漆黒の英雄譚   作:焼きプリンにキャラメル水
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折れた剣、壊れた宝石

エ・ランテル 地下牢

 

 

 

 

 

そこに一人の冒険者の姿が歩いていた。牢屋の固い廊下を歩く度に鎧の足音が広がる。

 

 

その音を聞いて衛兵の一人、ビニル=ガムテプは欠伸(あくび)をしていた口を閉ざし、顔をキリっと作る。牢屋で衛兵なんかしていると娯楽などあるはずがない。だからかビニルは足音だけでどういう人物が訪れるかを把握する特技を取得するに至ったのだ。規則的で単独の足音なら位の高い誰か、不規則的で足音が複数ならば犯罪者とそれを連行する衛兵などだ。そしてビニルが聞き取った足音は前者だった。

 

これから自分の前に来るであろう人物にみっともない姿を見せる訳にはいかないからだ。自分の身だしなみは大丈夫かと頭によぎるもすぐに頭を横に振るう。そんな時間はもう無かったからだ。衛兵の制服を着ている時は余分なものは持たない。手鏡の様なものなどを持ち歩くこともない。

やがて堂々とした足音は自分に近づいてくる。姿を確認した時、ビニルは自身が最大限緊張するのが分かった。自分に向かって歩いてくる『彼』に以前親戚と一緒に握手をしてもらったからだ。エ・ランテルで起きた『墓地騒動』を解決してくれた人物。ビニルは自分の生まれ育ったこの街を守ってくれた彼には深い感謝と尊敬の眼差しを向けていた。そんな彼だからこそこちらも礼儀をもって接する・・自分の出来る範囲で公務を行う。それが自分に出来る最大限の礼儀だと信じて・・

 

偉業に似合う立派な全身鎧(フルプレート)と二本の大剣。その全身から溢れだす雰囲気は歴戦の戦士そのものであり、堂々とした歩みは高貴さなどよりも力強さを感じさせ『男らしい』を体現しているようであった。

 

 

 

 

 

「モモンだ。面会を頼む」

 

 

「はっ。お話はアインザック組合長から聞いております。こちらです」

 

 

そう言ってビニルはモモンに牢屋を案内する。

 

 

「あぁ。頼む」

 

 

 

 

 

・・・・

 

 

・・・・

 

 

・・・・

 

 

 

 

「こちらです」

 

モモンは衛兵のビニル=ガムテプに案内されると一つの牢屋の前に立つ。

 

「案内ありがとう。ゆっくり休んでてくれ」

 

「はっ。もし何か御用があれば仰って下さい」

 

「ありがとう。その時は呼ばせてもらう」

 

ビニルは一礼するとその場から離れた。

 

 

 

 

 

 

(さてと・・)

 

モモンは牢屋に目を向ける。

 

 

中には青い髪をした男がいた。

牢屋の壁にもたれるように膝を抱えるようにして座り、

床でも見ているのか顔は伏していた。

 

 

「お前がアングか?」

 

 

モモンがそう尋ねる。

 

 

「・・・・」

 

 

 

アングは顔を上げなかった。

 

 

 

 

「もう一度聞くぞ。お前がアングか?」

 

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

 

二度目の問いでもアングは顔を上げなかった。

 

 

 

 

「答えないか・・・・ならば言い方を変えよう。お前がブレイン=アングラウスか?」

 

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

三度目の問いかけにもアングは応じなかった。

 

 

 

 

「お前があの王国戦士長ガゼフ=ストロノーフと唯一対等に渡り合ったブレイン=アングラウスか?」

 

 

 

 

「・・ガゼフ?・・・・・・」

 

 

 

 

アングが身体をピクリとさせる。

 

 

 

 

 

「もう一度聞くぞ。お前がブレイン=アングラウスか?」

 

 

 

 

「・・・・いや・・・俺はアングだ」

 

 

 

 

そう言ってアングはようやく顔をこちらに向けた。

 

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

アングの顔は一言で言うと「目が死んでいた」のだ。生気の無い顔をしており、筋肉質の身体との対比がその様子をより一層顕著にする。

 

 

 

 

「そうか・・・ではアングと呼ばせてもらおう」

 

 

 

 

「あぁ・・・それでいい。俺は暗愚(アング)だからな」

 

 

 

 

そう言ってアングは笑う。だが目は笑っていなかった。

 

 

 

 

「すまないが幾つか答えてほしいことがある」

 

 

 

 

「どうした?こんな俺に何を聞きたい?」

 

 

 

 

「まずお前が抱えていた血塗れの女、それとお前の後ろにいた女二人についてだ。どういう経緯であの状況になったんだ?」

 

 

 

「・・・・分かった」そう言うとアングは事の顛末を語りだした。

 

