実技試験、そして
今話から新章に突入します。第一章です。漸く物語が始まります。
宜しければ、読んでいってくださいませ。
春――――それは始まりの季節。
それはこの世界でも変わらない。
十五歳になった俺は今『国立アルカナム魔法学院』、通称『アルカナム校』の入学試験会場に来ていた。
アルカナム校とはその名の通り国立の学校で受験資格は特に無く、十五歳以上の人間であれば誰でも受験する事が出来る。
学費は全て国が払ってくれるし、十五歳を超えてさえいれば何歳だろうと受験出来るということで毎年国中からありとあらゆる人間が受験しに来るのだ。身分や年齢を問わず、優秀な人材を求めているという事だろう。
だがしかし、やはり世の中そんなに甘くはない。毎年大勢の人間が受験しているが、無事入学出来るのはほんのひと握りだけ。殆どは入学試験で振るい落とされ、その倍率はなんと数百倍から年によっては千倍を超えた事もある程の超難関エリート校なのである。
まあ、その分厳しい倍率を乗り越えてアルカナム校に入学することが出来れば一生安泰と言われているのだが。
そしてもうお察しかもしれないが、今日は年に一度の入学試験の開催日であり、俺は受験生である。
いくら超難関校といえども、失敗は許されない。入学試験の段階で躓いてるようでは一流の踏み台には程遠いからだ。来るべき未来のために、俺の踏み台転生者としての誇りのために、俺が培ってきた全てを以て合格を掴み取ってみせる。
…………大丈夫、不安はない。大丈夫。マジ大丈夫だから。不安とかねーから。だから落ち着け俺。
「そろそろ実技試験の時間ですね、お兄さま!」
俺が必死に自己暗示していると、ずっと俺の隣にくっ付いていた妹がそう声をかけてくる。
「ああ、そうだな。少し緊張してきた。アイラは緊張とかしないのか?」
「お兄さまが緊張だなんて、ふふっ、ご冗談をっ。私はこれでもお兄さまの妹ですので! ご心配ありがとうございますっ!」
私の緊張を解すために慣れない冗談を言ってくださるお兄さまも素敵ですっ! なんぞ言いながらにぱーっと花が開くかのような満面の笑みを向けてくる妹、アイラに曖昧な笑みを返す。勿論冗談を言った覚えはないし、今は正直自分の事でいっぱいいっぱいでアイラの事を気にする余裕などない。というかアイラは緊張してないらしい。我が妹ながら肝が太いな。
「それにしても、入学試験といえば普通筆記試験をしてから実技試験を行うものだと思うのですが……何故この学院では実技試験が先なのでしょう?」
「それはこの学院が魔法や武術に秀でた人材を集めたがってるが故だろうな」
「どういう事です?」
疑問符を浮かべながら首を傾げるアイラ。可愛い。俺もうシスコンでいいや。俺はキメ顔で自分の考えをアイラに教える。
「この学院は誰でも受験出来るという性質上、受験生は多くなる。すると勿論選別する学院側も普通に採点していれば負担も大きいし、無駄が多くなってしまうだろう? だからこそ、この実技試験でその多数を振るい落とす」
「つまり、実技試験を第一次試験、そして基準を満たす者だけが筆記試験を受けることが出来る……という訳ですよね? でもそれって実技試験を先にする理由になっているのでしょうか?」
「筆記試験を先にすると採点に時間がかかってしまうだろう? 実技試験なら一目見ただけで規定に達しているかどうか分かるだけまだマシなんだろう。それに、この学院が魔法や武術に秀でた生徒を求めているのならば筆記試験よりも実技試験を重要視するはずだ。筆記試験が悪くても実技試験で良い成績を残すことが出来ればそれでいいと考えているということだろうな」
適当に今考えて喋ったので真偽は分からないが、こんなのは俺の感覚だと誰だって考えれば思いつきそうな理由だと思う……のだが、この世界の人は違う。なんというか、その……ぶっちゃけこの世界の人って全体的に脳筋なのだ。
今隣で流石ですお兄さまっ! とキラキラした瞳で俺の事を見つめてくる妹は正直めっちゃバカっぽく見えるのだが、この世界ではとても賢い部類に入る。というか、アイラより賢い人とか大人でもそうそう居ない。可愛くて優秀な妹からの尊敬の視線が心地好いぜ……。
アイラの燃えるような紅い髪の毛を撫で付けてやれば可愛く目を眇めて顔を綻ばせる。さらさらのショートヘアーが気持ちいい。
そうこうしている内に、もうそろそろ時間だ。アイラに静かにするよう促し、用意されている椅子に座る。
俺達がいるのは第一実技試験会場。本来大量の受験生で溢れ返っているはずの待機場所だが、この場には数人の人間しか居ない。何故か? それはここがVIPルームみたいなものだからである。
俺達『フラムス家』は偉大なる四大貴族が一つである。多分他の受験生と同じ扱いで長時間待たせるのは良くないのだろう。これがあってるかどうかは分かんないけど。
そもそも、こんな扱いならば受験なんてしなくても裏口入学とか出来ないのかと思われそうだが、正直俺も思った。でもこのアルカナム校はそういうのめっちゃ厳しいのだ。身分は関係ないっていうのが特徴だしな。
この会場には俺達の他にも数人の人物がいる。首を動かさずに目だけで周囲を確認してみれば俺達と同い歳フラムス家以外の四大貴族の子供達に、王女様まで目に入ってくる。正直有権者が多すぎである。
今年の試験を担当する人物の緊張は半端じゃないだろうな。なんせ、四大貴族と王族の直系の子供が全員居る黄金世代なのだ。
因みにこの場に居る受験生は全員十五歳。確かに創作物の世界では主要キャラが全員同い歳とかよくある設定だけど、実際にそれが現実になったら最早軽く奇跡である。十五年前に何があったのだろうか。
