第18話 三引の獅子舞

石川県鹿島郡田鶴浜町                                            


 七尾西湾のほとりの石川県鹿島郡田鶴浜町は能登半島の中央部に位置し、付近には北陸の温泉地として
全国的に名高い和倉の地がある。
 国道沿いの喧噪から一歩離れれば閑散とした水田地帯が広がる当地に三引という地区があり、当地区に

 伝承されている獅子舞も、武術を駆使して獅子
 を討つ筋立では、北陸に広く分布する他の地域の
 ものと同一であるが、当地のものは他の地域とは
 違う土俗的な異風さを漂わせている。


  平成8年4月10日午後、地区の背後に聳える
 赤倉山々腹に鎮座する赤倉神社の拝殿では、
 地区の方々も交えて神事が執行されていた。


 当神社は神仏分離以前は赤蔵山上一本宮寺
 と呼ばれ、山は修験の霊山であったという。
  御神輿を奉じた神事の一団は神事後静々と
 神社を出発した。
 
獅子舞の一団もこれに続行する。演技は地区の各所の路上で披露されるが、場所は赤い幟の設置されて
いる所と決まっているので、祭礼の一団が到着する頃になると、お年寄りから子供まで、多数の地区の方々
が詰め掛けて観衆が膨れ上がってきた。


 演技の前にも必ず御神輿に相対した神官による
神事が行われ、次いで御祝儀に対する御礼の口上
が朗々と述べられると、笛や太鼓によるお囃子ととも
に、いよいよ演技の開始となる。


 当地の獅子舞は獅子と対決する前に、ジジ面と
ババ面の天狗による攻防が行われ、文字どおり
雌雄を決す。

使用される武器も、ヨリ棒(6尺)、太刀、薙刀(どちら
も刀身に銀紙を張り付けている)と様々であり、これ
らの演技を総称して「舞い」という。


当地の「舞い」は、武術としては極めて素朴で技術的な特色も特に感じられないが、演技の随所に見られる
構えや動作に古武術の残像が垣間見れた。また、演技の両者は武器を扱う手捌きも滑らかで癖がなく、なか
なかの好演であった。

 加えて当地の獅子には、天狗との直接対決はない
 ものの、御幣を手にした「猿の子」2人が脇を固めて
 いるのも特徴である。


 猿は神社とも関係があるらしく、地区の各所に翻る
 赤い幟には、猿の人形が結び付けられている。
 これは魔除けの意味があるという。


  さて、祭礼の方は、突然路上に現れた天狗の対決
 で、事情を知らない車の運転手達が足止めを食う
 場面もあったが、全ての演技を終了すると、一団は
 次ぎの演技場所を目指して粛々と立ち去っていった。


 この獅子舞は、露払い・厄除けとしての信仰が強く、地鎮祈願の新築の家や篤志招待家、辻祭での獅子舞
演舞は、昔から当然のこととしてごく自然に行われているという。
 当地の芸能も、古武術の形が、ただ単に闘争の技術だけではないことを示す、事例のひとつかもしれない。

 (参考文献)

・石川県の獅子舞  獅子舞緊急調査報告書   編集  石川県教育委員会文化課

・石川県大百科事典                  編者 芳井先一       発行所  ㈱北國新聞社  

・北國新聞社創刊100記念 石川県大百事典   編集 北國新聞社出版局   発行所  北國新聞社

・まつり 43号 特集・獅子舞Ⅱ            編集者 田中義広       発行所   まつり同好会

・日本の民俗 石川                  著者 小倉学          発行所 第一法規出版㈱

・加賀能登の生活と民俗               著者 長岡博男        発行所  慶友社

・石川県の民俗分布図 -緊急民俗資料分布調査報告書-        発行所  石川県教育委員会



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