いつも通り不親切設計です。ぜひあぶ刑事名言集の検索をば。いつか使ってみたい日本語が盛り沢山です。
深夜。
繁華街から少し外れたところ、駐車場に広げられた屋台ラーメンに二人の男が肩を並べていた。
ラーメンを食べている最中、「割りばし切れたからちょっと買ってくる。薫ちゃん店番してて」と店番を押し付けられた為立つに立てなくなっていた。
「ここのラーメン旨いんだけどさ、店主のおっちゃんいつもああなんだよね」
「類は友を呼ぶって本当なんですね」
「え、俺もああってこと?」
「…」
「無視すんなよ安室さん」
なんかまだ食べ足りないなーと思って調理側にまわってみた。前も店番中お客さんが来て代わりにつくったことがあり勝手は知ってる。あちこちふたを開けて材料確認しつつ安室さんに話しかけた。
「この前さあ、安室さんベルツリー急行のチケットネットで競り落とせたとか言って急遽バイト連休とったじゃん?」
「ご迷惑おかけしました。すみませんでした」
「それってさあ、バーボンの仕事だったの?」
「……はぁ!?」
「安室さんは…安室さんは、ポアロより!そっちが大事だっていうの!?なんなのよバーボンって!一体誰よ!はっ…!浮気?まさかあなた浮気なのね!」
「色々とすっごいブレてますよ!というか!なんで!知ってるんです!?」
「ごめんふざけすぎた。落ち着いて」
「…いったいどこで?というか、その名前を知ってるということは、組織のことも知ってるんでしょう」
「うーん、まあ。なんかそんなのがいるなーくらい?」
「バーボンは、どこから?」
「占い」
「ラーメンどんぶりぶん投げるぞ」
「ちょ、やめ!ウソごめんって!…まあほら、とある伝からとだけ。あ、大丈夫誰にもいってない。確認したかっただけ」
主に快斗からの情報。
ベルツリー急行爆発騒ぎの顛末を彼から聞き「薫さんが前に言ってたゴリラ、飛道具持ってたぜ」とタレコミがあった。彼は準備万端で乗車したおかげか、ご丁寧に隠しカメラで撮った正面動画付きの情報。(「どこに仕込んでたの?」と聞いたら「ネックレス」、と。)
そりゃあのゴリラ実は警察だったもん拳銃くらい持ってるでしょー、なんて気軽な感じで動画確認したら不意討ちすぎて逆に笑った。なんだよ、黒の組織に接触どころかがっつり潜入してんのかよ。めっちゃウケる。そっちかーい!みたいな。(ちなみに動画はデータごと破棄するよう快斗にすすめた。)
「安心しろ、その伝にはすでに口止め済みだぜ」とサムズアップすると安室さんは力無くカウンターに臥せった。情報戦は先手必勝である。
「はあ。なんかもう諦めました。フィルチですもんね。情報屋ですもんね。分かってると思いますが誰にも言わないでくださいそれ。で、一体何が望みですか」
「休日予定だった俺は安室さんの代わりに出勤して頑張ったんだ」
「その節は大変ありがとうございました」
「替え玉食べていい?」
「どうぞ」
「あとチャーシューつけてくれたらもれなくバーボンのこと黙ってるけど」
「…どうぞ」
はあぁぁ、とため息をつく安室さんをチラ見し、ため息つきたいのは俺もだよ、と今日の出来事を思い返した。
話は今日の夕刻まで遡る。
ある会社の重役から占いの依頼があってそのお宅に訪問しようとしたら、近くで安室さんに腕を捕まれマツダに引っ張りこまれた。いきなりこれである。
「安室さんと会ったあとって半袖着れない。また痣だよ」
「まさかここであなたを見かけるとは」
「それこっちの台詞。しばらく体調不良でポアロ休むって連絡あったけど」
「ご迷惑おかけしてます。張り込みです」
「お疲れ様です。それじゃ」
「で、あなたは何故」
「いたいいたいいたい!わかった!まだ出てかないから!…このサングラスでわかるでしょー。副業」
「依頼主、△△会社の重役ですよね」
「うん、まあ、そうね」
「テロ組織に資金提供の疑いが掛かってます」
「さらっと嫌なこと言うよね。それ俺聞いちゃったあと訪問しづらいんだけど。どうしてくれんの」
「しかしひとつ問題が」
「あーそうやって無視すんだ」
