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新元号の決定 国民の存在はどこにある

 政府は皇位継承に伴って改める元号を「令和」に決めた。皇太子さまが新天皇に即位する5月1日に施行される。

 1979年制定の元号法に基づく2回目の改元となる。

 元号を使用している国は世界で日本だけだ。645年の「大化」が最初で、中断を経て701年の「大宝」以降は1300年以上にわたって続いている。

 現在は西暦が使用されるケースが増えているとはいえ、元号だけで年月日が表示される公文書などはまだ多い。歴史を分かりやすく表現できる効果もある。

 日本国民の暮らしに根付いてきた独自の文化といえるだろう。国民の関心が高いのは当然だ。

 元号は天皇制と不可分の存在である。

 明治以降、天皇一代に一つの元号とする「一世一元」が採用された。天皇が統治権を一手に掌握する総攬(そうらん)者だった明治憲法下では、天皇が時間を支配するシンボルの意味があった。

 現在は日本国憲法による象徴天皇制の時代だ。天皇は日本国民の総意に基づく存在である。それなのに今回の改元手続きは国民主権とは懸け離れている。

<懇談会は形だけ>

 今回の改元は準備期間が十分にあった。

 陛下が退位の意向をにじませたビデオメッセージの公表は2016年8月だ。一代に限り退位を実現する特例法の成立は17年6月、退位と皇太子さまの即位の日が決まったのは同年12月である。

 これまでに進められた改元の手続きは国民には見えない。

 政府は事前の準備として、「高い識見を有する」複数の専門家に新元号の候補名の考案を委嘱した。専門家は意味や出典を添えて提出している。

 政府首脳以外に公開されたのは、きのう開催された有識者の懇談会が初めてだ。参加した9人に6案が示されたという。「令和」以外の案は分かっていない。懇談会で出た意見も公開していない。どんな経過で、なぜ選ばれたのかは不明だ。

 参加者はその場で候補名を示され、意見を求められている。これでは感想程度しか述べられないだろう。時間も30分程度である。開催から2時間後には正式に新元号を発表している。

 国民の声を聴いたという形を残したにすぎない。

 政府は元号の選考作業を前例踏襲の形で進めた。前回は昭和天皇の闘病中である。今回とは環境が違いすぎる。

<首相の私物か?>

 前回の選考過程を記した公文書は現在も非公開のままで、検証もできない。主権者である国民を脇に置いた選考といわざるを得ないだろう。

 安倍晋三首相は前例踏襲といいながら記者会見した。「一人一人の日本人が、明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる。そうした日本でありたい、との願いを込めた」と述べている。

 だれの思いなのか。元号は首相の私物ではあるまい。「令和」を自らの国民へのメッセージとするのなら筋違いではないか。

 陛下と美智子皇后が実践されてきたように、天皇制は国民とともに歩む時代になった。被災者らに寄り添う姿が今後の天皇制のあり方を示し、受け入れられてきた。

 元号法は、改元政令を出す手続きは定めていない。政府の裁量に委ねられている。

 新時代にふさわしい元号の選考方法を考案する責任が、政府にはあったはずだ。

<伝統重視の保守派>

 政府が今回のような手法に固執する背景には、首相の支持基盤である保守勢力の存在がある。

 保守系団体「日本会議」や連携する自民党保守派は、皇室の伝統を尊重することを主張していた。発表時期にもこだわり、5月1日に皇太子さまが新天皇に即位された後に改元政令を公布するよう政府に求めた。

 当初は国民生活への影響を回避するため18年夏の新元号発表が本命視されていたのに、政府は徐々に発表時期を繰り下げている。

 過去の権力者は統治の安定のために天皇の権威を利用してきた。保守派に配慮して秘密主義で進めた元号選考には、政府への求心力を高める思惑もうかがえる。

 首相の会見も「政治利用」との批判が出るのではないか。

 外国人の居住者が増えるなど、地域の国際化が進む。外国人には元号は分かりにくいだろう。過去からのつながりを連続して把握するにも不便だ。

 政府は国民や自治体などに元号の使用を義務付けることはできない。あくまで「慣行」である。実際に使用するかどうかは国民それぞれが判断すればいい。

 人口の減少や年金問題、経済政策の行き詰まりなど、日本が直面する課題は山積したままだ。新元号ブームにあおられて、目を曇らせてはなるまい。

(4月2日)

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