各種砥石の仕上目安  2005/11/16製作
刃物を研ぐ際に、何番の砥石を使えばどれくらいの仕上がりになるのかという目安を作ってみました。ベテランの方はすでご存知だと思いますが、これから刃砥ぎに挑戦なさる方にはお役に立てるかもしれません。

試験片として幅20mm、長さ120mmの平鋼を使います。材質は恐らく一般構造用圧延鋼材(SS400)、焼き入れなどの処理はされていません。
実験の方法は、基本的に荒い砥石から目の細かい砥石へと進んでいきます。

砥ぐ時間は厳密には測っていませんが、どの砥石も概ね1分程度です。

砥糞の出方、鉄が削れた黒い汁の出方を観察するために、砥石表面は水で流していません。(スエヒロ#3000とキングS-1はうっかり流してしまいました。)
< 結果 >
#180程度の荒砥石では砥石の目がそのまま残り、ザラザラな仕上がりになります。#1000~2000の中砥石では全体がきめ細かな「つや消し」のような状態になります。そして、#3000~6000の仕上砥石になると次第に鏡面のような仕上がりになります。

今回は砥ぎ面積が大きいにもかかわらず時間が少なかったため、#6,000でも完全な鏡面にはなりませんでした。時間をかけて丁寧に研ぎ続ければピカピカのミラー仕上げになるでしょう。

砥糞の状態も砥石ごとに特色があります。シャプトン系は砥糞がほとんど出ず、すぐに鉄の削れた黒い汁が出てきます。反対に、キング系砥石は砥糞をたくさん出します。

キング#1000で研ぐと金属表面が暗く渋い色合いになりますが、同じ#1000でもシャプトンはやや明るめの色に仕上がります。
個々の特徴について
シャプトン株式会社製砥石「シャプトンM5モス」です。砥石寸法は210x70x20、厚みのうち研磨層は5mmです。

説明書には「ステンレス刃物の欠け刃や角度修正に、くいつき抜群の荒砥石。」と書かれています。荒砥というと減りが早い傾向がありますが、これは非常に硬質で減る量は少な目です。ガリガリと引っ掛かるような研磨力があります。

面修正のためにシャプトン#1000オレンジや#2000グリーンと擦り合わせてしまうと、#180モスの目にオレンジやグリーンの粒子が詰まってしまいます。また、粒子の角も丸まってしまうのかもしれません。詰まってしまうと刃が滑ってしまうツルツルの状態になります。我慢して1~2回分の研ぎを行えば、次第に減ってザラザラの面が出てきます。
シャプトンM5シリーズの「中荒砥石」#1000オレンジです。価格は2,200円前後です。説明書には「研削力と耐久力の両立を実現した中・荒兼用砥石。」と書かれています。

左の画像をご覧になって頂くと、黒っぽい汁が出ているのがお分かり頂けると思います。通常の砥石では「砥糞(とくそ)」と呼ばれる削れた砥石の汁が出てきますが、シャプトンは砥糞がほとんど出ずに黒い削れた汁が出ます。
砥石の性能とは直接関係はありませんが、清潔な状態に保ちたい台所や調理場で研ぐときに、砥糞が非常に少ないという点はそれだけで長所になり得ると思います。
シャプトンM5シリーズの「中仕上げ」砥石"#2,000グリーン"です。説明書には「仕上、中砥の兼用で手間いらず、時間いらず。」と書かれています。

#2,000というとツルツルで研削力が乏しくなりがちなのですが、この#2,000グリーンは目が細かいにもかかわらず研磨力があるのが特徴です。ご覧のように黒い汁がどんどん出てきます。

実際に使用している感想としては、研磨力に優れるので早く研げます。また、早く研げる(研いでいる時間が短い)という事がブレる量を最小限に抑えているのか、鋭い刃が付きやすい印象です。

