ジムIII系MS


 グリプス抗争当時から旧式化しつつあったRGM-79R/RMS-179ジムIIの改修機で、内紛によって不足するMS定数を補うべく、前線から引き上げられたジムIIに全面的な改修を加え、第二世代MSに準じた性能に引き上げた機体である。

 ジムIIIには大きく分けて連邦軍が保有していた在来のジムIIを改装した第一次型、ムーバブル・フレームをフル採用し、完全新規製造型である第二次型、第二次型の設計を整理し、AE社が保有するMSA-003ネモの生産ラインで製造され、ジェネレーターをネモのものに換装した第三次型が存在する。

 ダカール宣言後はムーバブル・フレームを装備した第二次型、いわゆる「ヌーベルジムIII」の生産が開始され、RMS-106ハイザックに代わりグリプス抗争後期~第一次ネオ・ジオン抗争における地球連邦軍の主力MSとなった。

 当初はホワイトとレッドの旧宇宙軍カラーだったが、ダカール宣言後は新生地球連邦軍を示すホワイトとスカイブルーの新カラー、通称エゥーゴブルーに変更されていった。


 機種一覧

 RMS-122ジムIII
 RGM-86RジムIII
 RGM-88AヌーベルジムIII
 RGM-88BヌーベルジムIII後期生産型
 RGM-88SストライクジムIII
 RGM-88KジムIIIキャノン
 RGM-88MスキューバジムIII
 RGM-86G/MSK-004ジムIII(カラバ仕様)


 RMS-122ジムIII

 コンペイトウ兵器開発局で開発された支援MSでグリプス抗争当時、旧式化しつつあったRGM-79RジムIIの全面更新型としてロールアウトした機体である。

 一年戦争後半にRX-78ガンダムの簡易量産型として開発されたRGM-79ジムシリーズはその後、戦後型として改良されたC型を経てR型、ジムIIにバージョンアップされ、七年の間に細かいマイナーチェンジを施されつつ、RMS-106ハイザック戦力化後も連邦軍における主力の座にあった。

 しかし、グリプス抗争の勃発によって地球連邦軍は急速に地球至上主義と反スペースノイドを掲げたエリート部隊「ティターンズ」と、ティターンズの横暴を阻止するべく決起した反地球連邦政府組織「エゥーゴ」に分裂して、戦力を著しく疲弊させてしまった。
 当初、グリプス事変に端を発する一連の事件は、軍内部のアースノイド派とスペースノイド派、親ティターンズ派と反ティターンズ派の派閥抗争として捉えられ、どちらにも肩入れしない連邦正規軍の大半は両者の武力闘争を静観する立場にあったが、連邦議会でハイマン元帥や元帥を支持する親ティターンズ派議員や軍人の議会工作もあって、正規軍の指揮権がティターンズに委譲される「権限拡大法案」が時限立法として成立、事態を静観していた連邦軍はエゥーゴ討伐に法的な根拠をもってして駆り出されることが決定される。

 当時、軍内部においてその勢力を伸ばしつつあったティターンズではあったが、連邦軍そのものがティターンズの指揮下に置かれることはさすがに日和見として知られる連邦軍高官たちも難色を示した。
 特に表向きエゥーゴに協力していないものの、ティターンズに対しても不信感を抱いているスペースノイド出身将兵から強い反発が巻き起こったが、議会で法案が成立し、エゥーゴとそれに同調する連邦軍各部隊が反乱軍として政府に認定された以上、ティターンズの対エゥーゴ討伐作戦に正規軍が駆り出されることは既に決定事項となりつつあった。

 だが、連邦軍は0084年のRMS-106ハイザックの開発以降、量産機の新規開発を怠っており、ハイザックよりも高いスペックを持つRGM-79RジムIIも前大戦時に設計されたMSのマイナーチェンジでしかなく、0087年の時点では主力兵器として陳腐化が進んでいた。
 また、旧ジオン公国軍残党「アクシズ」が逃亡先のアステロイド・ベルトから地球圏に帰還し、内紛に介入する動きを示したこともあり、エゥーゴ、アクシズという二つの勢力への対策として、在来兵器の更新を行う必要に迫られたのである。

 しかし、0087年時点での最新現用機であるハイザックはその大多数がティターンズによって独占使用され、新型機RMS-108マラサイRMS-154バーザムにしても同様であったため、内部抗争とティターンズによる正規軍部隊の吸収合併が横行し、弱体化しつつあった連邦軍ではこれらの機体を増備する余裕と時間はなかった。

 残りの選択肢は残存する旧式機、ジムIIに全面改修を施し、現行の第二世代MSに匹敵する性能に引き上げる蘇り策を講じることであった。ジムIIは性能的に旧式化しきっていたとはいえ地球圏では一万機を越える配備数を誇り、これらの機体を全て新型機に代替させることは時間的、財政的な面ではほぼ不可能である。そこで既に配備されているジムIIに根本的な改修を加えることで更新を図り、なおかつ安価で戦力の質の向上を図ることにした。ジムIII改修計画は当時の政治的・経済的・時間的な背景から生み出された苦肉の策でもあった。

 母体となるジムII自体は度重なるマイナーチェンジが加えられているものの、基本設計は前大戦時にロールアウトしたジムA/B型から大きな変更はなく、これが陳腐化の原因となっていたが、対するジムIIIでは根本的な改修を施し、グリプス製RX-178ガンダムMkIIの設計を一部導入することによって開発期間の短縮やコストに見合った性能向上を図った。
 グリプス抗争勃発後、ティターンズは他の連邦軍拠点の兵器開発局に対し、大々的にガンダムMkIIの設計図やスペックを公表してデータ共有を行ったこともあって、容易にMkIIのデータや設計図を得ることが可能であった。

 改修計画はコンペイトウ基地工廠内の兵器開発局主導で行われた。これはジャブロー基地の消滅やニューギニアやキリマンジャロ、ゼダン・ゲートなどの基地がティターンズの拠点として機能し、連邦軍が自由に使用できる基地はルナツーかコンペイトウしか残っていなかったためである。

