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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第11章 ギルド編

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偽伝 進堂凛

ifストーリー、「もしも仁に妹がいたら」です。

以前、未登場人物紹介で出た妹ちゃんのお話です。

ギミックは後書きに。

 それは屋敷でゴロゴロしている最中のお話。


「そう言えば、ご主人様達の学校の話は聞いたけど、ご主人様自身の事については、ほとんど聞いていないわよね」


 切っ掛けはミオの何気ない一言だった。


「言われてみればそうですわね。さくら様のお話は……あまり良い物はありませんが良く聞きますが、ご主人様のお話は非常に少ないですわ」

「とても興味があります」

「私もです……」

《ドーラもー!》


 ミオの発言に、その場にいたメインパーティの4人全員が興味を示した。

 確かに俺はこの世界に来てから、自分の身の上話をほとんどしてこなかった。


「ご主人様、何か言いたくない理由でもあるの?」

「いや。聞かれて困るような事はないけど、自分から話すような事じゃないだろ?面白い話がある訳でもないし……」

「いや、ご主人様の過去話なら、面白いに決まっているわよ。今までの断片的な情報からでも断言できるわ」


 ミオは確信を持っている様子。


「そんなに聞きたい事か?」


 俺が尋ねると、メンバー全員が頷いた。

 自分から話すような事ではないが、聞きたいというのならそれはそれで構わない。


「分かった。それじゃあ、皆から質問を受け付けよう。俺はそれに答えるよ」


 『自分についてフリートークで説明しろ』と言うのは難易度が高すぎる。

 質問に答える形が一番話しやすいだろう。


「じゃあ、最初の質問はミオちゃんからね。ご主人様の家族構成を教えてください」


 まずは最初だからか、当たり障りのない普通の質問が飛んできた。

 逆に言えば、こんな普通の事すら俺は話していなかったと言う事だ。


「妹と2人暮らしだな。両親は大分昔に他界している」

「え?ご主人様、妹がいたの?今まで、全く話に出て来なかったけど……」

「それこそ、自分から話す様な事じゃないだろ?ああ、補足すると義理の妹だな」

「ラノベの主人公か!」


 ミオが全力でツッコミを入れた。


「兄妹2人で生活できたんですか……?」


 さくらが不思議そうに聞いてくる。


「ああ、両親の遺産が結構な額だから、生活する分には困ることはなかったな」

「ラノベの主人公か!!」


 ミオの全力ツッコミ(2回目)。


「ご主人様の料理はアレですから、料理は妹さんが作っていたのではありませんか?」


 人の料理をアレとか言わない。

 なお、俺に作れる最も複雑な料理は肉の丸焼きである。


「ああ、妹が作る事が多かったな。妹が作らない時は、隣の家の幼馴染が差し入れてくれた」

「ラノベの主人公か!!!」


 ミオの全力ツッコミ(3回目)。


「妹さんが残っているのに、元の世界に帰るのを優先しないで良いのですか……?」

「言われてみれば、たった1人の家族なのに、心配している様子がないわよね?」


 さくらとミオが尋ねてくる。

 なお、マリアは俺の話をメモるので忙しく、話には加わってこない。


「まあ、心配いらないだろ。妹は料理を含めて生活能力高いからな。俺が居なくても困る事は少ないと思うぞ。最近、ようやく兄離れも出来たし、ある意味、いい機会とも言えるな」

