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【社説】

中国の少数民族 「ともに繁栄」と言うが

 中国がチベット族はじめ少数民族の監視と統制を強めている。中国は「ともに繁栄」を強調するが、民族固有の文化を消し去るような圧政を続けるなら、少数民族の心は離反するばかりであろう。

 十五日に閉幕した全国人民代表大会(全人代=国会)で、李克強首相の政府活動報告は圧倒的賛成多数で採択された。

 李首相は少数民族政策について、開幕日の報告で「ともに繁栄・発展する素晴らしい国を一丸となって築いていく」と述べた。

 統治を担う漢族と、中国流の「民族別自治制度」の名の下に統治される五十五の少数民族の友好と共存の未来を強調した形だ。

 全人代のチベット自治区分科会では、二〇一八年の同自治区の域内総生産は前年比9・1%増で、全国平均の6・6%を大きく上回ると、報告された。

 同自治区の共産党トップは「チベット人民は党がもたらした幸福な生活に感謝している」と、露骨に党に対する謝意を示した。

 中国は、チベットの経済発展のみが「ともに繁栄」のカギだと誤解していないだろうか。それはチベット族の総意ではあるまい。

 チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ十四世がインドに亡命するきっかけになったチベット族の反中民衆運動「チベット動乱」から、三月で六十年である。

 中国は動乱後、基本的には民族固有の宗教や文化の弾圧を続けてきた。胡錦濤政権の時代にあった対話の機運にも、習近平政権は背を向けている。

 それどころか、中国はチベット族居住地域に「再教育キャンプ」を建設中と伝えられる。「党の支配に従わないチベット仏教僧の再教育」が主目的という。

 中国は昨年、新疆ウイグル自治区での再教育キャンプの建設を認めた。ウイグル族の一割がキャンプに送り込まれたとの情報もある。新疆では〇九年、チベットでは〇八年に多くの犠牲者を出した反中騒乱が起きている。

 李首相が全人代で「宗教の中国化の方向を堅持する」と強調したのは、少数民族固有の宗教が分裂主義やテロの温床になっているとの危機感からであろう。

 だが、経済発展というアメさえ与えておけば、少数民族が漢族と融和し、「中国」として発展するという考えは誤りであろう。

 歴史に根ざした民族性を重んじぬ圧政が反中行動を生む。相互理解をめざす対話こそ肝要である。

 

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