第十話:転生王子と決意
あれから、少々クロハガネの長を交えて話をして借り受けている部屋に移動する。
ヒバナはとある調査を依頼しているため留守だ。
俺も協力したいところだが、足を引っ張る可能性がある。また、ヒバナの感性でないと難しい仕事でもあった。
「……サーヤは焦りすぎだ。クロハガネの状況を考えれば、焦るのはおかしくないが、それだけじゃないだろうな」
そちらも調査しよう。
与えられる情報が足りなければ、こちらで調べるしかない。
見えないものを見えないままで進めれば足がすくわれる。
「とはいえ、これからの計画を煮詰めていかないとな」
パズルのパーツは足りないが、揃うのを待っている時間はもったいないし、そんな余裕もない。
これから集まってくるであろう情報、その結果ごとのパターンを考える。
そうしているとあっという間に時間が過ぎていった。
そろそろ寝ようと、ベッドに横たわり、サイドテーブルの魔力灯の火を消そうとしたときだった。
来客が現れる。
サーヤだ。
とても薄く、光の加減では透けてしまいそうな素材を使ったワンピースを着ている。
女性らしく魅力的な肢体のラインがくっきり出ていた。
甘い匂いでくらくらする。
……いやがおうにも、本能の部分が反応する。サーヤを押し倒したい。そんな欲望が込み上げてくる。
「ヒーロさん、お父様がおかしなことを言ってごめんなさい。でも、安心してくださいね。必ず私が説得しますから! ……お父様はわかってないんです。これからどんどん鉄の採掘が難しくなる。なのに、ノルマは増えるばかり。今でさえ死人がでてるのに。今のままじゃ、みんな死んじゃう」
死人がでるほど危険な作業。けが人も出ている。死人やけが人で人手が減れば、今まで以上の無茶を強要され、さらに離脱者がでて、より無茶を……という悪循環。
クロハガネはそう遠くないうちに限界がくる。
「ヒーロさんにかけるしかないんです。そうするしか、私達が生き残る道はありません……だから、助けてください」
サーヤがベッドで身体を起こした俺の上に乗り、しなだれかかってくる。
サーヤの胸が俺の胸にあたって潰れる。柔らかくて、暖かくて、甘い。
「クロハガネを助けてくれるなら、あなたに尽くします。全部、全部、あげます。ドワーフの力も、私の心も、私の身体も」
サーヤの手が俺の手を自分の胸に導く。手のひらが沈む。
うるさいぐらいに鼓動が高鳴り、身体が熱い、息が荒くなり、喉がからからだ。
サーヤしか見えない、サーヤの匂いしか感じない。
気がつけば、サーヤと身体の位置を入れ替え、組み敷いていた。
「さあ、どうぞ。食べてください。美味しいですよ」
笑顔だ。
とても綺麗で、とても完璧で、とても慈愛に満ちた……そして、どうしようもなく作り物めいた笑顔。
あの人と同じ。
それを見た瞬間、一気に熱が引いていき、口を抑えて嘔吐した。
もはや、性欲なんてものは完全に吹き飛んだ。
「ひっ、ヒーロさん」
「気にしないでくれ。それから、そんな格好で男の部屋にくるな」
俺は用意されていたタオルケットをサーヤの肩にかける。
「あの、その、私じゃ、だめでしたか、やっぱり、普通の人からしたら気持ち悪いですよね、この耳と、尻尾」
「いや、それはない。むしろ、サーヤには本当によく似合う。可愛いよ。心の底からそう思う。……だから、理性が吹き飛ぶ寸前だった」
紛れもない本心だ。俺はサーヤのキツネ耳とキツネ尻尾が気に入っている。こんな可愛い女の子他にいない。
「なら、どうして……もしかして、私が汚れていると思ってます? 安心してください。私、ウラヌイで人質やってたとき、見世物にされましたが、汚されてないです。あの人達、私のこと禁忌の錬金術師の遺産だって言って、そういうことはしなかったんです」
「違うんだ。そんなことを言っているわけじゃない。……サーヤのその作り笑顔がどうしようもなく似ているんだ」
「誰にですか?」
「俺の姉さんに」
そう、今だけじゃない。
何度か、姉さんの笑顔とサーヤの笑顔が重なった。
「俺の国は今でこそ持ち直したけど、ちょっと前までは毎年餓死者を出すような国だった。そんな中、大国の王子に姉さんが見初められた。……悪評が耐えない人で女癖が悪く何人も妾がいて、そこに嫁げば人間らしい扱いは受けない。それでも姉さんは嫁いだ。国への援助を条件に。姉さんは一度たりとも泣き顔を見せず、ずっとずっと笑顔だった」
そう、俺は姉さんが泣いているところを見たことがない。
いつも笑顔で、大丈夫っていうのが口癖で、あいつに嫁ぐときも変わらなかった。