 しかし、コンペイトウ基地はMS開発にはあまり熱心ではなく、MSの試作等の開発実績が少なかった。コンペイトウ兵器工廠では以前、RGM-79Qジム・クゥエルを母体に改修した試験機、RX-121ヘイズルの開発やRMS-106Bハイザックの委託生産、RGM-79RジムIIの改修工事が細々と行われていただけで、大規模な生産設備と技術を持ちながらその機能を活かし切れていなかった。
 この点もコンペイトウがジムIII計画の舞台に選ばれた理由の一つであったと思われる。大量の旧式機を短期間に改修するには、同基地の大規模な生産ラインの方が都合が良かったのだ。

 コンペイトウの技術陣はガンダムMkIIの設計を一部転用して、ジムIIの大幅に性能向上を図った。言わばMkIIの簡易量産機を目指して開発したのがRMS-122ジムIIIである。0087年中頃、エゥーゴとティターンズの武力衝突が激化の一途を辿っていた情勢の中、初期改修型がロールアウトした。

 この初期改修型はRGM-79RジムIIをベースに改修が施され、頭部、バックパックの各ユニットの換装、ジェネレーターの改修、火器管制システムの強化が施された。これらの改修によって推力とセンサー範囲が大幅に強化され、特にバックパックはガンダムMkIIと同設計のものに換装されたため、大幅な機動力向上に貢献している。
 機体主要部はガンダリウムγ合金製装甲に換装され、特に総取替えとなった四肢は完全にガンダリウムγ合金装甲となったため、防御力と重量の僅かな軽量化を図っている。

 そして、エゥーゴ討伐の主力を担うティターンズMS部隊を支援するための能力が付加され、両肩にマイクロミサイル・コンテナ、両腰脇部に二発式のミサイル・ランチャーを装備する。機体の火器管制能力が強化されたのは、これら支援攻撃用兵装をコントロールするためのものである。腕部ユニットは追加兵装を装備するために新規設計のものに換装され、ムーバブル・フレームを内蔵するガンダリウムγ合金製となっている。

 これらの追加装備によって増加した自重を軽減するため脚関節部が強化され、フィールド・モーターのアンプリファイアと増加スラスター、月面降下用のプロペラント・タンク接続ポイントが増設された。
 脚部の強化は地上やコロニーなどの重力区での配備において、母体機よりも自重が増したジムIIIにとって必要不可欠で、エゥーゴの支持基盤であるスペース・コロニーや月面自治都市を制圧するためには、月面降下戦用装備と併せて必須の装備であったと言えよう。

 当初はRMS-122ナンバーでロールアウトしたジムIIIであったが、テスト後に連邦正規軍で制式採用が決定すると、新たにRGM-86Rナンバーが与えられた。これは連邦軍に配備されていたグリプス製RMS-179ジムIIの正規軍内での採用ナンバーがRGM-86Aであり、グリプス製の後期生産型を優先して改装を行う予定だったためである。開発当初、ジムIIIはジムII後期生産型のバリエーションの一つとして捉えられていたという見方もできるだろう。

 ちなみにダカール宣言後、同様に手法で再生された機体がRMS-117Bガルバルディβ後期改修型で、ジムIIIとの共通パーツが多く見られる。これもジムIII計画の副産物とも言えるものであったという。

 改修は0087年10月から開始され、各拠点や部隊に配備されていたRGM-86AジムIIから優先して基地内において改修が開始された。当時はまだティターンズ主導の時期であったため、ダカール宣言以前にロールアウトした機体についてはホワイト&レッドの旧宇宙軍カラーが施されていた。

 RGM-86RジムIII

 一年戦争後半、地球連邦軍がRX-78ガンダムの簡易量産機として開発したRGM-79A/Bジムのマイナーチェンジ機がRGM-79RジムIIである。R型は大幅な改修は行われず、アビオ二クス更新やコクピットのリニア・シートと全天モニター化、ビーム系のデバイス改良を施したのみの機体で、グリプス抗争が勃発した0087年になると性能に見劣りが出てきた。

 ジムIIはその配備数の多さから連邦軍を母体とするエゥーゴ/ティターンズの双方で配備、使用されていたが、徐々にムーバブル・フレームとガンダリウムγ合金製装甲を装備した新鋭量産機、MSA-003ネモRMS-108マラサイRMS-154バーザムなどに代替され、一線からは退いていった。

 しかし、ジムII自体が大戦時に生産されたB型や戦後型のC型の改修型であるR型、グリプス基地工廠での開発生産能力実績をアピールするために新造された後期生産型であるRMS-179/RGM-86Aを含めて地球圏に一万機近い配備数を誇り、財政面において膨大な数の機体を全て代替させることは時間的にも不可能であった。

 また、エゥーゴとティターンズに分裂し、戦力を著しく疲弊した地球連邦軍は不足するMS定数を揃えるため、第一線を退きつつあった旧式機、ジムII系MSに本格的な更新工事を施し、支援攻撃用MSとして再配備することを決定した。それがジムIII計画の本旨である。

 コンペイトウ基地工廠でロールアウトした初期改修型をベースに、ティターンズに地球連邦軍の指揮権を委譲する時限立法が成立したグリプス抗争中期より改修工事が開始され、拠点防衛や主力部隊の支援戦闘などの二線級任務に回されていたジムIIは順次、ジムIIIへ改装され、支援攻撃MSとして再配備されていった。

 連邦正規軍で採用された際にはRGM-86Rナンバーが設定され、その大半は戦後、グリプス基地工廠で開発・製造されたRGM-86AジムIIを母体としている。このジムIIの最終ロットは、部分的に同基地で開発が進められていたRX-178ガンダムMkIIから得られたデータをフィードバックし、部分的ではあるが脚部にムーバブル・フレームを導入した機体であった。このジムIIは製造・配備からまだ二、三年程度しか経っておらず、第一世代MSと第二世代MSの中間に位置する同機はジムIII改修にもっとも適した機体であったと言えよう。
 グリプス製ジムIIを出自とするジムIIIの場合、脚部と腕部にムーバブル・フレームを内蔵しているため、可動部分における内骨格化が既に完了した第二世代MSの簡易型とみなすこともできる。セミ・モノコック構造は改修があまり及んでいない胴体部分のみである。
 開発当初、RMS-122とコンペイトウの拠点開発ナンバーを与えられていたジムIIIであったが、改修ベースとなった機体の大半がRGM-86Aだったことから、RGM-86の改修機であることを示すバリエーション記号が改めて与えられたのもこのためである。
 改修ベースとなるRGM-86Aの不足分については、従来のRGM-79Rからの改修で補充する方法を取っており、セミ・モノコック構造である脚部ユニットをRGM-86Aと同タイプのものに換装して、グリプス製ジムIIと性能を同等とするなどの対策も講じられたという。

