入学、そして
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途中視点の変更があります。
この作品では基本主人公の一人称視点で進みますが、今話のように稀に三人称視点で進行していく場合もございます。
――――俺は今、なんでここに居るんだろうな。
胸中で呟く。俺と妹のアイラは無事アルカナム校に合格していて、今日からここに通うことになった。
あの後別の日に筆記試験があったのだが、そちらはまあ余裕だった。だってこの世界の人達脳筋だからね。前世の感覚を併せ持つ俺からすると筆記試験は比較的楽な方であったのだ。まあ、そこまではいいんだ。可愛い可愛い妹と一緒に登校出来て嬉しかったしな。
では、何が駄目なのか。単刀直入に言うと新入生代表として挨拶するのがめっちゃ嫌なのだ。
入学式場に到着すると直ぐに学院長のフレアさん――名前で呼べと言われた――が直々に迎えに来たかと思えば、あれよあれよという間にアイラとは離されて、気付けば俺は今壇上に上がろうとしている。
俺は昔から色んな目を向けられてきた。自慢のようだが、俺は人々から英雄だのなんだのと呼ばれているのでそりゃ注目も浴びるだろう。
これが結構きついのだ。だって、考えても見て欲しい。まだ幼い俺に対して国のお偉いさんやら貴族やらが媚へつらって来るんだぞ? 表面上下手に出てはいたが、どいつもこいつも自分の欲望の為に俺を利用してやるっていう目をしてた。まあ勿論例外も多々あるんだけど、ほとんどの場合はそうだったように感じる。
他にも、街を歩いていたらすれ違う人々がみんな平伏したり、中には拝み出すやつまで結構いたり…………冷静になって思い返してみれば幼い子供がそんな事されたらトラウマになりかねないんじゃ? 俺の心がもうちょっと弱ければ今頃対人恐怖症になってたかもしれない。
まあ、そんな話は置いておいて、そういう理由もあって俺は人から視線を集めるのが好きじゃない。てか、嫌いだ。でもこうやって壇上に立ち新入生の代表として挨拶なんてしてればどうしても大勢の視線に晒されてしまうだろう。この場には新入生と在校生、そして大勢の教師やら教授やらその他諸々の大人達が集まっている。つまり、俺が何を言いたいかというと、だな。
――――――やべぇ、緊張し過ぎて頭が真っ白になった。つーかそもそもこれ何言えばいいの?
パニックである。なんとか表情に出さないようにはしたが、内心はそりゃもう大変だった。やっぱトラウマになってんじゃねぇか! 俺のメンタルはそんなに強くなかったみたいだ。
というか、これはフレアさんが悪くない? こんな急にここまで連れてこられて挨拶なんて出来るわけないだろ? せめて台本だけ用意させて欲しかったよ。いや、それでも嫌なんだけどさ。
往生際悪く脳内で俺は悪くない俺は悪くないと現実逃避をしているが、無情にもフレアさんから俺にマイクが渡されてしまった。
……マジでどうしよう。ここでなんにも言わない訳にはいかないし、ここは前世のテンプレートで行くか? 「柔らかく暖かい風が新たな季節の始まりを運ぶ今日この頃〜」みたいな感じで入ればいいのだろうか。いや時候の挨拶は日本でしか通用しなさそうだよなぁ……。
微妙な挨拶なんて俺の踏み台としての矜恃が許さない。新入生挨拶なんて三流のそこいらにいる踏み台転生者だって出来る。仮にも一流の踏み台を目指す俺が出来ないなんて決してあってはいけない。
そう考えると、自然と覚悟は決まった。
せめて、志は高く。胸を張って、堂々と喋ろう。
* * *
「新入生を代表し、挨拶をさせていただきます。アラン・フォン・フラムスです」
玲瓏とした声が響き渡る。入学式場に現れた彼を見てざわめいていた人々が一斉に静まり返った。
壇上に立っているのは少し
今更自己紹介をせずともこの場にいる全員――否、この国に住む人々で彼を知らぬ者など居ない。
曰く、人類の守護者。
曰く、闇を照らす勇者。
曰く、生ける神話。
曰く、英雄。
人類史上例を見ない程の才能を持つ、稀代の大英雄だ。四大貴族の長男という事も相まってだろうか、その名は彼がもっと幼い頃から国中に響き渡っている。
先程のざわめきなど遠い昔のように感じ、誰もが物音一つ立てまいと彼の一挙手一投足に集中し、二の句を待つ。
「誉れ高きこのアルカナム校に入学出来たこと大変誇りに思います。俺が言うのもおかしいが、まずは新入生諸君、おめでとう。そして、在校生の皆様。先生方に来賓の皆様。これからの数年間、厳しいご指導ご教鞭のほど宜しくお願い致します」
謙虚で礼儀正しいのか、高慢で傍若無人なのか分からないような言葉。だが、この場で彼にマイナスの印象を持った人間は誰一人として存在しない。
