、これは当然。趣旨は淡水の湖で降海型が出てくる秘密を探ることです。

(補填うんちく)水産試験場の研究員、水族館の学芸員、アマチュア研究家
組織で働く研究員は「いい研究結果が出そうになると人事異動があって実験が続けられなかった」、
こんな話をよく聞きますが、実際、普通に起きます。特に公的機関に多いのが特徴でしょうか。
結果を出すと予算上の問題点があるからかもしれませんね。
そういうことで自腹でも続けようというのが私を含めた研究家です。
我流ばかりのトンデモな人は少なく、実際、過去に何らかの研究に携わってた人が大多数です。
純粋な趣味で行いたいという希望の人も増えてますが、理科系の方法論=科学的手法が必須で、
大学などで施設を(分光器やオートクレーブから培養器までは当然として)借りられる人脈が無いと、
結構、厳しいです。純粋に頼むだけだと細胞の培養だけで約20万円。自分でやれないと資金も大変。
正当科学の研究家というのは、UFO研究家のように分析を主にする”研究家”とは
根本的に違いますので混同しないようにして下さいね☆
只、アクアリウムなどで上達した人が、本を読んで好きにやるのは勉強になりますしオススメです。

湖って何だろう。そもそも湖は水深5m以上のものを指し、3m以内は池や沼です。水深が区別の基準。
人間は外見を重視するため、狭いエリアでは池と呼び、広いエリアなら湖と呼びがちです。
河川のクネクネ蛇行から取り残された3日月湖は殆どが池だし、大鳥池は水深が数十メートルなので湖、
コンゴのテレ湖は広いけど水深が2m程度なので沼になります。広さではなく深さで決めるとは一体なぜ?
ちなみに沼と池の違いは、水深3m以内で底全般に水草が生えてるのが沼であり生物相が豊富、
水深3m以内で底全般に水草が生えてないのが池。

分かり難いので、表にしてみましょう。

陸水区分 水深 底全般に水草があるか?
5m以上
3m以内 ×ほとんど生えてない。
3m以内 ○生えてる。
沼沢 1m以内

う~む、やっぱり分かり難いでしょうか。しかも、今回のテーマに関係なさげに見えます。
おや?とすると、降池型や降沼型というものも居ないのでしょうか。ここでピンと来く人もいらっしゃるでしょう。
そう、何故か湖にだけ発生する降湖型。降型や降型はいません。

表の違いからすると水深5m、これに注目しますと、水圧が頭に浮かびます。
我々の住んでいる世界は圧力に支配されている世界ですからね。
お茶を入れる際に水を加熱すれば100度で沸騰するのは常識ですし、
エベレストでは0.3気圧なので73℃で沸騰します。水深100mでは水は180℃で沸点に達し、
1000mの深海ならば、312℃まで熱を加えないといけません。この違いは大きいです。
(これは過去に超臨界水で使ったネタですが、覚えてた読者さんはエライ!!!)。

水圧という視点から、飼育水に湖の水深5mの圧力レベルである5気圧をかけた水槽で飼育すると…、
見事海水魚に変身だぁ~~と行きたいところ、ところがどっこい、結論から先に述べれば、
何も変わりませんでした(ガッカリ)。圧力は関係なかったことが分かりました。

初心に戻るべし

これらの実験は私自身が後追い実験をしていたもので、思考の動きも私自身。
今回のために、昔の資料を引っ張り出してきました。ワープロ(当時)の文章から英文にしたもの、
論文形式から公式発表用の原稿まで、見事にめちゃめちゃ。その中でも目を引いたのは、
清書をしていない殴り書きの実験思考・企画メモですが、妙に愛着が湧くから面白いです。

そんなものの1つをお見せしましょう。皆さんからしてみれば「へぇ」って程度。

=別に重要資料じゃありません(たんなるメモ例です)。

どうも、そこそこキャリアが出るほど長期間実験をやっていますと、細かいことに注目しがちです。
ザトウクジラでは鳴き声が北方と南方で違い、又、太平洋と大西洋でも違う方言だそうですが、
こんな細かいことに心を奪われると、覚えようとしても限が無く、ヘタを打ってしまえば、
何が重要なのか気がつかず、みすみす発見を取りこぼす事すらあります。

