冷水病cold water disease最新治療情報 |
3日で全滅の疾病、導入序章
日本の淡水域で重要な水産資源、タンパク源として重宝されているのは、
読者さんもご存知のアユ、サケ科(ヤマメや岩魚、ニジマスなど)、そしてウナギがあります。
戦前からは真ゴイも主流であり、山間の人々にとっては、これまた重要なタンパク源でした。
これらの中で、近年、ウナギの輸入が規制され、特にヨーロッパウナギの制限は、
TVマスコミでも騒がれましたので記憶のある方も多いことでしょう。
もっとも、天然のウナギとして河川で漁獲されても、すでにヨーロッパウナギの養殖個体が
生け簀から台風等での災害時逃亡により、日本特有の個体と交わって近海にはウヨウヨいます。
違いは外見で判別できないため、DNA鑑定で調べますが、こういった現状をお話するのは、
(私が)ウナギを好きだからという理由ではなく、アユも知られざる問題点が多くあるからです。
今回、アユの冷水病を解説するにあたりまして、ひょっとすると関連するかもしれない、
無関係に思える知識も入れ込んで、(本誌)読者さんにお伝えできればと思います。
私達の食卓に上るマグロの危機は「日本人が食いすぎ」とか「中国でも食い始めた」という
根拠もハッキリとし、資源確保の必要性からも仕方がないところ。
コイは数年前に大パニックを起こした琵琶湖産「コイヘルペス」があったのを思い出してください。
2003年ごろから広がり注目されたように、恐ろしい程の広がりを見せる時があります。
発端の霞ヶ浦から、なんと広大な琵琶湖まで広まったのは、キャッチアンドリリースとは違う、
放流について何か考えさせられる事例ではありませんか。
そこで、ウナギやコイよりも幅広く漁業権を全国で指定された魚が読者ターゲットのアユ、
次に、シーズン毎か、重ねて釣られる人も多いであろうサケ科魚類のヤマメには、
釣魚として釣り人が漁獲し消費する量を超えるほどの資源減少を起こす大問題があります。
「それは河川の工事でしょ?」、「ああ、山間部の開発問題だ」、「みんな甘いな、ダム工事だよ」。
こんな声が普通に聞こえますが、確かにそれらの問題もあります。
しかし、少し生態について詳しい方々なら”冷水病”をあげるケースを聞きます。
そう、これが一番大きな影響を与えている大問題の答えです。
時は遡る
渓流でヤマメを狙って釣っていると、雪が溶け、暖かくなって来た頃に小魚が石の周りを走り、
群れをなして遡ってくるのを肌で感じることができます。
その小さな魚たちはウグイやカワムツ、アブラハエの場合もありますが、多くは天然遡上の子アユ。
ヤマメのエサ仕掛けをチョンと放り込んでもスレ以外では掛かってこないのでタモを入れてもスルー。
そういうことで、渓流初心者の方からよく聞くのが、そんな風景の話であり、
「あの魚は何だろ?」という話題です。
ここを読まれている方々の多くは、一度や二度聞いたことがありませんか?または自ら発したことは?