 

 

 

アングは『死を撒く剣団』のアジトを武者修行の一環で訪れたこと

 

入り口の二人の見張りを瞬殺したこと

 

中で『白い貴人服の女』が『死を撒く剣団』の者たちを殺害していたこと

 

自分がそれに気付かったこと

 

『白い貴人服の女』が『ある武技』の使い手を探していたこと

 

戦いを仕掛けるも圧倒的な実力差で完敗し、情けをかけられたこと

 

アング自身がその場で泣き崩れたこと

 

やることは無かったが中を探索していたら『拘束された裸の二人の女』を見つけたこと。

 

女に助けを求められて助けたこと

 

殺害された者たちの衣服を奪って渡したこと

 

最寄りの街のエ・ランテルに向かったこと

 

その途中で血塗れの臓腑やら鮮血まみれの中で『血塗れになった女(ブリタ)』を見つけ助けたこと

 

エ・ランテルの門で捕まったこと

 

そして今に至る

 

 

 

 

「・・ということだ」

 

「・・・だから。彼女たちが・・衛兵に異常なまでに怯えていたのか・・・」

 

(衛兵は『男』だからな・・・恐らく彼女たちは・・『そういうこと』の目的の為に捕まえられていたのだろう)

 

モモンは自分の中で怒りが込みあがるのを感じて拳を強く握る。だが自制心でなんとか怒りを抑える。今はアングに色々聞くことの方が大事だったからだ。

 

これで『二人の女』のことは分かったのだ。モモンの疑問の一つが解消される。

 

(だが、そうなるとブリタを血塗れにした者の正体が気になるな。最も可能性が高いのは『白い貴人服の女』だが・・・・)

 

だが『死を撒く剣団』の死体とブリタが血塗れになった原因の死体とは似ても似つかないのだと疑問に思う。そこでモモンは『白い貴人服の女』とブリタを血塗れにした存在は別々かもしれないと考える。

 

 

 

「話は分かった」

 

 

 

(『白い貴人服の女』が『ある武技』の使い手を探していたことは気になるな。だが今は・・・)

 

 

 

 

「話してくれて感謝する。アング。それとは別に聞きたいことがある」

 

 

 

「・・・何だ」

 

 

「今から私が『闘気』を出す。そこから『白い貴人服の女』と私、どちらが強いか判断してくれ」

 

 

「『闘気』?・・よく分からないがいいぞ」

 

 

アングの返事を聞いたモモンは意識を自身に向けた。

 

 

「!!!!!っ」

 

 

アングは自身に向けられた闘気に身体を震わせた。柵越しに当てられたものを浴びて全身に氷柱で突き刺されたような感覚に陥る。だがそれは数秒間のことであった。フッと闘気を引かれてアングは自身の身体が冷え切っていたことを感じる。

 

 

「どうだ?」

 

 

「・・・・正直俺じゃ判断はつかない。でも・・敵に回したくないのはあの女の方だ」

 

 

「・・・そうか」

 

 

 

 

モモンがその場を立ち去ろうと背中を見せた時だった。

 

 

 

「・・・・なぁアンタに一つだけ聞きたいことがある」

 

 

 

 

「何だ?」

 

 

 

「アンタは自分では決して太刀打ちできない圧倒的な存在と出会ったことはあるか?」

 

 

 

「あるさ。二人な。その内一人は私に生きる術を教えてくれた人。10年間で千回以上戦うも一度も勝てなかったさ」

 

 

 

アングは驚愕する。モモン程の実力者でも一度も勝てない存在がいることに驚きを隠せない。

 

 

 

「なのに戦いを挑んだのか?何故だ」

 

 

 

 

「正直理由は未だに分からない・・・だが、彼は私を助けてくれた。その『純銀の聖騎士』の背中に憧れた・・・だから少しでも近づけるように剣を振るったのかもしれない」

 

 

 

 

 

 

「憧れ?」

 

 

その言葉を聞きアングの脳裏に浮かび上がったのは一人の男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また来る」

 

 

 

そう言うとモモンはその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

_________________________________________

 

 

エ・ランテル 冒険者組合 2階

 

 

 

「・・・ということです。アインザック冒険者組合長」

 

「成程な・・・確かにそれなら辻褄があうか・・・」

 

モモンはアインザック冒険者組合長にアングから聞いた話を報告していた。

 

 

 

「だがそれが事実ならアングはブレイン=アングラウスではないのか」

 

「彼はあくまで自分のことをアング(暗愚)と言っていましたが・・・」

 

「アングか・・・アングラウスから取ったアングかもしれないが・・事実確認が出来ない以上断定はできんね」

 

「そうですか」

 

モモンはそこで息を吐いた。

 

 

