ドミンゴ/マラサイ系MS
地球連邦軍グラナダ基地で開発されたRMS-106ハイザックの発展型、RMS-107ブロンコから更に発展したMS。グラナダ基地兵器工廠との共同開発機であるハイザック、ブロンコと違いAE社のみで開発・製造が行われ、ムーバブル・フレームとガンダリウムγ合金製装甲を装備する本格的な第二世代MSとなった。
本来、マラサイはエゥーゴの主力MSとして開発・製造されていた機体で、当初はMSA-002ドミンゴの名称がつけられていたが、エゥーゴとの関連を疑われていたAE社はティターンズの捜査を牽制するべく、名称をマラサイに変更した上でティターンズに初期ロットを無償供給した曰くつきのMSである。
実際にはティターンズだけではなく、本来の供給先であるエゥーゴやカラバにもアグレッサー機用として少数が譲渡され、第一次ネオ・ジオン抗争時にはアクシズにも売却された。このことから分かるように、0087~89年の一連の戦乱ではほとんどの軍陣営で使用されていた。ある意味、死の商人としてのAE社の体質が最も表されているMSと言ってもいいだろう。
エゥーゴ、カラバ、ティターンズを含む地球連邦軍の各派閥と、連邦と敵対するアクシズ(ネオ・ジオン)の双方で使われ、ティターンズではコピー生産も行ったこともあり正確な総生産数は判明していない。しかし、グリプス抗争とそれに続く第一次ネオ・ジオン抗争の時期ではもっとも多く生産されたMSの一つであった。
機種一覧
RMS-107Aブロンコ
RMS-107Bダンディライアン
RMS-108Aマラサイ
RMS-108Bマラサイ改
RMS-108Dマラサイ
RMS-108Fマラサイ
RMS-108Cバハデュール
RMS-108Sオライオン(MSA-002S)
RMS-108Eマラサイ
RMS-109レギュシオ・ザック
RMS-156グリフィン
MSA-002Aドミンゴ
MSA-002Bブッシ
MSK-002A陸戦型ドミンゴ
MSK-002Bマラサイスキー
RMS-107Aブロンコ★
地球連邦軍が一年戦争後に開発したRMS-106ハイザックの発展型で、RMS-108マラサイへ発展する過程で開発されたMS。ハイザックの欠点である出力不足を補うため、ジェネレーターを重点的に改良が加えられた他、部分的にムーバブル・フレームを採用するなど、当時の最新技術を惜しみなく投入した機体である。
当初、ハイザックはAE社製のジェネレーターの搭載される予定で設計が行われたが、直前に地球偏重派の連邦政府高官のゴリ押しにあって地球企業タキム社製のものに変更され、予定の出力を発揮できなかった経緯を持つ。同機が出力不足という評価を受けるのはこのためであった。
元々、ハイザックそのものがプロトタイプRX-105ザック開発時から、同時期に進められていたAE社主導のガンダム開発計画に携わっていたスタッフとの間で技術交換が頻繁に行われており、当初の計画では連邦とジオンの技術を融合した新世代MSとして完成するはずであった。
しかし、デラーズ紛争における相次ぐ不祥事や、出自が宇宙企業であるAE社の台頭を快く思わない地球派の政治家や軍人の思惑によってガンダム開発計画そのものが凍結・無期延期とされ、その余波がハイザック開発計画にも及んだのである。
ハイザックが欠陥機と呼ばれるのはガンダム開発計画の中止と、ジェネレーターの供給元変更という二重の政治的思惑に、グラナダ兵器開発局とAE社が振り回されたからに他ならない。
ハイザックの次の機体であるブロンコでは、ハイザックの弱点である出力の改善を行うと同時にハイザック開発当初のコンセプトを復活させる意味合いも含まれており、当時、急速に発展しつつあったムーバブル・フレーム技術を追加した上で、第二世代MSの始祖となるべくして開発が行われたものである。
開発にはグラナダ基地の兵器開発局が中心となって携わったが、折しもグラナダ基地の連邦軍はエゥーゴ化が進んでおり、ハイザック改良発展案をZ計画とリンクさせるべく、AE社スタッフがオブサーバーとして改良に参加していた。
そして、ブロンコの開発はグラナダ基地に隣接するAE社グラナダ工場とアンマン支社工場で、極秘裏に行われていたMSA-099リック・ディアスの開発製造をティターンズの諜報活動から守るための表向きのカモフラージュも兼ねていた。
ブロンコはZ計画を隠蔽するカモフラージュとして利用されたため、新素材ガンダリウムγ合金は使用されず、グリプス製RX-178ガンダムMkIIと同様、チタン合金・セラミック複合材が装甲材として使用されているがザク系MSでは初めてムーバブル・フレームを採用し、出力が強化されたジェネレーターを搭載したため、ハイザックよりも高い基本性能を示した。
ブロンコに採用されたムーバブル・フレームのデータはAE社技術チームからもらたされたもので、両腕と両足に導入されている。胴体は従来通りモノコック構造で、グリプス基地製RX-178より運動性では劣るものの、ブロンコで導入されたフレーム構造は更に改良が加えられ、ドミンゴ(マラサイ)のムーバブル・フレームの母体となった。
ブロンコの生産試作機は0086年8月にグラナダ基地工廠においてロールアウトしたが、先行機から得られたデータを元に改良型の開発がAE社主導で続行されたため、ごく少数しか生産されなかった。
しかし、当時の連邦軍内では数少ないムーバブル・フレーム装備機ということもあって、グリプス抗争勃発直前にティターンズが強権を発動して20機生産されたうち15機を確保することになる。
当時のティターンズは、グリプスやティターンズ傘下のNT研以外の連邦軍拠点でムーバブル・フレーム機が開発されたことに強い危機感を抱いていたという。それはティターンズがMS開発技術において、母体組織である地球連邦軍よりも高い技術力を持っていると自負していたためで、ティターンズの影響下にないグラナダ基地がブロンコを開発したことによって、連邦正規軍に対して技術的な優位に立てなくなるという焦りがあったのだろう。
ティターンズはこれまで、兵器開発能力において連邦軍よりも優位に立つことで軍内部における発言力を強める後ろ盾として利用しており、グラナダでのブロンコ開発はそれを阻害するものであったことは想像にかたくない。
折りしもティターンズのフラッグシップモデルとして位置づけられていたRX-178の開発が遅れ、結局は装甲材質を従来のものを利用することでロールアウトを早めたという後ろめたさもあったのだろうか、グリプス開発局とグリプス基地を指揮していたバスク・オム大佐は自分たちのテリトリー外でムーバブル・フレーム搭載機が開発されていることを知るや、ジオン軍残党ゲリラ討伐のための高品質の装備が必要であるとの理由を振りかざして、グラナダ基地に対してブロンコの提供を要求したのである。
当然、グラナダ基地側はテストも充分に行っていない機体をこともあろうかティターンズに召し上げられてしまうことに表向きは抗議したが、ティターンズは先述の理由から半ば強引にブロンコを確保するに至った。もし、協力を拒否した場合、グラナダ開発局の予算を削減するとの国防省からの通達も、ブロンコ確保を後押しする形となった。
