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踏み台転生者になったので全力で役割を全うします。〜世界最強の踏み台転生者〜 作者:清水 彩葉

第一章 ニュウガク

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幕間その二 彼は踏み台転生者(妹)

 誤字報告ありがとうございます、大変助かります。なるべく気を付けてはいますが、やはり結構誤字がありますね。


 今回は幕間です。妹アイラから見たアランのお話です。


 え、幕間の癖に間隔が短過ぎる……ですか?

 ……正直私もそう思ってはおりますが、宜しければ是非お付き合い下さいませ。


 アラン・フォン・フラムスは理想の兄である。


 少なくともアイラ・フォン・フラムスにとっては間違いなくそうだ。


 アイラの兄は稀代の傑物である。

 魔法も武術も一流以上ならば、学問や知力でさえ一流以上である。まさに文武両道。博学才穎の一言で済ませる事が出来る程度の天稟ではない。正真正銘、人類を照らす英雄に足りうる天に選ばれし勇者である。


 アイラの兄は人格者である。

 彼は誰にだって優しい。立場が下のアイラの事もよく気にかけてくれるし、困った時にはいつも助けてくれる。それどころか家族ではない使用人や『忌み子』と呼ばれていた弟にまで平等に優しい。

 ……実はそれは個人的な感情としてはちょっとフクザツだ。大好きな兄の特別でいたいという乙女心である。

 ともあれ、兄は聖母の如き慈悲深さを持っている。なるほど、人々が彼を英雄や勇者と呼ぶのも納得がいく。


 まだまだ兄の魅力は沢山あるが、結論を言ってしまえばアランはアイラにとって理想のお兄さまなのである。


 今日だって受験という人生で初めての試練を前にしたアイラの緊張を解すために慣れない冗談を交えながら励ましてくれた。

 隣に大好きな兄が居てくれるのならば、アイラは無敵だ。アランの妹として恥じぬよう、実技試験程度容易く突破してみせなければならない。むんっ! と気合を入れ直す。


 兄と談笑していると時間が経つのが早い。知的で包容力があって聞き上手且つ話し上手でイケメンで格好いい兄との会話はとても楽しいし為になる。つい今しがたもふと零れた疑問に的確な回答をくれた。

 兄はあくまで俺の考えだから合ってるかどうかは分からないと言っていたが、兄は常に正しいのだ。故に尊敬の眼差しを送る。撫でられた。めちゃくちゃ嬉しくてにやけてしまった。

 やはりお兄さまは理想の兄だ。



 その後直ぐに実技試験の試験官を担当する人が来た。

 わざわざ学院長が直々に来るとは思っていなかったが、落ち着いて考えてみればそれも当たり前か。この場にいる六人はそれぞれこの国にとって重要な人物であるのは間違いないし、何よりお兄さまがいるのだから!


 アイラは兄との楽しい時間が終わってしまった事により少し不機嫌になる。思わず学院長(邪魔者)――フレア・ソレイユだったか――を睨めつけてしまった。

 試験官、ましてや学院長に対してこのような行いをしてしまうと兄にも迷惑を掛けてしまうかもしれないと直ぐに改めたが、フレアはアイラの思考など全て分かっているかのようにウインクをして見せた。……この上なく似合っていたがちょっとイラッときた。


 さて、いよいよ実技試験だ。アイラは事前に配られていた受験番号の都合上兄よりも先に試験を受ける事になった事を申し訳なく思ったが、兄は気にしていない様子だった。この懐の深さである。流石ですお兄さまっ! 兄に改めて惚れ直しつつ、順番が来たので試験官であるフレアの元へと向かう。



 試験内容は目の前の水晶に魔法やら剣やらをぶち込むだけという分かりやすいもの。これまでの四人は全員合格判定を貰っているし、何より大好きな兄が見ている前だ。失敗なんて許されない。


