私が入りたかったのはホグワーツなんだけど 作:栄照(Red Purge)
<< 前の話 次の話 >>
朝から雨の匂いがして、『湿気っぽいな』と思っていたが、ここまでとは…。と呆然とした。三月の雨と聞いたら、きっと『パラパラ』などといった擬音がつくような雨を思い浮かべるだろう。
が、私が今目にしているのは八月の台風とともに来る雨である。
元から舗装されていない道は川の様になり、向こう側の建物は白くぼやけている。呆気にとられた私は、いつか初等科の授業で見た文を思い出す。
『元々、この日本魔法界を形作る魔法は妖怪によって作り出されたものでした。その起源は古く、平安時代に妖怪退治の専門家である『楼躬院』によって発見されました。
未だ未解明の部分があるため、数百年間ずっと発見された当時の形のまま使われています。この空間の特徴として、内部の天候の差が激しいことが挙げられます。』
…つまり、欠点を数百年間何一つ解消できていない。真毫(マグル)界で雨が降れば、こっちは大雨に、真毫(マグル)界が真夏ならこっちはトンブクトゥ(マリの都市、夏の平均40.0℃越え)となる。
これはひどい()。
私が日本魔法界の無能さに驚いていると、後ろから引き戸を開ける音がした。
「こりゃ困りましたね」
驚きながらも、声の主を確認する。
「…店主さん、ですか?」
「ああ、はい。ここの書店の店主です。先程はお買い上げありがとうございます」
「…すいません、何処にいらっしゃるのでしょう」
私から見て右上あたりから聞こえる声。それを発する人影見えず。となると…。
「透明人間ですか」
「いえ、違います」
「?」
「?」
しばらくの沈黙、姿が見えないのに透明人間ではない?と疑問符。
「あなたは何者ですか?」
「店主です」
「知ってます」
「男です」
「そうですか」
「ねこです」
「これはこれは…よろしくおねがいします…いや、嘘ですね?」
「24歳、学生です」
「知りませんでした」
ここ一年の要らない情報ランキングを独占できるほど無駄だった。『無駄な話はするな!』と言うように、私たちが話すたびに雨音が強くなっている気がする。
「…と、何か用ですか?」
「ああ、こりゃ失礼。店で傘を貸してるんですが一つ使いますか?」
へえ〜。
「それは有難いです」
「どうぞ此方へお入りください」
店の中へ入っていった声を追いかけて私も入る。
「〜ん、こちらになります」
「あ、どうも」
店の奥から声とともに傘が浮き来た。魔法界では一般的な赤い唐傘だが、何かの模様が入っている。
試しに開いてみる。
「ん?」
描かれていたのはこの店の店名と、一つの言葉だった。
「Traitor?」
「あ、いかん」
そんな言葉とともに私の手から引き剥がされる傘。丁寧に畳まれ店の奥へ再び入っていった。
Traitor、裏切り者、か。
……中二病だね(思考放棄)。
「先程は失礼しました」
と私の手に置かれた傘を見てみると、やはりあの単語はなかった。
なんだったのだろうか。