自己紹介、そして
さて、自己紹介もあらかた終わり、次はいよいよ俺の番だな。窓際から順に挨拶をしているが、俺達の席は廊下側だったので俺が最後だ。
緊張はするが、ここは一流の踏み台転生者としてしっかりと大トリを務めよう。
「知っている者も居るだろうが、俺の名はアラン・フォン・フラムス。フラムス家の長男だ。皆とはこれから長い付き合いになるだろう。この学院に入学し同じクラスになった以上は立場や身分など関係無く、対等に接して欲しい」
まずは踏み台転生者らしく、傲慢不遜な言葉で。しかし気品のある、威風堂々とした態度で。ナチュラルに自信満々に、だが自分の器は広く大きく。
「互いに切磋琢磨し高め合うのも勿論大事だが、何より仲良くしてくれると嬉しい。宜しく頼む」
最後まで高慢に、しかしそれでもクラスメイト達と良き関係を築けるように。
俺は最後まで凛と言い切り、軽く頭を下げる。まあ、踏み台転生者として完璧とは言えずとも及第点くらいはあるだろう。
ほとんどが知り合いだからというのもあるかもしれないが、クラスメイト達からの受けもそんなに悪くないような気がする。あぁ、俺今踏み台してるよ……気持ちいい……。
さて、質問タイムだが……アイラの時と同じくみんな俺に質問するような余裕はなさそうだ。一息ついて、とりあえず腰を下ろそうとしたのと同時にテーネさんが挙手するのが見えた。
「あっ、質問! アランくんは実技試験の時に聖硬石の水晶を壊したって聞いたけど、それって本当?」
「む。あぁ、テーネさんは試験会場が別だったな」
「テーネでいいよ。まあ会場は別だったけど、アランくんの魔力らしきものは離れていても感じ取れたよ。天に昇る炎柱も見えたしね。で、どうなの? 私としては本当だと思ってるんだけど、実際に本人の口から聞きたくてね」
テーネさん改めテーネ曰く、どうやら俺の魔法は他の試験会場からでも見えたらしい。まあ、確かに結構派手な魔法だったしそれも当然なのかもな。と、質問に回答しなければ。
「なるほど。結論から言えば聖硬石の水晶を壊したというのは少し語弊があると言えるだろうな」
「あ、そうなんだ。とても人間とは思えないような魔力の波動を感じたものだからもしかしたらって思ってたんだけど……流石のアラン君でもそれは無かったか。でもあれだけの魔法ならヒビくらいは入ったんじゃない?」
「いや、それも分からないな。聖硬石の水晶は燃やし尽くしてしまったから破壊の程度は確認出来ないんだ」
「「…………………………は?」」
その場に居なかった二人……テーネとグレン君の声が重なる。グレン君が目を見開く顔を見れたので結構満足だ。
「………………えっ、と。アランくん? 燃やし尽くしたって、まさかあの聖硬石の水晶を?」
「ああ」
「そうです! お兄さまの大魔法の前ではあんな水晶などただの石ころと変わりません! 流石ですっ、お兄さま!」
「そうですね〜。あれには先生も驚きました〜」
「驚くなんてものじゃないですよ。世界が悲鳴を上げる音を聞きましたからね」
「というか、余波だけで燃えちゃうかと思ったもん! 会場だって丸ごと焼失したし!」
「あぁ、オレももしこの目で直接見てなけりゃ信じられなかったかもなぁ。まあ、見てても信じらんねぇって思ったけどさ」
「…………炎、凄かった」
何故かその場に居た人達が次々と説明してくれた。いやまあ、説明する手間が省けて良かったけどさ。
「そういう事だから、壊したと言ってもいいのかどうかは申し訳ないが分からないな。砕いたり貫通したりしても再生する筈の聖硬石も跡形無く焼失してしまえば再生しないらしい。良い勉強になった」
「め、めちゃくちゃだよ……。……………………アランくんって、本当に人間?」
「お兄さまはそんじょそこらの有象無象とは格が違うんです! これが英雄! 私達人類の希望! 流石ですお兄さま!」
「いや、アイラ。そう言って貰えるのは嬉しいが、俺は人間だ。他の人と変わらない、ただの一人の人間に過ぎない」
アイラはいつも俺を持ち上げてくれるが、俺は神でも英雄でもない。一流を目指しているとはいえ、所詮はただの踏み台転生者なのだから。世界を救うだとか、人類の希望だとか、それは俺の役目ではない。
「俺には野望がある。目指す大きな目標がある。成すべき事がある。そこに邁進しているだけなのだから、特別なんかでは無い」
「野望かぁ……。確かにそれは人間らしいね。でも、君はやっぱり特別だと思うよ。だって、普通の人間はそんなに強くないからね。力だけじゃなく、心も」
「そうでも無いさ」
