世界的な景気後退への懸念もあって今春闘の賃上げは、前年を下回る回答が相次いだ。賃金格差や働き方という重要テーマでは一部踏み出したものの、なお粘り強い努力が必要だ。
米中の貿易摩擦、中国経済の減速など景気に暗雲が広がるなか、将来も固定費になるベースアップ(ベア)の水準で、組合は経営側の固い姿勢を崩しきれなかった。
統一交渉の電機大手六社は、ベアが前年比五百円減の月額千円にとどまった。自動車では日産自動車がベア三千円の組合要求に満額回答したが、トヨタ自動車やホンダは前年実績を下回った。
予定される消費税率引き上げを前に、働く人の実質賃金は伸び悩んでいる。六年連続のベア確保ではあるが、賃上げ→消費拡大→企業収益増→賃上げという経済の好循環は見えていない。「官製春闘」と批判された政府の圧力が弱まり、景気が後退局面に入ったとの見方もある中、賃上げ交渉は来春闘が正念場になりそうだ。
賃金と並ぶ課題である賃金格差の是正と働き方改革では、一定の成果へ動きが広がった。
ベア中心の交渉で大手と中小下請け企業との賃金格差は広がった。その反省で自動車総連はベア統一要求から、定期昇給や諸手当、ベア分を含む「絶対額」重視に転換し、トヨタとマツダがこれに応じた。
トヨタは全組合員平均一万七百円で妥結。前年比千円減となったが、これから本格化するグループ各社の交渉で、どこまで本社との賃金格差が縮まるのかを注視したい。
関連法が四月以降に施行される働き方改革では、パートの一時金や勤務間インターバルの制度化要求などで交渉が広がっている。
ただ、こうした新たな動きにもかかわらず、広がりつつある経済格差の是正が進むかは見通せない。すでに四十代になった就職氷河期世代はどう受け止めるか。救済につながるのか。
連合の神津里季生会長は転職が増えつつある若者の雇用についてこんな話をしている。
「若い人が自分に合わない職場に居続けることがいいことだとは思わない。ただ、今のシステムでは会社を辞めると路頭に迷ってしまう」
連合は失業給付や職業訓練、仕事とのマッチングまで幅広く堅固なセーフティーネット作りを政策目標に掲げている。格差是正への本気度が問われている。
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