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踏み台転生者になったので全力で役割を全うします。〜世界最強の踏み台転生者〜 作者:清水 彩葉

序章 ハジマリ

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追放、そして


 現実から逃げたいのは山々だが、そんな事してる暇はない。これは一刻も早く行動を起こさないといけないやつだ。

 だが、取れる手段が全然ないのは確かである。

 一応、俺ならば暗黒の森だろうが踏破出来る。確かに出来るのだが……今からでは些か遅すぎるし、色々めんどくさい問題もある。


 普通に考えれば今から助けに行ったとしても、なんの力も持たない子供なんて既に死んでいるだろう。だが、生憎様我が弟は普通ではない。真なる英雄の器がこのくらいで死ぬとは思っていない。


 メタ的な話になるが、こういう状況というのは物語ではありがちなのだ。というか、もうそう信じるくらいしかない。

 一緒に暗黒の森に居るとかなら守れるかもしれないが、こうして離れ離れで弟がどこにいるかすら分からないとなるとマジで主人公補正が仕事してくれることを祈るしかないのだ。



 まあ、生きてる事を信じているのなら今からでも助けに行くべきだろう。だが、さっき俺が遅いと言ったのは弟が既に死んでいるからという理由ではないのだ。どういうことか? つまり、父上の凶行の強行を止められなかった時点でもう詰みなのだ。…………因みに今の駄洒落は別に現実逃避ではない。いや、ほんとほんと。踏み台はウソつかないから。


 ……ゴホンっ、話を戻そう。簡単に言えば、弟が追放されたという事実が残る時点でどう足掻いても絶望である。何故か? それは俺が踏み台転生者で弟が主人公だから。これに尽きる。

 考えてもみろ、弟が生き延びた後、俺達はどうなる。見限られて散々な目に合う。因果応報、当然のことだろう。弟は英雄であるが、誰が自分を見捨てた人間を助けるのだろうか? そんなの聖人君子でさえ見放すに決まっている。たとえガンジーだろうが助走つけて殴りつけるレベルである。こういう物語は基本的に主人公に見限られるイコール死なのだから。


 そして、もう一つ。俺が今すぐ弟を助けに行けない主な理由。それはズバリ、父親を初めとした周りの人間が許さないからだ。

 普通に考えて、偉大なる四大貴族が一つ、フラムス家の現当主が実の息子を殺したとなると大変不味い。例え愛人の子供だろうが忌み子だろうがその事実は許されざるものだろう。

 そもそもの話、弟が魔法を使えないのも髪と瞳の色が普通じゃないのも何処にも公開してない秘密中の秘密である。


 だが、そんな信用を失いかねないリスクを犯してまで薄っぺらな建前を使いながら弟を捨てたのは弟の存在がこの家にとってそれほどまでに邪魔だったからだ。フラムス家の次男が魔法を使えないなど、一族の恥。なるほど、あの父親が考えそうな事である。

 そして、そこまでして捨てた弟を俺が助けに行くなど、許されるわけがない。俺には地位がある。往々にして、地位には責任が付きまとうものなのだ。


 フラムス家とは思っている以上に強大な権力を持っている。王族と同等の権力とはどういう事か? 簡単である。つまるところ、フラムス家が白と言えば黒だって白になるのである。

 実の息子を殺すとかマジで正気の沙汰とは思えないレベルの許されざる暴挙だが、それをフラムス家に指摘出来るやつなんざこの国には居ない。だが、しかし。俺がそのフラムス家の意志に反する行動をした時となると話は別である。


 先程も言った通り、俺には地位がある。偉大なる四大貴族が一つ『フラムス家』の長男であり、次期当主。何よりも、俺は人類史上例を見ない程に突き抜けた天稟を持つ大英雄なのだ。

 そしてこれまた先程も言った通り、地位には責任が伴う。強大な立場を持つ俺の行動には誇張抜きでこの国を動かしかねない程の責任が伴ってしまうのだ。やってらんねぇ。いや、マジで。


