「天才」「秀才」「凡人」には境界線なんてない
僕たち凡人はどうしたらいい?「天才を殺す凡人」の著者に相談したら“勘違い”を指摘された
『天才を殺す凡人』。
そんな衝撃的なタイトルのビジネス書が出版されました。
ビジネスの世界で「天才」「秀才」「凡人」、それぞれがどのような才能をもち、どのように認識しあい、そしてなぜ天才が殺されてしまう(=理解されず、排斥されてしまう)ことがあるのかを物語形式で描いたこちらの書籍は、発売3週間で5万部を突破し大きな話題を集めています。
今回は、著者でIT企業役員も務める・北野唯我さんに「せめて“天才を殺さない”ために、我々凡人にできること」を伺ってきました。
北野さんが理論の先に見据える「やさしい世界」、ぜひご覧ください。
〈聞き手:サノトモキ(ライター)〉
ライター・サノ
北野さん
ライター・サノ
凡人にも、天才のために何かできることはないのでしょうか?
北野さん
フフフ、サノさんは一つ、大きな勘違いをしているみたいですね。
ライター・サノ
北野さん
まずは、本を読んでない読者にも向けて、2つの前提を簡単におさらいしましょうか!
前提① 凡人、秀才、天才が理解しあえないのは、物事の良し悪しを判断する「軸」が違うから
北野さん
秀才は、天才の凄さに気づきながらも、嫉妬したり、「天才が消えれば自分が頂点に立てる」という動機で彼らを潰したりしようとします。
一方で凡人は、秀才のことを天才だと勘違いしており、成果を出す前の天才のことは「コミュニティの和を乱す異物」程度にしか認識できていません。なんとなく不気味で怖いから、彼らもまた天才を排斥しようとする。
ライター・サノ
北野さん
この3者は、物事の良し悪しを判断するときの「軸」が根本的に違うんです。
ライター・サノ
北野さん
そして3者は、それぞれの才能を軸にして、物事を判断したり評価したりしているんです。
創造性…独創的な考えや着眼点をもち、人々が思いつかないプロセスで物事を進められる
再現性…論理的に物事を考え、システムや数字、秩序を大事にし、堅実に物事を進められる
共感性…感情やその場の空気を敏感に読み、相手の反応を予測しながら動ける
北野さん
ライター・サノ
つい「天才に比べて頭脳が劣るから理解できない」とイメージしちゃいがちですけど、よしあしを決める軸が根本的に違うなら、そりゃどこまで話し合っても平行線で理解のしようがないですよね…
北野さん
凡人が多数決という名のナイフで天才を追い詰め、最後は秀才が論理やルール(法律)を使って息の根を止める…そんなことが世界のいたるところで起きていますよね。
たとえば歴史上で一番わかりやすい例は、イエス・キリストというある種の“天才”が登場したとき、「怖い」と反応してそれを“叩く”勢力がいたとか。
前提② 天才・秀才・凡人、それぞれの間に入ってコミュニケーションの橋渡しをする存在がいる
ライター・サノ
殺されてしまう天才もいるのに、彼らはどうして殺されることなく成功を収めることができたんでしょう?
北野さん
ライター・サノ
北野さん
高い「創造性」と「論理性」をもつが、「共感性」はほとんどない。とにかく仕事ができる。一代で大会社を作り上げる社長や、投資銀行にいるような人がわかりやすい。
2. 最強の実行者
「論理性」と「共感性」をあわせ持ち、一番多くの人の心を動かせる。とにかく要領がよく、モテる。会社のエースタイプ。
3. 病める天才
高い「創造性」と「共感性」をもち、爆発的なヒットを生み出す。ただ、「再現性」がないためムラが激しく、病みやすい。一発屋のクリエイタータイプ。
※共感の神
凡人のなかでも突き抜けて「共感性」が高く、天才に対する秀才の感情を感じ取ったり、実際に天才と出会い共感していくことで「天才」の存在に気づいたりする。共感性が高すぎるがゆえに天才の感情すら理解できるため、天才を心理的な面で支えることができる。
北野さん
つまり、天才は突き抜けた共感性をもつ「共感の神」に理解され、支えられることで、なんとか創作活動をすることができる。そして、天才によって産み出されたものは、「エリートスーパーマン」と秀才に「再現性(≒論理性)」をもたらされることで説明可能な形に変換され、「最強の実行者」を通じて凡人に「共感」されていく。
これを、「コミュニケーションの断絶」を乗り越え世界が前に進んでいくメカニズムだと定義しています。
すべての人が「3つの才能」を持っている
北野さん
サノさんはこれまでの前提を踏まえて自身を「凡人」だとカテゴライズして、「自分は『天才』でも『秀才』でも、ましてや『3人のアンバサダー』でも『共感の神』でもない…。ただの凡人じゃ天才のために何もできないじゃん…」と思っていると思うんですね。
ライター・サノ
違うんですか…?