「テロ組織と次いつ繋がるのかがわからない。こちらとしては一網打尽にしたい。そこで古屋さん、日時をつかんできてください」
「待て待てふざけんな、当然のように言うなよ。まず俺占い師なの。聞かれたことを占うだけなの。そういうことはしないの。あと普通に考えてパンピーに頼むには超高難度ミッションだからなそれ」
「あなたならできます」
「無理だって。近所のスーパーのセール時間確認しに行くのとは訳が違うんだぞ」
しれっとめんどくさいこと巻き込みやがって。シートに凭れながら盛大に舌打ちをかます。
今日、たしかにその重役に呼ばれてるけど主な依頼はたぶん奥さんだぞ。この前の占い依頼は犬の名前決めだったし、そんな話を時間たっぷりするんだから探りようもねーだろ。どこにそんな日時だなんだ知る時間があるってんだ。少なくとも俺は依頼主つきっきりだし、もう一人いないと…。
……。
あ。
「一緒にくる?」
「え?」
「そうしよそうしよ。俺の助手ってことにでもして」
「…そうしたいのはやまやまですが、直接乗り込んで顔をばらすわけには」
「そんな制約あんの?大変だね」
腕時計を確認すると約束の時間まであと10分はある。
「うーん、なんとかなるでしょ」
「一人で行けませんか」
「安室さんが張ってるってことは疑いじゃなくてほぼ黒確定なんでしょ。そんなところに単身で踏み込んで下手なことしたくねーし、そもそも一人じゃ情報収集なんて無理」
ははは、一人高みの見物はさせねえ。巻き込まれたからには巻き込み返してやる。
仕事道具の入ってるボストンバッグから予備のサングラスを出し、安室さんに手渡した。
「よし、行くぞ」
「待ってください、これで?」
「これで。いつも俺かけてんじゃん。不安なら帽子被って」
「…普通のサングラスですよね」
「そう、普通に魔法がかけてあるサングラス」
「変な修飾語入りましたよ今」
「ちょっと存在と印象が薄くなる仕掛けつきの普通のサングラス」
「もはや普通の意味が分かりません」
「そういうもんだって飲み込みたまえ。安室さん、ポアロで初めてあったとき俺の顔分からなかったでしょ」
「…あぁ、そういえば」
「そういうこと」
安室さんは疑いの表情のままサングラスをかけた。
「あはは、あぶないお巡りさんだ。〔鉛の弾がこわくて刑事がつとまるか〕って言ってみてよ」
「冗談じゃない」
「ちぇー。…あ、あと名前か。ちょうどいいや、今日ウィーズリーで呼ばれてるんだ。安室さん今からフレッドな」
「は?」
「ちなみに俺ジョージ。いつもより覚えやすいだろ」
「その、フレッドって一体どこから?」
「同級生の双子の兄貴。いい奴だったよ」
まあ俺の方が先に死んじゃったけど。
「故人ですか…それまずくないですか?不謹慎かと」
「え、じゃあユージとタカ?…あ!トオルにする?」
「警察って自己紹介しちゃってんじゃないですか!」
「そしたら降谷零と古屋薫で行くー?ダブルふるや?」
「それはもっとまずい」
「だろ?占い師っていうより芸人ぽくなる。マジック始まりそう」
「そういうことじゃない」
「大丈夫。フレッドもジョージもこういうの大好きだから」
ほら時間だから行くぞ、と安室さん基フレッドを急き立てた。
不安がるフレッドを無視して玄関のチャイムを押す。
「こんばんはごきげんようごめんくださーい。占い師ウィーズリー、ジョージウィーズリーが馳せ参じましたー。
あ、これはこれは旦那様、奥様ごきげんよう。いつもご贔屓にありがとうございます。愛犬のパンジーちゃんお元気ですか?あぁ、相変わらず可愛らしい。御宅はいつでも綺麗ですね。あ、応接室のあそこの花瓶変えました?とてもいい柄ですね。運気関係なく花があるのは大変よいことです。失礼、ご紹介遅れました。こちら助手のフレッドウィーズリーでございます。彼も筋はいいのです、以後お見知りおきを。ではではさっそくですが。あぁ、奥様お茶は結構でございます。お気遣いなく。それでは今日はどういった内容で?まずは奥様?ほぉ、御宅のリフォームですか。時期?方角?なるほど、大事ですね。占う前にちょっと参考に今の御宅の方角間取りを簡単に見てきても構いませんか。あぁ、フレッドに行かせます。その間旦那様のご依頼を先にいたしましょう」
