40年前のサラリーマンは、夜はプロ野球のナイターを見るために早く帰宅したものである。
ゴールデンタイムに放送される巨人戦は軒並み視聴率30%を超え、放映権はテレビ各局で奪い合いだった。『プロ野球ニュース』(フジ系)のキャスターを当時務めていた野球解説者の佐々木信也氏が言う。
「当時の巨人は本物だったということでしょう。長嶋茂雄監督のもと、王貞治にはじまり、高田繁、柴田勲、中畑清ら生え抜きのスター選手が中心になってチームが出来上がっていた。
それにファンは共感し、純粋に巨人を応援していたと思います。どの選手ということではなく、巨人というチームが見たかったんです」
なかでも6月2日の『土曜ナイター・巨人×阪神』は39.9%を記録している。'79年のスポーツ中継のなかでダントツの数字だが、なぜ優勝争いが佳境に入るシーズン終盤でも日本シリーズでもない、この試合の視聴率がこんなに高いのか。
巨人の先発が江川卓だったと言えば、ピンとくるだろう。「空白の一日事件」を経て、1月31日、江川は阪神に一度入団しながら8時間後に、小林繁とトレードで巨人入り。6月2日は、その江川のプロデビュー戦であり、しかも相手は因縁の阪神だった。
プロ野球ファンが注目する試合は、江川から阪神のラインバックが7回表に3ラン本塁打を放って、逆転勝ち。日本中のアンチ巨人が溜飲を下げた――。
テレビドラマも、'79年が黄金期であることは疑いようがない。
「テレビ番組のラインナップは、古いものと新しいものがちょうど入れ替わっていく時期でした。
ドラマの視聴率ランキングを見ると、昔ながらの本格時代劇『水戸黄門』や『江戸を斬るⅣ』、あるいは『太陽にほえろ!』、『大都会PARTⅢ』、『Gメン'75』などの王道の刑事ドラマシリーズがランクインしています。
その一方で、'80年代につながる新しい作り方をしたテレビドラマも見受けられます」(前出・太田氏)
この年のNHKの朝ドラ『マー姉ちゃん』、『鮎のうた』はともに画期的な内容で人気を集めた。
コラムニストの泉麻人氏は『マー姉ちゃん』が印象深いと言う。
「『サザエさん』の作者である長谷川町子さん一家をモデルにした、コメディスタイルの新しい朝ドラでした。主演は熊谷真実さん。田中裕子さん、早川里美さんとの三姉妹の物語が中心です。
熊谷さんはまだつかこうへいの舞台などで活躍するアングラ風味の女優さんの頃で、そういういわばサブカル系の人をNHKが抜擢した斬新さも魅力でした」
著書に『90年代テレビドラマ講義』がある立教大学名誉教授の藤井淑禎氏は、山咲千里が主演した『鮎のうた』に夢中になったとこう語る。
「理由は花登筺さんの脚本です。花登さん作のドラマ『どてらい男』('73年~'77年)の女性版として楽しんでいたんです。
この頃はまだまだ高度成長の余韻があちこちに見られた時期。主人公が根性で成り上がっていくストーリーは人々の共感を集めたのではないでしょうか。花登さんの独特の世界観を朝ドラの時間帯に持ち込んだ。そんな印象が強く残っています」
定番である学園ドラマのスタイルが大きく変わったのもこの頃だった。
前出の泉氏が語る。
「『熱中時代』の水谷豊も、『3年B組金八先生』の武田鉄矢も、これまでの青春ドラマに登場した熱血先生とはかなりタイプが違っていました。
『荒れた中学』や『学級崩壊』が社会問題化した時期。イジメや不登校の問題をドラマに取り入れて、けっこう過激な回もあった。
とりわけ『金八』は、『たのきん』をはじめとするアイドルの素顔を引き出す役割も果たしたんじゃないかな。'80年代アイドルにとっても重要な番組だったと思います」