 ちなみに改修計画にはAE社も積極的に参画しており、改修パーツキットのライセンス生産や、AE社各工場での改修工事の委託も行われており、連邦軍内に存在する膨大な在来機の性能更新は、AE社にとっても旨みのある事業であった。

 AE社が改修パーツキットを委託生産していたことからも分かるように、ジムIIからジムIIIへの改修は比較的簡単に行うことが可能で、改修母体が86系である場合、設備が整っていれば母艦内での改修も可能だった。
 辺境の警備基地に配備されているジムIIも、改修パーツと人員が揃えば簡単に上位機種であるジムIIIに換装できたのである。こうした状況がジムIII化改修工事が短期間で迅速に進んだ理由の一つでもある。

 当初はエゥーゴやアクシズに対する軍備強化のために開発されたジムIIIだったが、ダカール宣言でエゥーゴとティターンズの立場の逆転すると、ダカール宣言後からの改修分の機体については旧来のレッドとホワイトの宇宙軍カラーから、新生連邦軍を示すホワイト&スカイブルーのツートンカラーに変更されていった。これはエゥーゴカラー、及び新連邦軍カラーと呼ばれるもので、すでにロールアウトしていた機体についてもこの新カラーに塗り替えられている。

 これらの改修機は皮肉なことにダカール宣言後、連邦軍内のカラバ派将兵によって多数がカラバへと譲渡され、MSK-006Zプラスに生産ラインを明け渡して生産を終了したMSK-003陸戦型ネモの不足分を補い、カラバの新たな主力MSとなっている。ロートルとなった第一世代MSをパーツ換装のみで第二世代MSに近い性能向上を実現させたジムIII規格は、皮肉なことにジムIII最初の仮想敵として想定されていたエゥーゴやカラバにおいて高く評価され、エゥーゴやカラバでも二線級戦力として保有していたジムIIを順次、ジムIIIに改装して戦線復帰させることに成功している。

 カラバのジムIIIは更に脚部スラスターユニットを熱核ジェット・エンジン型とし、陸戦能力を向上させたG型として識別され、グリプス抗争終盤のティターンズ残党討伐戦や、第一次ネオ・ジオン抗争におけるダカール奪回作戦、ダブリン市民救出作戦において活躍した。

 更に一部のジムIIIにはRMS-154バーザムの調達不足分を補うために、ティターンズに配備された機体も少なからず存在した。これらの機体はダカール宣言前にロールアウトして評価試験のためにティターンズへ引き渡された機体であり、ティターンズカラーである紺色系カラーリングが施された。
 ジムIII、バーザムはどちらもRX-178ガンダムMkIIをベースにした量産機であり、二機種間でのパーツ共用が可能だったため、不足するバーザムの穴を埋めるには妥当な機体であったようだ。ちなみにティターンズに配備されたジムIIIは連邦軍/エゥーゴ機と区別するため、RMS-122ナンバーで登録されているが性能に差はない。

 ティターンズ陣営でもごく少数が使用された他、0088年2月に発生したペズンの乱に付随して発生したエアーズ攻防戦では、反乱軍側についたエイノー艦隊から供給されたジムIIIが多数、エアーズ市民軍に引き渡されて、攻防戦に投入された記録が残っている。エアーズ市民軍はRMS-106Dシビリアン・ザックやニューディサイズのRMS-141ゼク・アインなどのジオン系MSとの混成部隊を構成した。

 一方で、ダカール宣言後は先述の通り、エゥーゴやカラバでもジムIIIが制式採用されており、メールシュトローム作戦ではダカール宣言後よりエゥーゴに参画した連邦軍部隊が持ち出したジムIIIが6機、実戦投入されていた。

 第一世代機で第二世代機並みの性能を目指したジムIIIは改装が簡単で、改修キットとある程度の工場施設があれば簡単に改修が可能であり、グリプス抗争終結時には連邦軍が保有する全てのRGM-86AジムIIがジムIIIへのバージョンアップを終え、抗争で戦没した不足分については予備役となったRGM-79RジムIIからも一部が同様の改修を受け、再配備されたという。
 
 改修型ジムIIIはエゥーゴ、カラバを含む地球連邦軍の支援攻撃機として0087年から0088年にかけて普及したが、グリプス抗争後に続いた第一次ネオ・ジオン抗争においてはエゥーゴやカラバに所属していた機体を除き、ほとんどが実戦には参加出来なかった。
 連邦政府のアクシズ(ネオ・ジオン)に対する弱腰政策と、先の内戦で指揮系統が崩壊していた連邦軍そのものがネオ・ジオン軍に対して有効な対策を立てられなかったためで、各コロニーの駐留部隊に配備されたジムIIIはネオ・ジオンに対する攻撃命令が下らないまま、有効な反撃もできずにコロニー懐柔部隊のAMX-006ガザD部隊によって撃破されてしまった。

 また、0088年6月のネオ・ジオン軍の地球侵攻作戦でも連邦軍は指揮系統の回復と地上で蜂起し、連続テロ事件を起こしていた旧ジオン軍の残党対策に追われたことや、連邦政府議会が武力で対抗するか外交で解決するか紛糾し、浮き足だったために主だった防衛もできないまま、ジムIIIの戦力を活用することなく、地上の連邦軍はネオ・ジオンの降下部隊によって各個撃破されていったのである。