 フラムス家の現当主は父上だが、例えフラムス家現当主だろうと、実の父親だろうと、俺と表立って対立すればタダでは済まないのだ。


 つまりは、『フラムス家現当主』の『グラン・フォン・フラムス』が『忌み子』である『アレン・フォン・フラムス』を殺すと決めて既に行動を起こしてしまった以上、『英雄』であり『フラムス家次期当主』の『アラン・フォン・フラムス』がその決定に反し弟を助けるという行動を取ってしまうとマジでめちゃくちゃ大変な事になる。


 そんなことあんまり考えたくはないが、具体的に言えばまあまずフラムス家は内部分裂するだろう。この時点で国が傾く……というか滅びかねない。

 なんせ、フラムス家というのは火を司る一族だからこそ莫大な権力を持っているのだから。フラムス家が内部分裂とかした日には人類から火が消滅する。……いやまあ、実際には火の魔法が使えなくなるだけなのだが、人間の営みの中で使われている火なんて殆どが火属性魔法によるものなので国が…………というか人類が滅びかねないのは間違いないだろう。ふぇぇ……。胃が痛いよぅ……。


 それだけで済むのならまだマシだ。だが、現実はそんなに甘くない。

 火属性魔法を司るフラムス家の内部分裂とか他の四大貴族からすれば付け入る隙でしかない。大チャンスもいい所だろう。なんせそれまで拮抗していた内の一つが勝手に崩壊するのだ。

 フラムス家を取り込めば火の属性まで司る事が出来る。当然そうなれば、王族や他の四大貴族ですらも手に負えない程の莫大な権力を得ることが出来るということ。そうであるならボロボロのフラムス家を他の四大貴族は手に入れようとするのは自明の理。


 そんな事になればもう人類は間違いなく滅ぶ。四大貴族の全面戦争とか絶対起こしちゃいけない。ふぇぇ……。俺の責任重すぎるよぉ……。


 長々と語ったが、簡潔に言おう。

 俺が今すぐに弟を助けるとこの国が滅ぶ。なんだこのクソゲー。やってられねぇよこんなの。泣いた。

 このまま放置すれば将来的に俺は散々な目に遭うというのに、動けば魔王云々の前に人類が滅んじゃう。こんなのおかしいよ……普通じゃないよ……。


 俺は無駄に高過ぎる地位と、それによって俺の行動に伴う責任で動けないという自分に対する無力さややるせなさ、怒りをぐっと飲み込み、考えた。考えに考え抜いて、気が付けば夜になっていた。





「――――まあいいや、何とかなるだろ」 





 ようやっと絞り出した答えは凡そゼロ点の回答だった。

 空腹と眠気と疲れに負けた俺は息をするように現実逃避をしていた。驚きの心の弱さである。


 ははっ、いいんだ。結局の所俺なんてどうせ踏み台。最初からこうなる運命だったんだって思えば気も幾分か楽になる。なんて、投げやりな――――――



 俺は突然降って湧いた天啓に目を見開く。

 そうか……そうだったのか!


 何故俺は悩んでいたのだろうか。弟はこんなことでは死なない。弟は真なる英雄の器であり、主人公なのだ。踏み台()如きが心配するような事じゃない。であれば、これは――――――





「これは俺が一流の踏み台になるために神が与えた試練! そうであるならば、乗り越えてみせる!」





 つまり、これは将来起こるであろう無事に生き延びた主人公()との邂逅後、俺が踏み台の役目を果たすというその運命のための伏線!

 ――――――ならば、ならば俺がやるべき事といえば1つしかないであろう! 悩む必要などない!





「俺が一流の踏み台()であるために、これまで以上に、自分を磨く。全ては俺の役割(ロール)を果たす為に」





 覚悟を決めたつもりが、俺はまだどこか甘えていた。英雄願望を捨てきれていなかったのかもしれない。



 俺は「主人公は弟だから」、「俺は踏み台転生者だから」、それを現実逃避に使ってはいなかったか? 覚悟というのは諦めややけっぱちとは全く違う。

 俺は覚悟というものを履き違えてはいた。辛い現状から逃げる理由に使っていた。だが、今は違う。だからこそ、今度こそ誓おう。


 俺は誇り高き英雄にはなれずとも、誇り高き踏み台になる。必ず。

 皆様、沢山の応援ありがとうございます!

 誠心誠意執筆していきますので、どうかこれからもお付き合い下さいませ。


               清水彩葉

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