もっとも、これらの一連の動きはエゥーゴ系軍人やAE社トップはあらかじめ予測し、彼らにとっては予定されていた行動に過ぎなかったのだが。
こうしたティターンズの横槍によってグラナダのエゥーゴ化が加速し、グリプスとの関係悪化は決定的なものとなってしまう。その後、グリーン・ノア事変でアーガマ追跡のためにグラナダに寄港したティターンズ艦隊は補給やアーガマの捜索協力を拒否され、月面におけるテリトリーを失うことになるのだった。
その後、ティターンズ側に確保されたブロンコはグリプス抗争時のアポロ作戦に実戦投入された記録が残っているが、この戦闘で全機が失われた。
ブロンコの発展案はその後、Z計画を推進するAE社に移管され同機の設計をベースにムーバブル・フレームに改良を加え、外装をガンダリウムγ合金に変更した発展強化型がMSA-002Aドミンゴ(RMS-108Aマラサイ)となる。
RMS-107Bダンディライアン
RMS-107ブロンコの改造機。グラナダの開発局からティターンズに引き渡されたRMS-107Aブロンコのうち、一機がB型に改造され、ティターンズの試験部隊「ブラックオター隊」に配備された。
外見はほぼベース機と同一だが、B型は当時、ティターンズが開発していた大気圏再突入用オプション・メカの試験機として使用されるため、関節部と一部装甲の強化と、ドッキングジョイントの増設が施されているのが特徴である。
オプション・メカは当時、連邦軍が開発を進めていたTMAのノウハウを利用して可変機構を導入し、大気圏再突入後の陸戦オペレーションに移行可能なように単独歩行が可能な独特の機体であった。また空間戦では攻撃用MAとしても使用可能で、その母体は旧ジオン公国軍が開発した大型MAをベースとし、それにTMAの可変システムと、大気圏再突入機能を加えた万能TMAとも言える機体であった。
その内容は、MAユニットにコアとなるMSを内蔵し、MAユニットそのものをオプション化するという大胆なもので、大戦中に連邦軍が開発したRX-78-2ガンダム用のサポート・メカであるGファイター、戦後のガンダム開発計画におけるRX-78GP03デンドロビウムと設計思想を同一としている。新たに名づけられたダンディライアンとは、大気圏再突入用メカ・ユニットを含めた総合的な名称でもある。メカ・ユニットとの合体時にはRX-107TR-4のナンバーで識別される。
大戦後、連邦軍はMS部隊を衛星軌道上から、地上の紛争地帯に送り込むためにバリュードによる降下ミッションを採用していたが、唯一の弱点は降下ミッション中、特にバリュードを展開した後はMS部隊がほぼ無防備となることが以前から指摘されていた。バリュード展開中、MSは地上に背を向けて再突入を行うため、戦闘機動は大気圏再突入後、安全な高度に達するまで行えない。その間に地上や宇宙上からの迎撃にあった場合、反撃出来ないまま撃墜されてしまうことも予測されたのである。
戦後、ジオン残党軍が保有する旧式MSにバリュード装備機能は備わっておらず、また地上に残る残党も航空戦力もほとんど持っていなかったため、再突入時の奇襲攻撃を考慮する必要はほとんど無かったが、ティターンズは連邦軍内にいる反動勢力、すなわちエゥーゴとの武力衝突を想定し、大気圏再突入時におけるMS戦闘という課題に取り組むことになる。その答えがRMS-107B/RX-107TR-4ダンディライアンであった。
当初、MAユニットのコアとなるMSはRGM-79Q、RMS-106といった機体群が候補に挙がっていたが、MAユニットのコアとなるMSはこれらの機体よりも高い出力を持ち、またある程度頑強である必要性があった。MSを内蔵したまま、MA形態で高速戦闘や陸戦を行え、なおかつ大気圏再突入をこなせなければならないからだ。
その頃、グラナダ基地でRMS-106ハイザックの発展プランとして開発されていたRMS-107Aブロンコのロールアウト情報がティターンズ技術陣に入り、MAユニットのコアMSとして最適であるとの判断が下された。ティターンズはグラナダ基地からロールアウトしたばかりのブロンコを多数入手し、そのうち一機をMAユニット用コアMSとしてコンペイトウ基地で改造を施され、RMS-107Bダンディライアンとなった。
ダンディライアンはMAユニットの中核となり、脚部ユニットはそのまま空間MA形態ではアーム、陸戦歩行MA形態では脚部として機能する。またMAユニットはコアMSの他にもう一機、MSを搭載しての大気圏再突入と作戦行動が可能となっている。
大気圏再突入時はウェーブ・ライディング機能によって再突入ミッションを行う。そのため、再突入時にもある程度の機動が可能であった。突入後はMA形態時のアームをそのまま脚部ユニットに可変させて陸戦ミッションに移行可能である。こうした可変システムはNRX-004アッシマーの技術転用によって実現している。
被弾時にはMAユニットを強制排除し、RMS-107Bとして戦闘を続行することも可能となっている。この場合、離脱したユニットとの再合体は不可能である。
ダンディライアンは空間戦もこなせ、ノン・オプションによる大気圏再突入を可能とし、なおかつ陸戦もこなせることから万能TMAとして期待がかけられたが、一機辺りのオプション兵装としては高コストだったこと、強制排除後、MAユニットは戦闘後に回収しない限り再合体が不可能であるという非可逆型合体システムが仇となって、量産化は見送られた。
母体となったブロンコも第二世代MSと呼ぶには中途半端で、ティターンズが結局ブロンコの本格採用を見送ったことも無関係ではない。
また、ダンディライアンの真の開発目的が、ウェーブライディング機能を持つMSの開発データ採取だったこともあり、ティターンズ技術陣にとってダンディライアンはあくまでデータ採取のための試験機でしかなかったようだ。
ダンディライアンで得られたデータは、その後グリプスで研究が続けられたが、エゥーゴのZ計画による大気圏再突入が可能なTMS開発という情報をキャッチしたティターンズは、対抗機種としてRX-272ガンダムMkIIIを開発することになるが、ダンディライアンで得られた基礎データが大気圏再突入オプション装備機であるデュライにフィードバックされたことは言うまでもない。
ダンディライアンの実機は、ブラックオター隊の大気圏再突入ミッションにおいて実戦投入され、ミッションを成功させたが、降下後にジオン残党軍MS部隊との戦闘によってMAユニットが大破し、ユニットを排除してMSで戦闘を続行した記録が残っている。
RMS-108Aマラサイ
RMS-106ハイザックは地球連邦軍が一年戦争後、接収したジオン軍MS、MS-06FザクIIの技術を元に開発した機体で次期連邦軍の主力機として期待がかけられていた。
しかし、AE社のガンダム開発計画とリンクしていたハイザック開発計画は、デラーズ紛争後のガンダム開発計画の中止が決定されると、ハイザック開発そのものに影響を及ぼし、結果として設計の修正を迫られてしまう。その結果、次世代機として欠かすことの出来ないムーバブル・フレーム構造を持たず、モノコック構造、チタン合金・セラミック複合材製の装甲と従来の技術を使用しただけで進歩がなく、併せてジェネレーターの出力不足のせいで軍の要求を満たすことはできず、0086年中頃には生産中止となった。
