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【暮らし】

<外国人実習生たちのSOS>(上)時給300円 明細も出さず実態隠し

シェルターで食卓を囲む外国人技能実習生たち=岐阜県羽島市で

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 外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管難民法が四月に施行される。人手不足が強まる中、働き手として外国人技能実習生に期待が高まる一方で、低賃金や差別的な扱いに疲弊し切った人もいる。救いを求めて岐阜県羽島市でNPO法人が運営するシェルター「外国人労働者救済支援センター」に駆け込んだ人たちのSOSを聞いた。 (細川暁子)

 「社長から残業代は、『時給三百円』と言われた。タイムカードも給与明細もなかった」。中国・浙江省出身で技能実習生の女性(52)は話す。現在は、仕事を辞め、シェルターで日本語を勉強したりして過ごす。

 女性が来日したのは二〇一六年五月。中国で息子夫婦や孫と住む家を購入し、ローンを抱えていたころ「日本へ行けばたくさん稼げる」と、海外就労の仲介業者から持ちかけられた。「費用は後払いでいい」と言われ、三年間の計画で飛行機で名古屋に渡航した。

 日本で受け入れ役となる監理団体の紹介で、岐阜県内の縫製工場で働き始めた。会社の寮に住み、三人一組でスカートなどを一日約三十着作った。

 最初の半年は休みがほとんどなく、朝八時から翌日午前一時ごろまで働き、時間外労働が百六十時間を超える月もあった。それでも手取りは月十四万円前後。賃金は袋に入れて手渡されたが、明細書はなかった。

 「残業代の時給は、最初の一時間は八百円。それ以降は三百円」と説明された。時給三百円は、当時の岐阜県の最低賃金の半分以下だったが、異国の賃金制度は知らず、言葉も不自由。疑問があっても何も聞けなかった。

 半年が過ぎたころ、女性は仲間たちと「もっと残業の時給を上げてほしい」と社長に訴えた。すると、残業代の時給は五百円、五百五十円と上がり、手取りは十七万円近くになった。しかし、それもつかの間。時給千円になると残業は一日二時間に抑えられ、手取りは十三万円前後に減った。

 自分の生活を切り詰めて中国の仲介業者に渡航費や仲介料約五十万円を払い、家族には約二百万円を送金。しかし、それがやっと。「これでは、家のローンが返せない」。昨年七月、知人の紹介でシェルターに駆け込み、残業時間を記録していたノートなどを基に、岐阜労働基準監督署に未払い賃金があると訴えた。

 会社は昨年八月に破産手続きを開始したが、経営に関わっていた男性は未払いの金額については争う姿勢を示しつつ「最低賃金以下で技能実習生を雇っていたことは事実。間違った対応だった」と認める。「日本人は月二十万円では来てくれない。実習生は技術も高く、なくてはならないが、監理団体に一人月三万円を払う必要があるため、本人に払う金額に限度ができてしまう」と釈明する。

 シェルターは一五年に開設され、これまで中国人やベトナム人ら約二百四十人を保護。現在は十人ほどが生活している。シェルターの所長で、会社側との交渉に臨んできた中国人の甄凱(けんかい)さん(60)は「低賃金や労災隠しなど、多くの実習生たちが問題をうやむやにされている」と話す。

 活動を支援する大坂恭子弁護士(愛知県弁護士会)によると、技能実習生にも労働基準法が適用され、使用者は労働時間を管理し、最低賃金を支払わなければならない。だが「タイムカードを使わず、給与明細も渡さないことで、労働時間や既払い金の記録を残さなかったり、裁判などで支払いが命じられても倒産して責任を逃れたりするケースがある」と指摘する。

<外国人技能実習制度> 発展途上国などへの技術移転を目的に1993年に導入された。在留資格を持つ外国人が、農業や建設などの80職種で最長5年間、研修する。法務省によると、2018年6月時点で全国に約28万6000人。4月からは、新たな在留資格「特定技能」が設けられ、受け入れが拡大される。ベトナムなど12カ国では送り出し機関は認可制だが、中国では認可が必要なく、多額の手数料を取る業者が問題となっている。日本の監理団体は国の許可制。営利目的でなく、各企業に適正な実施を指導する。

 

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