――――っと、考え事をしている内に試験官が来たようだ。思っているより若い女性である。
綺麗な人だが、なんというか雰囲気がほんわかとしているような……。ほんとに試験官が務まるのだろうか。新人教師が上司から超VIPの採点をしなければいけないという嫌な役を無理矢理押し付けられたのではないかと少し心配に…………
「はぁ〜い! みなさーん! 実技試験の始まりですよー! 私は学院長のフレア・ソレイユです〜! 今回は私が試験官を努めさせて貰いますね〜!」
いやめっちゃ権力あるやんけ!? てか、学院長若くね!? 確かに髪色が綺麗な赤だったから腕は確かなんだろうなとは思ったけど流石にそこまでは予想してなかった。だってどう見ても二十代くらいなんだもん。
「じゃあ、早速ですけど受験番号順にこっちに来てくださいね〜!」
もう試験が始まるようだ。因みに俺の試験番号は六番。この部屋にいる受験生は六人なので最後である。アイラは俺より先に試験を受ける事に恐縮してたが、まあ俺は別に何番でもいいや。
試験内容は簡単、目の前に鎮座する腰くらいの高さというややデカめの水晶に向かって魔法やら剣やらをぶつけるだけの至ってシンプルなものである。勿論魔法とかに巻き込まれないように空間は広く取ってある。
因みに、別に水晶だからといって手を翳せばステータスが浮かび上がるとかいう便利な効果は無いし、杖にしたら魔法攻撃力が上がるとかも多分無い。そもそもこの世界にはステータスとか無いし。
その水晶の材質はなんと聖硬石。簡単に説明するとこの世に殆ど無い死ぬほど硬い聖なる石である。ふざけてなんかないぞ。マジだ。
その硬さはなんと長い人類の歴史の中でただの一度も割れたことの無い…………どころか欠けた事例すらないとかいう頭おかしいレベルである。しかもなんか神話によれば聖なる力で砕けても元通りになるらしい。
砕けない上に砕けても元通りになるとか多分武器とか防具とかに出来れば強いんだろうけど、そもそも硬すぎて加工出来ないらしい。そりゃそうだよな。
まあ、そんな水晶に各々自信のある魔法やら武術やらを思いっきりぶつけて能力を測るのだ。それがこの試験内容。
とか言ってる間にもう俺の番だな。なんせ六人しか居ないからね。すぐ回ってくるに決まってるよね。
みんな余裕の合格判定らしいし、俺も頑張らねば……。
「次の方〜! アラン・フォン・フラムス君! 頑張るんですよ〜!」
「はい、ありがとうございます」
返事をして、所定の位置に立つ。………………やばいほど緊張する。全員合格とかこれ落ちたらすげぇ恥ずかしいじゃん。ハードル上がりすぎでは? 心なしか注目されてるように感じる。まあ俺はこの国では有名人だからな、当たり前といえば当たり前か。
とにかく、ここは理想の踏み台転生者になるつもりならば絶対に失敗してはいけないターニングポイントだ。ここでいい成績を出して目立つ存在にならなければいけない以上、温存なんてものはナシだ。俺の全てをぶつける。
ふぅ……と。意識を切り替えた俺は一つ息を吐きながら集中力を高め――――
「【我が名の下に命ずる。森羅万象を焼き尽くせ、我が魂に宿りし炎よ。天地を焦がす、原初の火よ。全てを飲み込み、焦土と化せ】!」
詠唱を完了させ、閉じていた瞳を見開く。俺の身体を荒れ狂うかのような莫大な魔力が迸るのを感じる。
「【
瞬間、目を開けていられない程の強烈な熱が爆発した。
余波だけで自分は燃やし尽くされてしまうのではないかと錯覚するような熱量。自分に向けられたものではないと分かっていてもなお身の危険を感じるような深紅の炎柱は天を貫かんとどこまでも突き抜け、空を焦がした。
十数秒後、先程までの光景は夢だったのではないかと疑う程何事も無かったかのように巨大な炎の柱は消え去った。
そこに聖硬石の水晶は何処にも無く、焦土と化した試験会場が先程の爆炎の威力を物語っている。
「………………人類が誕生してから欠けたことすらない聖硬石の水晶といえども、稀代の英雄であれば燃やし尽くせるんですねぇ〜。生ける神話なんて言い過ぎではないかと思ってましたけど、」
最早同じ人間とは思えませんね〜。現代に顕現した神様だって言われた方がまだ信じられます〜。と目を細めて笑う学院長が俺の元まで歩み寄ってきて、こう告げる。
「アラン君。勿論文句無しの合格です〜。今日はもう帰ってもいいですよ〜」
「ありがとうございました。帰るぞ、アイラ」
未だに惚けているアイラの手を引き、試験会場
今度はあなた達がウチの生徒になってから会いましょー! と手を振る学院長以外、誰もが身じろぎもせずに俺の事を見ているような気がした。
未だに口を半開きにしてこっちを見つめてくる妹が可愛いとか、フレア先生おっぱいでかかったなとか、思うことは色々あるがとりあえず一言。
あー、合格出来てよかった……ッ! マジで良かった……ッ!
帰ったらアイラと一緒に祝おう。
因みに詠唱は我らが踏み台転生者ことアラン君が睡眠時間を削って考えました。
では、今話も読んで下さり誠にありがとうございました。
今後も私こと清水彩葉と「踏み台転生者になったので全力で役割を全うします。〜世界最強の踏み台転生者〜」を宜しくお願い致します。
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え、アランがなんでわざわざこんな詠唱にしたかですか?
そんなの決まってるじゃないですか。そっちの方がカッコイイからですよ。
清水彩葉