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【社説】

NZ乱射 憎しみの連鎖を止めよ

 五十人が犠牲になったニュージーランド銃乱射の動機は、移民を敵視する、狂信的で身勝手な主張だった。報復の応酬を呼びはしないか心配だ。憎しみの連鎖を広げてはならない。

 犯行直前、インターネットで公開した「マニフェスト」と称する犯行声明によると、ブレントン・タラント容疑者(28)は、「オーストラリアの労働者階級出身で、普通の家庭で育った普通の白人男性」だという。

 しかし、その考えは奇怪なものだった。

 移民を「侵略者」と呼び、「侵略者に土地は渡さない」と強調。二〇一一年、ノルウェーで爆弾や銃乱射で計七十七人を殺害した極右の白人至上主義者アンネシュ・ブレイビク受刑者から、刺激を受けたと述べている。

 一七年、フランスなど欧州各国を旅行して、多くの移民を目の当たりにし、「闘う決心」をしたという。

 事件は、ストックホルムで同年四月、イスラム過激思想に共鳴した男のトラック突入テロにより、十一歳の少女が犠牲になったことへの報復だともしている。

 自分に酔っているとしか思えない、絶対正当化できない主張だ。

 ニュージーランドのイスラム教徒は人口約四百七十万人の1%ほどだが、移民に寛容な政策により近年増加している。

 いったん銃所持の免許を取得すれば保有登録の必要はなく、約百五十万丁が出回っているとみられている。銃規制が緩いことも犯行場所に選んだ理由のようだ。

 強く懸念されるのが、タラント容疑者が政治家らに言及していることだ。

 寛容な難民政策を取るドイツのメルケル首相を殺害対象の上位に挙げる一方、排外主義的なトランプ米大統領を「白人の新たなアイデンティティーの象徴」と持ち上げる。「白人至上主義は脅威か」と問われた当のトランプ氏は「そうでもない」と危機感が薄い。

 差別や分断をあおる指導者や風潮が、事件の引き金となったのではないか。

 銃規制やテロ対策の強化とともに、多文化共生への理解を深めることが必要だ。ニュージーランドのアーダン首相は、事件後改めて「多様性を尊重する」と表明した。

 外国人労働者の受け入れを拡大する日本にとっても、人ごとではない。

 

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