開発に携わったグラナダ基地開発陣は、政治的思惑によって歪められたハイザックの完成度の低さに満足できず更なる改良を続け、強化型を開発した。それがRMS-107ブロンコであった。
ブロンコは装甲こそ従来の材質を使用していたが、部分的ではあるがムーバブル・フレームを採用するなど、新技術を意欲的に導入したMSとして注目を浴びた。
そして、ブロンコの設計をAE社がさらに洗練させた機体が、RMS-108マラサイである。Z計画におけるハイザック系MS発展計画の母体としてブロンコが選ばれ、実機を含むデータがAE社に供与され、AE社スタッフが改良を加えたものである。ブロンコではムーバブル・フレームは四肢のみの導入に留まっていたが、マラサイではフル規格でのムーバブル・フレームとなり、運動性も大きく向上した。
AE社では折りしも、エゥーゴのZ計画を中心にMS開発を行っており、MSA-099リック・ディアス、MSA-003ネモなどのムーバブル・フレーム搭載機を数多く開発していていたこともあって、ブロンコの強化型を開発するのはたやすいことであった。
こうして完成したのがRMS-108Aマラサイである。当初はエゥーゴの主力機として開発されており、MSA-002ドミンゴという名称で開発が進められていたが、AE社トップの判断によりマラサイに名称を変更した上で急遽、ティターンズ側へ供給されることが決定した。
この突然の供給先の変更の裏には、AE社がZ計画MSを開発製造しているグラナダやアンマン、アナハイム、フォン・ブラウンの各MS工場にティターンズによる強制捜査が入るのを恐れたためとも言われているが、実際にはグリプス抗争でティターンズが勝利する局面を考えたAE社トップの思惑もあったようだ。
その結果、マラサイに使用されていたガンダリウムγ合金の精錬技術がティターンズ側に渡り、様々な可変MSを生み出す土壌となった。元々、母体となったブロンコはZ計画における囮の役目を果たしていたが、その後継機であるマラサイも同様の道を歩むことになる。
制式ナンバーはティターンズに譲渡されると、エゥーゴ式のMSA-002から連邦式のRMS-108ナンバーに改められた。これはAE社のグラナダ支社工場で開発・製造されたことから、AE社の出入りも頻繁である連邦軍グラナダ基地兵器工廠の拠点ナンバーが割り当てられたものと思われる。
すでにティターンズはグラナダ基地製のRMS-107ブロンコを徴発していたこともあり、改良型であるマラサイはその次のナンバーが与えられる形となった。
性能はハイザックやブロンコと比べて出力が高く、機体各所の信頼性が向上し、その結果、多くのビーム兵器が装備可能となった。そして、ガンダリウムγ合金を装甲に使用しているため、装甲の強度を落とすことなく自重の軽量化に成功した。
ジオン系の機体であったが、性能と汎用性の高さからティターンズのパイロットからの評判も高い機体となった。
AE社ではアーガマ追跡で戦力を疲弊し、グラナダに寄港したティターンズ艦隊にマラサイの無償供給を申し出て、この時の供給分は無償譲渡という形を取っている。グラナダ基地の連邦軍はティターンズへの補給を拒否したこともあり、ティターンズのグリプス艦隊にとってはまさに渡りに船であった。
マラサイは後に登場するティターンズの新主力機、RMS-154バーザムが配備された後も膨大な数の旧式機代替のためにバーザムと平行して配備が続けられ、ダカール宣言まで供給が続けられたことからも分かるように優秀な性能を持つMSであった。また、基本性能はニューギニア基地製のバーザムよりも高く、AE社の技術力の高さがうかがえる。
ちなみにエゥーゴとティターンズの立場が逆転したダカール宣言後、AE社はティターンズへのマラサイ供給を打ち切り、マラサイそのものの製造も終了した。
マラサイはティターンズに無償供給された初期生産型のA型の他に、ティターンズの各拠点でライセンス生産されたB型、アクシズに供給されたC型、パーツ共用の兼ね合いから腕ユニットをRMS-106のものに換装したD型、可変型フレーム試験機のE型、バスク・オム大佐麾下の特殊部隊仕様のF型、カスタム機のS型、RMS-154バーザムとの折衷型RMS-156など多くの派生機が存在し、マラサイを使用した陣営も地球連邦軍、エゥーゴ、カラバ、ティターンズ、アクシズ、再興ネオ・ジオンなど、あらゆる勢力が使用したMSとして知られている。
RMS-108Bマラサイ改
RMS-108Aマラサイは本来、AE社がエゥーゴの主力MSとして開発を行ったもので、当初はMSA-002ドミンゴという名称がつけられていた。しかし、ティターンズによるAE社の強制捜査や月面都市への攻撃を牽制し、あるいは内戦でティターンズ勢力が勝利することを考えRMS-108マラサイに名称を変更し、初期生産分をティターンズへ無償譲渡した。
マラサイはジオン系の機体ながらも優秀な性能から、次期主力機が配備されるまでの間、旧型MSの代替用としてティターンズで制式採用され、各部隊に配備されるに至った。
当初はRMS-106ハイザックで構成されるティターンズ主力MS部隊の隊長機用としてマラサイが部隊配備されることが多かったが、AE社からの納入が増えると、マラサイのみで編成された部隊も出現するようになる。
エゥーゴの主力機、MSA-003ネモよりも高い性能を持っていたことからパイロットからの評価は高く、マラサイへの機種転換作業は順調に進んでいった。
マラサイがジオン系MSの系譜を受け継ぐことや、当初はエゥーゴの主力MSとして開発が進められたことを考えるとこれは皮肉であったが、エゥーゴとの武力闘争が激化の一途を辿る状況下では地球至上主義を掲げるティターンズといえども選り好みできなかったのである。
ティターンズ上層部はマラサイの高性能に着目し、旧式化しきっていたRGM-79QやRMS-106の置き換えを早めるべく、さらなる増産をAE社に指示したが、AE社側はマラサイの生産ライン上でゼネストが起こっていることを理由に挙げ、納入を遅らせていた。
マラサイの後期生産分は連邦政府の軍予算によって賄われており、AE社にとっても充分な利益があがることが見込まれていたのだが、エゥーゴ側の要請もあってAE社はゼネストを言わば自作自演して、マラサイ後期生産分の納入を意図的に遅らせていたのである。
煮え切らないAE社に対し、意思の疎通が計られなかったティターンズは早々に見切りをつけ、地球上にある拠点で独自にライセンス生産を行うことを決定。納入が遅れていたことを盾に取り、ティターンズはマラサイのライセンス生産契約を半ば強引に結ばせ、ティターンズの地球上の拠点の一つ、キリマンジャロ基地でライセンス生産が開始された。それがRMS-108Bマラサイ改である。