 連邦軍所属のジムIIIが戦場で活躍するようになるには0088年後半、ネオ・ジオン軍で内紛が勃発した以降のことで、その後、三年近くに及んだ残留ネオ・ジオン軍の討伐作戦においてはジムIIIやヌーベルジムIIIが主力MSであった。

 最終的に配備された機体は二線級MSとして0120年代まで使用され、RGM-109ヘビーガンやRGM-119ジェムズガンに代替されるまで予備戦力として配備され続けたと言われている。

 RGM-88AヌーベルジムIII

 ダカール宣言後、エゥーゴ主導の地球連邦軍で製造されたRGM-86RジムIIIの新規製造機。RMS-154バーザムMSA-003ネモなどの第二世代MSの設計がフィードバックされており、全面的にムーバブル・フレームを内蔵した第二世代MSとして完成している。

 連邦軍は支援攻撃機として、旧式機を改修したRGM-86RジムIIIを配備しつつあった。これはグリプス抗争中盤から行われていたもので、本来は対エゥーゴ/アクシズ対策の一環であった。しかし、ジムIIIは第二世代の量産型MSに性能的に追いついていたものの、ベースはセミ・モノコック構造のロートル機である。
 あくまで第二世代MSを主力とする部隊の支援攻撃任務において充分な性能を発揮するものであり、ジムIIIを主力機と言い切るにはいささかお粗末な内容であった。改修型ジムIIIの時点では腕部、脚部といった主な可動部の内骨格化が進んでいたものの、胴体部は依然として外骨格のままであったからだ。

 ジムIIIはティターンズの主力部隊を支援するために生まれた機体であり、ダカール宣言以降、ティターンズを見限ってエゥーゴを追認しつつあった連邦軍は大幅な戦略の見直しをしなければならず、それにはRMS-106ハイザック以降行っていなかった新主力機の開発が必要とされた。しかし、身内の不始末が尾を引き、またアクシズの脅威が迫る連邦軍に一からの新規開発を行う余裕と時間すらなかった。

 そこで、ティターンズ主導時代に開発されたRMS-154バーザムと、エゥーゴの主力機であるMSA-003ネモの設計をフィードバックし、ジムIIIの改修規格を流用して主力MSの開発・製造を行うことを決定した。
 その条件としてムーバブル・フレームをフル採用した機体であることが盛り込まれ、ネモ系のムーバブル・フレームを流用した第二世代機となった。この第二世代ジムIIIは第一世代機からの更新機である改修型ジムIIIと区別するため、ヌーベルジムIIIと呼ばれる。

 ヌーベルジムIIIはジムの直系機としては初めてムーバブル・フレームを全面的に導入し、基本性能では改修型ジムIIIより大幅に向上した。これによってガンダムMkIIの簡易量産型と呼べるまでの性能を持つに至った。これは同様にガンダムMkIIの中庸量産型であるバーザムと好対照といえる位置付けである。

 ムーバブル・フレームの構造そのものはMSA-003ネモに内蔵されているものとほぼ同様であり、これにバーザム系のパーツで改良したもので、ジム系の系譜上にあるネモのフレームを流用するにはさほど困難はなかったようだ。

 装甲材質はコクピット周辺の主要部、新規追加パーツ部にはガンダリウムγ合金を使用し、それ以外の部分ではチタン合金・セラミック複合材を使用している点では改修型ジムIIIと変わりはないが、この時代のチタン合金の質はガンダリウムγ合金の精錬技術からのフィードバックによって、グリプス抗争勃発以前に精錬されていた同材質よりも質が向上しており、充分に現用に耐えうるものである。
 
 頭部はセンサー能力と60mmバルカン砲の内装弾数を向上させた新規設計のものとなり、改修型ジムIIIの頭部ユニットとは形状が異なる。ジェネレーターはジムII/ジムIII改修型のものを流用しているが、出力は改修型よりも向上した。
 これは廃熱システムに改良が加えられ、胸部の廃熱ダクトを増設、合計四基で稼動させてジェネレーターの稼動率を上げたためで、AE社で開発されていたMSA-004ネモIIからの技術転用による産物である。

 このことから分かるように、ダカール宣言以降に開発されたヌーベルジムIIIの開発にはAE社からの技術提携(ネモのムーバブル・フレームの提供や廃熱システムの技術供与等)があり、ダカール宣言後のエゥーゴの連邦軍掌握と同時にエゥーゴを支援したAE社が0083年のガンダム開発計画頓挫以後、初めて連邦軍の装備計画に本格参入し主導権を得たとも言えるだろう。

 武装はジムIIのものを共用していた改修型と対照的でガンダムMkIIの主力武装を装備しているが、バーザムと同様、連邦軍のMS武器の大半を装備可能となっている。

 こうして、ジムIIIの改修規格を利用して第二世代MSの新規開発に成功した連邦軍は0087年末からコンペイトウ、ルナツーで製造を開始し、同月にルナツー駐留の主力部隊や各コロニー駐留艦隊、および政府議会が温存していた虎の子部隊、低軌道ステイション「ペンタ」駐留の本星艦隊にも多数が配備された。

 ヌーベルジムIIIは先んじて配備されていた改修型ジムIIIとのパーツ互換性が高く、機体に装着される追加パーツ自体はまったく同じ物であるため、兵站上においても有利で、新旧のジムIIIで部隊混成させることも可能である。
 ティターンズやエゥーゴの新型量産機は一部を除いてジム系とのパーツ共用度が低く、マラサイリック・ディアスといった連邦系の中で異端なジオンタイプMSが抗争後、必ずしも普及しなかった理由の一つとしては8年近くの長きに渡って主力機として配備が続いたジム系との共用度の差であり、後の新型機RGM-89ジェガンを採用させる一因ともなっている。
 連邦軍のガンダム系量産機は必ずしも高性能を求められるわけではなく、整備性や性能バランスの良さ、大量配備によるコスト削減に重きが置かれており、それは決して兵器やMSとして間違いではないことをジムIIIシリーズが証明している。

 初期生産型はロールアウト時は改修型と同じRGM-86Rナンバーで登録されていたが、後に後期型が本格的に生産されると改修型と区別するために新たにRGM-88ナンバーが与えられ初期生産型にはA型のバリエーション記号で識別された。

