日本が誇る「和牛」の受精卵などの海外流出が、水際で阻止された。それにしても、畜産物の遺伝資源を保護する法律の不備には、驚いた。早く整備しなければ-。“お宝”は常に狙われている。
サシの入ったとろりと甘い霜降り肉は海外でも好評で、牛肉の輸出量はこの十年で約十倍にも伸びた。額にして年に二百五十億円規模という。
環太平洋連携協定(TPP)などを追い風にする、日本の農産物輸出戦略の主力商品だ。
本来「和牛」を名乗ることができるのは、公正取引委員会が認めた規約によって、日本の黒毛和種、褐(あか)毛和種、日本短角種、無角和種の四種、そしてこれらの交雑種のみ。それ以外の「国産牛」とは厳しく区別されている。
「国産牛」の多くは、ホルスタインのような乳牛と和牛の交雑種、あるいは役目を終えた乳牛だ。
和牛の種牛は、日本の生産者が長年苦心して選抜を重ね、肉質を高めてきた“遺伝子エリート”たち。畜産農家にとっては、まさしく苦労の結晶、“お宝”だ。
中国当局に水際で阻止されたとはいうものの、日本の“お宝”が、いともたやすく国外へ持ち出されていたのである。「氷山の一角」との指摘もある。
受精卵が手に入れば、国内の畜産農家がそうしているように、乳牛のおなかを借りて簡便に「和牛」を繁殖させることができるのだ。今回の不正輸出で明らかになったのは、価値ある「和牛」を守るルールの不在である。
今回は、検疫を受けずに国外へ持ち出そうとしたとして、家畜伝染病予防法違反などの容疑で摘発できた。本来は病気の拡散を防ぐための法律だ。畜産物を遺伝資源として保護するために、国外持ち出しを直接禁じる法律や国際的な枠組みが、まだないからだ。
野菜や果物の場合は「植物の新品種の保護に関する国際条約(ユポフ条約)」で、開発者の権利が守られており、国内的には種苗法で、原則二十五年の独占販売権(育成者権)が付与されている。畜産物に関しても、権利を守る適切な法整備が急がれる。
しかし、イチゴやブドウなどの優良品種の海外流出は、ユポフ条約があってもしばしば起きる。
情報通信技術(ICT)などを駆使した流通管理体制の強化も併せて必要だ。
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