大阪府の松井一郎知事と大阪市の吉村洋文市長が任期途中で辞職する。四月の出直し選挙に入れ替わって出馬の意向だ。政策を実現するための「クロス選」。この奇策は地方自治の私物化ではないのか。
クロス選は、知事が代表、市長が政調会長を務める地域政党・大阪維新の会が掲げる「大阪都構想」への信を問うためという。知事は十一月、市長は十二月に任期が切れるが、出直して入れ替われば四月から四年間務められる。
両選挙とも四月七日投票で、統一地方選の大阪府議選、大阪市議選と同日。大阪市内の有権者は、一度に四種類の選挙に投票する。知事らはこの多重選挙で両現職が勝ち、議会選でも大阪維新が過半数を得れば、「大阪都構想」を再び住民投票にかけられると踏む。
府と政令市が同じようなハコモノを造ろうとしてしまう「二重行政」は、愛知県(県都名古屋市)など、中心都市が政令市の道府県にありがちな問題。松井知事らは、大阪市を解体することで、府との二重行政を打開したいとする。
そのための住民投票には府議会と市議会での議決が必要。大阪維新が現在足りていない過半数を確保しやすくし、首長の任期も半年余の「残り任期」でなく四年間の「一期分」にするのがクロス出馬の狙いだろう。
大阪では二〇一一年、橋下徹府知事が市長選にくら替え出馬して当選したことがある。だが、総務省によると「過去、知事と県庁所在地の市長それぞれが入れ替わって出馬した例はない」という。
知事らが目指す大阪都構想は、橋下市長時代の一五年に、住民投票で否決されている。つまり府民は一度「ノー」の意思表示をした。さらに、「二重行政の解消」のためには、大阪市の解体だけが道ではあるまい。「府と市の連携や協議」を進めることで一定の効果は上げられよう。
大阪都構想が府議会や市議会の理解を得られないからといって、地道な説得などを放棄し、こうした奇策を取ることは感心しない。府民や市民の負託を得て自治体を預かる者として、誠実な態度といえるだろうか。
首長選はそもそも、候補者が経済や医療、福祉、教育といった日常生活に直結した政策を総合的に有権者に訴え、判断をあおぐ機会だ。選択肢を「大阪都構想の是非」といったワンイシュー(一つの問題)に集中させることも適切ではないと考える。
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