第32話 三島の棒術

千葉県君津市                                                  


 千葉県君津市は房総半島のほぼ中央、その南東部の内陸の丘陵地帯に位置する清和という地は、源氏ゆかりの
土地である。平成13年9月30日、当地(宿原字三島)に鎮座する三島神社の秋季例大祭が執行され、伝承の羯鼓舞と
ともに棒術の演技奉納が行われ、当地の内外から詰め掛けた多数の観衆で境内は大変な盛況であった。

  口碑伝承によると当地の棒術は、冶承4年(1180)に
 挙兵した源頼朝が石橋山の合戦後、房総の地へ逃れた折、

 一部の家臣達が当地に定住、有事に備え武術を修練
 しつつ土地の者達に教授をしたのがその起源といわれ、
 県指定の無形民俗文化財となっている。

  社伝によると当社は伊豆から勧請されたというが、
 創建以来度々の火災により古文書等が失われ、その詳細は
 不明のようである。

  戦国の世の終焉とともに身分社会が確立され、
 誰もが待ち望んだ太平の世は窮屈な世界となってしまった。
  



坂東武者が疾駆した中世は遠い過去のものとなったが、日々
つづまやかに暮らし、そして頼朝を助けて勇敢に戦った彼らの
末裔達は、郷土の先人を偲んで、技芸を練り続けたのであろうか。
 
当地の棒術は現在、豊英、奥米、宿原の三地区において
行われ、流派としては、新当流丸橋派、朝山(浅山)一伝流、
田原流、蓮見流等の諸流が相伝されてきたが、

長い年月の間に様々な流儀の技が併伝され現在の姿
になった。なお、資料に掲載された棒術の演目は、以下の
とおりとなっている。

 豊英地区 新当流丸橋派

  鳥毛初振 初振 大散 戸田 鳥毛初段 朝山 片白刃左棒 鎌一天 戸田 腰車 改正白刃 薙刀の虎切 止め棒 

 奥米地区 朝山(浅山)一伝流

  一中釼の絞込 入身 建替 八ツ当たり 四ツ廻り 飛曲 五番棒浪潜 棒ツズミ 爪取り 一中釼 納メ
 
 宿原地区 田原流

  エイエイ トウトウ 田原 両太刀 早トウトウ 相の手 四ツ廻 腰車 小天狗 野中 三人棒 初振 前傘 新崩 納棒

   この日、緑豊かな田園風景を堪能しつつバスに揺られること約1時間、
  宿原にて下車すると、既に停留所脇の大鳥居の前には巨大な『指し幟』が
  林立していて、『入れ込み神事(入祭)』が開始されるところであった。

   先ず笛や太鼓によるお囃子が奏されると、祭礼の一団は神社を目指して
  移動を開始、心地よい秋風と虫達の唱和の中を、各地区自慢の幟旗が威風
  堂々と参道を進む。


         その様は実に壮観で、
      この祭礼の見所のひとつである。


やがて先発していた正木地区の御神輿とともに、
境内へ到着。境内は杉の巨木が林立し、実に清浄で神々しい空間である。
演技の開始は、午後1時頃からとのことであった。

 演技奉納が開始された。これに先立ち清めの塩が撒かれ、勇壮な太鼓と
笛によるお囃子が辺りに響き渡る。先陣を務めたのは子供達で、後に青・壮年
の方々と続く。各年代とも実に見事な演技で水準の高さを感じた。

また、用いる武具も棒だけではなく、木太刀、真剣、鎌、白扇、傘、薙刀など実に
多彩な上、武器術だけではなく、素手で相手を制したり、投げ技を伴う等、体術の要素
もある。

 ある演目では、両者独特の礼法を終えると、対峙した両者が棒術の攻防を披露、一人は六尺棒だが、もう一人は得物
が青竹である。上下左右に激しく打ち合わせ、脛打ちを跳躍してかわす。その後、青竹を手にした方が相手の棒を受ける
とこれを円を描いて巻落し、上から地面に押さえつける。

 
  それに対して棒を諦めると素早く抜刀、相手の
 脛打ちを跳躍してかわした後、真剣でこれを一刀両断する。

 得物の青竹を切断された方は、真剣で
 襲い掛かる相手に対し、無手で懐に飛び込む。

  しかしよく見るとその手には、何時の間にか
 白扇が握られていて、低い姿勢でこれを水平受する。

 その後相手の脛を狙い徹底した下段攻撃。跳躍で
 これをかわし続けた相手が真向面を浴びせるところを、
 最後は前述と同様、水平受でこれを制した。

  

棒術の演技終了後、五穀豊饒と雨乞いを祈願するという羯鼓舞が披露され、祭礼は幕となった。

 この日披露された演技は、棒術よりもむしろ剣術の割合が多く、その内容も武術性の高さと郷土色豊かな芸風で、
非常に価値のある興味深いものであった。また、全体的にどの演目も非常に手数が多いため、実技描写が難しいが、
当地の棒術は首都圏に近いこともあり、機会があればできるだけ多くの方々に実見して欲しいと願っている。
 
 

(参考文献)

・君津市史 民俗編            編集 君津市市史編纂委員会      発行 千葉県君津市

・三島神社の棒術羯鼓舞 昭和56年11月                       千葉県立上総高等学校

・君津市の文化財                                      発行  君津市教育委員会

・千葉大百科事典                             編集 千葉日報社  発行所 千葉日報社

・千葉県の文化財                              編集兼発行者  千葉県教育委員会

・ふるさとの文化遺産 郷土資料事典-⑫ 千葉県    総発売元 ㈱人文社(発行人 大迫忍 編集人 齋藤建夫)

・祭礼行事・千葉県              編者 高橋秀雄 渡辺良正       発行所 ㈱おうふう 

・日本歴史地名大系第12巻 千葉県の地名         編集 (有)平凡社地方資料センター  発行所 ㈱平凡社


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