第十三話:回復術士は考察する
竜を素材にした飛行機で空を行く。
ぶっつけ本番で作ったわりにはうまく飛んでいる。
ただ、調整不足は否めない。
左右のバランスが悪く、風の制御を失敗すると墜落しそうだ。機体の強度に不満がある。とくに継ぎ目が弱く、速度が一定ラインを超えると異音がしてぐらつく。
空を飛びながら、それらの情報を脳裏に刻む。
何事においても試行錯誤が必要だ。
机上計算ではわからないことは多い。実際に運用して問題を発見し、その都度直していく。
「ケアルガ様、そろそろ代わりましょうか?」
フレイアが後部座席から問いかけてくる。
「いや、いい。コツが必要だ。力任せにすれば墜落する」
「力になれない自分が悔しいです」
「今日はダメだが、明日は任せられると思うぞ。改良すれば、俺でなくても操れるようにできるはずだ」
「わかりました! 明日はお任せください」
フレイアが握りこぶしを作ってやる気をアピールしている。
俺への気遣いもあるが、たぶん操縦してみたいのだろう。
人が作ったものの中では、世界最速の乗り物だ。
「がくがくぶるぶる。これ、怖いの」
未だにグレンは怖がっていて、キツネ耳をぺたんと倒しながら爪を立ててしがみつく。
子ギツネ姿なので、そういう姿も可愛らしい。いつまで経ってもグレンは飛行機に慣れないみたいだ。
飛行を初めて、四時間ほど経った。
目立たず着地できる場所を探し始めよう。
そろそろ魔力が心もとない。
まだ三割以上残っているが、ある一定以上に残量を減らすと回復が遅くなる。
ジオラル王国に到着してからが本番だ。それまでに戦力を落とすわけにはいかない。
砂漠地帯は抜けたし、これ以上無理をする必要もない。
いい着地場所を見つけた。
緑が生い茂っている深い森だ。広葉樹林の密集地帯があり、あれなら飛行機を受け止めるクッションになる。
……この機体には問題点がまだあったようだ。着陸する際のコントロールがひどく繊細だ。
着地の衝撃を緩和するような装置が一つもないので、今回のようにクッションになるものの上に着陸するか、自前で風のクッションを用意しないといけない。
着地の際にする減速も、いきなり失速すると揚力が稼げなくなって急降下する羽目になる。
「まったく、とんだ欠陥品だ」
ひとり愚痴って、高度と速度を落としながら着陸態勢に入る。
予想通り、途中でがくんっと重力に引かれるように落ちる。
そうなると翼への負荷が大きくなり嫌な音がなる。
ぎりぎりで風で全体を包み、木々をクッションにして着地に成功した。
「みんな、降りてくれ。今日はここで休む」
全員が降りたのを見届けてから、飛行機の各部をチェックする。
どうやら、どこも壊れていないようで安心する。
「ん。セツナは狩りをしてくる。晩御飯と夜を乗り切るための毛皮がいる。こういう森なら、手に入れられるはず」
「私も手伝うわ」
セツナとクレハが森の中に消えていった。
今回の旅は、竜の速度を宛てにしているため野営に必要な寝袋やテントなどは持たずに出発している。
この地方の森は昼は暑いくせに、夜になるとひどく冷え込む、寒さ対策をしないと危険だし、ろくに眠ることもできない。
夜を超えるために暖かい毛皮がほしいところだ。
セツナは氷狼族だけあって、この手のサバイバルには手慣れている。
「えっと、私はトイレ用の穴を掘ったり、薪を集めますね」
もともとはお嬢様育ちのフレイアもだいぶたくましくなったものだ。
野営で必要なことを理解して、てきぱき動いてくれる。
「グレン、おまえは飛行機の改修を手伝え。グレンの炎があれば作業をやりやすい」
「任せるの! 死なないために全力を出すの!」
子ギツネがその場で宙返りして、キツネ耳美少女になる。
すごいやる気だ。グレンらしい。
空の旅が怖いから、少しでも不安要素を消したいようだ。
改修案はシンプル。左右の翼のバランス調整と継ぎ目の補強だけ。