マラサイ改は連邦軍拠点でのライセンス生産に備え、従来の連邦製MS、特にRGM系列との部品共用度を向上させるために設計の一部が変更されているのが大きな特徴である。
設計変更はAE社の技術者抜きで行われたことから、改良に携わった地球企業を潤わせるためによるものが大きいものと思われる。
腕部ユニットは当時、コンペイトウでロールアウトしたばかりのRMS-122ジムIIIと設計を共通化しており、ジムIIIとパーツ共用度を上げることによって、生産コストを下げることに成功した。
胸部構造も改良が施され、廃熱ダクトが正面に設けられるなど、連邦系とジオン系の中庸的なフォルムを持つに至った。
その他の点について、AE社版のオリジナルと性能にほぼ差異はなく、インジェクション・ポッドやジェネレーターなどは月のAE社からのOEM供給を受けていた。
ティターンズはエゥーゴとの武力抗争が激化すると、旧式化したRGM-79QやRMS-179、RMS-106などのMSではエゥーゴの新型MSに性能的に追いつけなくなり、新型機であるマラサイでさえも定数が足りず、その中でエゥーゴに対抗するために大幅な軍拡を行わなければならない状況にあった。旧式機の代替がままならない一方で軍備を強化するティターンズはジレンマに陥っていたとも言えるだろう。
0087年夏にはすでにRMS-154バーザムがロールアウトし、部隊配備が開始されていたが、その配備数はまだ少なく、なおかつハイザックやジムIIIとの部品共用度の高いマラサイ改の生産は、バーザムの部隊配備開始後も続行されるに至った。
ティターンズでは主力機にRMS-154バーザム、それらの支援機や迎撃機にマラサイ改を配備し、使い分ける予定であった。
マラサイ改はゼダン・ゲートでの防衛戦や、その後のメールシュトローム作戦に大量に投入されが、抗争後期に生産施設のキリマンジャロ基地がエゥーゴとカラバの攻撃によって破壊されて生産がストップしていたため、MS不足に悩まされていたティターンズはすべての旧式機をマラサイ改で代替することができず、抗争終盤までハイザックが使用されたのはこのためであった。
ちなみにマラサイ改は0089年9月のウェールズ動乱時に、旧ティターンズ将兵で構成された反乱軍の主戦力の一環として、多数が動員された記録が残っている。
RMS-108Dマラサイ
整備上の兼ね合いから、RMS-108AにRMS-106の腕ユニットを装着した機体はD型として区分される。マラサイのリペアパーツ不足による稼動率低下を防ぐために、当時マラサイやバーザムの就役で少しづつ退役が進み、余剰の出ていたハイザックの腕パーツを転用したものである。
マラサイは元々、ハイザック、ブロンコを経て発展した機体であるため、ハイザックとのパーツ共用度が高く、こうした間に合わせ処置的なパーツ流用が可能だった。
用兵側のティターンズではエゥーゴとの武力闘争が激化するにつれてマラサイの開発製造元であるAE社からの補修パーツの供給が滞ることもしばしばであり、マラサイの稼動率低下が制式採用直後より問題となりつつあった。マラサイはA型自体の出荷すらも滞ることもあり、ティターンズとAE社の契約問題にも発展していた。
これはAE社が一方でエゥーゴのスポンサーでもあったことも無関係ではない。ティターンズが勝利することを見越してエゥーゴへ供給する予定だったMSA-002ドミンゴをRMS-108Aマラサイと改名してティターンズに供給したとはいえ、エゥーゴ側からの突き上げもあってAE社は生産調整やマラサイ生産ラインでのストライキを理由に度々、マラサイの出荷を滞らせたのである。
一方でマラサイは陳腐化しつつあったRMS-174ジム・クゥエルやハイザックに代わるティターンズMS部隊の中核を担う次世代機でもあり、操縦のしやすさ、整備性の良さからパイロットや運用する現場では重宝されていた。
事態を重く見たティターンズ上層部では、マラサイの配備数を増やすためにキリマンジャロ基地でのコピー生産を行い、B型として不足するA型を補完する形で制式採用したが、既に第一線に配備されていたA型の稼動率問題も取り沙汰されていた。
共食い整備すら出来ない状況で、ハイザックのパーツ、主に武器を操作するのに重要な機関である腕パーツを一部転用する形でD型は生まれた。しかしパーツ共用が高いとはいえ、旧世代機であるハイザックのパーツを多用することはマラサイの所定の性能を殺してしまうことにもなりかねない。
そのため、ハイザックの各パーツをどこまで使用可とするかのガイドラインが制定され、特例としてD型として区分されたのである。
D型はマラサイの稼動率低下に悩んでいたティターンズ部隊では重宝された存在であったが、更なる高性能化を目指すべく、RMS-154系とのパーツ共用が図られたRMS-156グリフィンの改造母体に選ばれ、全機グリフィンに改造され、再配備されている。
RMS-108Fマラサイ(第五師団仕様)
バスク・オム大佐麾下の特殊部隊、ティターンズ第五師団に配備された機体。特殊任務用に特化されたカスタム機である。
A型がベースとなっているが、頭部センサーが黒いグラスルーフでカバーされ、プロペラントタンクの大型化、推力も強化されている。これは極秘任務や特殊作戦用にあわせたカスタマイズで、作戦行動時間が大幅に延長された。
ペイロードと推力が強化され、バックパックが大型の新設計のものに換装されている以外にベース機との差はほぼ無い。
頭部ユニットはモノアイ部がグラスルーフにカバーされ、モノアイの挙動は外から一切見えないようになっている。それにあわせてセンサー範囲も強化された。
武装は一般機と同一のビームライフル、ビームサーベルを標準装備とし、頭部左右脇には30mmマシンガンの代わりに、小型グレネード・ランチャーポッドを装備している。これは接近戦時における破壊力強化を図ったもので、各種作戦にあわせた弾頭を装填することも可能である。
また、RMS-106CSカスタム・ハイザック用の狙撃用ビーム・ランチャーや、実体弾ライフル、ハイパーバズーカーが特殊作戦用装備として用意された。
F型は持ち前の作戦行動時間の長さや、推力の高さを生かして主に通商破壊作戦や奇襲作戦、艦隊の前衛任務などに投入され、戦果を挙げている。
F型を配備していた第五師団は、エゥーゴとの武力衝突が顕在化した0087年のグリプス抗争時にオム大佐の提案によって編成された特殊部隊で、オム大佐直属の部隊の中ではNT部隊に次ぐエリート集団で、ペズンのMS教導団に匹敵する操縦スキルを持つ熟練パイロットが集められて編成された。
彼らに課せられた任務は高いMS操縦技術を生かした特殊戦闘任務で、このために用意されたF型はグリプス抗争を通じて、第五師団の主力作戦機として使用された。
コピー生産のために一部仕様を変更したB型、RMS-154系とのパーツ共用を高めてカスタム化したRMS-156グリフィンといった派生機や改造機に比べてF型は母体そのものには大幅な改造を施されておらず、バックパックの改良と頭部ユニットの機能強化に留まっており改造機としては地味な機体だが、第五師団のエースパイロットたちはF型のポテンシャルを充分に引き出していたとも言える。