 ありったけの魔力を込めて中級魔法――共通魔法(コモンズ)に分類される中級の難度だと定められた魔法――――を放つ。


 叩きつけられる爆炎。中級と聞くと大したことがないように聞こえるかもしれないが、中級は初級魔法と違って適正さえあれば誰でも撃てるような簡単な魔法ではない。

 それどころか普通は大人であろうとも使えない、王族や四大貴族に仕える高名な魔法使いくらいにしか扱えない大魔法なのである。

 勿論聖硬石で出来ている水晶には傷一つなかったが、そんなのは当たり前の事なので不合格になるということはないだろう。本来、まだ十五歳の少女が中級魔法を扱えるだなんてとんでもない事なのだ。まあ、アイラと同世代の四人も中級魔法を使っていたのだから騒ぎになることはなかったが。





「はぁ〜い、お疲れ様でした〜! アイラ・フォン・フラムスさん、合格です〜!」

「ありがとうございました」





 おめでとうございます〜! と笑いかけて来るフレアにアイラは軽く会釈し、席に戻る。さて、次はお兄さまだ。


 フレアに促されて所定の位置に着く兄の後ろ姿に軽く見とれつつ、アイラは彼の魔法を待つ。

 実はというと、アイラが彼の魔法を見る機会はあまり無かった。彼はいつも基礎的なトレーニングを中心に訓練していたし、そもそも努力を人に見せるようなタイプではなく殆ど森の中で一人ストイックに鍛えていたのだ。まあそんな所もアイラにとっては大好きなお兄さまの魅力の一つなのだが。


 そしていよいよ兄は魔法を放つために一息吐き、手を翳して――――――





 ――――――瞬間、空気が一転した。

 空間そのものが悲鳴を上げているのが聞こえる。いや、これは空間が軋み、歪むほどの強大な魔力の唸りが兄から発せられているからそう錯覚したのだろう。


 アイラが、いや、その場に居た全員がまともに判断出来たのはそこまでだった。





「【我が名の下に命ずる。森羅万象を焼き尽くせ、我が魂に宿りし炎よ。天地を焦がす、原初の火よ。全てを飲み込み、焦土と化せ】!」



 詠唱が始まった。アランが一節唄いあげる度に大地が、天空が――――世界が、震える。

 それは宛ら、この星の終末の前兆のようだった。



「【全て飲み込む(アブソリュート)神炎(デウスフラムス)】!」





 そしてその瞬間――――――

 全てを飲み込み喰らい尽くす神の炎が聖硬石の水晶へと放たれ、天上に向かってどこまでも登っていき、天空が焼き焦がされた。



 圧倒的な熱量。アイラは――否、その場に居合わせた全員が余波だけで蒸発してしまうのではないかと本気で思った。そんな獄炎。


 気付けば炎は消え、まるで夢から覚めたかのようにアイラ達を現実に引き戻す。が、地獄のような有り様の実技試験会場だった空間がアイラ達に今起こった事が現実であると示していた。





「帰るぞ、アイラ」



 気付けば、フレアと話していたアランが放心状態だったアイラの方へと向き直りそう告げていた。大好きな兄から話し掛けて頂いたのだ、返事をしなければならない。頭ではそう分かっているのに言葉が出ない。

 アイラは未だに今起こった出来事を飲み込めていないのだ。アイラだけではない、その場に居合わせたフレア以外の人々は揃って今の炎を人間の放った魔法であると理解出来ていなかった。


 アランはその場で立ち尽くしていたアイラの腕を取ると、そのまま帰路に着く。





 ――――――アランはアイラとは正しく格が違う、アイラの想像の及ばない領域の人間である。そのくらいはアイラとて理解してはいたが、改めてその事実を突きつけられると背筋が凍るような感覚を覚えた。


 アイラは大好きな兄に初めて恐怖したのだ。兄が恐ろしかったのではない。兄が、この世の誰よりも愛する兄が自分とは違う世界に生きているような気がして。もう二度と手が届かないのではないか、触れられないのではないか。そんな事を考えてしまった。

 身体がどうしようもなく震え、歯がカチカチと小さな音を立てる。凄まじい魔法の余波でここら一帯の気温が上昇しているにも関わらず寒気が止まらない――――そんな時だった。