「サーヤ、おまえと同じだ。そんな作り物の笑顔を貼り付けて、自分の身体すら必要なら差し出す。正直に言おうか、俺はおまえを犯す寸前だったよ。でもな、押し倒して、姉さんと同じ作り笑顔を見た瞬間、俺が姉さんを奪ったあとの男と同じになるって気づいて、自分自身に吐き気がした」
いったい、あの男と俺の何が違う。
民を人質にして、援助をちらつかせて、身を捧げさせる。
あと一歩で、あいつと同じになるところだった。
「いいんです。だって、私が望んでいることです」
「ああ、だろうな。姉さんと同じでサーヤはクロハガネのためなら、そうするだろう。今みたいにな。だが、俺はそれをしない。したくない。それをしたら、俺が自分を許せなくなる。だから、出て行ってくれないか」
サーヤの顔が凍りつく。
しまった、自分への苛立ちが漏れ出た。サーヤはそれを自分に向けられたものだと勘違いしたようだ。
「その、ごめんなさいっ、そんなこと知らなくて、私、ぜんぜん、そんなつもりじゃ。なんでもします。だから、許してください」
父親が決断を保留したとき以上に、俺が契約を撤回するのを恐れている。
深呼吸して、なんとか笑顔をつくる。
「許すのも何も怒っていないさ。俺が出した条件も、俺がすることも何一つ変わらない。安心して部屋に戻るといい」
「でも」
「そうしてくれ」
強く言い切ると、サーヤはもう一度謝ってから、部屋を出ていく。
「その、今日のことは忘れてください。また、明日からがんばりましょう」
最後は、あの作り笑顔のままで。
俺はベッドに寝転がる。
「……俺の機嫌取りのために、色仕掛けか。怖かっただろうな」
冷静さを取り戻した今ならわかる。
サーヤの手はずっと震えていた。
好きでもない相手を誘惑するなんて怖くないはずがない。それでも笑っていた。
「たとえ、サーヤを押し倒さなくても。俺はあいつと同じかもしれない」
女を抱く、抱かないの違いで弱みにつけ込んでいるのは一緒だ。
わかっていた。
だが、今更差し伸べた手を引き上げるほうが残酷だ。それに鉄を手に入れるのはカルタロッサ王国のためになんとしても成し遂げないといけない。
やることは変えられない。
ノックの音が聞こえる。
ヒバナが帰ってきたか?
扉を開けると、そこにいたのはサーヤの父、アレクだった。
「こんな夜分遅くにどうかされましたか?」
「私の意思を伝えに来た。……カルタロッサ王国のヒーロ王。クロハガネはそちらの提案を飲む」
「もう少し、考えるなり、他のものに相談や承認をとるなりして時間がかかると思っていました」
「そのつもりだったが、君とサーヤの話を聞いて気が変わった。他のものは私が責任をもって宥める」
「この部屋は盗聴されていたようですね」
それなりに警戒していたが、そんな装置には気づけなかった。
さすがドワーフといったところか。
「そういうことは得意なのだよ。これを知っているのは私だけで、サーヤは知らない。あの子を責めないでやってくれ」
「なら、なおさらなぜ? サーヤを傷物にしかけた男ですよ」
「……あの状況で手を出さず、娘を気遣ってくれた男だ。信用に値する。君になら娘を預けてもいい。ただし、条件を一つ追加させてほしい」
ここに来ての条件追加か。
支援関連での要望だろう。
「聞いてから判断します」
「ああ、簡単なことだ。あの子を、サーヤを、泣かせてほしい」
幸せにしろではなく、泣かせてほしい。
意味がわからない。
いや、俺にならわかる。わかってしまう。
「あの子は、ウラヌイの連中に母親が殺されてから一度も泣かなくなった。常に笑顔で、誰よりも率先して働き、笑顔で皆を励まし続ける。どれだけ理不尽な目に会おうと、どれだけ辛いことがあろうとな。あの笑顔に民がどれだけ救われたか……だからこそ、私はあの笑顔が痛々しくて仕方がない」
「……そうですね。ああいう笑顔が一番痛い。強がって、無理をして、気持ちを全部押し殺して、みんなのために笑う。ああいう笑顔は見たくない」
「まさか、通じるとはな。だから、親としての願いは一つだ。君のもとでは、そんな笑顔をさせないでくれ」
「その条件を呑みましょう」
まずはクロハガネを救う。
そして、サーヤに信頼してもらう。
俺に媚びなくていいと、もう自由に泣いても怒ってもいいとサーヤが思えるように。
きっと、そうするための答えは一つ。
サーヤと友達になる。
クロハガネを救ったあとは、カルタロッサ王国で共に過ごすんだ。
サーヤとは心を開いて、笑いあって、ときには怒ったり、泣いたり、そんな関係でいたい。
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