第五師団はグリプス抗争末期までF型を使用し、戦艦ドゴス・ギアを母艦に活躍していたが、0088年のメールシュトローム作戦時に母艦が撃沈してオム大佐が戦死すると、第五師団はほぼ壊滅状態となった。
RMS-108Eマラサイ
RMS-108Aマラサイを母体に、ルナツーで改造された可変機構試作機。ティターンズが可変MSを開発するための機構試験機として試作されたTMSで、可変式のムーバブル・フレームを内蔵し、マラサイ系MSの中で唯一可変が行える変り種である。
ティターンズはグリプス抗争初期、AE社から供給されたマラサイを通じて新素材ガンダリウムγ合金のデータを入手することができた。ガンダリウムγ合金は第二世代MSや可変MSにとって欠かせない新素材であり、それまでガンダリウムβ合金の精錬に失敗していたティターンズはRX-178ガンダムMkIIやその後発機にガンダリウム系合金を装甲材に使用できずにいた。
AE社からのマラサイ供与後、γ合金の精錬技術を入手するに至り、これによってティターンズ側でのTMS開発ラッシュに繋がるわけである。
すでに連邦軍では大気圏内用としてNRX-004アッシマー、ORX-005ギャプランなどのTMAを実用化していたものの、大気圏内での機動や運動性を重視した空戦型TMAと、空間戦での投入を検討していた汎用TMSでは基本的に設計思想がかけ離れていたため、そのままTMAの技術をTMSへフィードバックすることは容易ではなかった。
そのため、空間での機動を主眼に置いたTMSの可変検証機を開発する必要性が生じた。RMS-108Eはそうした背景から生まれたMSである。
E型の改修はルナツーで行われ、グリプスから提供されたA型を元にムーバブル・フレームの関節の自由度を向上させるために外装の形状変更や撤去と、関節の強化が施された。
通常型のフレームを可変式に改造することは容易ではなかったものの、開発チームの努力もあって0087年初夏には完成を見た。開発にはゼダン・ゲートから派遣された元MIP社のスタッフも関わり、可変機構やスラスターの集中配置においてMIP社の技術が生かされている。彼らは後にE型から得られたデータとジュピトリスから派遣された技術者の助言を元に、RX-139ハンブラビを完成させている。
外見は関節部の稼動範囲が広がり、それに伴って一部装甲が撤去されているため、通常型のマラサイよりも軽装に見えるが、基本的に原型機とほぼ変わらない。
可変形態も関節の自由度を上げた程度の物で、あくまで可変機のデータ収集を目的としていることが分かる。これはAE社側で開発されていた可変実証機MSA-005メタスにおいても見られた設計である。
可変形態は極めて簡便で、ORX-005ギャプランの影響を受けていることが見てとれる。しかし、脚部の折りたたみ機構はむしろエゥーゴ側で開発が続けられていたMSZ-006Zガンダムに似ている点を見出すことができる。
バックパックや脚部、腕部に備えられたバーニアは全て後方へ集中する形となり、MA形態での加速度は高く、一撃離脱戦が可能であった。
3機のマラサイA型が、ルナツーとゼダン・ゲートの共同チームによってE型に改造され、データ収集に用いられた他、試作3号機が評価試験のために実戦配備された記録も残っている。
グリプス抗争終結後、ルナツーでテストが続行されていた残りの二機はエゥーゴに接収され、AE社に引き渡されたが、AE社側ではすでにMSZ-006C1ZプラスやMSA-005Sメタス改などの量産型TMSの実用化にこぎつけていたため、基本的な評価試験が行われたのみで、その後はアンマン支社のMS倉庫に保管され、研究用の教材として利用されているに過ぎない。
マラサイE型から得られたデータを元に、ジュピトリスMS開発チームとルナツー兵器開発局による共同開発機であるRX-110ガブスレイや、ゼダン・ゲート製RX-139ハンブラビが開発されたことから、E型はこれらティターンズ空間戦型TMSの母体とも言えるだろう。
MSA-002Aドミンゴ★
RMS-108マラサイの正式名称は、MSA-002ドミンゴである。ドミンゴは本来エゥーゴへ供給すべく製造が行われていたが、AE社トップの判断によりRMS-108Aマラサイに改称され、ティターンズ側に供給された。
初回ロット分200機は、ジャブロー降下戦直前にティターンズに無償で譲渡され、その後、正式に供与契約が結ばれ、ティターンズ向けの生産が開始された。
当初、エゥーゴでは部隊指揮官や熟練パイロット用にMSA-099リック・ディアス、主力機にMSA-002ドミンゴ、基地やコロニー防衛、支援攻撃用としてMSA-003ネモを使い分ける予定であった。ネモのコスト・パフォーマンスが悪いと後世に評価されるのは、エゥーゴが主力MSにドミンゴを採用する予定だったことから起因するものである。
しかし、本来の供給先であったエゥーゴへの売り込みも縮小されつつも続行され、エゥーゴが独自に創設した戦術教導団のアグレッサー機として、少数が月面のエゥーゴ部隊に配備された。
エゥーゴが独自にMS教導団を設立した事情の裏には、小惑星ペズン基地を拠点としている地球連邦軍教導団からのMS戦術データが内乱によって得られなくなったことと、肝心の地球連邦軍MS教導団がティターンズ支持を表明してエゥーゴと敵対関係となり、独自でMS操縦システムの要となるIMPCのデータを蓄積しなければならなくなったためである。
折りしも、ティターンズではドミンゴをマラサイとして採用し、同系列のハイザックも多数配備されていたことからアグレッサー機として好都合であった。
一方、ティターンズに対抗するために軍拡を推し進めていたエゥーゴは独自に志願兵を募るようになり、連邦軍での軍務経験のない民間人がエゥーゴに加わっていた。
そのため、彼らをパイロットとして養成しなければならず、教導団のアグレッサー機は実戦経験の少ない志願パイロットの訓練に役立てられた。また、連邦軍やジオン軍での軍務経験のあるエゥーゴのパイロットの操縦技術の底上げにも、ドミンゴで構成された教導団アグレッサー部隊は大きく貢献したといってもいいだろう。
エゥーゴMS教導団は先の大戦において連邦、ジオン双方で活躍していた熟練パイロットや彼らに養成されたパイロット、AE社でテストパイロットを務めていた者を招聘し、規模こそペズンの教導団に劣るものの戦意は高く、エゥーゴMS部隊の技量向上に尽力したという。
エゥーゴMS教導団に配備されたドミンゴはティターンズ仕様と性能も同一で、カラーリングがネモと同様のエゥーゴカラーであるグリーン系に塗装されているのが唯一の相違点である。
武装もエゥーゴオリジナルのものを装備し、MSA-099リック・ディアス用クレイ・バズーカやMSN-00100百式用ビームライフルを装備する機体もあった。
ドミンゴは教導団のアグレッサー機として、パイロット養成やIMPCデータの蓄積にあたる一方で、月面での戦闘ではティターンズ側のマラサイと交戦した記録も残っている。
この時、連邦やジオンのエースパイロットや彼らに教育された熟練パイロットで構成された教導団のドミンゴ部隊はティターンズ側のマラサイ部隊と激戦を繰り広げ、ティターンズ側に大きな損失を出したという。