しかし、そんな子鮎達を見かけなくなった河川が増え、琵琶湖産アユの放流が必須と成った昨今、
もうひとつの原因である河川護岸工事が問題として台頭してきました。
1950年代後半、盛んになった工事は、私の地元では長良川の護岸工事は1956年からですが、
台風が来ると一気に水かさが増し、小魚たちは石の影や繁茂する水草に隠れてたものの、
護岸工事のコンクリート斜め急深モデルによって一気に下流に流れていくようになりました。
そう、これでアユを放流しても一気に消えてなくなる、死活問題でした。
とはいえ、河川の氾濫により水に浸かってしまう市町村が出る問題と秤にかけ、
堰などに魚道を設ける事により共存を図りました。これが今現在の河川の状況です。
「そんなことは知っているよ」と、読者さんから余りにも基本知識にボヤかれてしまいそうですが、
こういう流れは、今回の”冷水病”のお話に繋がってくるから、再確認しておきたかったのです。
只単に冷水病の話をして、原因は何か、対策は何かを知ったところで、あんまり身になりません。
即行で忘れてしまうネタ情報みたいなものと同様に、大水に流される雑多な知識の一つですからね。
それでは、片手落ちになるってものです。はい。
魚の病気は身近なテーマ
背景をスラスラ読んで頂いたところで脳味噌もほぐれ、工事や渓流清流を思い起こしてくださった後、
いよいよの本題へ入ってまいりましょう。文章のそこかしこで出てきた病気の話です。
釣り糸を垂らしている時、先週とは魚の動きが違うとか、群れてる、追わないなど、
極端な例なら、つい2日前とはガラっと変わった動きを偏光グラスを通して観察できたり、
ポイントばかり探しているのではなく、環境を含めて洞察している方なら、
浮いている、弱ってるものを散見できたり……、こうした経験は誰しもあることでしょう。
大概「成魚放流をしたばかりか、やつらは馴染みが遅いな」とか「何処の放流ものだよ」とか、
「琵琶湖産はダメだな」、「水温上昇でコケが悪くてね」というありきたりな意見が聞こえてきます。
漁協側なら「雨が降り水温の変動かな」、「いえいえ、ここ1-2日だけがオカシイんですよ(多分)」
などと一歩冷静に模範解答で説明することでしょう。
確かに、それらは要素の可能性が有り、放流魚が流れに耐えられずに流されて下流へ、
魚が人工エサに馴れてしまってコケを食べず群れる傾向があったりも普通です。
もしも、これらが1980年代までなら「ごもっとも」と説明不要なのですが、
今からお話する生態変化を起こす原因に追加すべきことがありまして、
それは1990年ごろより日本全国に広がっていた
「速攻で魚を変化させ死滅に追いやる恐るべき外来の病気」です。
……と病気原因を上の項目に加えて上げれた人で30点です(驚嘘)。
30点というのは適当な作者の(おバカ)フィーリングなので気にされず放置してください。
さて、それで、外来の病気とは、どんな疾病なのでしょうか?
魚の病気というのは人間ほど細分化されていませんが、専門的に調べると、
非常にバラエティに富み、鳥インフルエンザと同様に、人間に感染するようになるかも?とか、
難しい専門用語の羅列の書籍や解説になりがちです。
そんな解説を読むのは専門家に任せ、釣り趣味の解説であるスペースで
深刻に展開するのもやぶかさでないですから、ここを読み物として、読み進めて下さい。
=アユの塩焼きに行き着く幸福感をいつまでも…(後述ヤナでの風景)。
まず魚の疾病には、もっとも良く見られる白点病や尾腐れ病があることはご存知でしょうか。
アクアリウム(水槽飼育)をする趣味の人も多いですから、容易に思い出せると思いますが、
分からない方は、60cm水槽のセットをホームセンターで買い(1万円以内でセットが買える)、
オイカワやウグイなど適当な小魚を、これまた適当に放り込んで餌をやりまくってください。
1週間もすれば、多分、実際に白点病は観察できます。
そんな状況で使用するのが水を青く染める色素材:メチレンブルーを主成分とする魚病薬たち。
しかし、注意書きがあります。「食材の魚には使用しないで下さい」エトセトラ。
そう、人間に悪影響を及ぼす可能性がある薬品は、アユなどの病気には使用できません。
これまた、関わってくるのでアクアリウムの話をしましたが、関係ないよと思われずに、
シッカリと付いてきて下さいね。
鋭い方は、この時点で「人間に悪影響を及ぼす治療薬しかないからアユの冷水病対策が難しいんだ」
という結論を導かれるかもしれませんね。常に水産系に興味を持ち、釣果向上の目的に飼育もし、
環境問題にも精通した方なら、飼育槽で水を悪くして飼育魚を全滅させたりを経験され、
生態に精通しているからこそ、治療薬のシビアな指摘をする傾向があります。
そうそう、最近の農薬混入冷凍食品の大問題も、魚を野菜などに変えただけで共通してますものね。
でも、実は、このレベルでも50点です(失礼、深い意味はございません)。
特別な強力破壊をもたらす疾病が出現
琵琶湖産のアユが、どうして日本全国の河川で必要になったかは、
