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踏み台転生者になったので全力で役割を全うします。〜世界最強の踏み台転生者〜 作者:清水 彩葉

第一章 ニュウガク

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悪夢の迷い森、そして


 一瞬の浮遊感の後、閉じていた目を開くとそこには鬱蒼とした深い森への入り口があった。まるでダンジョン自体が俺達矮小な人間を飲み込まんとしているかのようだ。



「ふぃー。転移魔法なんて初めての経験だからドキドキしたよ! アランくんは随分と落ち着いてたみたいだけど、もしかして経験あるの?」

「あぁ、そうだな。何回か経験があったお陰で落ち着いて転移出来た」

「へー、流石はアランくん! ………………もしかして、使えたりする?」

「む? 使えるとは、転移魔法の事か?」

「そうそう! まあ流石にアランくんといえどもそんな原初の精霊みたいな事は――――」

「出来るぞ。流石に大人数を転移させるとなると準備に時間がかかってしまうが」

「へっ? 出来るの!?」

「さて、ここで立ち尽くしていても仕方が無い。続きは歩きながらにしようか、テーネ」

「あっ、ちょっ、待ってよー!」



 アランくんってほんとに人間なのかな……とか非常に失礼なことを呟いているテーネと二人並んで『悪夢の迷い森』に踏み込む。あ、忘れるところだった。出発する前にこれをしとかないとな。



「すまない、テーネ。少しだけ待ってくれ」

「ん? 別にいいけど、どうしたの?」



 素直に立ち止まってくれたテーネに感謝しながら、俺は『悪夢の迷い森』の入り口を見据え、詠唱を開始する。





「【我が名の元に命ずる。この世界に刻みつけろ、我が魂に宿りし炎よ。全ての始まりの、原初の火よ。我が存在を、この地に焼き付けろ】!」



 目を瞑り集中力を高めながら詠唱する俺を高まる魔力が覆い尽くすのを感じる。そして、目を開いた。



「【始まりを刻む(インキピット)神炎(デウスフラムス)】!」





 放たれた炎は『悪夢の迷い森』の入り口の地面を焼き焦がすと、まるでその地面に吸い込まれるかのように消えた。後に残ったのは焼け焦げた地面が作り出す紋章。



「……………………これは、魔法陣? しかも、空間転移系の魔法……。ほんとに使えたんだ……」

「よく分かったな、テーネ。空間転移系の魔法陣など見る機会は殆ど無い筈だが」

「うぇっ!? い、いやっ、別に私は……」

「別に隠さなくても良い。大体察してはいるからな」

「えっ!? 嘘っ!?」

「本当だ。……心配しなくても、俺はお前の不都合になるような事はしない。お前には返し切れない程の大恩があるからな」



 テーネが俺の思っている通りの存在であるのなら、俺はテーネに一生頭が上がらない。それほどの恩があるのだ。……肝心のテーネは不思議そうな顔をしているが。



「大恩? 心当たりは無いけど……。まあ、アランくんがそう言うなら分かった。信用するよ。それより、この魔法は何? 共通魔法(コモンズ)じゃないってことは分かるんだけどさ……」

「あぁ。これは俺の固有魔法(オリジナル)だからな。効果は『この魔法陣を刻み付けた場所を記録していつでも転移出来るようにする』といったところだ。魔法陣は上書きされてしまうから複数の場所に設置するのは無理だが、魔法陣が残っている限り世界中の何処からだろうが転移出来る」

「アランくんって私の同族とかじゃないよね?」

「あぁ。俺はただの人間だからな」

「最近のただの人間凄すぎでしょ……」



 おーおー、ドン引きしてらっしゃる。このくらいで引いてたらこの先起こるであろうインフレに取り残されるぞ。まあ、テーネが取り残されるレベルのインフレが起きる頃には俺なんてもう死んでるかもしれないし、そうならないためにこれからも精進していこう。



「兎も角、これがあればすぐに集合場所である此処まで戻る事が出来るだろう」

「あっ、確かに! フレア先生も意地悪だよねー。『悪夢の迷い森』で一番大変なのは入り口に戻ってくることなのに、そんなこと一言も言わずに私達を送り出すんだから」

「俺達の腕前をそこまで買ってくれているという事だろう。フレアさんもいざとなったら巡回している教師が助けると言っていたし、そこまで心配する事も無いと思うが」

「まっ、私達はその心配もなくなったしねー。いやー、アランくん様様だよ!」

「あぁ。では、今度こそ行こうか」



 うん! と元気よく返事をするテーネと共に、俺達は深い森の中へと入っていく。

 そしてしばらく、もうかなり深いところまで来た。目的の物はもうすぐだろう。



「目的の除魔草がどこに自生してるかは知ってる?」

「勿論だ。除魔草は魔力を吸うという性質を持っている、つまり魔力の集まる場所に群生しているという事だな」

「さっすがー! アランくんってほんとになんでも出来るんだねー」

「それ程でもない。俺にも出来ない事はあるさ」



 ふと、隣のテーネが立ち止まり、こちらに向き直る。俺も立ち止まってテーネの方を向くと、真剣なその瞳と目が合った。思わず、こちらも真剣になる。



「そうかな? アランくんはなんのヒントもなしに私の正体に気付いた。そうでしょ?」

「よく言う。ヒントなら沢山あっただろう。それこそ、疑問が確信に変わるくらいにはな」



 光を飲み込むかのような純黒の髪と瞳。魔法を一通り使えて、得意魔法は闇属性魔法。原初の精霊の魔法陣にも驚かず、俺の固有魔法(オリジナル)も一目見るだけで転移魔法であると看破した。