《「「「兄離れ?」」」》


 マリア以外の声がハモった。


「ああ、妹は昔から俺に懐いていた……ベッタリ懐いていたんだよ」

「頭に『ベッタリ』が付く程なんだ……」

「ああ、ベッタリだな。兄離れを始めさせたのが、転移の1年くらい前からだけど、その前は風呂にも一緒に入ってくるくらいだからな」


 『一緒に入る』ではなく、『俺が入ると、妹が後から入ってくる』が正しい。


「……妹さん、おいくつ?」

「俺の3つ下だから、転移の時点で中学2年。その1年前だから、中学1年まで風呂に入ってきていた事になるな」

「確かにそれは『ベッタリ』だわ」

「親友に言われるまで、異常だと思わなかった俺にも責任はあるが……」


 同い年の妹を持つ浅井に言われなければ、兄離れさせようと思わなかったかもしれない。


「流石に問題だと思って、妹に兄離れさせること1年。ここ数カ月でようやく問題無しと思えるようになった。そのタイミングで俺が転移することになった訳だ。ある意味、丁度いいタイミングだろ?後、話題に出なかったのは、意識的に距離を置いていた名残だと思う」


 兄離れを促す為、意図的に距離を置いていた。

 その状態で転移したから、無意識のうちに話題に出さなかったのではないだろうか?


「まあ、前から言っている通り、俺は元の世界に戻る事を諦めたつもりはないぞ。幸い、この世界の方が時間の進み方が遅いみたいだし、そこまで慌てる必要も無いだろう。この世界に永住することになったとしても、元の世界に1度は絶対に戻るからな」


 精力的に活動している訳ではないが、元の世界への帰還を諦めてはいない。

 今はこの世界の観光がメインになっているが、元の世界を捨てるつもりもない。

 なにより、親友である東と浅井が死んでいるなら、遺品くらいは元の世界に持って行って弔ってやりたいからな。


《ドーラもごしゅじんさまのお家にいきたーい!》

「ミオちゃんも忘れないでよね!」

「当然ついて行きます」


 元の世界に戻る、あるいは行くのなら、ドーラやミオ、マリアも一緒に連れて行くことになるだろう。

 時間の進み方が違うのは若干気になるが、それはまあどうとでもなるだろう。


「そう言えば、セラには聞いていなかったけど、俺が元の世界に戻るとしたらどうする?」


 以前、元の世界への帰還が話題に出たのはセラが配下に加わる少し前だ。


「ご主人様のいた世界で魔法が使えるかどうか次第ですわね。もし、そちらの世界で魔法が使えないとなると、『兵糧玉エナジーボール』が使えないので、餓死待った無しですわ」