ここまでで微妙に察してくださったと思いますが、知識で最初から知ってた方を含め、
これらの”同じ原種”を使う場合、その原種に問題が発生すればどうなるかも察知できます。
渓流にサケ科魚類が少なくなり、イワナやヤマメが全滅間近となった渓流危機の頃、
ニジマスの輸入養殖の成功に味をしめた界隈の方々は、ギンザケなども輸入し始めました。
ヤマメらの養殖技術も確立され、アユの長命バージョンである人工種の”3倍体”まで作れるほど
水産業界も進化してきました。急激な進化でした。
ニジマス養殖成功とアユなど3倍体 余談ですけど、ニジマスは水温が短期なら25度でも生きている高温に対応できるサケです。 ゆえに、養殖が一番早く成功して日本全国に広がりました。それが成功理由です。 ギンザケなども簡単に養殖できると思った当時でしたが、結局、長くかかりました。 尚、アユの三倍体は主にオトリアユや養殖食材用に成熟しない長命さで作出されました。 3倍体というと大きさをイメージしますが、大きくなるのではなく遺伝子の束が一つ多いだけ、 通常は2束なので2倍体、3つになると成熟しない性質が出てくるので、 そのエネルギーを成長に使えると考え、短命の原因である成熟を避けるメリットとしての技術。 アユはまだしも、ヤマメではメスが成熟せずサクラマスのように大きくなるので食材利用が主。 水族館の展示も同様で、死んでしまうのを防止する目的です。 ちなみにオスは成熟するので、河川放流は禁止しています。 誤解が多いですから念の為触れておきますと、遺伝子そのものはいじってないので、 3倍体といっても心配無用です。 そういえば、”サケ科”と呼ぶように種別科目の説明を念の為しておきます。 ヤマメ=「サケ目サケ科タイヘイヨウサケ属サクラマス種」。 アユ=「サケ目キュウリウオ科アユ属アユ種」。 ヤマトイワナ=「サケ目サケ科イワナ属ヤマトイワナ種」。 よく”族”と使って”サケ族”と呼ぶ人も多いですが、書く場合はサケの仲間達=族の意味なのか、 科目の表現の属なのか、注意され使い分けるとカッコイイです。特に釣りジャンルの著名人は。 |
一方、なぜかヨーロッパで1980年ごろに発生した”全滅させてしまう恐怖の大王”が登場、
先に出した有名な疾病である”尾腐れ病”やコイフナに多い水綿病に似た感じでありながら、
あっという間に生け簀の魚達を全滅させる病が出現してきました。
技術革新に沸く日本では、水産技術が全てを覆(くつがえ)す、
水産資源を支配できると勘違いしたのかはさておき、この病気までも輸入してしまいました。
=冷水病は各場所に出来るが、これだと尾腐れ病との区別が難。顕微鏡等で判断する。
過去にあった疾病をはるかに超える強力な病であるコレを、英文をそのまま訳した名前、
cold water disease=冷水病と名づけました。
エイズとか先に出したコイヘルペス、鳥インフルエンザなどの特徴をもたせた名前ではなく、
冷水病というネーミング、これゆえか、特別なものというより、他の疾病に埋もれてしまい、
知らない人が多いものになってしまいました。
そう、冷水病って冷えた水の病って簡単なイメージではなく、すごく特別な疾病なのです。
ここで現在の問題にスポットを当てますと、琵琶湖産のアユは冷水病原菌の保有が確認されています。
放流大元が感染してしまっているとは!!!どうしましょう?これは困りました。
冷えた水の病って何?
やっと深刻になってきた時には既に遅かったのはいつも通りのお約束ですが、
この病気、書いた通り、他の疾病に似てますから、区別をつける頃には遅く、
3日後には死んでしまうという進行スピードを誇っています。例として写真をご覧頂きましょう。
=これはサツキマス(アマゴの降海型)。背中に冷水病。
写真の状態はたった3日目のもので、始めは白いポツポツが出来て、穴空き病や水綿病みたいに、
既存の疾病だとたかをくくって、メチレンブルーで染色した水を与えているだけでした。
普通はこれで治癒するのですが、冷水病だけは話が別。特別中の特別な疾病ですからね。
写真のようになった魚は、つい先日までは餌を食って太っていたのに、浸透圧のバランスを崩し、
次の日には死んでしまいます。
そして、次から次へと感染し、気がつけば大半の魚に広がって、全滅しました。
湖産アユでも、放流した後、全滅してたり、中には放流移動中に生け簀内で全滅したりと
猛威を振るっています。当然、業者さんたちはパニックに陥るほど死活問題。
原因を調べると、寄生虫式疾病ではなく、細菌性であることが分かりました。
その細菌名は、フレキシバクターサイクロフィラ。名前は「あっそう」程度で覚えなくてもOKです。
読み方が違うだけで、フラボバクテリウム・サイクロフィラムとも言います。同じ細菌のこと。
鳥インフルエンザと同様に、変異を繰り返しているので、現在ではアマゴ用、アユ用、ギンザケ用、
様々な種類に分かれ、最適な繁殖効果を狙って細菌も成長・進化しています。
これは大変だ~!!!食っても大丈夫?