 A型は0088年初頭のメールシュトローム作戦において実戦投入され、改修型ジムIIIと共に3機がエゥーゴ主力部隊の支援任務についていた。また、時同じくして0088年初頭に発生したペズン事件においてもα任務部隊の主力機として大量投入され、エアーズ攻略戦においてはMSA-007ネロと共に降下作戦の要となった。

 初期生産型は0088年初頭まで行われ、その後はMSA-003ネモのアビオニクスを導入し、さらに改良されたB型の生産に移行した。

 RGM-88BヌーベルジムIII後期生産型
 
 RGM-88AヌーベルジムIIIの後期生産型。ジェネレーターをMSA-003ネモの同タイプのものに換装し、完全な汎用機として改良した最終生産バージョンである。

 地球連邦軍はグリプス抗争での痛手から立ち直るべく、本格的な戦力再建と質の向上を図る計画を立案した。その中で、主力MSの性能刷新を実行に移し、旧式化したRGM-79RをはじめとしてRMS-106RMS-117を代替し、来るネオ・ジオン軍との軍事衝突に備えた。
 だが、この時の連邦軍にはムーバブル・フレームを装備した主力機が存在していなかった。当時、主力となっていたRGM-86RジムIIIは第一世代機RGM-79R/RGM-86Aを全面改修した支援攻撃機であり、第二世代機に匹敵する性能を持つものの、アクシズ/ネオ・ジオンの新型MSに対しては性能的な不安が残っていた。
 故に、ジムIIIは第二世代機で構成される主力部隊を支援する機体として使用が想定されており、これを主力機とするには力不足だった。

 連邦軍初の第二世代機として配備されたばかりのRGM-88Aもその数は少なく、かろうしでエゥーゴから編入された第二世代機や、ティターンズから接収したRMS-108マラサイやRMS-154バーザムなども存在していたがその絶対数は少なく、要求される数を満たせずにいた。

 そこで、第一世代機の退役による不足分を補う形でヌーベルジムIIIの増備を決定した。それが後期生産型と呼ばれるB型である。B型はジェネレーターをネモの同タイプに換装し、アビオニクスもネモに搭載されていた電子機器類に換装されるなど、その中身は全体的にネモ系、AE社系量産機に近い構成となっている。
 ネモの高い稼動率を誇る優秀なジェネレーターと冷却システムを搭載したことによって、胸部の廃熱ダクトはA型から増設された四基から、従来の二基に減らすことに成功し、増加ダクトは撤去された。これによって重量の軽減と製造コスト削減に貢献した。
 
 頭部ユニットは生産コストを削減するため、広く普及していたRGM-86RジムIIIと同タイプのものに変更された。外見的には改修型ジムIIIに近くなっているが、腰部のヘリウム・コア、腕部形状はヌーベルジムIII初期生産型と同じである。
 装甲は全面的にガンダリウムγ合金に変更され、軽量化と防御力の強化に繋がった。シールドはA型で使用されていたRX-178ガンダムMkIIと同タイプのものから、大量に余っていたRGM-79Rが使用するシールドを再利用する。

 初期生産型はムーバブル・フレームを装備する第二世代機として完成していたが、ジェネレーターやアビオニクスは改修型であるRGM-86Rから大きな変更はなされておらず、それに伴う性能向上のための補機等で生産コストが高騰しつつあったため、意外にも大量生産には向かない構造であった。
 そこで、新世代機であるネモ系のアビオニクスを利用して簡単な生産性向上と単純化を図り、パーツの省略や整理等を行ったのがRGM-88Bなのである。

 これらの改良によってヌーベルジムIIIはコストパフォーマンスの高い汎用量産機となった。0088年夏から各拠点にある生産ラインは全てB型に切り替わり、主力部隊配備のために急ピッチで増産が開始された。
 
 また、コストパフォーマンスの高さからエゥーゴでも次期主力機としてヌーベルジムIIIの制式採用を決定し、ネモに代わる主力機として製造が行われた。エゥーゴにとってネモはコストパフォーマンスが悪く、グリプス抗争後はネモの生産ラインは閉じられていたからである。

 しかし、ヌーベルジムIIIの生産を担当していたルナツーとコンペイトウ、地上の各拠点での生産が間に合わず、新型機を欲していたエゥーゴではAE社でのラインセンス生産を連邦側に提案した。
 AE社でもMSA-003ネモの生産が終了し、生産ラインに余裕ができていたことと、同系列のヌーベルジムIIIのライセンス生産に転用できないかエゥーゴを通じて連邦軍に打診していたこともあり、両者にとって渡りに船であった。
 ヌーベルジムIII後期生産型は先述の通り、ネモ系のアビオニクスが導入されており、AE社のMS技術者も改良に関っていた。ネモの生産ラインでヌーベルジムIIIを生産することはそれほど困難ではなく、生産施設の転用が可能であった。また、ジェネレーターなどの機器類が生産ライン上に残存していたこともあり、生産には極めて好都合であったと言えよう。

 AE社はRGM-89ジェガンの生産で連邦軍におけるMS生産のシェアを独占したと言われているが、実際にはダカール宣言と前後して改修が開始されたRGM-86RジムIIIの改修キットのライセンス生産や委託改修、RGM-88Bのライセンス生産やアビオニクス輸出などによってすでに半独占体制にあった。
 膨大な数の在来機の改修と、抗争で失われた連邦軍拠点の生産能力の低下をカバーするためにAE社の月やコロニー、カリフォルニアにある生産工場はまさにフル回転状態であったという。
 かくして、エゥーゴ用にAE社の月面にあるネモの生産施設がヌーベルジムIII用に転用され、生産ラインが再稼動したのである。AE社でライセンス生産された機体は再編されたエゥーゴ主力部隊に配備され、翌年のネオ・ジオン軍鎮圧艦隊に多数配備された。

 B型は0089年初頭まで生産が行われ、連邦軍の主力機としての座についた。0089年後半には新鋭機RGM-89ジェガンが制式採用されたものの、ジェガンは翌年に編成されたロンド・ベル隊をはじめとするエリート部隊へ優先して配備されることが決定され、当時はまだ生産数が少なかったため、ヌーベルジムIIIは長い間、連邦軍の主力機として配備された。