研磨力の劣る砥石では研いでいる時間が長く、前後にストロークさせる回数も増えてしまいます。すると正確な角度を保っているつもりでも、人間ですので次第に握力も低下し多少は角度がぶれてしまいます。逆に、研磨力に優れる砥石では研いでいる時間が短く済み、前後にストロークさせる回数も少なくて済みます。すると、握力が低下する前に正確な刃が付き易いのではないか・・・と勝手に理由付けています。
非常に有名なキング(松永砥石株式会社)デラックス#1,000です。価格は1,500円前後で販売されています。

見た目から「赤レンガ」とも呼ばれるキング#1,000ですが、ごくごく普通な砥石です。研磨力があるわけでもなく、無いわけでもありません。減り方も普通、研ぎ味も「シャッシャッ」という感じで普通な感触です。

特徴としては赤茶色の砥糞が大量に出る点です。
カミソリや包丁で有名な貝印株式会社の#1800「仕上砥石」です。日本製で価格は2,000円前後です。砥粒は「アランダム#1800(溶融アルミナ)」と記載されています。

ホームセンターでは砥石が大工道具コーナーに置かれている場合が多いのですが、これは包丁コーナーに置かれています。厚みが薄い分、幅を広めにとってあるのが特徴です。

砥糞が出てくるとヌルヌルした感触になり、本当に削れているのか不安になるのですが、それでも黒っぽい汁が出てくるのが不思議です。
ナニワ研磨工業株式会社製の#3,000仕上砥石です。家庭用包丁向けとしてあるので、サイズは薄く小さめです。価格は1,500円前後だったと記憶しています。割れを防ぎ、安定性を高めるために、2液性エポキシ接着剤を使って12mm厚の合板(コンパネ)に接着してあります。

砥石自体が柔らかめなので、慣れないうちはカンナの刃がズボッと刺さってしまうこともありました。研ぎ味はヌルヌルした感触ですが、ちゃんと黒い跡が砥石に付いてきます。
キング#1,000と並んで定番とされているのが、このキングS-1です。価格は3,000円前後です。

ヌルヌルした研ぎ味を予想していたのですが、実際はシャリシャリした良好な感触でした。柔らか過ぎず、硬過ぎず、飛びぬけた研磨力があるわけでなないけれども、普通に研げる・・・という、キングらしい砥石です。
その他の砥石
今回のテストには使用しませんでしたが、気に入って使っている砥石をご紹介します。

ナニワ砥石の「青エビ金剛砥石」です。パッケージには青い海老のマークがついています。粒度は#220、砥粒はGCです。GCだけあり減りは早いですが、むしろどんどん減ってくれるので目詰まりしないのが助かります。
カミソリや包丁で有名な貝印株式会社が家庭用包丁向けとして販売している砥石です。砥粒は「アランダム#500 溶融アルミナ」と表示されています。日本製で実勢価格1,300円前後です。

#500という粒度の砥石は珍しいので重宝しています。農具などで、#220荒砥だけでは荒過ぎるが#1000中砥まで仕上げる必要は無いという時に使用します。シャリシャリという気持ちの良い研ぎ味で、研削力もまずますです。
2006/8/11 補足 スエヒロ WA#3000
株式会社末広製の「ステンレス刃物用 仕上砥石 #WA3000 No.3003SP」という砥石です。大きさは183x63x20mm、ホームセンターにて1,770円で入手しました。

ナニワの#3000ほど柔らかくなく、シャプトン#2000ほど硬くないという中間的な性質です。"ステンレス刃物用"とありますが、和式刃物や肥後守(ひごのかみ)などのハガネ系刃物にも特に問題なく使用しています。
砥石と台は接着固定されています。台は固めのプラスチックのフレームと、柔らかいゴム製の脚から構成されています。フレームにはリブ(補強目的の凹凸)がたくさん入っており、柔らかいゴム脚によって砥石を安定した状態に保ちやすいようです。