まずはどうやって治療するか、保菌と発現の違いはどうか、人間に害を及ぼすか、
どうやって感染するのかを科学的に分析・調査します。これは人間の病気も同様です。
世界各国の状況を調べると、サケ目の魚に多いことが分かりました。
サケ目の魚類に強烈に襲いかかる謎というわけですね。抵抗力がないためでしょうか。
サケ目というのは、渓流や食卓でお馴染みのニジマスやヤマメたち”サケ目サケ科”という面々と、
友釣りでメイン・ターゲットのアユは”サケ目キュウリウオ科”やワカサギらがいます。
これらの魚たちは夏でも20度を越えないような冷たい水に棲み、海と川を行き来する浸透圧処理、
その為に体力消耗(免疫力低下など)しますから、まずは、必然的に水温で発生割合を調べると、
おおよそ10度~25度が、その細菌の成長と合致しました。特に15度~18度、
つまり18度以下で強力に進行します。
それならば、適水温域の境界外で育てれば好いかもしれないと、アユで20℃で養殖したり、
25度でニジマスを飼育したりしました。
確かに発生頻度は少なくなったらしいのですが、それでも発生の予防手段であり、
治療するというレベルではありませんでした。有効な治療法が求められました。
ちなみに冷水でも10度以下は施設によって電気料が大変なので、試験しない場合が多いです。
どうやら水温の操作では治療は難しいことが判明しました。
予防としては、各施設の消毒、特に高温処理(熱湯)の消毒が効果をあげています。
そこで、一般的に淡水魚への治療効果や消毒で有効な塩、塩であれば人間には無害だし、
体に穴の開いた浸透圧の不具合を起こしている重病魚へも与えられるではないか、
アクアリストですら察することができる塩を与えますと、なぜか効果がなく、しかも致死魚が殆ど。
サケ目魚類に薬効果を求めて塩を利用しますと、海と川を行き来している為に必要な、
エラの付け根に陣取る塩類細胞の増殖・減少作用まで引き起こすので要注意です。
当時も今も知れ渡ってないので、塩類細胞の増減中への刺激は、
通常は問題にならない変化程度でも、あっけなく死ぬ場合がありますので最大の困りものです。
つまり、塩が全く効かず、メチレンブルーなどの色素材もダメ、水温操作も予防だけで失敗、
抗菌剤は人間に大丈夫か不明が多く多用できない、そう、これが冷水病の怖いところ。
冷水病との戦い
200グラムを超えるアユが多かった河川でも、せいぜい130グラムという現実が迫ってきました。
いくら放流しても長命というより短い寿命で成長もまばら、非常に大きな問題です。
成長までのある時点で大量死している場合も多く、釣り人が掛けるのは元気なものばかり。
陰では大多数が元気がなくなっているかもしれません。
その後の調査で、保菌のアユは大丈夫という事が分かりました。発現しなければOKという。
そこで、卵の段階から消毒すれば冷水病を根絶できるのではないかと考えましたが、
消毒はもっぱら高温で行います。ホースや孵化槽や器材の消毒を徹底するのは出来ても、
卵には出来ませんから(3倍体は一瞬の温度刺激で出来たのですけどね)、
発眼卵にはヨード剤という害の無い物質によって消毒しました。
兎にも角にも、菌を保有している琵琶湖産は避けたいという意識が働いたのか、
有名な河川では漁協や水産機関が音頭を取って純血種復活に変更し始めました。
例えば長良川では、2006年から琵琶湖産を排除し、長良川産アユで方針変更を行い、
2007年(昨年)は初めての年だったわけですが、かなり復活したと感じました(私の主観です)。
あるヤナ関係者さんはアユ奇形やサツキマス遡上の早まりを肌で感じていましたが、
成長だけは200グラムを超えるものがビシバシとヤナに乗ったのを手伝った私も確認。
これは今年も引き続き、私は注目していきたいと思っています。長良川ブランド復活ですね。
しかし、天然魚にまで広がった細菌は、人間の対策などは些細な抵抗みたいなものです。