 アランは震えるアイラを抱き寄せて



「二人で無事に実技試験を合格出来て良かった。頑張ったな、アイラ」



 そう言うと、アイラの目を見つめて優しく微笑んだ。



「あっ……」



 アランは優しい手つきでアイラの頭を撫でる。その手は暖かくて、こちらを見つめる紅く煌めく瞳には確かにアイラへの愛情が感じられて。

 ギュッ、と。



「む? 全く、アイラは相変わらず甘えたがりだな」



 急に抱き着いたアイラをアランは仕方ないなと苦笑しながら抱き締め返してくれる。気がつけば、震えはもう止まっていた。



 アランは確かにアイラとは次元の違う存在なのだろう。


 だがしかし、アランは間違いなくアイラの理想の兄なのだ。


 ヒビすら入らない筈の聖硬石で出来た水晶を跡形も無く消し飛ばす程の大魔法。一体どれ程の才能なのだろう。一体どれ程の努力なのだろう。

 しかしそんな絶大な力を持つ兄は、先程地獄のような破壊を生み出した手はとても暖かくて、心の底から安心するような愛に満ち溢れていた。


 ――――――そっか、私お兄さまに置いていかれる気がして、怖かったんだ。


 ――――――私とした事が、何を悩んでいたのでしょうか。お兄さまはいつだって、私の事を大切にして下さっていたというのに。


 最早恐怖など微塵たりともない。あるのは、一瞬でも兄のあまりにも巨大な天稟に恐怖してしまった事に対する罪悪感と、昨日までの日々より更に深まった兄への大きな愛。


 アイラがアランを理想の兄と呼ぶのは、何も彼が天才だからというだけではない。アランは絶大な力を持っておきながら他人への思い遣りを決して忘れない一人の人間だからこそ、妹は兄を慕っていたのだから。


 ――――――ふふっ、悩んでいたのがバカみたいです。



「お兄さま」

「どうした、アイラ」



 呼び掛けに応えるアランの言葉は、知らない人からすると威圧的に感じるかもしれない。ぶっきらぼうに感じるかもしれない。でも、その言葉には本当は愛が篭っているのだ。だからこそ、アイラは――――――





「お慕いしております。お兄さま、大好きっ!」



 ※我らが踏み台転生者ことアランを含め、この小説の登場人物の主観には多々勘違いが含まれております。



 ・登場人物から見たアラン像


 妹→お兄さま大好き娘。改めて兄との差を見せつけられてちょっと不安になったけど撫でられたら安心した。チョロい。強くて賢くて優しいお兄さまは理想の兄。流石ですお兄さま。

 今話では「大好き」とか「愛」とかいっぱい出てきたけど、それくらい仲のいい家族では普通だよね! って本人は思っている。お兄さまと喋ってると心臓がドキドキして悶々と眠れない夜とかも多々あるけど、本人的には家族愛の範疇である。無自覚ブラコン。



 アラン→無事実技試験を突破出来て良かった。筆記試験は正直自信あるから一安心。家に帰ったら可愛い妹を愛でようと画策していたが、結局家まで我慢出来ずに撫で撫でギューってしたとかいうファインプレー。勿論自分がやった事の凄さはイマイチ分かってない。弟もきっとこのくらいやると思われてる。ハードルが際限なく高くなっていくアレンは泣いてもいい。実妹に大好きと抱き着かれて思わず抱き締め返した。俺の妹さいかわ過ぎではー? とか思ってる。シスコンは自覚してる。



 因みにアランが都合良く周囲の反応に気付いてないのは極度の緊張からです。自己暗示は失敗しています。しかし、もしも気付いていたとしてもそんなに自己評価は変わりません。自分は踏み台だから今チヤホヤされてるだけで直ぐに抜かされるって本気で思っています。

 後、アイラは自分の感情を家族愛だと本気で思ってます。しかし、今でもお兄さまと結婚するって言ってます。ブラ婚。


 今話も読了誠にありがとうございます。宜しければ次話以降もお付き合い下さいませ。


               清水彩葉

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