北野さん
「天才」と「秀才」と「凡人」は、誰のなかにもいるんです。
ライター・サノ
北野さん
この本が目指しているのは、自分が「天才」「秀才」「凡人」のどれに当てはまるかカテゴライズさせることなんかじゃなくて、“3つの才能を自覚して、自分の中にも「天才」や「秀才」がいると気づいてもらうこと”なんです。
そうやって自分にも天才と同じ要素があるとわかって、考え方や気持ちを想像できるようになったら、きっと理解してあげることができる。やさしくなれる。
それがこの本を書いた目的であり、僕が思う「天才を殺さないために、凡人にできること」です。
ライター・サノ
北野さん
そして、才能は磨くことも可能なんです。
ライター・サノ
北野さん
どうしたらそれぞれの才能を磨いていけるか、考えてみましょうか。
「再現性」は後天的に得やすい才能。勉強を頑張れば得られる
北野さん
再現性って、「起きた出来事をいろんなケースで応用・再現できるように抽象化すること」だから、イメージとしてはいろんな問題を数式に当てはめていく数学に近くて。
ライター・サノ
北野さん
つまり、凡人が「最強の実行者」になって天才を支えることは、可能だと思います。
凡人は「創造性を磨くトレーニングをしていないだけ」
ライター・サノ
北野さん
天才と凡人の一番の違いって、生まれ持ったセンス云々以上に、創造性を磨き切ってきた圧倒的な経験量なんですよ。
というのも、創造性は誰しもが持って生まれてくるけど、ほとんどの人は創造性を養うトレーニングを続けることができないんです。
ライター・サノ
北野さん
たとえばサノさんに何か創造性の高い要素があったとしても、それを発揮したらたぶんイジメられてしまうと思うんですよ。
そのとき、サノさんのなかで秀才と凡人が「この夢が叶うはずがない(論理性)」とか、「このままだと周りにどう思われるんだろう(共感性)」みたいな自己問答を始めるわけです。
そして結局、たいていの人は子供時代に、その孤独の道を突き進むことを諦めていく。
北野さん
最初なんて、実際にドラムで再現しようとしたら腕が3本ないと叩けないフレーズが入っていたりして、そうとう型破りな構造の音楽も配信していたんですよ。
もし米津さんの「秀才」の視点が強かったら、「こんな音楽ウケるわけないよ」って客観的な自分の声に潰されてたはずなんですよね。
でも彼はそこで立ち止まらずに、自分の創造性を発揮できる音楽という「武器」を、10年以上鍛え続けてきた。
ライター・サノ
北野さん
もちろんセンスもあるけれど、ほんとうはセンス以上に経験量の差。
だけど、あまりにその差が遠すぎて「米津玄師」ができあがるまでのプロセスが想像もつかない(=再現のしようがない)から、人は彼を「天才」と呼ぶんです。
ライター・サノ
となると、もう僕が今から創造性を伸ばそうとしても遅いんですかね…?
北野さん
それこそビジネスの世界なんて、みんなスタートラインは20歳くらいですよね。米津玄師さんだって大谷翔平選手だって10~15年くらい経験年数を積んで成果を出しているわけで、ビジネスで創造性を発揮しようと思えば、30歳以降くらいからようやく成果が見えてくるはずなんです。
単純に創造性が表出するタイミングがアーティストやアスリートに比べて遅いだけで、ビジネスフィールドにも天才はたくさんいます。
北野さん
「サラリーマンにしかなれないようなやつに天才はいない」と決め込んで、ビジネスで創造性を開花させる可能性のあった天才の芽を摘んでしまうんです。
そういう声をはねのけて、自分のなかの秀才(論理性)や凡人(共感性)というリミッターをどれだけ外していけるかで、創造性を養えるかは大きく変わっていくと思います。
「天才」「秀才」「凡人」には境界線なんてない
北野さん
でも、凡人ながら天才を認知することができる「共感の神」になるためには、共感性を高めることよりも、この本に書いたような「人間力学」を理解することが圧倒的にデカいと思うんですよ。
誰かに対して「なんだこいつ、気持ち悪…」って感じたとき、「いやちょっと待てよ。もしかしたらこいつ、北野の本に書いてあった『天才』かもしれないな」っていったん立ち止まって検証できるようになるじゃないですか。
ライター・サノ
北野さん
3つの才能を自覚できると、才能を行ったり来たりして、適材適所で発揮できるようになる。
つまりこの本は、一見3者の間に境界線を引いているように見えて、じつは境界線なんてないんだってことに気づくための本なんです。
ライター・サノ
3つの才能は自分にもあるんだと理解できた瞬間に、境界線が溶けだした気がする…!!
北野さん
この本を読んだ読者の方が、自分と違う軸で物事を考える人のことも想像できるようになって、自分のなかにいる天才とか、まわりにいる天才にやさしくしてあげられるようになったらいいなあ。
僕たちは互いを理解できれば、もっともっとやさしい世界にできるはず。
大げさに聞こえるかもしれませんが、僕は今回の取材中、本当に自分のなかの境界線が溶けだしていくのを感じていました。
書籍『天才を殺す凡人』では、社長・アンナを引きずり降ろそうとする秀才、凡人たちと、それを防ごうとする「共感の神」の様子が描かれています。かつて凡人だった主人公を「共感の神」として覚醒させるのが「とある犬」…というのも、この本の面白いところ。
みなさんもぜひ、「創造性」「再現性」「共感性」の3つの才能を理解し、自身の活躍の場を広げてみてはいかがでしょうか。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=土田凌(@Ryotsuchida)〉
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