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【社説】

週のはじめに考える 鼓腹撃壌とはいかない

 自分の生活に政治なんて関係ない-。無論、そんなはずはないのですが、このごろ社会で一層、そういう気分が強まっている感じを受けます。

 実際、統一地方選では後半も含めて無投票がまたぐんと増えそうですし、低投票率の記録更新が心配される選挙もそこかしこに。そういう懸念は当然、今夏の参院選にも共通します。

 ふと、思い浮かんだのは、『十八史略』などにある<鼓腹撃壌(こふくげきじょう)>の故事です。

◆イメージとの落差

 尭(ぎょう)という王帝が、うまく国を治められているのか気になり、変装して街に出てみた。すると、一人のじいさんが食べ物を頬張り、腹鼓を打ち(鼓腹)ながら、足で地面を踏みならし(撃壌)調子を取って、こんなふうに歌っている。

 日が昇れば働いて、日が沈んだら休む/井戸を掘って水を飲み、田を耕してものを食う/帝の力なんて、何か自分に関係あるか、いや、ないね

 帝への悪口のようですが、さにあらず。それどころか帝は安堵(あんど)する。民は政(まつりごと)を意識することなく幸せな暮らしを謳歌(おうか)している、これぞ善政、というわけです。

 日本の現状にも、いいところは多くあります。が、呑気(のんき)に<鼓腹撃壌>できるほどかというと大い

に疑問。実は思っているほどではない、イメージはそうだが実は…ということ、案外ある気がします。

 最近、国連関連団体が発表した「幸福度ランキング」。日本は百五十六カ国中五十八位でした。評価に使われた六つの指標には疑問のあるものもあり、額面通り受け取る必要はないのですが、正直、「え、そんなに下位?」と思われた方もありましょう。

 指標の一つが「国民一人当たりGDP」。これは二十四位でした。上位には北欧諸国などが並び、近くではオーストラリアも日本より上。主要七カ国(G7)では、日本より下位はフランス、イタリアだけです。政治はともかく経済は一流、世界に冠たる経済大国-。そんなイメージとは少しギャップを感じませんか。もちろん、それだけが国の豊かさを測る数字ではないのですが。

◆経済、格差、環境、安全

 経済関連では、こんなデータもあります。いわゆる「相対的貧困率」。経済協力開発機構(OECD)によれば、日本は三十八カ国中、よい方から数えて二十九位という低位です。格差を示す「収入不平等指数」でも、平等の方から数えて二十六位…。比較的平等で格差の少ない国。そんなイメージともかなり落差があります。

 何となくいい印象、という点では日本経済の現状もしかりです。減速懸念は出ているものの、一見まずまず順調。最も分かりやすい指標は、日経平均二万円超の水準が続く株価でしょうか。

 しかし、実は株は、アベノミクスの名の下、上場投資信託(ETF)という形で、日銀によって買い支えられています。昨年の買い入れ額は六兆五千億円以上。ETF保有残高は約二十四兆円に達し、日銀が実質的に大株主という会社も増えています。

 主要国はどこもやっていないという荒業。専門家は知らず、素人目には“粉飾”にしか見えません。大量に売れば株価は大きく下げるから、売ろうにも売れないのでは? 第一、もし暴落したら?

 あるエコノミストが本紙でこう言っています。「取得額から三割余り株価が下がれば、日銀の自己資本はほぼなくなる。常に爆弾を抱えているようなものだ」

 ならば経済以外、例えば、「環境」はどうでしょう。

 あの公害克服の経験もあって、日本は「環境先進国」というイメージも私たちは持っています。しかし、原発に拘泥するうち、再生可能エネルギーへの取り組みでは他国に完全に出遅れ、導入量の将来目標でも、ドイツなど欧州諸国の水準とは相当な差が。地球温暖化防止でも、国際的環境団体などからは、しばしば「化石」扱いされています。

 では、「食品の安全性」は? 日本の規制は厳しいと思われがちですが、最近、厚生労働省は「ゲノム編集」食品の多くについて、厳格な安全性審査を求めず、国へ届け出れば販売OK、という報告書をまとめました。でも、例えば欧州連合の司法裁判所はもっと厳しい判断を示しているようです。

◆政を監視していかないと

 どうも、漠然と思われているほど、この国は豊かでも平等でも安心でも先進的でもないのかもしれません。私たちには、「政治なんか自分の生活に関係ない」と、腹鼓を打ち歌い踊っている余裕などないということでしょう。むしろ政をしっかり意識し、監視していかないと。まずは、統一選、参院選で、確かな一票を。

 

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