着地を安全にするために必要な機構をつけることも考えたが、没にした。
それで重量を増やしたり、空気抵抗を増やすのもばからしい。
着地については、時間ができたときでいい。
とりあえず、バランスを良くして丈夫にすれば、明日は離陸と着陸以外は全部フレイアに任せられる。
そうすれば楽ができるし、魔力容量が俺より数段上なフレイアなら、もっと距離を稼げるだろう。
◇
魔物ではなく、ふつうの猪をセツナたちは狩ってきた。
得意げな顔で、自分より大きな獲物を持ち上げてセツナが走ってくる。
セツナが毛皮は丁寧に剥いで、川で洗ってなめし、焚火で乾かす。
巨大な猪だったので、一匹の毛皮で全員がくるまり暖を取れる。
天候も崩れそうにはない。
これなら、夜の寒さもしのげるだろう。
夜の心配がなくなれば、腹ごしらえをしなければ。
愛用している調理器具もテントと一緒に置いてきたので、そちらにも工夫が必長打。
土魔術で地中から粘土を回収し、炎魔術で焼き固めて土鍋を作り、水魔術で水を張ってから、キノコと肉を放り込んだ鍋にする。
幸いなことに常に持ち歩いている鞄には塩を始めとした最低限の調味料はあり、それなりに食べられるものは作れた。
少し早いが、焚火の周りに集まって夕食にすることにした。
全員に、具たくさんのスープがよそわれた深皿がいきわたる。
「はふはふ、寒い日の鍋はたまりませんね」
「ん。ケアルガ様の料理はいつも美味しい」
フレイアとセツナが頬張りながら絶賛してくる。
いつもと勝手が違うから不安だったが、うまく作れたようだ。
「鍋なんてだれが作っても、そうそう味は変わらないさ」
「そんなことないの! たまにセツナが作るときは味付けがおおざっぱであんまり美味しくないの!」
「……グレンに言われるのはいらってする。でも、事実。氷狼族は食べることができればそれでいいって学んできた。がんばってるけど、ケアルガ様にはかなわない」
美味しそうに、セツナが肉と一緒にスープを流し込む。
具材がなくなってきたので、わずかながら持っていた小麦粉を緩くといて、鍋に流すと固まって、ふわふわとしたものが浮かぶ。
少量の小麦で腹が膨れるので、旅では重宝する。
麺ほどしっかりとした歯ごたえはないが、くにゅくにゅとした食感が面白い。
みんなも満足そうにしていた。
クレハが星を見る。
ただ、星を鑑賞しているわけではなく星の位置で現在地を確認しているのだ。
地図もなく、何百キロも移動するのだからこういった技能が必要になる。
「さすがはケアルガね、空の上でも正しい方向に進んでいるわ。この分だと明日の夜には着くわ」
「そうだな。さっきの改修で強度を増したし、安定性も改善した。フレイアに任せられるし、フレイアの魔力なら今日よりも速く、長く飛べる」
「任せてください。ケアルガ様は、休んでいていいですよ」
「そうさせてもらう。……必要に迫られて飛行機を作ったが、なかなかいいものができた」
たき火で照らされる飛行機を見ると、胸の中が熱くなる。うまく言葉にできないが、こいつにはロマンがある。
「今日は驚いてばかりだったけれど、冷静になると、その飛行機ってすごい発明よね。流通に革命が起こるわ。流通だけじゃなく、戦争の形そのものを変えてしまいかねないわね」
かなり、大きなことを言っているが、飛行機の性能を考えればけっして言い過ぎではない。
「数を揃えられればな。竜の素材がいるし、超一流の魔術士じゃないと飛ばすのに必要な強さの風を用意できない。一機や二機だけじゃ、ただのおもちゃどまりだな」
「そうね。でも、いつか竜を使わない材料で作れて、少ない魔力で飛ぶ。そんなものができてしまう気がするわ」
「ああ、いつかな。そうなれば一気に世界が変わる」
まだまだこいつには無駄がある。
もしかしたらクレハのいうように竜の材料に頼らずに、それでいてもっと効率よく風を揚力に変える飛行機を作れる日が来るかもしれない。
