世紀の大構想が国民的課題に発展した
国家公務員を辞めた2005年以来、著作・論文の形で発表した移民政策論は、国民の大多数から無視された。坂中英徳の移民国家構想を評価する日本の知識人は、昔も今も、皆無に等しい。けなされることはあってもほめられることは稀だった。日本の歴史はじまって以来の世紀の大構想を提案しているのだから、それも無理からぬことだと理解する。
坂中ビジョンの真価が広く国民に認められまでには100年単位の時間が必要なのだろう。わたしは同時代人の評価は期待していない。100年後の移民時代に生きる地球市民の評価に一縷の望みをかける。
「人口秩序の崩壊はすなわち日本の崩壊」と認識する私は、移民国家の理想像を求めて研鑽を積み、日本人の魂がこもった移民国家ビジョンを打ち立てた。移民政策研究の権化が、民間のシンクタンク・移民政策研究所を根城にして構想を練り、移民政策に関する数々の提言を世に送り出した。
移民政策の口火を切った文章が、2007年2月の朝日新聞に発表した1000万人移民国家構想である。だが、当時の『朝日』によると、読者からの反対意見も賛成意見もゼロということであった。おそらく実現の可能性のない空理空論と一蹴されたのだろう。朝日新聞も線香花火のように一瞬で燃え尽きた。その後も今日も、朝日新聞をはじめ全国紙が正面切って移民政策を論じることはない。
それが幸いした。「移民50年間1000万人のアイディア」は無傷のまま生き残った。いまその坂中構想が不死身のごとくよみがえった。インターネットの世界では若い世代の間で移民賛成の声が急速に高まった。『ワシントン・ポスト』『エコノミスト』など海外の有力メディアが日本政府に移民開国を迫った。ちなみに、内閣府は2014年2月、坂中構想と瓜二つの「移民100年間2000万人」の未来構想を発表した。
初めは坂中英徳の個人的見解にすぎなかった移民革命思想は、移民国家のあるべき姿を追い求めて千思万考につとめた結果、世界の移民政策をリードする移民国家理論へと理論的進化を遂げた。そして2019年3月現在。雄渾の坂中移民政策論は、国の内外の世論の支持の高まりを背景に政府が緊急に取り上げるべき国民的課題に発展した。