MSA-002Bブッシ
エゥーゴ側についたジオン共和国軍部隊「自由ジオン軍」の主力機で、MSA-002Aドミンゴの自由ジオン軍仕様である。
自由ジオン軍の母体となったジオン共和国軍は、戦後に結ばれたグラナダ条約によって、独自にMS開発を行うことができず、戦後しばらくは旧式のMS-06FザクIIやMS-09Rリック・ドムにリニア・シートを組み込んで主力機としていた。
共和国軍第四警備艦隊が本国国防省の指揮下を離れ、エゥーゴに合流して「自由ジオン軍」を名乗った時も、使用していた主力MSは共和国軍の中においては比較的新しい機体であったものの、時代的には既に旧式化しきっていたMS-09RIIリック・ドムツヴァイであり、当初はそのまま同機を使用していたが、エゥーゴの軍事支援もあって、新型機の供与を受けることを決定した。
当初、エゥーゴは自軍の主力機でもあるMSA-003ネモを供給する予定だったが、ジオン系MSの操縦に慣れているパイロットが多いことから、エゥーゴの主力機として採用される予定であったMSA-002Aドミンゴに変更された。
ドミンゴはAE社トップの思惑もありエゥーゴと敵対するティターンズ側へ供給され、エゥーゴでは主力機となり得なかった曰くつきのMSであった。
自由ジオン軍に配備するにあたり、ティターンズに配備されている同型機(RMS-108マラサイ)や、エゥーゴの教導部隊にアグレッサー機として配備されているMSA-002Aドミンゴと区別するために、各部の改良が施されている。
大きな特徴として、右肩のシールドがかつてのMS-06FザクIIと同型の形の物に換装され、カラーリングもザクと同様の淡いグリーンに変更された。また、頭部の角は旧ジオン公国軍からの伝統に則って中隊長機のみにつけられた。
マラサイの頭部の角は指揮官機識別用の物ではなく、通信用アンテナであったため、一般パイロット用の機体には角型のアンテナに代わり、額に当たる部分に瘤型のアンテナドームがつけられている。通常のドミンゴ/マラサイと違い、通信能力と敵味方識別機能が大幅に強化されているのが特徴で、そのため、MSA-002Bと区分された。
武装は従来のドミンゴやマラサイと同一だが、専用武装としてヒートホークが用意された。このヒートホークはガンダリウム合金製の刃であり、熱が入っていない状態でも量産素材の装甲であれば一撃で切り裂くことができる。接近戦用の一撃必殺的な武器なため、熟練パイロットでなければ扱えない代物だったが、先の大戦でザクIIを愛機にしていたパイロットや、戦後、ザクシリーズでMS操縦を覚えたパイロットたちは好んで使用していた。
名称は当初、ドミンゴのままであったが、自由ジオン軍パイロットの要望により独自にブッシと名付けられた。これは日本語の武士(サムライ)をもじったものだったというが、詳細については不明である。
自由ジオン軍は、エースパイロット用にMSA-099Aリック・ディアス、一般パイロット/指揮官用にブッシを用いており、エゥーゴのMS部隊の中ではもっともジオン系の強い部隊であった。
彼らはシン・マツナガ、ブレニフ・オグスといった戦後も生き残ったエースパイロットに養成されており、エゥーゴMS部隊の中でも戦意が高く、他の部隊からの尊敬を受けていたようである。
0087年夏頃から自由ジオン軍向けに50機がマラサイとは別ロット扱いで製造され、自由ジオン軍MS部隊の主力機として配備された。同機はサイド4防衛戦や、メールシュトローム作戦、第一次ネオ・ジオン抗争でのサイド3侵攻作戦の予備行動に参戦した。
MSK-002A陸戦型ドミンゴ★
MSA-002AドミンゴはAE社トップの判断によりRMS-108Aマラサイと改称され、ティターンズ側に供給された機体だが、一部の機体はカラバ側にも配備された。それがMSK-002陸戦型ドミンゴである。
カラバではグリプス抗争以降、地球での活動が拡大したため、急速な軍備の増強を断行せねばならず、それまでは一介の結社的なゲリラ組織であったカラバでは、MS部隊の組織的かつ戦略的な運用の経験が少なく、エゥーゴとの共闘上、MS部隊の組織化や指揮系統の明文化を行わなければならなかった。
新たに編成されたMS部隊のパイロットの養成も行わなければならず、これらのMS部隊のパイロット養成と戦力の質の向上を計るべく、カラバでは教導部隊の編成にあたり、そのアグレッサー機としてドミンゴが採用されたのである。
AE社グラナダ工場で正規ロット数の枠外で生産された初期生産型の一部がカラバに送られ、地上での配備のため、熱核ジェット・エンジンに換装するなどの改修を行い、地上での稼働時間の延長を計った。
改修にはすでにカラバへ派遣され、MS運用や開発のアドバイスを行っていたAE社のZ計画スタッフが中心となって行われた。
陸戦型ドミンゴはアグレッサー機として、主に教導部隊の教官専用機としてパイロット養成に活躍し、カラバMS部隊パイロットの質の向上に務めた。
ドミンゴに搭乗する教官には一年戦争を戦い抜いた連邦軍や旧ジオン軍の熟練パイロットが就任し、さらにアドバイザーとして前大戦時の英雄であるアムロ・レイ大尉も教導部隊に関わっていたという。
当初は教導部隊用アグレッサー機としてカラバに配備された陸戦型ドミンゴであったが、パイロット養成がひと段落すると、グリプス抗争後半から一部の機体がヨーロッパを中心に実戦投入された。
また、ティターンズバージョンであるマラサイに偽装したMSK-002Bマラサイスキーに改造された機体も存在し、これらは特殊任務に投入されたようである。
しかし、当時非合法組織だったカラバにAE社がマラサイ(ドミンゴ)を供給したことがティターンズ時代の連邦議会で紛糾し、AE社の担当者が証人喚問されるという事態に至ったが、AE社側はあくまでも輸送中に強奪されたと主張し、これ以上の追求はなされなかった。しかしダカール宣言後、初めてAE社はカラバ側にもマラサイを供給した事実を認めている。
MSK-002Bマラサイスキー★
MSK-002A陸戦型ドミンゴをティターンズ側のマラサイに偽装したゲリラ戦機。カラーリングがマラサイに近い形に改装されたほかは、元の陸戦型ドミンゴと性能的に変わりはない。
ティターンズ所属機に偽装されたマラサイスキーはカラバの特殊部隊「鉄槌旅団」に配備され、キリマンジャロ攻略戦で数機の投入が確認されている。本来はジュネーブ条約に抵触する機体であり、パイロットが捕らわれた場合は銃殺刑である。そのため、カラバは重要な作戦以外でのマラサイスキーで構成した部隊の投入を控えており、その存在も特に秘匿されたという。
マラサイスキーはその機体の性格上、ティターンズ要人の誘拐や敵後方での撹乱作戦、または敵勢力地に工作員を潜り込ませるなど、裏方的な任務に投入されていたようだ。
世間にマラサイスキー部隊の存在が明らかになったのは0087年11月のキリマンジャロ攻略戦であり、ティターンズ部隊に成りすまして基地に潜入し、特殊工作員を降ろし、なおかつ基地内部で破壊活動を行い、敵の撹乱に従事した。多くのティターンズ機が友軍機と誤認し、撃破されており、多大な損害を与えたという。
