白くまラプソディ5~マタギ


最初に気づいたのは俺の方だった
風を計算して回り込む
思ったとおり
ただ北へ駆けている
それだけに予測しやすい

白い奴、岩を蹴る
風のような独特のステップ
跳躍するたび頭に巻いた、ボロキレが舞う
俊敏な巨体
奴が気づいて、瞬時に方向を変える
一ミリの無駄もない

猟銃を支える手が震える
しかしマタギとしての長い経験が
鼓動を抑えゆく
銃口が冷静に奴の動きを追う
集中
そして静寂
トリガーにかかる指先を僅かに握りこむ
撃音が山にぶつかって木霊する
火薬の匂い
白煙が風に流れる
右目
打ち抜いた
白い巨体が転がって
なんと、立ち上がった?!

荒い息
獣の匂いが間近に迫る
睨み合ったまま動けない
銃を構えるには近すぎる距離だ
白い頭がみるみる朱に染まってゆく
奴がボロキレを気にした、一瞬の隙
空薬きょうを排出し
次弾を装填して、再び構えた
刹那

(キュッ
――――

聞いたことのない
かん高い声
子供の鳴き声のような
哀しい獣の咆哮

白くまは消えていた
右目、はずす距離じゃない
それでも奴は立ち上がった
寸前でかわしたとでも言うのか
銃口を下ろし、深い息を吐く
奴がボロキレにこだわらなければ
こっちが殺られていたかもしれない
しかしあの声は何だったのか

奴が消えた
北に目を凝らしたまま
俺はいつまでも立ち去ることができなかった