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【社説】

NZ乱射 ネット通じた拡散防げ

 ニュージーランドでの銃乱射事件は、ネット時代のテロ対策の難しさをあらためて痛感させた。ソーシャルメディアを通じて過激主義が増幅・拡散していくのを防がなくてはならない。

 ネットはテロリストにとっても便利な道具である。シリアとイラクで猛威を振るった過激派組織「イスラム国」(IS)には、三万~四万人といわれる外国人戦闘員が世界中からはせ参じた。

 外国人戦闘員を勧誘する有力な手立てが会員制交流サイト(SNS)だった。

 例えば、欧州に渡った移民の若者には差別や偏見に遭って行き場のない人も多い。ISはそんな若者たちの社会に対する怒りや不満を巧みにあおって取り込んだ。

 今回の事件のタラント容疑者は襲撃の様子を撮影し、フェイスブックを通じ十七分間にわたって生中継した。「8chan」という匿名のネット掲示板に犯行直前、生中継に使ったフェイスブックのアドレスを書き込んでいた。

 フェイスブックは当局の要請を受けて動画の削除に追われた。事件発生から二十四時間で百五十万の動画を削除したとしているが、動画はユーチューブやツイッターなどに転載され、拡散した。

 タラント容疑者にとっては狙い通りだったのではないか。

 情報が瞬時に広まるのがネットだ。完全に食い止めるのは難しい。それでも今回の事件では、SNS大手の対応に厳しい視線が向けられている。

 巨大IT企業には大きな社会的責任がある。各社は今回の対応を検証し、有害コンテンツの排除に一層の工夫を重ねてほしい。

 一方、SNSの利用者には過激情報の拡散に手を貸さぬような良識を求めたい。

 タラント容疑者が過激主義に染まったのも、ネット情報の影響が指摘されている。

 動画とともに拡散した七十ページ以上の声明文には、感化を受けた人物として、ノルウェーのテロ事件の受刑者のほかにも、欧米で起きたヘイト犯罪の凶悪犯の名が複数書かれていたという。

 ISとタラント容疑者に共通するのは、他人に過激思想を吹き込んだことだ。ネットを通じて殺害動画や過激なメッセージを配信して若者を刺激し、テロ行為に走るように仕向けた。

 若者が過激思想に取りつかれないように、社会的不公正を正していく努力はどの国も欠かせない。

 

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