テーネはそう言うが、人間ってのはそんなに弱くはないし、俺はそんなに強くもない。
「俺は理想の自分に近付くために、毎日一心不乱に、我武者羅に生きている。そしてそれは、多かれ少なかれ万人にあるものだ。将来より良い暮らしをする為に勉強する。いつか大切な誰かを護れるように剣を握る。ほらな、皆と同じだろう?」
「普通の人間と、同じ……。そんなに大きな才能を持って努力を重ねてきたアランくんが……」
「勘違いしているかもしれないが、俺より強い人間は居るぞ。少なくとも、心の強さであれば俺より余程強い男を知っている」
「えっ!? アランくんより強い人が居るの!?」
あぁ、当然だ。俺は踏み台なのだから、俺を踏んで俺の上を飛ぶ者が居るのは至極当然だろう。踏み台転生者よりも弱い主人公なんていないのだ。
「俺が知っているそいつには、才能というものが全くなかった。普通の人なら出来ることも、そいつにはまるで出来ない」
英雄とはなんなのか。考えたことはある。
「だからそいつは周囲から不当な扱いを受け続けていた。他人だけじゃない、家族にまで冷遇され、味方なんて居なかった。泣き虫なあいつはいつも隅で泣いていた」
でも、考える度に分からなくなっていった。自分にとっての英雄像というものが見えなくなった。
「俺はそんなあいつに何を出来る訳でもなく、結局あいつとは別れた。もう二度と戻る事はないだろう。英雄だと持て囃されていた俺には、大切な家族一人救う事すら出来なかった。己の無力を嘆く事しか出来なかった」
俺は英雄と呼ばれているが、本当はどうなんだろうか。
答えは明らかだ。もしも人類の全てがそう思っていたとしても、他ならぬ俺自身がそれを信じていないのだから。
「だが、何の才も持たない筈のあいつは、自らを襲う困難を跳ね除け、弱さを強さに変えた。俺の知る限り誰よりも弱かったあいつは、俺が知る限り誰よりも強い心を持っていた」
ふと、グレン君と目が合った。彼は目を見開き呆然としていて、少し笑えた。
そうだな、仮に英雄という存在が居るとするのならば、それはきっと――――――
「力を持っていてもたった一人の家族を救えなかった俺と、力を持っていなくても誰かを救う事が出来るあいつ」
「――――――英雄っていうのは、もしかしたらあいつの様な奴のことを言うのかもしれないな」
何の才も持たなくとも、困難に立ち向かい、強くなる。誰かを救う。
……なるほど、確かに俺には荷が重いな。
やはり、俺は踏み台だ。困難を乗り越えた
それが、あいつを救えなかった俺に出来る、唯一の事なのだろう。
「…………………………違う」
「む。どうした、グレン君」
「それは、違う。きっとアンタは、その弟を救ってたよ。何処にも味方の居なかった出来損ないの傍に居て、支えてくれた。それだけで、その弟から見たアンタは、間違いなく英雄だっただろうさ」
そう言うグレン君の瞳は色んな感情でごちゃ混ぜになっていて、でも、真っ直ぐで力強かった。
……そうか、お前はもう、大丈夫なんだな。ようやく安心出来たよ。こう見えて、ずっと心配してたんだ。
「あぁ、そうだと良いな」
何故だか、今世で初めて心から笑えたような、そんな気がする。
今まで、側に居てやれなくてごめんな。
これからは、お前の物語をちゃんと見てるから。
俺は誇り高き踏み台転生者。
お前が困った時くらいは助けになってやるさ。
・登場人物紹介
テーネ→フルネーム不詳。本人曰く特別な家系の生まれではない。しかし、アランはそれを疑っている模様。こちらの世界では見たことも無い黒髪黒目の持ち主で人間には使えないはずの闇属性魔法を得意とする。しかも、本人曰く魔法は一通り使えるらしい。アラン的にはテーネは人間じゃないのではないかと考えている。ちなみに、髪型は肩にかかる程度のセミロングで吸い込まれるような黒髪はまさに闇と形容出来るような純黒である。その整った顔立ちと合わせて大変可愛く美しい。
グレン→フルネーム不詳。現状あまり自分のことを詳しく語っていない。美しい銀髪と銀瞳を持つ少し中性的な美少年で、属性魔法を使えないらしい。変わりに無属性魔法なるものを使うことが出来る。まるで物語の主人公のような少年である。アランの話に食いついた。弟の話とは一言も言ってないし、なんならアランに弟が居るというのはトップシークレットなので知っているはずがないのだが、何故か知ってた模様。彼は一体何者なんだろうか。
読了ありがとうございました。登場人物も揃ってきましたね。宜しければこれからもどうかお付き合い下さいませ。
清水彩葉