《あんまりおいしくなーい》

「美味しくなくても、わたくしの主食ですわ。この世界には、『兵糧玉エナジーボール』がありますし、魔物がいるから食料事情が安定しているのですわよ」


 元の世界でセラの食欲を満足させるとなると、相当な負担になるだろう。

 この世界は何だかんだで(俺の周りだけは)食料事情は安定しているから。


「多分、『兵糧玉エナジーボール』は使えないだろうな」

「この世界に残りますわ」


 セラは残留決定である。

 セラにとって、食料事情は生死に直結するからな。


「話を戻すけど、妹さんのお名前は?」

「進堂 りんだな」


 ステータス画面に当てはめると、こんな感じ。


名前:進堂りん

性別:女

年齢:13

種族:人間


「仁、と似ているのね」

「ああ、俺が付けた名前だ。アイデアその3だな」

「その1と2は?」

「全員に全力で反対された」


 今のフォームに合わせると、こんな感じ。


>「ジニー」と名付ける

>「仁子」と名付ける

>「凛」と名付ける


「英断ね」


 お勧めは「仁子」だったんだが……。


「仁君、1つ質問良いですか……?」

「1つと言わず、いくつでも質問して良いぞ」


 質問数を制限した記憶はない。

 さくらはもっと自己主張を強くしても良いと思う。


「さっき、仁君が名付けたと言っていましたけど、義理の妹に対して、名付けるというのはおかしくありませんか……?」

「そう言えば、おかしいですね?ご主人様、一体何をしたの?」


 ミオは俺が何かやらかしたと決めてかかっている。


「いや、義理の妹と言っても、元は従妹なんだよ」

「一応、血は繋がっているんですね……」


 従妹の両親が死んで、ウチの両親が引き取った。それで妹だ。


「ああ、両親との仲が良くて、妹が生まれてすぐに会いに行ったんだ。その時に色々あって、俺が名付けることになった」

「色々って?」

「妹が一番懐いていたのが俺だから、俺に名付けて欲しいって従妹の両親が言ったからな」


 今考えれば、結構無茶苦茶な事を言っているよな。


「名付ける前に、既にご主人様に懐いていたの?」

「ああ、実の親より俺に懐いていたな」

「そこまで行くと、筋金入りね。……本当に兄離れ出来ているのかしら?」


 ミオは不思議そうに首をかしげる。


「多分、大丈夫だろ。呼び方も『お兄ちゃん』だったのが、『兄さん』に変わったし、お風呂に突撃してくる事もなくなった。朝起きたらベッドに潜り込んでいると言う事も無い。」


 余談だが、カスタールでサクヤに『お兄ちゃん』と呼ばれたとき、約半年ぶりだったので、懐かしくて少し感動していたりする。


「普通の事過ぎて、参考にならないわね。うーん……」


 ミオが額に手を当てて唸った。


「ご主人様、お願いだからもう少し元の世界に戻る手段の捜索に力を入れて」

「何故?」

「多分、妹ちゃん、兄離れできていないから」

「大丈夫だろ?」

「良いから!お願いだから!」

「まあ、ミオがそこまで言うのなら、とりあえず、了解だ」


 ミオがゴリ押すくらいなのだから、妹が兄離れできていない可能性はあるのだろう。

 元の世界に帰る方法か……。女神に聞くのが1番手っ取り早いんだろうな。


 その後もチョコチョコと色々な話をした。

 時間が経ち食事の時間になったので、質問タイムを終了することになった。


「何か、妹の話をしてばかりだったな」

「ご主人様がいきなり強烈な話題を出すからよ。質問せざるを得ないじゃない」


 そんなに強烈な話題だったかな。

 別に兄弟がいるくらい不思議な話じゃないだろ?


 親友の浅井にも妹がいて、ウチの妹と同じ年で、仲が良かったはずだ。

 もう1人の親友、東だけは一人っ子だったから、時々妹トークで仲間外れになっていた。


 懐かしい思い出だ。





 時は遡り、進堂仁達が転移する前、浅井義信あさい よしのぶ宅の出来事。


ひじり……。もう死にそうです……」

「よしよし。凛は頑張っていると思うよ。でも、それは女子中学生がしていい顔じゃないからね?」


 浅井義信の妹、浅井ひじりは抱き着いてきた進堂凛の頭を撫でて慰める。

 この日、凛は兄離れのストレスが限界になり、親友である聖に泣き言を言いに来ていた。


「そんな酷い顔をしていますか?」

「うん、夜中に子供が見たら確実に泣くね」

「そこまでですか……」


 凛は10人中10人が認める程度には顔が整っている。

 そんな凛だが、今は酷くやつれている。血色が悪く、髪が長いのも相まって、ホラー的な意味で迫力がある。子供は泣く。


「どうしても無理なら、仁にぃに言った方がいいよ?流石の仁にぃも、凛にそこまで負担がかかると分かったら、無茶は言わないと思うよ」

「いいえ。お兄ちゃんが私の為に言ってくれているのは分かっています。だから、私はその期待に応えたいのです。だから、まだ頑張れます。……死にそうですけど」

「ホント、凛は健気だね……」


 凛を褒めつつ、聖は心の中で思った。


(それ、『兄離れ』出来てないよね?『兄離れしたフリ』をしているだけだよね?)


