第15話 蒲江の振物

京都府舞鶴市                                                  

 戦前から港町として名高い舞鶴市の北西部の蒲江という地区は、由良川の河口付近に位置し、彼方に
若狭湾を望む閑静な集落である。

 
  当地に伝承される『振物』という名の芸能は、丹後
 から若狭地方の日本海側に分布する太刀振の一種
 であり、当地だけではなく舞鶴市内を中心に各所で
 伝承され、この地方を代表する芸能の一つである。

  平成7年10月10日、地区は心地好い秋の日差し
 と風に抱かれ、祭の日がやってきた。氏神の山王
 神社前の公民館には、子供達の為におもちゃが
 用意され、辺りは走り回る彼らの歓声で溢れていた。






 山王神社の境内には祠もないのに愛宕神社の幟が翻っている。
土地の人に問うと地区を見下ろす小高い山を指さした。あの山の
頂に、京都から勧請されたのだという。     


 午後に入ると祭礼の支度が整った。青年の演者は、この地方で
タッツケと呼ばれる山袴を着し、紺の地の着物に一段と映える白地
の鉢巻に襷を掛けた凛々しい出立ちである。大太鼓の音が響く中、
神事が執行された後、神社前に集結した演者は、掛声に合わせて
得物を振り回した後、境内に練込んで行った。


 振物は境内の舞堂で行われ、神に奉るのである。なお、当地の
振物の演目は次のとおりとなっている。

 露払  小太刀  長刀  太刀棒  関棒  



  演者は元来長男が優先され、年齢ごとに役割が
 分担されている。『露払』は棒術、『小太刀』は脇差
 を用いた組形で、共に少年の演目であり、3番目の
 演目、『長刀』から青年が演者となる。


 相対した演者は、同じ動作を基本としながらも、短い
 気合を発しつつ、上下に棒を打ち合わせたり、互い
 に斬り結んだりと種々の攻防を見せる。また何れの
 演技も勇壮な大太鼓と笛などによるお囃子が伴い
 演技に華を添える。




 さて、4番目の演目、『太刀棒』は、脇差と棒による組形で、その
武術色の強さから一段と緊張度の高い演技である。


 片足立ちの独特の構えから、上下に激し斬り掛かる相手に対し、
巧みに棒を扱い防御を行う。また、演技の内容も、単に棒を受ける
のではなく、下から裏小手を制して巻き落としたり、上からはたき
落としたりと技術的な攻防もあり、息の合った両者の演技は、郷土
色豊かで非常に見事であった。


 この後、『関棒』という青年による棒術を最後に、『笹ばやし』
というこの地方を代表する素朴な歌謡が披露され、祭礼は幕と
なった。当地の振物の起源由来は、土地の方の話でも非常に
古いというだけで詳細は不明である。


が、享保20年(1735)の成立とされる『丹後国加佐郡旧語集』には、
当地についてではないが、今田村の倭文神社(舞鶴市字今田)の
祭礼として、「毎年振物笹踊狂言ヲ勤」という記述があり、
当時すでにこの地方で振物が行われていたことが窺い知れる。


 (参考文献)

・京都の文化財(第7集),(第11集)        編集発行  京都府教育委員会

・京都大事典 府域編                 発行所    ㈱淡交社

・京都の民俗芸能                   編集発行  京都府教育委員会

・丹後史料叢書(第4集)               編者 長浜宇平    発行所 ㈱名著出版



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