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【政治】

米軍防護16件に急増 安保法施行3年 進む日米一体化

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 他国を武力で守る集団的自衛権の行使を可能にした安全保障関連法の施行から、二十九日で三年となった。政府は、自衛隊が米軍の艦艇や航空機を守る「武器等防護」を二〇一八年に十六件実施。前年の八倍に急増した。弾道ミサイル警戒中の米艦の防護も初めて行い、日米の軍事的一体化を加速させた。(上野実輝彦)

 防衛省によると、自衛隊が一八年に実施した米軍防護十六件のうち、弾道ミサイル警戒中の米艦防護は三件だった。前年の共同訓練とは違い、実任務に踏み込んだ。具体的な活動内容は「米軍の部隊運用に直結する」として公表していない。

 一七年には共同訓練中の艦艇と航空機の防護を一件ずつ実施。安保法が施行された一六年には米軍防護は行っていなかった。一五年に成立した安保法は、自衛隊が平時に武器を使って守れる対象に米軍を加えた。

 菅義偉(すがよしひで)官房長官は二十八日の記者会見で、安保法施行三年に当たり「日米同盟はかつてないほど強固になり、抑止力、対処力も向上し、地域の平和と安定に寄与している」と強調した。

 政府は、軍備増強を続ける中国、核・ミサイル開発を進める北朝鮮を念頭に、米軍との一体化を進めることで抑止力を高めていく方針だ。ただ、米軍との一体化が進めば、米国と他国の偶発的な衝突が発生した場合、日本が巻き込まれる懸念が指摘されている。

 また、政府は安保法で変質させた防衛政策の実践に向けて兵器の整備も進めている。昨年十二月に改定した「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」には、海上自衛隊の護衛艦「いずも」の事実上の空母化、敵基地攻撃能力の保有につながる長距離巡航ミサイルの導入を明記した。

◆危うい「抑止力」過信

 安保法制が施行されて三年が経過した。自衛隊は、南スーダン国連平和維持活動(PKO)での駆け付け警護や米艦防護など、安保法制による新たな任務を実施してきた。自衛隊による米艦防護は、米国が北朝鮮への圧力を強化した二〇一七年には二回、米国が中国への対立姿勢を強めた一八年には十六回、実施された。

 一方、米国は南シナ海における「航行の自由作戦」として、中国が領有を主張する岩礁の周辺に軍艦を頻繁に派遣し、中国艦艇が米艦に異常接近するなど、一触即発の状況を生み出している。中国が最も嫌がる台湾との関係強化も進め、昨年三度にわたって台湾海峡に軍艦を通航させた。今のところ安全に見える米艦防護も、やがてこうした米中対峙(たいじ)の最前線にまで及べば決して安全ではなくなる。米中の艦艇が交戦すれば、自衛隊が巻き込まれることになるからだ。

 政府はこうした行動が同盟の抑止力を高めるとして、昨年末に閣議決定した「防衛計画の大綱」でも、積極的に実施する方針を示している。だが、抑止力の考え方について、日米には大きな相違点がある。

 米国にとって抑止力とは「戦争に勝つ力」を意味する。一方、日本では「戦争にならない力」という思い込みがある。そのため戦争を現実のものと考えず、全てを同盟の抑止力に結び付けて安全が高まると錯覚している。護衛艦「いずも」の空母化も「太平洋の航空優勢」のためと説明している。太平洋で米艦を守れば日本が安全になるのか、そこを議論すべきだ。 (元内閣官房副長官補・柳沢協二さん寄稿)

<武器等防護> 安保法のうち改正自衛隊法で規定。平時に米軍など他国軍から要請があり「自衛隊と連携してわが国の防衛に資する活動に従事している」と認められれば、自衛隊がその軍を防護できる。安保法の施行前には平時の防護対象は、自衛隊の武器や施設に限られていた。

 

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