情報が氾濫する現代社会において、何が重要なのか、選択するのもその人の手腕ですが、
私も時々混乱することがあり、そう云う時には「初心に戻るべし」を実践しています。
今回のように、湖と海の共通点を探すなんて、ボ~っとしていれば答えが出ないほど、
また、どこかにある資料を繰ったとしても、あまりに細分化され、何が考察の助けになるのか、
ヒントが何かすら分からなくなってしまうこともあります。

例えばヤマメの湖沼型と降海型の違いを科学的に述べてる渓流誌は、日本どころか世界各国を含め、
確認した限り無かったと思います。磯投げ情報で紹介するというのも変かもしれませんが、
でも、海釣り師なのにも関わらず、渓魚に深い知識があるのは差別化の第一歩。モテるかもよ(嘘)。

初公開か、降湖型と降海型の科学的違い

まず渓流誌で書かれているのは、ヤマメの身肉が赤くなるとか、ならないでの区別。
海へ降りると身が赤くなるという説です。これは、アスタキサンチンやカロチノイドという物質のせいで、
渓流の川虫から南極オキアミまで、エサとなるものに含まれていますから間違いです。

また、大きさや外見では、ヒレが降湖型は貧弱だというもの程度で紹介されてますが、
これも厳密には科学的な区別ではなく、主観のレベルです。”ウロコが見える”程度も同様だ。

湖には海にいるようなオキアミがいません。
最大6センチにもなるスーパーサイズのオキアミは赤道から極まで棲み、ソレを飽食した魚もでかい。
湖ではプランクトンが豊富としても、サイズは細かく微小なので海で育つ魚ほど大きくなりません。
降湖型のサクラマスが降海型より小さいのはこの為ですが、海と湖の違いであっても、
科学ではないです。

これらでは、湖産なのか海産なのか、漁獲されて店頭に並べば偽装がし放題。
結果、ハッキリ分かるのはエラの付け根に陣取る塩類細胞の量の差のみ、
現代では、これが唯一の科学的分類と考えています。

ところで、淡水エビを飽食してるという可能性から、エサにして釣ってみたら釣れた…という、
私の秘蔵話までしたいですが、こういう余談が、重要テーマを忘れさせる前兆です。いけない、イケナイ。
(生きエビをエサにすると他魚は興味を持たず、選択的にサクラ・サツキマスを狙える)

勘違いするキッカケが判明、それは

港や船という風景の違いではなく、水圧でもない。すると湖と海を同一視するのは何が残ってるでしょうか。
魚が口を聞ければ簡単なのでしょうが、残りの要素を初心に戻って思い出してみましょう。
それは、輝く太陽、白い砂浜、蒼く透き通った水……そう、砂浜で寝転んでいた時に想った一文。

共通するのは「蒼」。つまり青色。もったいぶった割にソレだけか!!!と思わないで下さい。
そこで、研究者等は水槽の壁を青く塗り、または青いシールを貼って、淡水で飼育ししみました。
飼育するのはヤマメでもいいでしょう。すると、成長段階でスモルト(銀毛=海に適する体)になりました。

なんと、あれこれと考えてきた割に、単純な青色という違いだけだったのです。
これにはショックでしたが、現代、サツキマスを増やす為に編み出されたこの方法は、
ヤマメの降海型サクラマスを増やす大目的として国が音頭を取り技術者へ広がっていきました。
現在は日本全国だけじゃなく、海外でも”青色水槽”が多く使われるようになっています。

つまり渓流で生まれたヤマメは川を下り、海へ入って塩類細胞の働きで浸透圧の違いを克服する。
キッカケは上流で感じた青色のせいであり、青色を感じなければ陸封型のまま河川に留まる。