元々、この場にいる全員が彼を認めていたのだが、実際に目の前で新入生代表挨拶をする彼を見ると全員がその認識を改めさせられた。
――――――アラン・フォン・フラムスは話に聞く以上の傑物だと。
真っ直ぐで力強い意思の篭ったその瞳。威風堂々と佇むその立ち姿。人々の心に直接響くかのような凛とした声。
まさに人類の頂点に君臨するに相応しいカリスマ。その圧倒的な存在感に誰もが飲み込まれていた。
「アルカナム校は国中から優秀な人材を集め、この国の将来を担う人間を輩出するための学院。俺はこの国の未来のために、そして何より俺自身の目標のために、この学院の仲間達と共に日々精進していきます。皆様もどうかこの国のため、そして他ならぬ自分自身のために、一歩一歩目標に近付きましょう。時に助け合い、時に競い合い、切磋琢磨して己を磨きましょう」
国の未来のために。彼がその言葉を使うだけでこの国の未来は明るくなるんじゃないか。そんな確信に近い希望を聞いている人々全てにもたらす。英雄という言葉は、きっと彼を形容する為にあるのだろう。
そして――――――
「俺と共に、この人類を背負おう」
――――――歓声が爆発した。
その言葉は高慢で、しかしこの国、そして人々への愛に満ちていて。
曰く、人類の守護者。
曰く、闇を照らす勇者。
曰く、生ける神話。
曰く、英雄。
そんな彼と共に人類を背負うなどという栄誉に、その場に居た人々はどうしようもなく胸を打ち震わせる。
「以上で俺からの挨拶を締め括らせていただきます」
ご清聴ありがとうございました。そう言って壇上を降りる彼に惜しみない喝采が送られる。彼さえいれば、人類は戦える。皆一様にそんな確信があった。
今日、その場に居合わせた人々は理解した。
アラン・フォン・フラムスは人類を救うに相応しい器だと。
* * *
「やべぇ……何喋ったか全く覚えてねぇ……」
せめて踏み台転生者としての品位を落とすような内容になってなければいいのだが……。
俺は異様な疲労感に襲われながら、配属されたクラスへと向かう。因みにクラスは合格通知と一緒に届いていて、アイラも同じクラスである。やったぜ。
「お疲れ様でしたお兄さまっ! お兄さまの演説、私は大変感銘を受けましたっ!」
「演説などという大層なものじゃない。新入生代表挨拶だ」
いやマジで。アイラは流石ですお兄さまと褒めてくれるが、それはちょっと大袈裟すぎるだろう。まあ大袈裟なのはいつもの事だけど。
てか、もしかして俺やらかしたのか? いや、やらかしていたのならフレアさんから何か言われそうなもんだがあの人嬉しそうにニコニコしてたからなぁ。
……終わったことをいつまでも言ってても仕方がない。今は新クラスの話だ、切り替えよう。任せろ、現実逃避なら得意だ。
「教室はここですね! この学院は施設が広すぎて移動するにも一苦労です」
ほら、教室にも着いたし反省は後にしよう。アイラは俺より先を決して歩こうとしないので俺がドアを開ける。
クラスメイト達はもう既に揃っており、俺達で最後のようだ。扉を開けた瞬間から全員の視線が俺に突き刺さっているのが辛い。これは挨拶でやらかした説濃厚か……憂鬱だ……。
これからの学校生活を共にする仲間達の視線を振り切って座席表通りの席に着く。至って普通の椅子。今までVIP待遇ばかりだったから逆に新鮮だ。アイラはちょっとお尻を痛そうに顔を顰めているけど。
まあ最初からコケて大怪我した感はあるが、新生活の始まりだ。
今日失敗してしまったのはひとえに俺の精進が足りないが故。これからは理想の踏み台を目指して一層頑張ろう。このSクラスの仲間達とも仲良くなれたら嬉しいな。
…………………………んん? そういやアルカナム校にSクラスとかあったっけ?
実際、アランの新入生代表挨拶はやらかしています。あんな挨拶したら普通なら大失敗に終わるでしょう。今話でアランの代表挨拶(笑)が受け入れられたのはひとえにアランのカリスマ(笑)と元々の知名度のお陰です。
その二つがたまたま上手く噛み合った結果、学院内に盲目な信者が沢山増えました。
もしも読者の皆様方にこのような機会があるのなら、決して、この小説を参考にしないようにお願い致します。この挨拶は駄目な例ですので、我らがアランのような豪運とカリスマ(爆)を持つ人以外は真似しないでくださいね。
そして皆様、沢山のご感想本当にありがとうございます!
すみません、私が想定していた以上にご感想を頂いており、一つ一つに返信していると時間が足りなくなってしまいました。ですので、今後は返信出来ない感想もあるかと思います。ご了承下さいませ。
全てに目は通させて頂こうと思いますし、私としても暖かいお言葉は大きなモチベーションになりますので、宜しければこれからもお気軽にご感想下されば嬉しく思います。
清水彩葉