 どれをとっても人間とは思えないのに、魔力探知してみても完全に人間としか思えない。そこまで完璧に人間に擬態出来るような存在で条件に合致するのは、一つしかないだろう。



「あはは……。確かにそうかも。それでも、人間にバレるとは思ってなかったなぁ」



 答え合わせ、しよっか? そう言って微笑む彼女に、俺はお望み通りの言葉を返した。



「テーネ。お前の正体は()()()()()()()、テーネブリスだ。そうだろう?」

「あはははっ! 大正解だよ、アランくん! さっすがー!」



 手を叩き、無垢な子供のように喜ぶ彼女が原初の精霊であるだなんてとてもじゃないけど信じられないな。



「いやー、アランくんのことは元々知ってはいたんだけどさ? 本格的に興味を持ったのはあの実技試験の日。君は私の想像を遥かに超える魔法を放ったからね。それで君を直接見てみたくなったんだ」

「そうか。それで、俺はお前のお眼鏡に適ったのか?」

「勿論! それどころか、今もまだ君の底が見えてないよ! 君の能力も人間性も、もっともっと知りたくなった」



 彼女の闇のような瞳と視線が絡み合う。



「でも、物知りな君なら闇の原初の精霊がどういう存在か知ってるよね? なんで私と一緒にいても平気そうな顔をしてるの?」

「そうだな。確かに過去の文献によると、闇の原初の精霊は人類に仇をなす悪しき存在だとされている。過去に人類を滅ぼしかけたともな」

「そこまで知ってるなら、なんで――――」

「俺は自分で見たものを何より信じている」



 テーネの言葉を遮って、俺は言い切る。



「テーネは、俺が見た限り悪しき存在には見えなかったからな」

「……そんなの、隠してるだけかもしれないよ?」

「そうだろうか? 俺の目には、お前はただの一人の女の子にしか見えなかったけどな」

「……そんなわけ、ないでしょ。私は闇の原初の精霊だよ?」

「お前が何者であるかだとか、そんなものは関係がないだろう。お前には人を思い遣る心がある。なら、お前の事を悪だと言える筈がないだろう」

「そんなのおかしいよ! …………あなた達人間には、私を怨む権利があるでしょう?」



 溢れ出したかのように言葉を紡ぐ彼女の光を映さない(くら)い瞳は、微かに揺れていた。

 …………やはり、俺には涙を堪えているか弱い女の子にしか見えないな。ならば一流の踏み台転生者を目指す者として、やるべき事は一つだ。



「お前が自身の罪を赦せないというのであれば、この俺が人類を代表して赦そう」

「えっ……?」



 泣いてる幼子をあやすように、俺は彼女の頭に手を伸ばしながら続ける。



「あっ……」

「お前にも様々な理由があったのだろう。そして、良心の呵責や後悔、辛い事苦しい事、全て一人で抱え、そして耐えて来たのだろう。安心しろ、もう大丈夫だ。俺が居る。お前はもう一人じゃない」

「あっ、うっ…………。そ、そんな優しくしないでよ…………」

「今までよく頑張ったな」

「うあぁ…………」



 不安げな彼女を安心させるように抱き竦めると、彼女は俺の胸元に顔を埋めた。

 ほら、原初の精霊だって人間と変わらない。涙だって流すだろう。



「そうだ、テーネ。お前にどうしても伝えたかった事があるんだ」

「ぐすっ……な、なにさ? なんだよぅ……?」

「俺の弟を救ってくれてありがとう」



 俺の腕の中にいるテーネが驚いたように身体をびくりと跳ねさせた。俺は彼女に返し切れない程の大恩があるのだ。



「テーネが居なければ、弟はきっとより大変な目にあっただろう。そして、俺は後悔してもしきれなかった筈だ。本当に、ありがとう」

「……気付いてたんだ、彼のこと」

「当たり前だろう。()あいつ()を見間違えてたまるか。見た目が変わろうが、俺達の繋がりは変わらない」

「……そっか」



 いつの間にか泣き止んでいた彼女が俺の胸から離れる。もう一度純黒の瞳と目が合ったが、もう彼女の目は不安に揺れてはいなかった。俺は彼女に微笑みかけて、続けた。



「俺はお前に救われた。だから、今度は俺がお前を救う番だ。お前が困っている時、苦しんでいる時、辛い時。そんな時は、必ず俺がお前を救ってみせる。それが、たった一人の愛する家族を救えなかった俺なりの覚悟だ」



 そう真っ直ぐに伝えると、彼女はほにゃりと笑った。



「やっぱり、アランくんは特別だよ。ただの人間なのに、誰よりも優しくて、強くて、泣いてる女の子を抱き締めて救っちゃう。キミみたいな人をなんて言うか知ってる?」

「む? すまないが、分からないな」

「ふふっ、それはね――――」





 ――――英雄、だよ。



 彼女は人間味の溢れる、大変魅力的な笑顔で言った。


 読了、誠にありがとうございます。次回は幕間として、テーネから見たアランのお話です。宜しければそちらも是非ご覧下さいませ。


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               清水彩葉

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