幅63mmという大き過ぎず、小さ過ぎずというサイズです。また、仕上砥石としては入手しやすい価格帯にあります。#1000程度の中砥石で砥いだ肥後守を仕上げるのにちょうど良さそうな砥石かもしれません。
2006/8/11 個人的な使用例
人それぞれ好みや考え方がありますので、お使いになる砥石も千差万別でしょう。しかし、そう言ってしまうと、初めての方はどんな砥石を選んだら良いのか分からず、途方に暮れてしまうかもしれません。

そこで、ホームセンターなどで500円前後で販売されている「肥後守(ひごのかみ)」を砥ぐ場合を想定し、砥石選択の一例をご紹介させて頂きます。

※野球のピッチャーが打者に応じて「ストレート」ばかりでなく「カーブ」や「フォーク」も投げるように、刃物の材質や種類によって使用する砥石も変わってきます。あくまで試行錯誤の中の一例という点をお断りさせていただきます。
中砥(なかと)にはシャプトン株式会社製の"M5 オレンジ#1000"を選んでみました。研磨力がある砥石なので早く刃が付きやすく、初めての方にとっても使いやすく感じられる砥石かもしれません。

キングデラックスなどは事前に数分間水に漬けておく必要あります。しかし、シャプトン#1000は直前に水を掛けるだけで使用できるのも長所です。価格は2,300円前後で販売されていることが多いようです。
#1000だけでも切れないことはありませんが、木の切り肌がボソボソと荒れてしまいがちですし、切れ味もそれほど出ないようです。

#3000で仕上げると木の切り肌が綺麗になり、切れ味も刃が自然に入っていくようになるようです。スエヒロのWA#3000は硬過ぎず、柔らか過ぎずという硬度で、刃が滑ってしまうことも少めです。価格は1,800円前後です。
#3000でも相当な切れ味は出ますが、#6000で仕上げるとより一層切れ味が出るようです。しかし、通常ならば#3000で十分かもしれません。

キングS-1もまた、硬過ぎず柔らか過ぎずという、癖の少ない仕上がりになっているようです。3200円前後で販売されています。

3つの砥石の金額を合計すると、2,300+1,800+3,200=7,300円という、それなりの金額になってしまいます。こうした点が「折る刃式」カッターナイフが普及する一因になっているのかもしれません。
2007/4/30補足 修正砥石の製作
100円ショップで販売されているGC系砥石を使用し、砥石の凹みを修正する「修正砥石」を2006年6月に思いつきで作ってみました。思いのほか使い勝手が良好でしたのでご紹介させて頂きます。

「キング」などのオーソドックスな砥石に限らず、「シャプトン」などの新型硬質砥石に対しても滑らずに適度に食いついてくれます。

用意するのはGC#300砥石と電動ディスクグラインダ、石材用ディスクです。GC系(グリーンカーバイド系)砥石を選ぶのがポイントです。

難しい作業は無く、研削砥石を電動ディスクグラインダ(ベビーサンダー)に装着し、砥石に凹みを刻むだけです。砥石は万力などに固定すると確実に作業できます。
目にゴミや破片が入ると大変なので、ゴーグルは装着しましょう。

#1000中砥や#3000仕上げ砥を修正すると、ぬるぬるした砥糞(とくそ)が出てきます。溝を刻まなくても修正はできますが、溝があると砥糞が排出されやすいような感触がします。
修正砥石には硬質なダイヤモンドブリックに溝凹を設けたタイプもあります。しかし、結合剤が強すぎるのか、表面の砥粒が丸まっても剥がれず、結果として滑ってしまいよく削れないというものもありました。

修正砥石選びに暗中模索・試行錯誤している段階ですが、今の段階ではGC系荒砥に溝を刻んだものが個人的には良好は結果を得ています。
<参考にさせて頂いたページ>
シャプトン株式会社
松永トイシ株式会社(キング)
貝印株式会社
ナニワ研磨工業株式会社

TAKAよろず研究所
http://www.geocities.jp/taka_laboratory/
2005/11/16製作 2006/8/11補足 2007/4/30 補足 2011/10/5修正 
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