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【東京】

戦後にこだわった編集者・故松本昌次さん 文京で来月6日「語る会」

『戦後編集者雑文抄-追憶の影』の発刊を記念し、都内の書店で行われた「トークイベント」で語る松本さん=2016年8月26日(撮影・吉川光)

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 今年一月に逝去した編集者の松本昌次さん(享年九十一)の最後の著書「いま、言わねば 戦後編集者として」が刊行された。戦後派作家に伴走し名著を手掛けた松本さんが、「戦後」を引き継ごうと晩年つづった時事エッセーを収録。「松本昌次さんを語る会」が四月六日、文京区の区民センターで開かれる。 (佐藤直子)

 「松本さんは、自身の寿命が尽きようとする時、本当に無念だったのだと思う。日本の破廉恥で無残な現状に」。松本さんの手による最後の編集となった同書を刊行した一葉社代表の和田悌二さんはこう語る。

 一九二七年、東京に生まれた松本さんは戦後、教師を経て、五三年に未来社に入社。埴谷雄高、木下順二、富士正晴、花田清輝ら多くの作家や思想家と親交を深め、多くの名著を出した。八三年に独立して影書房を創立してからも戦後派作家らの仕事を残すため「選集」の刊行などを続けた。

 六十五年に及ぶ編集者人生の底には戦争体験に根差した権力への懐疑があった。安倍政権下での新安保法制や改憲の動き、原発再稼働、沖縄の基地問題。アジアに対する戦争責任を忘れたような昨今を憂えた。「いま、言わねば」は、戦争の時代に戻るような現状への異議申し立てを込めた、まさに遺言なのだという。

 収録したのは、「レイバーネット」「9条連ニュース」など、市民団体が発行するミニコミ誌に晩年寄せた文章など約七十編。戦後派作家の「影」に徹していた松本さんが、最後の本では自らの言葉で正面から時事問題を扱った。「このままでは死んでも死にきれないという痛憤の念と共に、戦後に生きた者としての責任と使命を果たそうとしたのだと思う」と和田さん。

 「語る会」は、「葬儀や告別式の類は行わないように。しのぶ会やお別れの会もやってほしくない。でも、ぼくを肴(さかな)に考えたり批判したりするのはいい」という生前の言葉に従って、松本さんが生涯こだわった「戦後」の継承を率直に語り合う場にしたいという。誰でも参加できる。会は午後二時から(同一時半開場)。会費は三千円(書籍と冊子と軽食代)。問い合わせは一葉社=電03(3949)3492=へ。

松本さんが晩年にミニコミ誌などに発表したエッセーなどをまとめた『いま、言わねば 戦後編集者として』(一葉社)

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