「所でアインザック組合長にお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」

 

「構わんよ。どうしたかね」

 

「『二人の女』の居場所を教えて頂けますか?」

 

「・・彼女たちならブリタと同じ場所に居る。だがどうしてだい?」

 

「彼女たちからどうしても聞かなけばならないことがありますから」

 

「・・いいだろう。ただし『二人の女』のいる部屋に男が入ったら大変なことになる。もし彼女らに何か聞きたいことがあるならナーベ君に聞いてもらうといい。場所は未だに目覚めないブリタのいる部屋の隣の部屋にいる」

 

「分かりました」

 

モモンはその場を後にした。

 

 

 

「・・他の男なら駄目だが、モモン君なら彼女たちも心を開くかもしれないな・・」

 

誰もいなくなった部屋でアインザックはポツリと呟く。

 

 

 

________________

 

 

モモンはドアの外で待機していた。

現在ナーべに『二人の女』に話を聞いてもらっている。

 

「・・・・」

 

「モモンさん」ナーベが部屋から出る。

 

「どうだ?」

 

ナーベが首を横に振る。

 

「駄目です。心を閉ざしています」

 

「・・・・・俺が行ってみるか」

 

モモンとナーべは部屋の中に入る。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

二人の女はベッドの端に互いに寄り添うようにして座っている。顔は上を向いており天井を眺めている様だ。その瞳は虚ろで何も見ていないのは確かだ。

 

(彼女は・・・あの時の俺と同じだ)

 

(あの時、俺を助けてくれたのは・・・)

 

そう思い、モモンは背中の赤い外套を掴む。

 

 

 

もう大丈夫だ。

 

そう言われて赤い外套に包まれた瞬間、俺は・・・

 

 

 

 

(そうか・・・それが今俺がやるべきことなんだ)

 

 

 

モモンは赤い外套を外すと、彼女たちを外套で包み込むようにしたのだ。そのまま頭をポンポンと叩く。

 

 

「あっ・・・・あっ・・」

 

二人の女は赤い外套に包まれて肩を抱きしめられていた。

 

それはまるで炎の様に不浄なものを全て燃やし浄化してくれる。

とても温かいものだった。

 

「もう大丈夫だ。だから好きなだけ泣いていいんだ」

 

「うわぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

それは悲鳴ではなく、心が死んだ彼女たちが生まれ変わる為の産声の様であった。

 

 

・・・

 

・・・

 

・・・

 

「泣き止んだか・・」モモンは彼女たちに白いハンカチを渡す。

 

「はい・・ありがとうございます。こんないいハンカチ・・」

 

「気にするな・・・それより君たちに何があったか話してくれるか?」

 

「はい・・」

 

そう言って二人から語られた内容は悲惨なものである。

 

 

 

 

二人は互いに知らない者同士だった。

 

一人は王都内で拉致されて、もう一人は街道で馬車を襲われて

 

違いはあれど二人は『死を撒く剣団』に『行為』の目的の為だけに拉致された。

 

何十日も・・・・

 

行為の最中に「次はどれくらいもつかな?」などと言われ必死になったこと。

 

それしか生きていく術が無かったこと。

 

 

 

(・・・・ひどいな)

 

「話を聞かせてくれてありがとう」

 

そう言ってモモンは部屋から出ようとした時だった。

 

 

 

「あっ・・あの・・・」

 

「うん?」

 

「あなたのお名前は?」

 

(あっ・・冒険者チーム・・考えてなかった。でも彼女たちを安心させるためにも言わないとな・・)

 

「私はモモン。アダマンタイト級冒険者チーム『漆黒』のモモンだ」

 

そう言うとモモンは部屋から出ていった。

 

 

 

「モモン・・・様」

 

二人の女は互いに寄り添うとお互い同じ言葉を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________________________________________

 

 

 

冒険者組合 2階

 

 

「成程・・彼女たちを助けたのはアングだったのか」

 

「えぇ」

 

「『死を撒く剣団』を武者修行の為に討伐か・・・やはり彼はブレイン=アングラウスだな」

 

「そうなると『死を撒く剣団』『冒険者パーティ』を全滅させたのはブリタに聞くしかないですね」

 

(となると・・赤いポーションを使うしかなさそうだな)

 

 

「組合長」ドアをコンコンとノックする者がいた。

 

「どうした?何かあった」

 

「実は・・」受付嬢の一人がアインザックに耳打ちする。

 

「何!?・・分かった。君はもう下がっていてくれ」

 

「どうかしたんですか?組合長」

 

「モモン君」

 

「どうしましたか?組合長」

 

「ブリタが目覚めたらしい。悪いが会って話を聞いてほしい」

 

「分かりました。すぐに行きます」

 

そう言うとモモンはその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 


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