途中から後ろ手でパッパッと手を払いフレッドを離脱させた。
奥さんと一緒に行ったけどなんか上手くやれたらしい。20分後、応接室に帰ってきたとき彼は力強く頷いた。
時間きっかりにウィーズリーは依頼主の邸宅から退散した。自分としてはすぐに解散したかったけど、フレッドが「家まで送る」としつこく。早く盗んだ情報処理しなさいよ、と抵抗はしたが既に部下に転送済みだと言われ。仕方がないのでのらりくらりかわして屋台ラーメン屋に立ち寄った。(もちろん、ラーメンは彼の奢りである)
まさか店番頼まれるとは思ってなかったけど。
替え玉の湯切りをしてると頬杖ついたフレッドが呟いた。
「それにしても、今日のあなたは胡散臭さに磨きがかかってましたね」
「通常運転ですがなにか」
「今日の協力代として、もっと高いもの吹っ掛けられると覚悟してましたよ」
「いうて俺なんもやってねーからな」
「いやいや、あなたが注意を逸らしてくれたおかげですよ。あの奥さん途中から僕の存在忘れてたんです。おかげでなんにも怪しまれずに重役の部屋のパソコンに触ることできました。このデータあれば芋づるで他もいけます」
「あー、これで俺のお得意さん一つ減ったなー」
「大して残念そうじゃないですね」
「いやいや残念だよ。奥さんいい人だし。彼女は白だろ」
「しばらく話しましたけど、彼女は何にも知らなかったですね」
「うーん、男を見る目はなかったってことだけか」
壊れかけた丸椅子に腰掛け替え玉とチャーシューを食べ始めた俺を見て、安室さんは横で無言になった。俺が食べてるときは質問しても無駄だと判断したのか彼は静かに待機する。賢い。
最後のチャーシューを食べ終わりスープも飲み干したのを確認してから、安室さんは胸ポケットからサングラスを出した。
「このサングラス効果は確かなようですね。ほんと便利だ。どこで手に入れたんです?」
「企業秘密。あ、それ回収。返して」
「いやだと言ったら?」
「安室さんに言い寄られてるってお客さんに相談する」
「どうぞ」
「どうも」
差し出されたサングラスに変なもの付けられてないか軽くチェックしてからボストンバッグにしまった。ほどなく「あれ?」と安室さんは疑問を口にした。
「それ、存在薄くなる効果あるのに僕あなたのことちょくちょく見つけてますよ?」
「そりゃあれだよ、安室さんがいろいろと超越してんだよ」
「馬鹿にしてます?」
「誉めてんの」
前世の目眩まし眼鏡を参考に、杖なしで念じかけたものだから100%の効力はまずない。
完全に存在薄くしちゃ商売できないからそれがちょうどいいっちゃいいんだけど。そもそも安室さん俺のこと探してたから、そら意識すりゃ見えちゃうよ。あと数年も見てるから耐性できてるきっと。
まあ、どれも本人には言わないけど。
「あなたは本当に不思議というか、胡散臭いというか」
「誉め言葉として受け取っておこう」
「今日の感じで僕の協力者に登録しません?もう色々と知られてますし」
「却下。人のこと胡散臭いって言った直後にそれだもんなー。あ、ちなみに松田と萩原は?」
「…ノーコメントで」
「…ふーん、よく引き受けたもんだな。俺には理解できん。それじゃ、安室さんご馳走さま」
「え!ちょ!まだ店主さん帰ってきてないじゃないですか!」
「店番よろしくー。替え玉とチャーシュー食べたってメモ置いたから、帰ってきたら払っといて」
「送りますって」
「家バレしたくねんだよ察しろ」
「あなたの住居がいまだ掴めないのはなぜです?」
「心のやましい人には見えないんですー」
「いい加減ストーカーやめてくださーい」と言いながらバッグを肩にかけ屋台を後にした。直後バキッと音が。つい振り替えると、安室さんは割箸を握りしめ若干の青筋を立てていた。おー、こわ。かえろかえろ。
「あ、梓ちゃん心配してるから"体調"治せよー」
「今日のお陰で明後日には復帰できそうです!」