この時、マラサイスキーの支援で基地に潜入したカラバ工作員は、破壊工作を行った後、キリマンジャロ基地で開発されていたRX-166ガンダムMkIII“イグレイ”を基地脱出時に奪取しており、マラサイスキー部隊もこの新型機イグレイの強奪に関与していたものと思われる。
第一次ネオ・ジオン抗争時には、MSK-004ジムIIIやMSK-006Zプラスとともにダカール奪回戦に投入され、同様の特殊任務において活躍した。また、マラサイスキーは現地改修のローカル・バリエーションが多いことで知られている。
RMS-108Cバハデュール
AE社製RMS-108(MSA-002)のネオ・ジオン軍バージョン機。ダカール宣言後、ティターンズへのマラサイ供給を停止したAE社が、生産ラインに残存するマラサイをジオン公国軍残党勢力「アクシズ」に譲渡した機体である。
グリプス抗争後半、抗争最大のターニング・ポイントとなったダカール宣言によって、エゥーゴの対ティターンズ行動が正当化されるに至り、AE社でも政治的に孤立化したティターンズへのマラサイの供給停止を決定した。
この決定について、AE社役員会では利益を追求するならダカール宣言後も政治的に孤立を深めつつも、いまだ地球圏で軍事的な影響力を持つティターンズへのマラサイ供給を続けるべきであるとの声も出たが、企業としてのイメージやエゥーゴや連邦政府との関係を考えた結果、供給停止の決定が下されたのである。
また、ティターンズは月面を標的にした作戦を実行に移し、グラナダやフォン・ブラウン、アンマン、工業地帯イプシロンなどで被害が出ていたことも、AE社のティターンズ離れを加速させた。
しかし、月面にあるマラサイの生産拠点ではロールアウトしてすでに出荷待ちの機体や、生産ライン上にある機体も多数存在した。
また、すぐに生産ラインを停止することは不可能であり、MSの在庫がだぶつくことはAE社にとって予想外の損失となりつつあった。
AE社幹部は在庫がだぶついたマラサイを地球連邦軍や本来の供給先であるエゥーゴに改めて売却することも考えたが、連邦軍では旧式化したRGM-79RジムIIをRGM-86RジムIIIに改修して再配備する計画が立てられ、AE社も改修キットの生産や改修委託において参画することが決定していたこともあり、そこへマラサイを売り込むことはほぼ不可能であった。
また、主だった指導者を失い、弱体化しつつあったエゥーゴはAE社にとっては魅力のあるお得意先ではなくなっていた。
そこで、内紛に武力介入してきたジオン公国軍残党「アクシズ」に目をつけた。AE社はガンダリウムγ合金の技術提携でアクシズとのパイプを持っており、アクシズにマラサイの売却を持ちかけたのである。
一方、アクシズは工業力が弱く、おのずとMS生産能力に限界があった。来る連邦軍/エゥーゴとの武力衝突に備えて一機でも多くのMSを確保する必要があったが、主力機であるAMX-003ガザCやAMX-006ガザDのみでは生産数に限界があり、AE社からの申し出はアクシズにとっても渡りに船であったといえよう。
そして、裏取引によってマラサイの生産拠点の一つをアクシズに譲渡したのである。ネオ・ジオンではRMS-108ナンバーを継承する形で新たにC型という区分を与え、名称もバハデュールに変更された。当初、ネオ・ジオンに編入された連邦軍/エゥーゴ機はAMXナンバーを割り当てることも検討されており、AMXナンバーの100番台、111番以降の空きナンバーを割り当てる予定もあったが、当面の間はアクシズ製MSと区別するために元のナンバーが引き続き使用されたという。
性能自体はエゥーゴやティターンズ、自由ジオン軍で使用されていた機体と変わりはない。しかし、ネオ・ジオン軍で配備するにあたって他のネオ・ジオン製MSとの規格に併せる必要が生じたため、それらの改修が施された。
カラーはかつての旧公国軍のMS-06FザクIIと同様の淡いグリーン系に変更され、マニュピレーターや兵器接続コネクターもネオ・ジオン式のものに改められた。これによって、ネオ・ジオン軍制式のビームライフルのドライブが可能となっている。
右肩シールドはティターンズ時代のバインダー式から、後のAMX-110ザクIIIと同様のマルチ・シールドに装備が変更された。このシールドはビームサーベルやグレネード、機雷を収納する一種のウェポン・ラックとして機能するもので、前大戦中のMS-15Aギャンが装備したシールドとほぼ同様の役割を持っている。
マラサイはMS-06ザクの系譜上にある機体であったため、アクシズでの改修は比較的簡単に行うことが可能だった。かくして、アクシズには200機近くのバハデュールが配備されることになった。
バハデュールはグリプス抗争終結後、0088年初春頃からネオ・ジオンの各部隊に配備されはじめ、生産数がまだ少ないAMX-006ガザDを補佐する形でコロニー懐柔作戦に投入された。
当時、ネオ・ジオン軍は指揮系統が混乱し、エゥーゴとティターンズのしがらみが残る連邦軍の隙をつく形で各コロニーへ懐柔部隊を送り込みつつあり、40基から80基近くもあるサイドすべてを制圧するためには一機でも多くのMSが必要となっていた。
先んじて各地のコロニー制圧作戦に投入されていたガザDだけでは全サイドを制圧するには足りず、ガザDを補佐する形でコロニー制圧戦で投入されたバハデュールが役立ったというわけである。
その後、バハデュールはネオ・ジオン軍の内紛に投入され、主にハマーン・カーン派の部隊が使用していた。しかし、グレミー・トト側についたAMX-014ドーベン・ウルフを主力とするスペース・ウルフ隊との交戦で、バハデュール隊の大半が壊滅している。
RMS-108Sオライオン
ダカール宣言以降、世論を鑑みてティターンズへのRMS-108Aマラサイ供給を打ち切ったAE社であったが、生産ライン上にはまだ多くの機体が残っており、即座に生産ラインを閉じることはできない状態にあった。
AE社ではマラサイ生産拠点の一部をアクシズへ譲渡することを決定していたが、当時のMSは恐竜的進化に突き進み、機体バランスが良く、量産機としては優秀なマラサイ/ドミンゴであっても性能の陳腐化すら見受けられたことから、在庫処分を行っても充分な利益は得られないと予測されていた。
そこで、ドミンゴ開発スタッフによる性能向上型案が計画された。時代に見合った全面的な性能向上を目指し、連邦軍やエゥーゴ、あるいはアクシズやリーア軍、月面自治都市の警備部隊といった軍組織への売り込みを行ったのである。
RMS-108Sオライオンはそういった時代背景と、残存したマラサイの在庫処分というAE社の内部事情から生まれたMSである。
オライオンは総合性能での強化を図り、ティターンズ側でラインセンス生産されたB型の設計を参考に行われた。ジェネレーターの強化と、それに合わせて胸部に廃熱ダクトを増設、排熱システムの刷新を計るなど大幅な改修が施された。