ただ、それは遠い未来のことだ。
しばらくは、人の力で空を飛ぶ術は俺たちで独占しよう。
こいつがあれば、どこでも好きなところへ圧倒的な速さで向かうことができる。
「ご主人様、とってもいいことを考えたの!」
キツネ耳少女姿のグレンがいたずらっぽい目で俺を見上げている。
「いやな予感しかしないが、言ってみろ」
「ジオラル王国に向かわずにグランツリードに行くの。それで、そらから、ご主人様とフレイアがばんばん範囲魔術を撃ちまくって、城を落とすの! そしたら戦争なんて一発で終わるの」
グレンは頭が良く容赦がない。
そのことがよくわかる発言だ。
「二つリスクがあるな。一つ、【砲】の勇者がグランツリードに居た場合、撃ち落とされるリスクがある。【砲】の射程からは逃れられない」
「どうせ、前線に出てきてるの! 飛行機のいいところは調子にのって、出して来た兵士を飛び越えて、本陣を叩けるところなの」
「それでも決めつけるのは危険だ。で、理由その2だが、ジオラル王国を攻めるのはおそらく複数の国家からなる連合軍だ。グランツリードを潰したところで戦争は終わらない……ついでにその3もあったな。今回はジオラル王国側に正義があると宣言するつもりだ。なるべく一般人を巻き込みたくない。悪役になるわけにはいかないんだ」
王都に乗り込んで、街ごと焼き払えば、一般人を大量虐殺することになる。
そうすれば、正義を叫んでも誰も耳を貸さないだろう。
口には出さないが、エレンなら必ず手を打っている。
それを邪魔するようなことをしたくない。
「面倒なの」
「それが戦争だ。そろそろ眠ろう」
「そうするの! なんかとっても疲れたの!」
適当に、寝やすいように地面を魔術に慣らし、毛皮にくるまる。
雨が降る気配はないし、今日はこれでいいだろう。
そう思っていたのだが……。
「グレン、何をしている」
「今日はグレンの日なの! 早く、おっきくなるの!」
グレンが頬ずりをしていた。どこへとは言わないが。
「いや、今日は全員で一枚の毛皮で寝るんだ。さすがにな」
「むう、でもグレンの日だから、ちゃんと気持ちよくなりたいの!」
グレンは譲る気がないらしい。
こいつには羞恥心がない。
すでにグレンは服を脱ぎ捨てている。
俺もノリで乱交するときもあるが、こうして相手から見れれながらのプレイを強要されるとたじろぐ。
視線を感じると、セツナたちがこちらを見ていた。
「ケアルガ様、セツナも一緒に愛して。となりで見せつけらえたら我慢できなくなる」
そう言いながら、セツナが服を脱ぐ。
「……そうね、興奮してしまうわ。それに星空の下というのも悪くないわね」
クレハはスカートを脱ぎ始めた。
「ああ、仲間外れは嫌です」
フレイアも服に手をかける。
「ああ、今日はグレンの日なのにずるいの! 絶対に、一番濃いの最初は渡さないの!」
いつの間にか、そういう流れになったらしい。
四人そろって誘惑をしてきた。
雌の匂いがして、頭がくらくらする。
しょうがないな。
ここまでされたら受け入れるしかない。
今日は星空の下、全員愛してやるとしようか。
もしかしたら、明日以降はそんな時間がないかもしれない。
◇
結局、全員腰が抜けるまで愛してやり、翌朝、ジオラル王国を目指して出発した。グレンの腹を見るがいつも通りで膨らんでいない。
そうそう毎回、ああなるものではないようだ。
フレイアに風の操作を任せると、予想通り昨日以上の速度で飛行機は進む。
ただ、たまに調子に乗りすぎて飛行機が悲鳴を上げているのに気付いていなかったり、方角がずれたりするため、その度に注意が必要だった。……自分で操縦するよりも神経を使う。
そして、とうとうジオラル城が見えた。
まだ、敵軍は近くにはいない。
ブレットの想定以上の速さで戻ってきたのは間違いない。
さっそくエレンと合流し、策を練るとしよう。