 聖も兄である義信とは普通に仲が良いが、兄離れが必要な程ではなかった。

 最近まで一緒に風呂に入っていたと聞き、驚いたくらいである。


「ただ、そのまま帰ると仁にぃが心配すると思うから、何か考えた方がいいかもね」

「そこまでですか……」

「うん」


 子供は泣く。


「さて、それじゃあ、気晴らしに何かする?」

「そうですね。テストも近いですし、勉強でもしますか?聖、歴史が不安と言っていましたよね?教えますよ?」

「ホント!?凄い助かる!持つべき物は、天才な友人だよね!」


 聖、暗記モノが少し苦手なのである。


「私は天才なんかじゃありませんよ。どこにでもいる、普通の女の子です。テストの点も、通知表も平均だったでしょう?」

「凛は頑なに普通と言い張るけど、振れ幅無く平均をとる事を、普通とは言わないと思うよ」


 全科目クラスの平均点ジャスト、それが凛の成績の全てである。


「普通ですよ。それに天才と言うのは、東さんみたいな人の事をいうのです」

「ああ、東さん。確かにあの人はあの人で別格だよね」


 仁と義信の親友である東明あずま あきらの事を2人共『東さん』と呼ぶ。

 東だけは兄弟が居らず、兄妹揃って仲の良い凛、聖とは若干の距離がある。


「他人事みたいに言いますけど、義信さんも別格に入りますからね?」


 『浅井さん』では区別がつかない為、凛は浅井義信を『義信さん』と呼ぶ。


「仁にぃもでしょ?」

「それは勿論です。お兄ちゃんは凄いのです」


 凛の仁への信頼には、限度も根拠もない。故に強い。


「まあ、仁にぃはともかく、アニキはちょっと目が良いだけだから……」


 当然、そんな事は無い。

 聖は聖で、周囲の人間が凄すぎて、感覚が麻痺している部分がある。


「ただいまー」

「噂をすれば、帰って来たみたいね。おかえりー」


 義信の話をしていたら、本人が帰宅してきた。


「お、凛ちゃん、久しぶり」

「お邪魔しています」


 凛は比較的良く浅井家に来るが、外出の多い義信と会う事は少ない。


「……母さんはいないみたいだな。ひじきだけか」

「ひじきって言うな!この馬鹿アニキ!」


 ひじりに対する禁句、その内の1つが『ひじき』である。

 怒れるひじきはポケットに手を突っ込み、取り出したものを義信に投げる。


「当たらん!」


 動体視力も良い義信は、顔面に向かって来たボールを軽々と避ける。


-ゴン!-


「ぐはっ!」


 次の瞬間、義信は後頭部を抑えて蹲る。

 後ろの壁に当たり、跳ね返って来たスーパーボールが後頭部に当たったのだ。


 義信の目は確かに優れている。

 しかし、残念な事に義信の目はたった2つ、顔にしか付いていない。

 よって、背後を見ることは出来ないのだ。


 ……正確に言えば、物に反射した像から背後を把握することも出来るが、自身の頭部に隠れ、スーパーボールの軌道が分からなかった。

 そう、ひじきはここまで読んでいたのだ。兄対策は十全である。


「ま、待て……。滅茶苦茶痛いんだが!?」


 義信、ガチの涙目である。


「重くて弾性の強い素材を用いた、特製スーパーボールだよ。対馬鹿アニキ決戦兵器として、東さんにお願いして作ってもらったの」


 実の兄に、兄の友人が作った重量級スーパーボールをぶつける。

 ひじき呼ばわりの怒りはそれほどに大きい。


「トーメーーーーー!!!」


 親友の手酷い裏切りに義信が絶叫する。

 『トーメイ』は義信の使う東の渾名だ。実は東本人はあまり気に入っていない。


「ひじきって呼ばれたら使うって言ったら、快く引き受けてくれたよ」


 年下の女の子に頼られて、満更ではなかったらしい。


「あの野郎。余計な物をひじきに与えやがって……」

「もう1発、喰らっておく?」

「マジで止めろ!イテテ……。コブになってないよな?」


 冗談抜きで痛かったようで、義信はしきりに頭を触って確認している。


「……うん?凛ちゃん、何かやつれたか?顔色が悪いぞ?」


 そこで、義信は今更ながら凛の幽鬼のような顔色に気付く。


 実際、義信は目が良いので、些細な変化にもよく気付く。

 ただし、凛に限って言えば、誰が見ても明らかなレベルである。

 今回は気付くのが遅かったと言っても良いくらいだ。


「はい、お兄ちゃんと距離を置くことになったのですが、それが辛くて……」

「ジンと距離を置く? ……もしかして、この間の話か?」

「どうかしましたか?」


 凛も聖も『兄離れ』の話は義信には話していない。


「この間、ジンと妹ネタで話をしていたんだよ」

「え、アニキ、キモい」


 一瞬の躊躇なく義信を貶める聖。


「うるせえよ!その話の中で、ジンと凛ちゃんの距離感について揶揄からかったんだが……。仁の奴、マジで気付いていなかったようで、滅茶苦茶驚いてたよ。最終的に、俺が適切な距離感ってヤツを教えるハメになった訳だ」