頭部ユニットはセンサー系に強化が図られ、メインのモノアイに加えてサブ・センサーを増設、頭部形状が大きく変化した。これによって索敵能力が原形機に比べて三割増しに増強された。
また、肩部にはペズン製RMS-141ゼク・アインのものを参考にしたムーバブル・フレーム接点が新設され、各種増加武装を装備することが可能となった。
武装は連邦軍/エゥーゴで使用されているビームライフルのほとんどを装備することが可能で、それに合わせて火器管制能力の強化も行われた。実際にはジェネレーターを圧迫しない程度であれば、全種類のビームライフルの装備が可能である。
これらの改修によって性能は向上し、RMS-141ゼク・アインの簡易型とも呼べるMSとなった。オライオンは充分に時代の要求に即した量産機となり得たのである。
改造後の性能も満足のいくもので、AE社側はMS定数不足で悩む連邦軍への売り込みを行ったものの、抗争終結後にエゥーゴ及びティターンズ製MSが流入し、当時の連邦軍MSは多種雑多化しつつあった。これらの理由から連邦軍はRGM-86RジムIII系列での統一を図っていたこともあり、オライオンの売り込みはほぼ失敗に終わった。
AE社内でのナンバーはMSA-002Sで、生産ラインに残存していたA型、抗争後、ティターンズから接収したB型などから合計200機近くがS型に改造された。
連邦軍への売り込みは失敗したものの、第一次ネオ・ジオン抗争後、グラナダ基地に創設されたMS教導団のアグレッサー機として少数が採用され、同時期に編成された外郭新興部隊「ロンド・ベル」隊のパイロット養成に貢献した他、月面都市の警備軍などにも配備されている。
RMS-109レギュシオ・ザック
第一次ネオ・ジオン抗争中に連邦軍が開発したジオン・タイプMS。グラナダ基地兵器開発局が事実上、最後に開発した機体である。
ペズン基地で開発が進んでいたが、実機が完成することなく終わったRMS-143ゼク・ドライとメーカー改良案であるRMS-108Sオライオンの設計を融合し、最強の連邦軍ザク・タイプMSをコンセプトに開発された。同機はマラサイの後継機としての位置付けがなされている。
開発にはグラナダ工廠スタッフのほかに、0088年のペズンの反乱で逃れてきたペズン基地のXシリーズ開発スタッフや、AE社のドミンゴ/オライオン開発に携わったスタッフも参加し、プロジェクトチームを編成してこれに当たった。
レギュシオ・ザックはペズン製RMS-141ゼク・アインよりも設計がコンパクトになり、コストの低減に成功している。基本性能ではRMS-142ゼク・ツヴァイを除く連邦軍ザク・タイプの中では最強を誇り、ネオ・ジオン軍の主力機であるガザ系TMSやAMX-107バウにも充分に対抗できるほどの性能を秘めていた。
ムーバブル・フレームそのものはマラサイのものを受け継いだ設計となっているが、構造を簡易化し、より堅牢な構造となった。フレーム改良にはXシリーズのスタッフが担当し、ゼク・アインの骨太で頑強なムーバブル・フレーム構造が参考にされたという。
武装は専用のビーム・マシンガンが用意されたが、ジェネレーター出力を圧迫しない限りであれば連邦軍/エゥーゴのMS兵装の全てを装備することが可能である。
AMX-110ザクIIIがジオンにおけるザク・シリーズの集大成であるのに対し、レギュシオ・ザックは連邦におけるザク系MSの集大成とも言える機体で、ネオ・ジオンで開発されたザクIIIとは好対照の機体だと言える。
0089年初頭に生産試作機がロールアウトしたが、ネオ・ジオン討伐艦隊への配備には間に合わず、その後グラナダ基地工廠において若干数が生産され、100機ほどがロールアウトした。
同じく、連邦軍の次期主力候補を睨んでAE社で開発が進んでいたRGM-89ジェガンよりも基本性能は高く、次期地球連邦軍の主力機候補に挙がったものの、戦後の軍縮ムードもあって主力機として採用されることはなかった。戦乱後の平和な時代に、レギュシオ・ザックのような必要以上に強力なMSは必要とされなかったのである。
RMS-156グリフィン
AE社がティターンズに供給したジオン・タイプMS、RMS-108AマラサイをRMS-154バーザムのパーツで改造したカスタム機で、バーザム系との折衷型MSとして位置付けられている。
エースパイロット用に開発された機体で、グリプス抗争中にティターンズで使用された量産型MSの中では最高峰の性能を誇る。
主な改修点は索敵能力の強化と全面的な性能の底上げであり、推力、出力、ペイロードに至るまで細やかな改修が加えられている。バックパックは増加タンクを装着可能な新設計のものに換装、脚部にも小型の増加ドロップ・タンクを装着し、推進剤積載量が母体機よりも大幅に増加した。
ジェネレーター出力強化に伴いRMS-108Bマラサイ改と同様、胸部には廃熱ダクトが増設された。これはメーカー改修案のRMS-108Sにも施されていたもので、連邦軍MSでは一般的な構造である。
頭部メイン・センサーはオリジナルのモノアイ式からガンダム系のデュアル・カメラに変更され、マラサイ/ドミンゴとの決定的な相違点となっている。これはRMS-154Sバーザム指揮官仕様と同じパーツで、パーツ共用を向上させるためと、索敵能力強化を図った処置であった。
改造はバーザム開発に従事したニューギニア基地工廠開発スタッフが担当しており、改修後、新たにRMS-156ナンバーが与えられた。当初はRMS-108Gが予定されていたが、マラサイがエゥーゴの拠点であるグラナダ兵器開発局のナンバーが付けられていたためにナンバーの変更が行われた。
これはマラサイが本来、ドミンゴと呼ばれエゥーゴ用に開発された機体だったこと、内紛時に開発元のグラナダ基地がエゥーゴ側についたことから、同機の由来を嫌ったティターンズ上層部からの強い要望であったと思われる。
同時に名称もマラサイからグリフィンに改称された。由来はギリシャ神話に現れる合成獣グリフォンであり、マラサイとバーザムの折衷型MSという意味合いから名付けられた。
グリフィンはグリプス抗争中盤から後期にかけてA型をベースに改造が行われ、50機前後がエースパイロットや熟練パイロットを中心に支給された。
また、ダカール宣言以降、AE社からのマラサイ用消耗パーツの供給が途絶え、稼動率の低下が懸念されていたマラサイA型の整備性を向上させるため、ティターンズに配備されていた全てのマラサイA型をグリフィンに改修する計画も立てられていたが、改修を終えることなく抗争は終結した。
基本性能はマラサイやバーザムよりも高く、マラサイから受け継いだ操縦性の良さもあってティターンズ量産機の中では最高水準を持つ機体に蘇ったのだ。
しかし、絶対数は決して多くなく、ティターンズ陣営の勝利に寄与することはなかった。メールシュトローム作戦では多数のグリフィンがエゥーゴやアクシズのMS部隊と交戦した記録が残っている。
抗争が終結すると、残存していた機体がエゥーゴに接収され、AE社側で改造されたRMS-108Sオライオンとの性能比較がなされた。その結果、メーカー改造案のオライオンよりも総合性能ではグリフィンの方が上であったことが判明している。