一般の魚のように、養殖池に散布でき病気にならない、または治療できれば楽勝なのに。
私の画期的治療法
一匹一匹であれば、写真のように私が脊髄幹細胞を応用した研究で治療できました。
人間では、死んでしまった神経を復活させることが出来ず、脳梗塞や脳溢血では、
命を失わなくとも、その際に起きたマヒしたままです。これは最先端医学でも現実問題です。
現在、その医学上で実施されているのが北海道の大学病院での脊髄幹細胞を増殖した
脳梗塞治療法です。脳神経細胞が復活するので、マヒも驚くほど回復できます。
一般の患者さんに利用できるのも先の話ではありませんが、
脊髄幹細胞というものを増殖する、いわゆる細胞培養するだけでもお金が結構かかります。
何はともあれ、実際に治療となったサツキマスをご覧下さい。
ちなみに初研究成功は1995年ですけど、この実験は水産関係者は知りません。
(中部の新聞等で取り上げられたのみ)。
=治療区
=完治
→治療→ | 黒っぽい 皮下組織が 出来つつ |
完治!!! | 黒点が多くなってるのにも注目です。 (作者自宅・2007年、治療魚) |
そうそう、この写真は2007年です。
1995年成功という前の研究結果を、なぜ最近行ったのかは何を隠そう、
本誌姉妹紙の「最先端の渓流釣り08」の原稿の為にやって写真を撮影したのでした。
その肝心の誌面では取り上げられなかったのは内緒だ!!!(←ここは笑ってもらうとこ)。
如何に金を湯水のようにかけてる研究機関とはいえ、やはり人間という資産が一番。
私は当時簡単に治療をやってしまいましたが、もちろんお金は貰ってないです。
今回のように原稿料が研究費になっています。
自腹で充分というと、税金を投入している機関や研究者に悪いのですが、
こういった個人の研究センス程度でも出世にも繋がるでしょうから頑張って欲しいと思う。
光明はあるのか?
ここまでお話してきて、冷水病の全貌や、まだ治療法が確立・採用されず、
猛威を振るっていることはお解り頂けたと思います。まだ根絶できず、支配しておりません。
昨年、私が研究していることを知っているある釣具店店主(長良川・清水釣具店)から
「アユの養殖池に散布する冷水病の薬剤を作ってくださいよ」と頼まれました。
いやぁ、幾ら無料の趣味で研究をやっていたからとはいえ、さすがに金が掛かります。
特にアユは難しいからです。脊髄幹細胞はあくまでも一匹一匹に注射ですからね。
アユは皆さんもご存知の通り、エラをパクパク忙しく動かしています。
酸素呼吸が激しいという理由は、エラの細胞の発育具合と体が消費する酸素量のバランスで、
従って薬剤を散布すると、その薬量と吸収濃度、液に浸される時間など、
アユを食べる人間への悪影響をも計算するのが面倒で、効果を実証するのも片手までは無理。
回遊傾向魚(群れるアユ)と定位傾向魚(ナワバリを持ったアユ)では薬剤の効能が違うので、
これも難しい。
現在、特許申請が出されているものでは、サルファ剤、スルフィソゾールに、
塩化ナトリウムを添加したもの、これがあります。
専門的に言えば”浸漬ワクチン”という簡単バージョンです。
でも、私の脊髄幹細胞利用や塩の効果と同様に抗生物質を使わないやり方が最終目標です。
抗生物質はどんなケースでも体内への蓄積と抵抗力を生み、菌の変異を生ませるという、
ややこやしいネックがありますから。
既存の疾病対策薬品でも、漁業者は”休薬期間”(投薬終了後の水揚げ禁止期間)を守り、
出荷時には残留してないようにするのは必須です。医薬品毎に一定の休薬期間があります。
超音波処理によるアユの病気を予防し感染を防止する方法を併用するのも効果的です。
溶存酸素の不足がちな生け簀では、酸素を使用する薬品で更に貧酸素となりますから、
超音波で振動を発生し吸収しやすくするというのは、驚くほど水質向上も見られます。