 流石の義信も、一緒に風呂に入っていると聞いた時は、開いた口が塞がらなかった。

 仁も人との距離感については鈍い部分があるので、他人から言われるまで、不自然だとも思っていなかったようだ。


「義信さんの入れ知恵でしたか……。余計な事を……」

「ホント、余計な事ばっかりする馬鹿アニキだよね」

「えぇ……。これ、俺が悪いのかぁ……?」


 急に2人から責められ、納得のいかない義信。

 義信的には親切心からの行動だったし、凛の方に負担のある話だとは思っていなかった。

 常識的に考えて、義信は悪くない。


「義信さん、お兄ちゃんに教えた『適切な距離感』を教えてもらえませんか?」

「ああ、なるほど。最低限の条件を確認するんだね。抜け目ないなぁ」


 凛の質問の意図を理解して、聖は苦笑した。


 凛は義信の教えた『適切な距離感』が『兄離れ』の必須条件と考えた。

 逆に言えば、そこに無い項目に関しては、譲歩の余地があると光明を見出したのである。


「どうかお願いします」


 メモ帳を取り出し、準備万端の凛である。


「ああ、別に良いよ。……とりあえず、一緒の風呂は有り得ない」

「くっ、それは仕方がありませんね。一番のスキンシップだったのですが……」


 本気で悔しそうにする凛。


「ああ、背中を洗い合っていたのか」


 義信は納得しつつも、高校生男子(親友)と中学生女子(親友の妹)が背中を流し合う姿を想像して、微妙な気持ちになる。


「背中?」


 凛が首を傾げる。


「「え?」」

「え?」


 浅井兄妹が凛の発言に驚き、凛も浅井兄妹の反応に驚く。


 義信と聖は、それ以上突っ込まない方が良いと判断した。

 知らなくていい事もこの世にはある。


 その後、義信は仁に話した他の内容を凛にも教えた。


「大体、こんな所かな」

「ありがとうございます。参考になりました」


 思っていたよりも穴のある条件だったため、内心で喜んでいる凛だが、表情には表さない。


「後、『兄離れ』の成功を主張する為には、呼び方を変えるのも手だろうな。『兄さん』くらいにしておいた方が良いと思うぞ」

「本当、参考になります」


 凛は持っていたメモに追記する。


「もちろん、アニキ呼びは駄目だぞ。そんな妹は可愛くないからな」

「可愛くなくて悪かったね!」


 なお、聖はボーイッシュな雰囲気だが、可愛くない訳ではない(少なくとも見た目は)。


「おいおい、俺はひじきの事なんて言ってないぜ?」

「ぶっつけるよ!」


 特製スーパーボールを取り出す聖。


「じゃ、じゃあ、俺はそろそろ行くよ。凛ちゃん、ごゆっくり!」

「ありがとうございました」


 そうして義信は退散していった。


「仲が良いですね」

「冗談じゃないよ!人の事をひじきひじき呼んで」

「なら、聖も義信さんを渾名で呼んでみたらどうですか?」

「……ヨッシー?」

「とても普通ですね」


 義信さんの渾名候補筆頭である。



 その後、聖の部屋で予定通りにテスト勉強を始めた。


「ちょっと休憩!」

「結構時間が経ちましたし、そうしましょうか」


 思い切り伸びをする聖と、全く疲れているようには見えない凛である。


「そう言えばさ……。仁にぃってモテるの?」

「いきなり何を聞いてくるのですか!?」


 冷静沈着な凛を動揺させたければ、仁の話題を出すだけで良い。


「いや、ウチのアニキ、アレで結構モテるんだよね。それで、一応別格仲間の仁にぃはどうなのか気になったんだよ」


 義信は人を見る目も有り、交友関係も広い。当然モテる。

 ただ、今は恋人を作るより、親友と遊ぶ方を大切にしているが……。


「そうですね……。お兄ちゃんはモテませんよ」

「あれ?幼馴染の水原さんとか、時々見かける追っかけとかは?」


 水原咲。仁の隣の家に住む、仁と同い年の幼馴染だ。


「咲お姉ちゃんですか?」


 仁の幼馴染と言う事は、凛とも付き合いが長いと言う事でもある。


「咲お姉ちゃんがお兄ちゃんに向ける感情は、普通の恋愛とは全く別物です」

「アレで!?」

「ええ、よく見ていれば分かりますよ」


 両者ともに仁の事が大好きだが、その方向性が完全に異なるため、競合することもなく、2人の仲は良好だったりする。

 呼び方も『咲お姉ちゃん』である。余程親しくないと、こう呼ばないだろう。