あれ、ちょっと違うな、変です。孵化~の時期、渓流では、雪が降り、岩ばかりなので、青くないです。
どちらかといえば白黒の世界じゃないですか。しかも、青色を感じるのは海に入ってからだもんね。
人工的に飼育する分にはクリアーした結果だったのに、自然界ではちょっと違って見えます。
まぁ、ここは渓流誌ではないので、ヤマメやイワナやアユにターゲットを絞って突っ込むのは置いておき、
湖と海を同一視する条件は青色である、ということに注目しなおします。

←ベテラン・ダイバー友人かずお撮影。蒼さか…(白黒項だが)

池や沼では起きない何故

渓流で青色を感じることは無いのじゃないか、それに気付いた際、残った部分は水そのものです。
水深5m以上が湖と設定された陸水の区分け表を思い出してください。

水深5m以上あれば水が青く見える、一部の魚が海と勘違いする青色の光が水中にある。
それを”湖”としよう、他は勘違いしないから3m以内にし、池や沼と呼ぼう。
(ここで、4mの陸水は何て呼ぶのですか?というのは繰り返されたのですがグレーゾ-ンなだけ)。

これです!!!

池や沼と区分するため、水深と水草しか条件に入っていないのは何故か、
大鳥池やテレ湖のように広さとか重視するのが一般人だし、行政だってイメージでネーミングしています。
一般人と掛け離れた感性があるのは、なにも政治家や大企業だけではなく、科学の世界も同様。
陸水仕分ではネガティブなことではなく科学で示されている区分なわけですが、本当に知られてません。

こうして区分の根拠が解って来ました。
これぞ人間の知恵と工夫、当時の科学者から現代まで続いている科学思考姿勢の超基本かなと、
まさに純粋な気持ちから発想された王道です。まぁ、トリビアでもなんでもないですが。

さて、様々な研究を行う人々は、時に無駄な実験もしないといけません。
日照時間を24時間にしたらどうなるのか、ずっと暗闇で飼育したらどうなるのか(洞窟バージョン)、
…なんてのもやるわけですが、そういう実験から不思議な生態が分かったりします。

渓流で青色を感じることが少ないという部分では、私の「致死経験で降海型になった実験」という、
実は失敗した実験から導いた偶然の銀毛化、これは中部の読売新聞に載りましたがラッキーでしたね。
生殖腺の発達具合やイクラ(卵巣)を標準より大きくするのはDNA操作以外ではないのか?等、
手間は掛かるけど、少しづつでも進んでいる自分が嬉しかった。
サケ科っていうのは、そもそも進化の途中にある魚種ですから、面白いものを沢山持ってます。

それにしても、青色の色彩刺激または致死経験で海と勘違いする資質を持つとは面白いです。
マスやイワナ、アユなどのサケ目に属する淡水魚は、大なり小なり反応するのでしょうが、
海へ降りたりすることが分かっているだけに、変化の見分けがつきやすいと思われます。
では、他の淡水魚はどうでしょうか。目には見えない変化でも起きてるかもしれませんね。

あ、でも、海を知らない淡水魚なら、そもそも湖を海と勘違いすること自体が無いとも言えます。
当然、体が変化することはないでしょうね。海をDNAが知ってないといけませんから。

海水魚ならどうでしょう。湖で飼育すれば、海と勘違いして大丈夫だったりしたりして。
いや、こういう場合は塩分濃度の違いである浸透圧差で死んでしまうでしょう。
殆ど定着は不可能と思われます。数日なら耐えれるだけで、迷い込んでも×です。
生粋の淡水魚と同様、淡水を知らない海水魚では体を作り変えること自体がないですからね。

有名渓流師どころか研究者ですら知識に差があるので、足の引っ張り合いをするのではなく、
お互いが協力して知識を高めようという姿勢で、釣り業界を盛んにしていきたいものだと痛感します。