 0093年の第二次ネオ・ジオン抗争ではルナツー艦隊やコンペイトウ艦隊、88艦隊艦載のヌーベルジムIIIが地球へ落下するアクシズを食い止めるために来援し、RX-93Aνガンダムを支援しており、当時の連邦軍主力部隊を中心に多数配備されていることが分かる。

 その後は軍縮と大きな戦乱が起こらなかったことから、ジェガンとの代替が遅れ、0100年代初めまで使用されていたが、15m級MSが普及しはじめると序々に退役し、予備役へと転じていった。ちなみに地上部隊では改修を行いつつ0120年代まで使用され続け、30年近くも第一線に立っていた。

 RGM-88SストライクジムIII

 RGM-88BヌーベルジムIIIの性能向上型。MS部隊指揮官や、特殊任務につく一部のエリート部隊向けに開発された機体。機体バランスが全体的にベースとなったRX-178に近くなり、ジムIII系MSでは一番ガンダムMkIIに近い構造を持つ。

 0089年にAE社にてS型の提案がなされ、ネオ・ジオン残党の掃討作戦や、新興の非ジオン系反地球連邦組織狩りのために新型MSを欲していた連邦軍は、ごく少数ではあるがS型を採用した。S型はジムIII系で構成されるMS部隊の中隊指揮官や、RGM-89ジェガンの配備が適わなかった特殊部隊などに優先して配備された。

 地上での残留ネオ・ジオンの討伐戦においては、RGM-86RやRGM-88Bといった同系列の機体を率いて行軍する光景が見られた他、ホワイト・フェザー隊では麾下の軽巡「キランディア」「トラウム」の艦載機としてS型が集中配備されていたことで知られている。

 S型は腕部ユニットがRX-178と同タイプのものに換装され、出力が向上したためにB型では廃止された胸部ベンチレーターの増設が再び行われているのが特徴的で、全体的にはA型への先祖帰りが見られる。これは要求されるジェネレーター出力が高かったためだが、再興ネオ・ジオンが蠢動し始めたこの時期、S型ですらパワー不足が懸念された程であった。

 RGM-88KジムIIIキャノン

 RGM-88AヌーベルジムIII初期生産型をベースに、中距離砲撃戦仕様に改修した機体。連邦軍はこれまで、中距離砲撃戦や防空用MSとして長い間、RGC-79ガンキャノン・プラスRGC-83BジムキャノンIIなどの旧型機を使用していた。これらの機体はRGM-79RジムIIと同様、リニア・シートや全天周モニターに換装するなどの改良が施され、防空用の二線級任務であればこれらの旧式機でも充分に任務に耐えうるものであった。

 これらの機体はグリプス抗争を生き延び、さらには第一次ネオ・ジオン抗争時でもこれらの機体は更新されることはなかった。MSの性能が向上し、中距離砲撃支援任務機の必要性が薄れたことや、二線級任務である拠点防衛や防空任務では旧式機でも務まることから、長い間新型機の開発は行われなかったが、ゲリラ戦闘においてガンキャノン系MSの砲撃能力が再び注目されはじめ、エゥーゴではMSA-099KMSK-005K、ティターンズではRMS-154Kなどの中距離支援機の開発が行われるようになった。

 これらの第二世代砲撃支援機は旧式化したRGC-79やRGC-83を代替する目的と、ゲリラ戦闘に対応するために開発されたが、グリプス抗争中にごく少数が生産されたのみであった。

 グリプス抗争においてゲリラ戦における中距離砲撃支援戦が再評価されたこともあり、連邦軍では旧式機を代替し、グリプス抗争末期から新主力機となりつつあるRGM-88ヌーベルジムIIIシリーズとの連携戦闘が行えるようにヌーベルジムIIIの初期生産型をベースに、中距離砲撃用MSに改修した機体がK型である。
 
 改修にはティターンズ側で開発されていたRMS-154Kバーザム・キャノンが参考とされており、バックパックの上部バインダーを撤去、ビーム・キャノンを二門装着させている。この装備はバーザム・キャノンと同設計のものである。

 防御力を向上させるために、腕部の一部装甲がチョバム・アーマーに換装されたが、改修に時間とコストをかけないための処置なのか、全体的な装甲換装は行われていない。

 ビーム・キャノンを稼動させるためにジェネレーターは新型のものに換装され、また、ジェネレーター稼動効率を上げるために廃熱ダクトを四基装備し、高い廃熱率に優れている初期生産型が改修ベースとなっている。

 形式ナンバーは当初、連邦軍の慣例に従ってRGCナンバーが与えられる予定であったが、ヌーベルジムIIIからの改修で新規開発機ではなかったため、あくまでヌーベルジムIIIのバリエーション記号を付加させたに留まっている。

 0088年冬に初期生産型から40機が新たにK型に改修され、サイド3侵攻部隊に多数配備されたが、本格的な実戦には投入されず、新たにAE社にて製造されたタイプも含めてその生産数は60機程度と少ない。その後のネオ・ジオン軍残党討伐戦や、エグムやリアル・エゥーゴなどのテロ組織での討伐において投入された記録が残っている。

 RGM-88MスキューバジムIII

 RGM-88の水中戦仕様。旧式化しつつあったRMS-187MHマリン・ハイザックRMS-192Mザク・マリナーといった水中用MSを代替するために、第一次ネオ・ジオン抗争時に開発された機体である。

 地球連邦軍は、前大戦時より水陸両用・潜水型MSの開発には総じて消極的であった。戦時中にはRGM-79ジムをベースにした水陸両用機の開発も進められていたが、戦場が早々と宇宙上に移ったために実機がロールアウトしないまま終戦を迎えており、戦後はジオン軍が開発したMS-06MやMSM-06などの鹵獲機をベースにマイナーチェンジや改修を施して、港湾地帯での警備任務に使用する程度であった。これは連邦軍MSが気密性に劣るセミ・モノコック構造機が主流だったことも決して無関係ではない。