「追っかけの事は私も知っていますけど、彼女達はお兄ちゃんに関わる気は無いようです。ですから、お兄ちゃんへの告白なんて、考えてすらいないでしょうね」

「そうなんだ。仁にぃって普通の恋愛対象にならないんだね……」


 周囲に女の子はいるのに、明確な恋愛に話が繋がらない。それが進堂仁である。


「聖はどうですか?お兄ちゃんの事が好きですか?」

「好きは好きだけど、恋愛じゃないかな。多分、僕の手には負えないから……」


 聖は良くも悪くも普通の子なのである。

 凛のような似非普通の子ではないのである。


「凛こそどうなの?仁にぃへの親愛が恋愛に変わったりするの?確か、本当は従妹なんだよね?倫理的にセーフなんだよね?」

「お兄ちゃんが望めば嫌とは言いません。何でもしてあげると思います。ですが、私の好きはあくまでも親愛です。それだけは、変わらないと思います」

「嫌とは言わないんだ……。何でもしてあげるんだ……」


 聖、ドン引きである。


「まあ、仁にぃも凛の事は妹としてしか見てないから、そんな変な事にはならないと思うけど……」

「ええ、そうだと思いますよ。それで良いのです。従妹なら……妹なら、何があっても縁が切れる事はありませんから」


 夫婦と言う関係は契約的な意味合いが強く、その関係性は永遠ではない。

 『死がふたりを分かつまで』の文言の通り、死によって分かたれてしまう。


 しかし、従妹……兄妹と言う関係は血の縁だ。

 その関係は誰かに認められる必要もなく、死ですら分かつことは出来ない。

 変わることなく永遠の関係と言える。


「ホント、筋金入りの『妹』だね」


 どう考えても、『兄離れ』が出来るようには見えない。


「ええ、私はいつまでもお兄ちゃんの妹です。永遠に」


仁に妹がいるかいないか。その答えは実はまだ決まっていません。

ifと言う単語には、真実がどちらかを決める力はありません。

「いる」とも「いない」とも明言していません。


皆さんの応援(感想)があれば、「いる」と言う事になるかもしれません。もしくは今後の話の都合。

そして、「いる」と言う答え(Answer)になれば、偽伝(Giden)に答え(A)が足され、外伝(GAiden)になります。

「いない」ならば、少女(Girl=G)が消え、偽伝(Giden)は異伝(iden)になります。

どちらとも決まらなければ、偽伝はずっと偽伝のままです。


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 神様の手違いで死んでしまった主人公は、異世界で第二の人生をスタートさせる。彼にあるのは神様から底上げしてもらった身体と、異世界でも使用可能にしてもらったスマー//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全491部分)
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  • 最終掲載日:2019/03/22 21:15
異世界迷宮で奴隷ハーレムを

ゲームだと思っていたら異世界に飛び込んでしまった男の物語。迷宮のあるゲーム的な世界でチートな設定を使ってがんばります。そこは、身分差があり、奴隷もいる社会。とな//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全222部分)
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  • 最終掲載日:2018/10/24 20:00
進化の実~知らないうちに勝ち組人生~

柊誠一は、不細工・気持ち悪い・汚い・臭い・デブといった、罵倒する言葉が次々と浮かんでくるほどの容姿の持ち主だった。そんな誠一が何時も通りに学校で虐められ、何とか//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全146部分)
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  • 最終掲載日:2019/02/27 22:55
賢者の孫

 あらゆる魔法を極め、幾度も人類を災禍から救い、世界中から『賢者』と呼ばれる老人に拾われた、前世の記憶を持つ少年シン。  世俗を離れ隠居生活を送っていた賢者に孫//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全137部分)