3月号の「塩類細胞の働き」や今月号の「青色」だけでも、海や河川湖沼が密接な関係であり、
クロダイなんかは色彩感覚が無いからどうなんだろうとか、汽水域のクロダイと磯のでは違いはあるのか、
…などと、関係ない世界の話ではないです。面白いものなんだと思っていただけたら幸いです。

魚だって、人間と同じく、様々な自然界のファクターが影響しあい、生活しているんですね。
それにしても、湖と海の共通点が青色だけだっただなんて、複雑に考えるだけでなく、
素直に単純なことが重要であると思わされるものですよね。それでは、また次回。

=これは海。佐久間撮影。

<今月の言いたい放題>極限に棲む魚たち

-2度の場所に棲む魚とか、深海の貧酸素エリアに棲む魚がいます。
こういう極限の場所でも、魚たちは特殊なシステムを持って耐えています。
将来、私たちの環境が激変し、そういう魚を釣り対象にしなければならなくなったりしそうですが、
温暖化が進めば、電動リールでヘラブナを狙うオヤジさんが続出するかもしれません。

極限の場所。例えば温暖な湖で発生する躍層の下は微々たる酸素しか溶け込んでいません。
多くの誤解は「海の底のように深海魚みたいなものが棲んでいる」というものですが、
10m以深で魚類が居なくなる湖まで存在しています。
対流は躍層が出来ない4℃以下の湖から始まりますので、冷水湖は魚介類が豊富といえます。

海を観察すると、同じような酸素欠乏のエリアが多くあることが分かってきますが、
特に深海では酸素欠乏部分が多く、それを克服する深海魚の呼吸システムは変わっています。
深海サメの宣伝でメジャーになったかスクアレン(スクワレン)を利用する魚たち。

スクワレンが、貧酸素状態のエリアで巨大な体躯を生かすことが出来るのか、
深海魚ならではの生存システムに、その秘密があります。
彼等は肝臓に大量のスクアレンを持ち、無酸素に近いエリアでも何とか生き延びることが出来ます。

まずスクワレンというものは、ステロイド骨格の中間体、不飽和炭化水素という不安定な物質であり、
水素と結びつくため水と反応、その結果、酸素を発生させるという面白い物質です。

スクアレンの
酸素供給の流れ
C30H50    +    H2Ox6   ⇒   C30H62 + O2X3
不飽和炭化水素   6つの水             3つの酸素

スクワレンを科学的に安定させたのが「スクワラン」と呼びますが、
ただですら混乱するだけでしょうから、こちらは詳しい解説を省きましてスルーしてください。
重要なのは、その出した酸素を取り込めば貧酸素のエリアでも好いという、
非常に都合主義的アイテム、言い換えればスーパー逆転が少なからずありだという事。
現にスクアレンをタップリと持つ深海アイザメなどがいますし、
実際、少しだけならば我々人間はじめ、多くの動物が持ってます。

人間など哺乳類ではリンパ節、骨髄、副腎、肝臓など免疫担当細胞、皮脂などに広く薄く分布し、
確かに生体防御を高めるかもしれませんが、飲んだとしても、すぐにステロイドに転化される為、
体内での存在量は少ないです。つまり、栄養食品ならOKでも、病気に効くなど効果があるかは別。
(メーカーさん、ごめんなさいシリーズですね)。

更に別の極めつきの魚では、-2度のエリアに棲んでいる種類がいます。
これは「へぇ~」ではなく驚愕・震撼級。マイナス度というのは水が凍る温度0℃以下なわけですが、
通常は、こうしたエリアに棲める魚はいません。
凍れば体内の水分も氷化、体積が大きくなるので細胞単位から破壊されるのが普通だからです。
皆さんもご存知な氷が浮く理屈ですね。「何で凍らないんだ!!!」と議論が出るのが普通。

その理由はどうやら体の中にある特殊なタンパク質が凍りかける水の結晶を取り込んで
体を凍らせないようにしているとか。このように、非常にバラエティに富む魚のシステムを学べば、
いや、知れば知るほど、その広さにビックリしてしまいますよね。



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