白くまラプソディ7~白昼夢


わずかにありついた森の恵みは
すでに遠い
限界はとうに超えていた
それでも雪をかじり、駆け続けた

めまい、痺れ、そして激痛
右目をやられたときからだ
じわじわと芋虫が這うように
体が侵されていく

ツンドラの林
太い幹を凍らせた結晶に
背をあずけ、バリバリとしゃがみ込む
脈打つ後頭部が冷やされてゆく
根っこの吸い上げる生命の澄んだ音色を
忌々しく感じながら
どんよりと曇った瞳で北をみつめ、まどろむ

大地の音が聴こえる
雪を掘り、凍土のコケを食むカリブー
力強く潮を吹き上げるベルーガの群れ
血を流し、抗うセイウチ
孤独なロボ、哀しい遠吠え

母が聴こえる
幼い頃に過ごした僅かな日々の断片
(これ食べられるの?
(母さん、何だか怖いよ
(父さんは大きかったの?
生き延びるすべての術を教えてくれた母
自然の驚異、北の極美
豊潤な愛、そして闘争心
(我が息子よ
(白い大地の砕ける音を聴け
(輝ける命の咆哮をあげろ

ゆっくりと開けられた左目は
深く透きとおり
ま、鋭く北を睨む