トランプ米大統領は「完全無罪だ」と勝ち誇るが、実際のところは結論は灰色である。モラー特別検察官がまとめたロシア疑惑の捜査報告書だ。議会の追及はもちろん、トランプ氏の説明も必要だ。
捜査報告書は、ロシアが二〇一六年の大統領選に影響を及ぼすため、ハッキングや偽情報発信などによって大掛かりな介入をしたと認定したが、トランプ陣営が共謀したことを裏付ける証拠は見つからなかったと結論付けた。
だが、選挙戦のさなかにロシア人弁護士から、対立候補のクリントン氏に不利な情報を提供すると持ちかけられ、トランプ氏の長男らが面会したことは判明している。
二年近くにわたった捜査は、ロシア側関係者への取り調べが十分にできない厳しい制約が課せられた。共謀を立証するには高いハードルがあった。
捜査の中止要請を拒否したコミー連邦捜査局(FBI)長官を、トランプ氏が解任したことが司法妨害に当たるかどうか? 捜査のもう一つの焦点についてはモラー氏は結論を見送り、バー司法長官らに判断を委ねた。
ただし捜査報告書は「大統領が罪を犯したと結論付けるものではないが、潔白を証明するものでもない」と指摘した。
ローゼンスタイン司法副長官と協議したバー氏は司法妨害を認定するには証拠不十分と判断した。これには、トランプ氏の事情聴取ができなかったことが響いていないだろうか。
バー氏は何を理由におとがめなしと判断したのかを説明すべきだ。それでなくても司法長官就任前、捜査を批判した人物だ。
司法長官の公平性が問われているだけではない。大統領といえども法の下では平等という大原則にかかわる問題もはらんでいる。
捜査に対しトランプ氏は率先して疑惑を晴らす姿勢を見せなかった。事情聴取に応じず、モラー氏に書面で回答しただけだ。
そればかりかモラー氏や司法省をたびたび非難した。捜査の萎縮を狙う圧力ではないかとも受け取れる発言だった。
「こんな捜査を大統領が受けなければならなかったのは、国家の恥だ」と吐き捨てるように言ったトランプ氏だが、疑惑を招いた原因は自分にある。しかも、選挙資金やビジネス絡みの疑惑の捜査は別途続いている。
国民が納得できる説明をする。トランプ氏にはこの責任がある。
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