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  • 最終掲載日:2019/03/11 08:59
聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~

地球の運命神と異世界ガルダルディアの主神が、ある日、賭け事をした。 運命神は賭けに負け、十の凡庸な魂を見繕い、異世界ガルダルディアの主神へ渡した。 その凡庸な魂//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全365部分)
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  • 最終掲載日:2018/12/23 00:00
金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~

『金色の文字使い』は「コンジキのワードマスター」と読んで下さい。 あらすじ  ある日、主人公である丘村日色は異世界へと飛ばされた。四人の勇者に巻き込まれて召喚//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全838部分)
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  • 最終掲載日:2019/02/05 00:00
転生したらスライムだった件

突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた! え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 完結済(全303部分)
  • 45815 user
  • 最終掲載日:2016/01/01 00:00
私、能力は平均値でって言ったよね!

アスカム子爵家長女、アデル・フォン・アスカムは、10歳になったある日、強烈な頭痛と共に全てを思い出した。  自分が以前、栗原海里(くりはらみさと)という名の18//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全371部分)
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  • 最終掲載日:2019/03/29 00:00
即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。

※漫画版もあります! コミック アース・スター( http://comic-earthstar.jp/detail/sokushicheat/ )さんで連載中!//

  • コメディー〔文芸〕
  • 連載(全142部分)
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  • 最終掲載日:2019/03/17 10:23
レジェンド

東北の田舎町に住んでいた佐伯玲二は夏休み中に事故によりその命を散らす。……だが、気が付くと白い世界に存在しており、目の前には得体の知れない光球が。その光球は異世//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全2052部分)
  • 36638 user
  • 最終掲載日:2019/03/31 18:00
そのおっさん、異世界で二周目プレイを満喫中

4/28 Mノベルス様から書籍化されました。コミカライズも決定! 中年冒険者ユーヤは努力家だが才能がなく、報われない日々を送っていた。 ある日、彼は社畜だった前//

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全164部分)
  • 33783 user
  • 最終掲載日:2019/03/27 18:40
異世界のんびり農家

●KADOKAWA/エンターブレイン様より書籍化されました。  【一巻 2017/10/30 発売中!】  【二巻 2018/03/05 発売中!】  【三巻 //

  • ハイファンタジー〔ファンタジー〕
  • 連載(全532部分)
  • 32379 user
  • 最終掲載日:2019/03/24 23:52