 これらの機体群はゴッグ系やズゴック系といったMSMシリーズに比べて、水陸両用MSとしての性能は平凡で潜水性が低く、ビーム兵器の装備が不可能といった問題も抱えていた。だが戦後、ゲリラ戦以外では大規模な海戦が起こらなかったこともあり、この程度の機体でも充分に用足りたため、七年近くも新規開発や更新が行われることはなかった。

 だが、これらのジオン鹵獲機をベースとする機体群は0087年にグリプス抗争が勃発すると旧式化が懸念された。汎用型MSが第二世代MSへ移行する中で、水陸両用MSだけが水中戦闘の発生率低下が原因で、MSの進化から取り残される形となってしまったためである。
 グリプス抗争時には水陸両用MSの更新が遅れ、旧態依然としていることを重く見たティターンズがようやく水陸両用MS、RMS-153オクトーズを開発して麾下の海軍部隊に配備しはじめたものの、宇宙上での戦況が重視されたこともあり生産が進まず、旧式機を一斉に置き替えることなくダカール宣言を迎えてしまい、ティターンズ由来であるオクトーズの量産続行はエゥーゴの連邦軍掌握によってキャンセルされてしまった。

 次に俎上に挙がったのは0088年にカラバ海軍に配備されたMSA-005Mメタス・マリナーであった。メタス・マリナーは対ネオ・ジオン戦を睨んでカラバ海軍増強の一環として配備がはじまり、潜水TMSとしての高いコストパフォーマンスに着目した連邦海軍でも次期主力機として制式採用することが決定された。この時期は各サイドでネオ・ジオンの宣撫部隊が制圧・懐柔作戦を遂行している最中であり、次の戦場となるであろう地球侵攻作戦に対応するために早急な戦力化が迫られた。
 しかし、メタス・マリナーはカラバ海軍でも同時に配備が進めていたため、生産を担当するAEカリフォルニア支社工場では連邦海軍とカラバ海軍の機体を同時に製造しなければならなくなり、一時的に需要と供給が追いつかなくなってしまった。

 AE社では連邦海軍からの要請に答えるべく、宇宙警察機構向けのB型やエゥーゴ向けのS型の生産ラインを転用してまでメタス・マリナーの生産を行うことを検討していたが、これらの工場は地球から離れた月やコロニーに工場があるために月の工場で組み立てて、完成して地球へ送るまで大きなタイム・ラグが発生し、ネオ・ジオンの地球侵攻作戦発動までには到底間に合わなかった。
 連邦政府情報部はネオ・ジオン軍の地球侵攻は0088年夏頃、一番早くて5月頃には敢行されるだろうと報告していたために、その前後にはネオ・ジオンが衛星軌道上の制宙権を握るとしても、ネオ・ジオンの地球侵攻次第では月から地球へのMS輸送は不可能となることを考慮した場合、月での生産は現実的とは言えなかった。さりとて、メタスの生産ラインはAE社にしかなく、連邦軍拠点での生産はほぼ不可能である。

 苦肉の策として、連邦海軍はメタス・マリナーの調達数を補完するべく、既に宇宙軍や地上部隊に多数が配備されているRGM-86RジムIIIの他MSとの高い互換性を利用することで、簡易型の水陸両用MSを急造することを決定した。これには一部にメタス・マリナーの設計を流用することで開発期間の圧縮を図った。こうして第一次ネオ・ジオン抗争に間に合わせた機体がRGM-88MスキューバジムIIIなのである。

 ジムIIIスキューバは、RGM-88AヌーベルジムIIIのムーバブル・フレームとジェネレーター、追加パーツを流用しつつ、腕部ユニットをほぼそのまま、メタス・マリナーのものを転用することで水流エンジンを簡単に装備させることに成功した。メタス・マリナーは肩ユニットにメインの推進システムを搭載しているため、ジムIIIに水流エンジンを搭載するための大掛かりな改修工事を施さずに済んだ。この場合、強引な方法ではあるが腕部ユニットを換装するだけで取り敢えずジムIIIに水流式エンジンを搭載させることが可能となる。
 次にコクピットを中心に気密性を高めるため、上半身をモノコック装甲に換装して流線型に近い構成とした。腰部も一体化された流線型スカートを装備するなど、水中航行時に可能な限り支障を来さないように考慮された。滑らかな、モノコック系の流体構造はオクトーズで得られたデータを元にしている。
 脚部ユニットにはサブ推進機が膝部に装着され、関節機構を強化するアンプリファイア、補機類も全て防水カバーを兼ねる増加装甲で包まれ、母体機の面影はない。

 背部バックパックユニットも新設計のものに換装され、上陸時に使用する核熱ロケット・エンジンと、上部左右にはマイクロ・ミサイルコンテナを装備する独特の形状となった。ミサイル・ポッドは以前のように肩部に装着できなくなったことから、バックパック内蔵式に変更されたものと思われる。
 武装は水中用ビームライフルの他、水陸両用MS伝統の武装であるサブロック・ガンを主兵装としている。そのためか、武器携行が可能なように通常形状のマニュピレーターとなっており、パイスクロウやアイアンネイルは装備しない。二の腕とマニュピレーターの機構そのものはRGM-88と同一のものである。

 頭部ユニットはRGM-86R/RGM-88Bと同様タイプである以外、ジムIIIシリーズの中ではもっとも異様な形状となり、むしろメタス・マリナーの簡易量産機とも言える機体となった。こうして、地球上の拠点にあるジムIIIの生産ラインを転用する形で量産が開始されたスキューバジムIIIは、配備が遅れているメタス・マリナーを補完する形で海軍部隊への配備が進み、老朽化が進んでいたザク・マリナーと代替した。
 ちなみに、装甲を通常のセミ・モノコック式に換装し、腕部ユニットやバックパックを通常型に換装することで通常型のヌーベルジムIIIとして運用することも可能で、水中戦用ユニットと専用OSのみも用意され、宇宙軍部隊や陸上部隊に配備された機体が急遽、転用改造されたこともあったという。これは他機種の設計やパーツを取り入れることで進化してきたジムIII系だからこそ出来たのだろう。

