第23話 旭町の棒の手

愛知県東加茂郡旭町                                             


 岐阜県と境を接する愛知県東加茂郡旭町には、押井(見当流)、大坪(起倒流)、杉本(藤牧検藤流)の三地区
で棒の手が伝承され、無形民俗文化財として県の指定を受けている。

 平成8年10月10日、国の天然記念物にも指定されて
 いる『貞観杉』の聳え立つ杉本の神明神社では、秋季
 大祭が執行され、棒の手の演技奉納も行われた。



 当地に伝承されている藤牧検藤流は、尾張今村(現・
 瀬戸市)の住人、藤牧沙門を元祖とする藤牧流に、
 検藤流、高縄石清流が付加されて、明和3年(1766)
 に成立した流派である。



 その後明治に至り、篠原(現・豊田市)の加納利三郎ら
 が免許目録を伝授されると西三河でも広く行われ、


杉本の当流も篠原から伝授され現在に至っている。なお、現在の呼称等とは相違もあろうが、資料によれば藤牧
検藤流の演目の一部(藤牧流)の演目は以下のとおりとなっている。

 鎗之手  鎌之手  鎖鎌  捕縄  右之面  左之面   両刀大克  居物   膝之内  

 大手打  小手打  入身  三箇  合之刀  請込大克  ツボ入  天狗車  長刀之克

 
 正午を過ぎた頃から、次第に境内にも地区の方々
が集まって来ると、殿上で神事が開始された。
その間、棒の手の演技者達は軽く形合わせをする者
もあれば、軽く飲食等を行って一服する姿もあり、
和やかな雰囲気である。



 さて、暫く時が流れると、法螺貝の音も勇ましく、
掛声に合わせて行列が練り込んで来た。いよいよ
演技の開始である。演技の先陣を務めたのは
子供達で、複雑な手順の形を上手に演じていた。




その後、大人達が続々と登場して演技を披露する。当地の棒の手は勇壮さの中にも、どこか流麗な印象を
与える見事なものである。

  清めの塩が撒かれると、棒を手に対峙した両者は
 白鷺のような歩調で前進する。一間ほどの間合で低く
 構えると、稲妻のように半身で上下に数合する。



 そして互いにクルクルと棒を回して間合をとると、
 頭を狙って繰り出す突きを、低く身を伏せて躱す。
 それから再び間合をとると、相手の打突に対して
 華麗な棒捌きで攻防を行う。



 他にも棒対剣や、鞭、そして槍や長柄の鎌を用いた
 キレモノの攻防などの演技が披露された。


また、相手に棒を落とされても素手で果敢に挑戦して、相手の棒を奪い捨てて逆襲すると、相手が当身を放って
きたところを捕らえて投げを放ち、逆転して最後は当身で仕留めるといった柔の演技もあり、様々な形が披露
された。
 


時世の変化に伴い、昔に比べれば演技者も減少
したとのことであるが、それでも当地は青・壮年を
中心に手練揃いの精鋭で、習練によって裏打ちされた
個々の動作は実に美しく時代色豊かであった。



 また境内の舞台上では宴席が設けられ、歓談する
地区の方々で火の出るような賑やかさである。
それでも演技者の見事な手捌きが披露されると、
自然に拍手が沸き起こり熱心に見入っている。



祭では他にも鉄砲隊による発砲雅な調べの笛と太鼓の勇壮さの対比が魅力の『丹波大垣内流打囃子』等も
披露され、祭の喧噪は黄昏近くまで秋の山々に木霊した。

 (参考文献)

・愛知の馬の塔と棒の手沿革誌       編集・発行   愛知県棒の手保存連合会

・郷土の棒の手                 編集発行   豊田市棒の手保存会

・-郷土芸能- 旭村の棒の手        編著者    鈴木藤綱       発行者 旭村教育委員会

・旭町誌 通史編                編集      旭町誌編集委員会   発行 旭町役場

・旭町誌 資料編                編集      旭町誌編集委員会   発行 旭町役場





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