好い副作用もあるし、設備投資の問題だけですね。
=長良川最上流のヤナ(白鳥観光ヤナ)にて乗ったアユ
現在の治療薬と耐性、お約束失敗
広がってきたら対処しても、もう遅い冷水病。
早期発見と治療が人間と同様に必須なわけですが、人間でもウッカリしてしまい、
発見が遅れるなんてことはザラです。早期発見治療の為に主に用いられるのを紹介しましょう。
私は飼育している遡上サツキマスを治療する際には最初にオキソリン酸の市販薬を使います。
アクアリウムをしない人にとっては馴染みの無い薬品ですが、まぁそういうものがあります。
それは合成抗菌剤として含まれているものを市販薬で探すだけですが、
アユを水槽で飼育したい方も多くいらっしゃりますので、解説をかねて有名どころを一部ピックアップしますと…
メジャーどころ | ←記事に登場 | ||
オキソリン酸 | 通称OA | アクアリスト向けに混合市販されている効果弱の薬剤。 | |
スルフィソゾール | 通称SIZ | よく効くが、抵抗力を持つ菌が多くなっている。 | |
フロルフェニコール | 通称FF | 耐性を持つものが少ないので併用するとOKだ。 | |
他の抗菌剤 | ←オマケ知識 | ||
スルファモノメトキシン、リンコマイシン、アモキシシリン。 上のメジャー3つと合わせて6つが研究者などがよく使う薬剤で水産試験場でも同様。 養殖ブリなどにも使用されるので、研究界隈なら聞くことが多いビック6薬と言えます。 | |||
業務用ではない市販薬(参考として) | |||
素人使用の安全性に配慮しながらアクリノール(傷消毒)やメチレンブルー(消毒色素材)、 ニトロフラゾン(抗菌)、先のオキソリン酸(抗菌)などが、適当に混合されている。 品名としては、エルバージュ、ハイートロピカル、グリーンF、グリーンFゴールド、 グリーンFクリア-など多数有り、診断を間違えても何かが効くようになっている。 薬局で売っているトイレの流し水を青くするのがメチレンブルー(消毒色素材)だ。 |
おっとっと、こういう専門単語が出てくると、とたんに斜め読みになる読者のみなさん、
そう貴方・貴女!!!もう少しで終わりですからグッとこらえてついてきて下さいよ!!!
ひとまず、現在認可されてる薬剤のSIZ(冷水病薬)とFF(アユ認可)を併用している養殖業者で、
SIZには耐性が出来ている細菌株も多いので、治らないなぁと思って繰り返し使ってしまい、
薬剤の購入による出費も大変なうえ、結果、死亡してしまうケースが多々起きています。これが普通。
OAはそもそも効かないので注意ね。
結局は、広がり始めた最初期を見逃さずSIZを投薬し、耐性を付かせない前に退治するか、
効能が減ってきたなぁと感じたら、SIZをストップしてFFに切り替える、こういうノウハウが必須で、
何時変えるか、分量の最低限は養殖池の水量に対してどれぐらいか、非常にコツが物を言います。
水産用イスランソーダという合成抗菌剤も効果があるのですが、これまた池散布ではなく経口。
なんにせよ、出荷するまでの休薬期間中に再発してしまうケースも多く、
これで一発という薬剤は出てきていません。現在、アユに認められてる薬剤はたった5種類。
水産関係者の話では、申請している薬剤会社は(現在)ないとのことなので、まだ未だお先真っ暗。
それにしても、釣り人としては釣れればOK、天然なのか養殖なのか拘る人も多いけれど、
「体は遺伝子の乗り物にすぎない」オックスフォード大学教授リチャード・ドーキンズ博士(行動学)。
そう、生きているアユそのものが非常に危機に瀕しているのは確かであります。
その川のアユが琵琶湖産なのかを含め、どのような経路で棲んでいるかを調べてみるのも、
釣り人として見聞・見識が広がるのではないでしょうか。年毎にどんな傾向があるのかとか、ね。
では、今シーズンも好い釣りを!!!
魚病について 表紙