第27話 市川の棒つかい

佐賀県佐賀郡富士町                                             

 福岡県と境を接し佐賀県の最北部に位置する佐賀郡富士町は、脊振山、雷山、そして秀峰天山の懐に抱かれた
山里である。役場の所在する温泉地古湯の西方へ清流沿いに遡上していくと市川という集落に辿り着く。

 当地に伝承されている『浮立』という名の芸能は、
 雨乞いや五穀豊饒、天下泰平を祈願する為に行われ、
 当町内だけではなく佐賀県下で広く行われている。


 中でも天衝舞を伴う当地のものは、無形民俗文化財
 として県から指定を受けている貴重な芸能であり、
 平成9年10月19日に集落内の諏訪神社とやや高台の
 西福寺などで演技奉納が行われた。


  実は当地と北方の杉山という集落には、天衝舞に
 付随して棒術(棒つかい)も伝承されている。
 当地の棒術の起源由来等詳細は不明である。



演目に関しては現行のものとは呼称など一部相違があるが、当地に伝承されている「壱保花見流」の元禄8年
(1695)の古文書(推定 写本)に記載がある演目(抜粋)は以下のとおりである。
 
 手数の事

  壱番 花見杖   弐番 中落   三番 腰車 口伝有   四番 小爪遍(返) 口伝有   五番 小道

  六番 行津連   七番 行合   八番 引寄 口伝有   九番 古路具返 口伝有     拾番 伊那津ま

  拾壱番 笠下   拾弐番 笠逃 口伝有

 正午近くには閑散としていた境内も、祭礼の一団が
練り込んで来ると、富士町の内外から詰め掛けた多数
の観衆で大変な盛況となった。


演技の先陣を務めたのは棒術の一団で、頭領格の
男性が神前礼を行うと、少年、青年を中心に棒対棒
の攻防が次々に披露された。


打突、巻払いなどの手捌きも巧みで、観衆からは
盛んな声援が浴びせられていた。その他、境内では
奴踊、時事ネタも絡めて笑いの華を咲かせた向古賀
の『にわか(即興寸劇)』、そして主役の天衝舞が
披露された。


 全ての演技終了後、一団は西福寺ヘ移動して再び演技奉納を行った。ここで行われた棒対太刀の演技では、
相対した演技者が裂帛の気合と共に上段で激しく数合すると、一旦間合をとった相手が上段に太刀を構えて斬撃
を浴びせる。


これに対して受けると同時に棒を反転させて打ち払うと今度は下段で激しく数合する。


 そして再び一旦間合をとった相手が上段から太刀を
 浴びせる瞬間を捕えて、下方から裏小手を狙うように
 棒を当てて相手を制するといった攻防を披露した。


  棒術の最後は前後を二人に囲まれた演技者が、
 相手の波状攻撃を巧みな手捌きで防戦してこれを
 撃退する『三人三番』の演技で幕となった。


  西福寺での演技終了後、一団はどこか悲哀すら
 漂わせる鉦の音色が印象的な囃子を奏でつつ、夕映え
 のする境内を後にした。



 囃子の音が遠ざかるにつれて辺りは再び秋の山々の静寂に包まれて行った。

(参考文献)

・佐賀県文化財調査報告書 第十二集 -佐賀県の祭-        佐賀県教育委員会

・市川のまつり  -天衝舞浮立-      執筆者 矢俣九洲男   編集兼発行者 市川天衝舞浮立保存会

・富士町誌                     編集者 富士町誌編さん委員会    発行者 富士町教育委員会

・浮立の里展示館ご案内(小冊子)                 佐賀県富士町 

・まつり 22号 特集 “棒”                      発行者 田中義広  発行所 まつり同好会     




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