 水中航行性能はメタス・マリナーに比べて多少劣るものの、海軍部隊ではメタス・マリナーと共に装備刷新が遅れていた連邦海軍の質を向上させることに貢献した。
 連邦海軍では主に潜水艦隊の護衛機としてメタス・マリナー、湾岸地域や港湾地区の警備、水上艦の護衛任務、上陸作戦、水没MSのサルベージ作業などのかつて、ザク・マリナーやマリン・ハイザックが担っていた任務をスキューバジムIIIがそれぞれ分担することになった。

 肝心のネオ・ジオン軍による地球侵攻作戦時には、矢面に立つ海軍の主力部隊にはメタス・マリナーと、スキューバジムIIIが最低限必要数が届けられ、ネオ・ジオン降下部隊や作戦開始と共に武装蜂起を開始したジオン残党の潜水部隊と激戦を繰り広げた。
 水中戦用パーツを急遽、組み込んだだけの急造機ながらもジオン残党の旧式機と対等に立ち向かえる水中戦性能を持つスキューバジムIIIは海軍のMSパイロットから概ね、好評で迎えられたという。

 同時進行で配備が進んだメタス・マリナーは水陸両用MSというよりも、潜水型TMSという性格が強いため、むしろ非可変型で一般作業もこなせるスキューバジムIIIの方が結果として使い勝手が良かったのかも知れない。パーツもジムIIIシリーズとも共用可能で兵站上においても好まれた。

 0088年後半にはメタス・マリナーの生産が落ちつき、部隊への通常供給が可能となると、メタス・マリナーの補完であったスキューバジムIIIの生産そのものは終了している。

 RGM-86G/MSK-004ジムIII

 RGM-86RジムIIIのカラバ仕様。脚部スラスターユニットを熱核ジェット・エンジンタイプに換装したことで、陸戦能力が向上したタイプは連邦正規軍内ではG型、カラバ内ではMSK-004として識別される。

 それまでカラバの主力作戦機であったMSK-003ネモはグリプス抗争におけるカラバの主戦力として活躍し、ティターンズ地上部隊との戦闘に大量投入されていたが、抗争後半よりカラバ空軍部隊に実戦配備が開始されたMSZ-006Zガンダムの大気圏内仕様、MSK-006Zプラスの準量産が開始されたことにより、ネモの生産ラインが閉じられることになった。

 Zプラスの量産にはカラバと協力体制にあったAEカリフォルニア支社工場とヒッコリーにあるカラバの秘密工場の二ヶ所が担当していたが、ヒッコリーでの生産はごくわずかでカリフォルニア工場に生産を依存している状態であった。
 一方、カリフォルニア支社工場では生産能力をZプラスに振り分けるべく、MSK-003ネモの生産ラインを転用する必要が生じ、グリプス抗争後半には一早くネモの生産を中止せざる得なくなったのである。

 しかし、カラバにとってネモを含む通常型MSは重要な主力の一環であり、Zプラス生産による通常型MS不足を補うために注目を浴びたのが、当時、地球連邦軍でRGM-79RジムIIに代わる主力機として改修が進んでいたRGM-86RジムIIIであった。ジムIIIはジムIIからのアップデイトが可能であることから、宇宙軍地上部隊や陸軍で急速に普及しつつあったのである。

 ダカール宣言後、カラバに合流した連邦正規軍部隊の協力によってジムIIIの供給を受けることが可能となり、生産が停止したネモの不足分を補うのに充分な数が正規軍からカラバへ提供されつつあった。カラバへ譲渡された当初のジムIIIは全汎用型で宇宙空間でも大気圏内・地上でも配備が可能なノーマル仕様であったが、カラバ陸軍MS部隊の主体は陸戦にある。
 特にホバー移動を可能とする脚部スラスターが空間戦用の熱核ロケット・エンジンのままであったことから、長時間の作戦行動には見合わない装備であった。そこで、カラバの技術陣はオプション化されている脚部スラスターユニットをそのまま、熱核ジェット・エンジン仕様のスラスターユニットにすることで大掛かりな改修を加えることなく、ジムIIIを陸戦仕様に改装することを可能とさせた。これがG型の誕生である。
 
 カラバ陸軍各部隊に配属されたジムIIIは順次、ノーマルのR型からG型へと改装が開始され、0088年6月には全部隊のG型への換装を終了している。また、陸戦能力が向上したため、連邦陸軍に配備されているジムIIIにもカラバ仕様と同様の改装が施されている。このG型ユニットの開発はカラバが行ったが、生産はAEカリフォルニア支社が行っている。スラスターユニットだけの生産であったことからZプラスの生産を圧迫することなく、G型ユニットの生産はスムーズに進んだようだ。

 カラバではグリプス抗争終盤よりネモからジムIIIG型への代替を推し進め、カラバ内に残存していたジムIIもジムIIIへのバージョンアップも行われ、再戦力化を終えている。これらの機体はカラバや連邦軍に抵抗するティターンズ残党や、ティターンズ壊滅とアクシズ襲来により活動を活発化させつつあった旧ジオン公国軍残党勢力との戦闘に大量投入され、グリプス抗争終盤から第一次ネオ・ジオン抗争にかけて、ネモになり代わってカラバMS部隊の新主力機となりつつあった。
 連邦軍でも陸軍で制式採用を受けたことから、カラバではMSK-004という独自のナンバーが与えられることになり、在来のジムIIIとの識別が行われた。また、スラスターユニットの交換によって汎用型であるR型への復元や、新規生産バージョンであるRGM-88Aヌーベル・ジムIIIへのユニット換装も可能となっている。

 カラバに配備されたジムIIIG型は第一次ネオ・ジオン抗争を通じて、Zプラスと共にカラバの要として地球防衛任務につき、ダカール奪回作戦や北アフリカ戦線、ダブリン市民救出作戦などに多数が動員されたが、この中でアウドムラ所属のジムIII隊はダブリンへのコロニー落としに巻き込まれて全滅している。アウドムラのジムIII隊はダブリン市民の保護・救出に最後まで尽力したことで知られている。

 

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