第26話 道地の棒つかい

秋田県能代市                                                  


 三人一組で舞う一人立の獅子舞は関東以北で数多く行われ、それに付随して古武術も伝承されている場合が
あるが、秋田県下でも同様の芸能が各地で行われている。


 能代市扇田の道地において8月の盆の期間中、各所で披露される獅子舞は「常州下御供佐々楽(道地のささら)」
と呼ばれ、この地にも、棒、鎌、太刀などで攻防を行う10数種の演目の棒術(棒つかい)が伝承されている。

   この佐々楽は、戦国の勇将佐竹義宣が関ヶ原の
  合戦後転封を命ぜられ、水戸から秋田へと出立した際、


  その途上で慰みに佐々楽を披露したという随伴して
  来た足軽衆の一部が、当地に定住したのが起源とされ、
  県指定の無形民俗文化財となっている。


   道地の棒術の起源由来等の詳細は不明だが、
  当地に所蔵の古文書の中に『當流棒序之巻』があり、
  

  安政七年に記されたという
  古文書には、次のような記載があるという。


 
      當流棒序之巻
   夫當流兵術者櫻場市良兵衛正信
   多暦之工夫於以自在當當位於
   顕者也打所突處正而為越余流
   舒則小車陰陽宗進則如虎勢是
   先而人於制退密察敵人氣速葉
   故其利故所適其前不思儀而行
   仕座臥共得其正勝依之後世之
   祖師正信讃竒徹逑厥序語書所
   文或理或非而不得其的言誠依
   所用善悪可成利善悪 云云
 
 
 (一部表示不能の書体がありますのでご了承願います)

 
 以下、「当流棒 目録」として「面影」「谷風」「車留」「小手払」「左右棒」「雲狂」等の演目が記載されている。
 
 平成9年8月17日の夕刻、地区の北側にある開道神社には次第に地元の方々が集まって来た。この日演技が
奉納される太平山神社まで巡行するためである。なお、太平山とは県下で広く信仰されている聖山の名である。

  棒を担えた平服の少年がやって来ると境内で軽く手合わせ
  を行った。なかなか素直な棒捌きである。用意された大太鼓
  が打ち鳴らされ、佐々楽の演技者もひと舞披露していた。


   軽快で優美な動作だけではなく、
  その中に中腰の姿勢や跳躍も伴う勇壮な芸風である。
  

   頭上に皓々と月が輝く頃になって祭礼の一団は神社を
  出立した。黄昏の闇に朧げに浮かび上がる二つの提灯を
  先頭に掲げて、一団は歩を進める。八月というのに夜風は
  秋の気配を漂わせて、囃子方の奏でる風雅な旋律を辺りへ
  運び風情を醸し出していた。

  


 神社前に到着すると多数の観衆が詰め掛けていて、伝承の佐々楽、棒術、奴踊などが次々に披露された。
当日の棒術の演技は、棒対棒、棒対鎌の攻防で、非常に素朴ではあるが野性的な芸風である。


 棒対鎌の攻防では、大振りで打ち込んできた棒を鎌で
受けると、『その特性』を利用して素早く巻落とすこと数度、


三度目の攻撃を同様に捌きつつ相手の背後へ浅く移動
して、相手の首又は脛を斬るといった演技を披露した。又、
棒対棒でも同様の技法で相手の脇へ突きを繰り出していた。


 こうして演技者の気迫の技、巧みな手捌きが披露され
ると、自然に拍手と声援が送られ、皆熱心に見入っていた。
 

  全ての演技終了後、
保存会の方から観衆へ呼びかけがあった。


「皆さんの中にも、俺もやってみたいという方がおりましたら、
いつでもお言いになって下さい。本当に佐々楽は地域の為、先祖供養の為、皆さんの為にあるのですから。」
 

 再び一団は風雅な旋律の囃子を奏でつつ神社前を後にした。涼しげな闇夜の彼方まで、その風雅な音色は
いつまでも木霊していた。
  

(参考文献)

・昭和38年10月 秋田県文化財調査報告書第2集    秋田の民俗芸能     秋田県教育委員会

・秋田県の民俗芸能 -秋田県文化財調査報告書第227号-   編集・発行   秋田県教育委員会

・秋田県の文化財                              編集発行    秋田県教育委員会

・(復刻版)秋田県史  民俗・工芸編       編集  秋田県     発売所  ㈱加賀谷書店

・「能代市の文化財」  第二集                          発行  能代市教育委員会

・能代市史稿 第二輯        著者 能代市史編纂委員会     発行所  ㈱東洋書院

・日本民俗芸能事典     監修 文化庁  編集 日本ナショナル・トラスト 発行所 第一法規出版㈱



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